2019/04/12 のログ
ご案内:「無名遺跡」にサンザシさんが現れました。
■サンザシ > 目が覚めると見えるのは暗がりばかり。
夢でも視ているのかと頭を起こすと、傍らに角灯が落ちている事に気付く。
「……ああ、そうだった。そうだった。あたしは落っこちたんでしたね」
角灯を拾い上げて周囲を視る。苔生した古い路が見得る。見上げると天井が崩れ、穴が開いているのも解った。
「さて他の皆さんは如何されたことやら……」
遡る事数時間前。……角灯の油の残りからして、きっと数時間前。
あたしは冒険者ギルドからの依頼を受け、九頭龍山脈の麓にある遺跡群の調査に来ておりました。
勿論独りじゃあなく数人で。即席で組んだパーティの人数は四人。一番の熟練者と思しき魔術師の旦那が自然とリーダーになりました。
魔術師のサルパルス。剣使いのエステバン。力自慢のマルゴット。そして、あたし。
道中は無難と言えば無難で、順調と言えば順調。力を合わせて魔物を倒し、仕掛けを解除し──なんて折の事。
「いやまさか、罠を解除した事で発動する罠。なんてものがあるなんて」
恙無く罠を解除したあたしの床下は突如抜け、後は御覧の有様と云うものでした。
幸い身体は傷むも目立った傷は無く、こればかりは自身の柔軟性に感謝してもし切れない。
■サンザシ > 路の先を行こうとは思わなかった。独りで何が出るか判らない場所なんて御免被りたい。
だから、壁を上がり切った先で待っているだろう仲間と合流したかったのに。
「…………いやまあ、それも道理っちゃあ道理ですけども」
上がった先には誰も居らず、あたしは頭巾を脱いで嘆息を落とし、次には血の匂いに眉を顰める。
「なんとまあ」
角灯で照らした先。あたしが落ちた穴のすこうし先。
そこには壁の左右から、きっと矢のように射出されたであろう鉄杭に貫かれた魔術師の旦那の姿がありました。
残り二人の姿は視えず、パーティが半壊したと言う所で撤退したのだろうと察しましょう。
「あたしが落っこちた時に戻れば良かったのに、馬鹿な人ですね。
それとも助けようとしなさったか。……即興のパーティだと言うのに人が佳い」
壁を背にして腰を下ろして独りごちる。
旦那からの返事は当然無かった。
■サンザシ > 「……あー、そうだ。そうですね、形見と云う訳でもないですが、旦那の持ち物、一つくらいは持ち帰らないと悪いですね」
死と血の匂いばかりがする中で休憩の折。
あたしは大事な事に気付いて立ち上がりました。
きっと知己の間柄な御仁とてあるでしょうし、家族がいるやもわかりません。
何か一つ、持ち帰ってやってもバチは当たらんと思うもので、あたしは魔術師の旦那の死体に近づいて荷物を漁り始めます。
他人が見たら、まるで死体から荷物を剥ぐ死体泥棒にも見得ましょうが、生憎と此処にはあたしだけです。
程無くして、紫水晶の玉が嵌った指輪を一つ見つけ出して腰袋へと仕舞い込むのです。
「まあ他の二人が何か持ち帰っていないとも限らないのですが──ん?」
愛想笑いのように表情を緩めた所で、先程まで向こうを向いていた旦那の顔が此方を向いている事に気付く。
先程まで地に垂れ下がっていた腕が、今にも掴みかからんとしている事に気付く。
あたしは反射で後ろに跳んで、次には振り向かず、4人で来た道を独りで走り出した。
「ああもう、死霊の類はこれだから! 少しは余韻を大事にするもんでしょうに!」
遺跡や戦場痕に数多現る死霊の類。彼らは一様に人の身体を求める。
きちんと埋葬されなかった死体など恰好の獲物と云うもので、いい加減な寺院の墓所でも時折憑かれた者が動き出すのだと言う。
「やれやれ……ああもう、ついてない。無事に戻ったらお風呂入って、美味しい物が食べたい……」
死霊は死霊を呼ぶ。旦那の死体が杭に刺さったままだとしても傍に居る訳にもいかず、
あたしは随分と走ってから再び壁を背にして腰を下ろして息を吐く。
死と血の匂いはもうせず、土の匂いがあるばかり。
■サンザシ > 「これならダイラスの闘技場にでも出て、賞金稼ぎでもする方が良かった。……なんてのは、きっと旦那や他の二人も思っている事か。
ああ、でもこの地図は売れるかもしれませんね」
懐より取り出されるのは、あたし達が入った入口から、魔術師の旦那の死体がある所までの地図。
どういった罠があったのかが記されてあり、道中の安全性を少なからず保障してくれるもの。
ちなみに記された文字はあたしの字で、我ながらそこそこ綺麗に書けたと、掲げるように見て鼻の一つも鳴らしましょう。
「ま、此処から無事に出れない事には始まりませんけれど……そろそろ行きま──ん?」
来た道を戻るだけとはいえ、帰りに魔物が居ないとも限らない。
あたしはやれやれと声に出して立ち上がり、偶々肘を付いた所から異音が鳴って其方を向いて
「──どぅおっ!?」
次の瞬間、凭れた壁がばかりと開いてあわや奈落へ一直線。
「……罠、一つ追加……と」
序にあたしの溜息も一つばかし追加されるのでした。
ご案内:「無名遺跡」からサンザシさんが去りました。