2020/08/19 のログ
アルヴァニア > 先とは打って変わって丁寧な様相に視線を下げていた眼がはつりと瞬きを何度か。
思わず、あらあら、だなんて声が出てしまうのもお愛嬌。
それから、今程知り得たばかりの名前を脳に巡らせる。
が、効果不幸か、名前だけでは己も知っている彼の過去の所業までには行きつかなかった。

「これはご丁寧にどうも。
ご存じの通り、バイコーン部隊を纏めているアルヴァニアよお。」

演技臭さ天元突破な怪訝な表情はいずこへと、常の柔いだ表情を浮かべ、間延びした調子で名乗り返す。
よろしくね、等と言葉を繋げつつ、漸く部屋の中へと足を踏み入れて。

レナード・イースト > 「アルヴァニア殿であらせられるか。
名高いバイコーン部隊の長と会えるとは恐悦。
こちらこそ宜しく頼む。」

報告通り、バイコーン部隊の隊長であった。
俺は部屋の中に足を踏み入れた彼女に笑みを向けると、見慣れる素材で作られた部屋を見渡す。

「俺も貴公と同じく、このダンジョンのトラップで一人だけ飛ばされた口でな。
戦場に立つのは慣れたものだが、こういったダンジョンはあまり経験がなく困っている。
さて、どうすればよいだろうか。」

俺は呑気な空気を漂わせている彼女の手並みを拝見させて頂くことにした。
同時に自らが歴戦の傭兵であることも伝える。
運よくバイコーン部隊に召し抱えられるとなれば俺の再起も一歩近づくことだろう。

アルヴァニア > 「それは大変だったわねえ。」

女自身は何度もここに訪れ、時には自分が、時には部下が手を変え品を変え、なトラップの被害に遭ってきている。
ともすれば、慣れたくなくとも慣れると言うものだ。
部屋の中に入れば、先ずは床から壁へ、壁から天井へと視線を這わせて様子を伺い見る。
分かりやすい装飾等があれば楽なのだけれど。

「レナードちゃん。もう部屋の中は調べたのかしらあ?」

男の来歴を知らぬ女は、気軽な呼称で呼びかけた。
老若男女問わず、付けがちな呼称なので他意は皆無なのだけど。
壁に手をあて、軽くノックをしながら辺に沿って歩みをすすめ。

レナード・イースト > 「そちらも同じ状況ではないのか?
流石に隊長が一人と言うのは不自然だろう。」

部屋の隅々まで見渡しているアルヴァニアはこの手のダンジョンに慣れている様子だ。
俺とは違い、見るべき点がある程度分かっているような視線の動かし方である。
予定通り冒険者連中と行動できていれば任せることが出来たのだろうが。
ちなみにこの部屋は鉄とも知れぬ金属で覆われており、不思議なことにつなぎ目が見当たらなかった。
ダンジョンとはこのようなものかと驚いたものだ。

「そうだな、不思議な作りの壁とそこの露骨に怪しい宝箱を見つけた位だ。
俺は冒険者とは違ってこう言ったダンジョン探索は不慣れでな。
何を調べるべきか見当もつかん。」

俺が指さした先には、これみよがしな宝箱である。
依頼主の言う通り価値のある品が眠っている可能性もあるが、今しがた飛ばされたばかりの俺一人ではどうにも近づく気にはなれん。
しかし、俺のことをレナードちゃんとは。
馴れ馴れしい呼称に僅かに体が熱くなるが、顔には出さない様に努めた。

アルヴァニア > 「それはそうなんだけれど――あたしは慣れてるから。」

トラップにかかり慣れている、と言うのも妙な話ではあるが。
作った魔族の趣向だろうか、ある程度は定型があるのだ。
前回己が飛ばされた際は、石壁に見えるが材質は金属、と言う訳の分からない拘りを見せられたが、如何やら叩く音から察するに、見た目も材質も金属なのだろう。

「宝箱ねえ…ううん、アレは最後にしましょ。
床も壁も、厚みが違うと音が変わるから――部屋自体に仕掛けがあれば何かあるかもしれないわねえ。」

相手の心を読める訳でもなし、是正が無ければ彼への呼称が定着してしまうのだろう。
鉄製の手甲が、カン、コンと音を響かせながら壁の厚さと空洞を探っていく。
術式や――件の宝箱がトリガーなら少々面倒ではあるけれど。

レナード・イースト > 「慣れていると言うのは、トラップによく引っかかっていると言うことか?」

思わず聞き返してしまった。
それはそれでどうなんだ。
俺は被りを振り、気を持ち直した。
逆に言えばそれだけダンジョンに入り慣れているわけでもある。
叩く音で素材を推察する仕草などは随分と頼もしく見える。

「そうだな、やはり最後になるか。」

まあ、レナードちゃんでも今は良いだろう。
それよりも依頼主に献上できるような品を手にしつつ戻ることが大事である。

俺は剣を両手に持ち、壁に向けて構えた。

「アルヴァニア殿、壁を壊した方が良いのなら
俺が一刀両断にしようではないか。」

ここで俺の腕前をアピールすることも大事だろう。
宝箱は気になるが、今は確実な出入り口を見つけることが先決なのだろう。

アルヴァニア > 「遺跡探索をしているとねえ、結構あるわよお。」

今尚造り替えられている遺跡――果たしてそれを遺跡と呼んで良いのかは分からないが――から財宝を奪おうと言うのだ、トラップが無かった場所に新しく造られていると言うのもままある。
カン、コン、コン、と響かせていた矢先、出た申し出に動きが止まる。

「あらあら。―――そうねえ、やってみて貰っても良いかしら?」

ふむ、と暫し悩む仕草。物理で破壊出来れば御の字ではある。
腕前アピールの場となっているとは気付かず、壁から離れて相手の後方へと一度下がった。

レナード・イースト > 「現状でトラップを仕掛けている者が居ると言うことか?
遺跡探索と言うよりも空き巣のようだな。」

冒険者の仕事を引き受けるのは初めてだったが、なかなか危うい仕事ではないか。
やはり俺には向いていない仕事だな。
今後も誰か人を雇った状態ではないと受けないことにしよう。
アルヴァニアの説明を聞きながら、そう決意した。

「任せろ。 俺の腕前を見せてやろう。」

俺は両手で剣を握りなおすと、大ぶりの一撃を壁に食らわした。
真っすぐ縦に剣を振り下ろすと、斬撃が円を描き壁を貫通する。
大きな亀裂が生じ、亀裂の周辺から壁の一部が崩れ落ちた。
俺は埃を吸わぬように手で口元を抑えつつ、アルヴァニアに視線を向けた。

人一人なら容易に通れる広さの亀裂の向こうは道が伸びている。
どうやらこの部屋を抜け出せるようだ。

「どうだアルヴァニア殿、我が武威は。」

アルヴァニア > 「そう言う事になるわねえ。
まあ、勝手に棲みついてるんだもの、奪われても守れない方が悪いわよ。」

ころころと喉の奥で笑み声を転がしながら、何でもない事の様に外道を宣った。
そも、こんな所に住み着く方が如何かしているのだ。
其処に踏み入る自分達も大概なのだけれど。

そうして相手の後ろに下がり、事の成り行きを見守る。
以前は物理も魔法も一切を吸収してしまうトンデモ素材の壁だったが。
改めて握り直された剣が降り下ろされ――その軌道とは異なった衝撃が壁へと刻まれる。
口許を覆って舞う砂埃を避けつ、瓦礫の向こうに現れた通路と相手とを見遣り。

「凄いわあ…あれ、どうやったのかしら。」

満面の笑みであった。
道が開けた事よりも、男の放った斬撃の方に興味深々な辺りがこの女の所以たるところ。
ぱちぱちぱち、と軽く手を叩いて喜ぶ様は見た目に反して少女めいた動きになってしまった辺り、そこそこはしゃいでいる。

レナード・イースト > 「そういうものか。」

俺は納得しつつ、にやりと笑みを浮かべた。
バイコーン部隊の隊長とやらはいか程かと思っていたがなかなか達観しているではないか。
どれ、もう少し売り込んでみよう。

俺の斬撃は剣と魔法の合わせ技である。
故に大抵のモノは両断する。
この力でこれまで数多の敵を屠って来たのだ。
これくらいどうと言うことは無い。
ふふんと、鼻を鳴らしていた。

「俺の剣技と愛剣をもってすれば造作もない事だ。
それよりどうだアルヴァニア殿。
俺をバイコーン部隊に迎え入れたとなれば戦力倍増は間違いないぞ。」

上機嫌のアルヴァニアに顔を向け、いよいよ切り出した。
聴けばバイコーン部隊は幹部席にまだ空きがあると言うではないか。
腕前を披露出来た今こそ、売り込む時だろう。
この女の元で戦力を蓄え、再起を待つのも一興。
無論、向こうがどう応えるかだが。

アルヴァニア > 「そう言うものよ。」

弱ければ奪われるし、奪われたくないのであれば強くなるしかない。
でなければ、生命力が高いだけの生き物など、この世にまろびてで直ぐに淘汰されていただろう。

己の言葉に、自信に満ちた様子で告げる男の姿は何処となく邂逅時の様子を髣髴とさせる。
思わず喉が笑いに震えてしまった。
そうして繋げられた言葉は予想だにしていなかったもので。

「あらあ…熱烈なアピール。
―――でも、レナードちゃん。あたしの命令を聞く事になるのよ?」

大丈夫? とは言外に。
戦力の拡充は人員の増減がそこそこ頻繁な傭兵稼業には常に頭を悩ませる事柄だ。
然し、初回の口調が既に人を使う事に慣れた人間の物言いだった相手を、この短時間で忘れはしない。
己の隊に迎える、と言う事は、彼に、自分の上に己を立たせる事と同意だ。
先までの呑気そうな雰囲気はいつの間にかなりを潜めていて。

レナード・イースト > 「ふむ、その言い方は道理だな。」

この乱れた世情をよくよく理解した発言であると、俺は喉を鳴らした。
要は強い奴が好き放題しても良いとのことだ。
その考え方は正しいだろう。

「それは仕方あるまい。
だが、アルヴァニア殿こそ俺を抱えるつもりはあるか?
俺の性分は短い間であったがよく分かったことだろう。」

こちらもはっきりとは口にしないが、寝首を掻く恐れがあることを匂わせておいた。
ただ、最終的な目標は拠点を得ての再起である。
軽々な行動はするつもりもないが、時が来れば…。
そう、俺が組織を手中に収めた時はどうなるか。
思わず口元に笑みが浮かぶ。
向こうも纏う雰囲気が変わった。
さて、どうなることか。

アルヴァニア > 共感を得られたらしい己の言。
その様子からは、正しく己の意図する内容が通じている事も伺える。
そも、そうでもなければ傭兵稼業などせず、騎士だの何だのになっていれば良いのだ。
敢えてそれ以上は言葉にせぬ儘、男の含みを持った台詞を耳に入れ――

「良いじゃない。あたし、貴方みたいなひと、嫌いじゃないわあ。」

口にされずとも男の意思は察するに容易い。
ゆる、と弧を描く様にして眇められた赤色の瞳が光を受けて鈍く輝いた。
己が自由に動く為に手足の代わりに揃えた隊の人員。
彼が知る由は無いが、手足の如くである眷属も入り混じっているし、自覚無しにそうなっている者もいる。
無論、これからも其れは増えていくのだろう。
其れを越えて隊を手中に収めるも、足掛かりに異なる勢力を広げるも、己には然したる問題ではない。
――詰まるところ、歓迎の意であった。

「ようこそ、バイコーン部隊へ。」

レナード・イースト > 「だろうな。
貴殿の瞳や顔には俺と似た様な匂いが感じ取れる。」

なるほど、傭兵部隊の長ともなればこういうものか。
恐らくは俺の用にギラついた危険物を山ほど抱えているのだろう。
俺は強い光を放つ赤い瞳を前に不敵な笑みを浮かべた。
事前に得ていた情報によると人並み外れた実力を持った面々も居るらしい。
恐らく本当に人以外のメンバーも居るのだろう。
だが、俺にはそんな中でも頭角を現す自信がある。
その時は目の前の女もモノにしてやろう。
が、今はまだその時ではない。

「これから宜しく頼むぞ、アルヴァニア殿。」

最早、俺の顔には剥き出しの野心が張り付いていた。
剣を鞘に仕舞うと、右手を伸ばし握手を求めんと。
相手が返そうと返すまいと、共に通路を伝い味方の元へ合流に向かうことだろう。

アルヴァニア > 「あら、それって褒められてるのかしらあ?」

口許に手を添え、ふふふ、と笑って見せる顔は、通して浮かべていた呑気な雰囲気の物。
常道を好むものから邪道を好むものまで、性別種族は多岐に渡る。
そもそも、己自身が人種ではない。
相手の武力は上々ではあるが、ならず者に曲者揃いの隊の中で何処まで頭角を現して行くかは――はてさて、これからに期待と言った所だ。

「ええ。よろしくお願いするわねえ、レナードちゃん。」

野心の中に己も含まれているとは知らぬ由、最早隠されもしない男の心持が全面に押し出された表情を、愉し気な笑みでで握手を返すのだろう。
開かれた通路を通り、組まれていた部隊の捜索隊と合流するまで後―――。

ご案内:「無名遺跡」からアルヴァニアさんが去りました。
ご案内:「無名遺跡」からレナード・イーストさんが去りました。