2018/10/28 のログ
ご案内:「◆無名遺跡(イベント開催中)」にリルさんが現れました。
リル > 普段少年がなかなか来ない領域。それが遺跡やダンジョンの類いである。
基本的に少年は、人の生活領域を害するものを狩ることで糧を得ている。
害獣、野盗、山賊、それになろうとするであろう脱走兵や敗残兵の集団。
それらを殺すか、追い払うかを冒険者としての主だった仕事としている。
しかし、この日は。

「さて。ルルと冒険する前に、ちゃんと本気ださないとね。
鈍ったままで、先輩みたいな顔できないもの」

神代より来たとされる機械の兵。使者。
それらが出現しているとされる領域にふみいり、準備運動。
念入りに念入りに。体を温める。

リル > 「ふー」

探索には必要だが、戦闘には邪魔になる大きなリュックを置く。
身につけているのは軽装備の防具類。
手には2mの直槍。腰にはナイフ、だが鉈と言えるもの。

「思いっきりっていつぶりだろ……話に聞いてると、だいぶ強いみたいだし」

顔には期待と緊張感。戦いに臨む男の子の顔。
幼さのある顔を、程よいピリリとした緊張感に微笑ませる。

「すぅーーー……」

体中に魔力を巡らせる。身体強化魔法。
筋力などとは別の「力」である魔力を体中に張り巡らせることで、
肉体の強度と運動能力を爆発的に向上させる……しかし、非常に燃費の悪いものだ。
少年が体に巡らせる魔力ほどがあれば、本来はもっと大規模な破壊魔法を使えるだろう。
だが、それは後衛の術者であればこそ。単独で前衛として戦うならばそうはいかない。

リル > そうはいかないからこそ、小さな体を、軽い体を、非力な体を、魔力で武装する。
今、この少年の膂力は羆の如きものであり、敏捷性は獅子や虎の如きもの。
そして、体そのものの強度も、それらに耐えうるものである。

「さって、と……変な気配があるから、たぶんそれだよね」

いつものように、いつものような、しかし、いつもより高揚した声でつぶやき、歩を進めていった。

リル > 「いた。それと。気付かれた」

探索すること5分ほど。
それは居た。そして、それにとって自分は居た。
形状に特徴こそあれど、その姿そのものは画一ではない。
冒険者たちが持ち帰った情報の通り。
3m弱ほどか。ちょっとした巨人の印象をうける「それ」が、
頭部と思わしき部位を、赤い光をこちらへ向ける。
形状としてはほぼ人だ。やりやすいと、そう思う。

「さて、じゃあ付き合ってよね。古い古いお人形さん」

少年がゼロから獅子の速度で巨人に駆けていくのと、巨人が少年の居た地点を熱戦で穿つのはほぼ同時だった。

リル > 「っは。すごい魔力量。ゾクゾクするね……!」

ただの小手調べ、というよりは「一般的な攻撃手段」なのだろう。
それで、岩で出来た床を明らかに熱で穿つ威力。その至近を走る少年にも、その熱量と魔力量が感じられる。
そして、間合いだ。少年の。

「さあて、まずはセオリーからだよ!」

巨躯を相手にするなら、体の末端から。そして、関節部から。
手にした直槍を巧みに操り、膝関節を何度も刺突する。

「っ……! セオリーはあくまでセオリーってことだね」

羆の膂力に耐える構造と、耐えさせる技量で幾度刺突されても
膝関節部分はびくともしない。
みれば、関節部に装甲板が回転し、刺突を防いでいる。
大型で歩行するのなら、関節の寿命がそのものの寿命。
その程度のこと、コレを作った者は知っている。
この程度でこの巨人は殺れない。

リル > 「少しだけ、困ったな……と!」

ここは巨人ではなく少年の間合い。3mの巨躯と、1.4mの矮躯。
神話にある巨人殺しのようにうまくいくものではないが、こうも差があれば、巨躯で対応できない間合いもある。
無論、巨躯故にその攻撃は「大きいだけで驚異であり暴威」だが。

「っと……!ぐ、ぎっ!! つよ、いな!!」

巨人が手にした槍を薙ぐ。邪魔だ、どけと言わんばかりの、ただの横薙ぎ。
それを少年は受け止める。筋力と強度が強化されているとは言え、体重そのものは軽い。
だからこういう無茶は普段しないのだが、自分めがけて振られた鉄塊を受け止めて、踏ん張る。
強い。力がとんでもなく強い。本来の性能には届かないとされている巨人。
そのなかでも小型に当たるコレで、この力。
羆の膂力が、きしむ。

「昔ってすごかったんだねえ……!!」

しかし、ただ払うための横薙ぎには術理がない。
培った格闘の技でもって、受け止めた暴威を、上へと弾く。
力を見たかったという命知らず。一度火が入れば、このくらいはやる。

リル > 報告書は一通り読んでいる。この槍を使わせてはならない。
魔力に対する耐性も抜群と聞いている。
故に、近間で戦うことが、この少年には必須。
赤い眼がこちらを見る。頭上の輪が再び光る。

「うわっ! 器用にやるなあ……!!」

至近距離で放たれた熱線を、スウェーバックで回避。
そして。

「っ、と! 手数が多い!出来ることが多い!」

再び振るわれる槍。本来の使い方ではないとはいえ、やはり巨躯でするそれはそれだけで暴威だ。
小さく飛んで、その槍の上に掌を置いて、片手逆立ちのような姿勢となって回避。

普段相手にする獣や人間、たまに相手にする魔物とは違う。
これは純然たる兵器。蓄積された情報、それはただ倒すために。
そんなものとやり合うことがほぼない少年にとって、この巨人の様々な攻め手は新鮮だ。

「そんなに、怖い顔しないでよ……っと!!」

そのまま片手だけで跳躍。
怖い「顔」である頭部の切れ目へと、腰の鉈をぬいて叩きつける。

「結構、手応えあり……!」

リル > 確かに手応えの通り、巨人の器官の1つにダメージは与えたのだろう。
しかし、人が片目を潰されただけで即死するかと言われれば否であり
巨人にとってそれは、そういうことだった。

「―― やばっ!!」

少年の目の前にあたる巨人の光輪。それそのもの全体が光り輝き。
巨人に傘を張るように、下部へ全周囲の熱線を放つ。

「そういうの、やめてよね! 別に高く売れないんでしょ!!」

少年は回避できる位置におらず、普段は懐事情から絶対使いたくない「ちゃんとした魔法」を使うこととなる。
障壁による防御。少年の指輪に蓄積された莫大な魔力を引き出して
戦闘中は魔力の殆どを身体強化に当てている分で狭まった戦術の幅を取り戻す切り札。
しかし、切り札というのは得てして貴重なもの。
魔力を蓄積できるこの指輪は、高額な上に回数制限付きだ。

「これでこいつはあと9回……!ああもう!貯金ってたのしいな!!」

エルフとしての莫大な魔力を蓄積した指輪の放出する魔力もまた莫大。
岩の床を円形に切り取るような熱線を、大雨を傘で防ぐような光景で防ぐ。
そうして間もなく、熱線も止む。光輪の動きがおとなしくなる。
魔力の一時的な枯渇か。

「じゃあ、次はこっちの、番だよ……!!」

少年が巨人に肩車されるような体勢。そして。顎にあたる、装甲板の切れ目に指をかける。
思い切り、強化された力全てを使うようにして、首をもごうとする。

リル > 「ふんぐぎぎ……!! 思いっきり! ぶっ壊れちゃえ……!!」

その様は、小児が大人に肩車をされるようなシルエット。
だが、金属の巨人の頭がもがれようとしている、命のやり取り。
一部情報では、頭上に札があった場合、それを取れば機能停止をするという。
が、この個体にはそれがない。
ならば。

「壊して、壊して、壊し尽くすしかないよねえ!!」

金属の軋む音、ひしゃげる音、割れる音。何かがちぎれていく音。
明確に巨人の体に消えぬ破壊を刻んでいく。
しかし、それをただ甘んじて受けるだけの巨人ではない。
両手で少年を引き剥がそうと、自分の頸部へと伸ばす。

「うるっさいな……! ほそっこいのが邪魔だよ!」

少年をつかもうと、いや、その指で刺突しようとした両手は
首から手を離した少年の両手で細かな金属塊へと変えられる。
腰の次に大きな関節を破壊できる少年に、手指のような細かな関節の集まりで抗える道理はない。
巨人の指をちぎり取ったあと、巨人の手首を引っこ抜いて投げ捨てる。

「さて、もう一息……!!」

金属の曲がる音が、致命的に潰れていく音が、静かな遺跡の中に響き渡る。
「ガギンッ!!!」と、一際大きな破壊音。
光輪のもつ光がなくなる。巨人の四肢から力が失せる。
頸部を完全に破壊したと見ていいだろう。

「……………ふっ!!」

次は、巨人の頭部側面を抱えて、思い切り回す。
ぶちぶちめきめき、千切れる音とともに、巨人の頭部そのものが完全に胴体から泣き別れする。

「これで、1機しとめた。かな?」

リル > 巨人の頭部を抱えて床に降りる少年。
ちぎり取ったその頭部をよくよくみれば、頭部装甲と内部機構の間に、札。

「なんだ。ここにあったんだ」

ふー、と一息。これら機械の兵は、明確に強いと聞く。
それを1人で、リソースの消費は1つだけに済ませて勝った。
それは、久しぶりの全身全霊を出した少年にとって、気持ちのいいことだ。

「……あんまり売れないって聞くけど、とりあえず……綺麗な装甲板は剥がしていこうかな」

主だった部品は回収できないとは聞いている。
しかし、兵器としての使用に耐えうる装甲板なら、なにかしらの用途はある。
つまり、売れる。

「まー少なくとも、指輪の分の代金は頂戴しておきたいからねー」

のんきな声で、巨人の身ぐるみをはぎにかかる少年。

……ただ、心残りというか、ややショックなのは、槍が通じなかったということ。
岩トロールのような種族にもそうだ。
少年の武器は、堅牢な種族に向かない。

ご案内:「◆無名遺跡(イベント開催中)」にアデリーナさんが現れました。
アデリーナ > 遺跡の入口の方から複数の足音。
魔導機兵によく似た、より小柄な装甲泥人形の部隊を引き連れた、いかにも学者風という見た目の少女がやってくる。
眠そうな目に厚ぼったい眼鏡をかけ、ぼさぼさの銀髪を掻きながらダルそうにゴーレムの肩に座る少女は、
その光景を見るなり指を指して絶叫する。

「…………あァ゛ーーーっ!?」

小金を握らせて情報屋代わりに使っている冒険者から、状態のいい魔導機兵が徘徊していると聞いてやって来た遺跡。
稼働状態でかつ保存状態がいい機体なら、さぞ良質な稼働データが記録できるだろうと
ウキウキ気分でゴーレムの小隊を引き連れダンジョンアタックを試みた、のだが。

「お、おまっ。おま、それ…………!」

目の前で首をもがれて解体されている魔導機兵。
形状やカラーリングの特徴から、お目当ての機体だとわかった。
はるばる遺跡くんだりまでフィールドワークにやって来た目的が目の前で鉄くずに変わっていく。
あんまりにもあんまりな仕打ちだと、少女は酸欠の金魚のように口をぱくぱくと開閉させて呆然とする。

リル > 「はへ?」

少女と思われる絶叫に、そっちをみる。
ゴーレムの肩に座る少女。外見年齢は自分より上だ。
なんかだるそうで不健康そうな印象だが、大丈夫だろうか。

「え?え? どうしました? 襲ってきたんで倒したんですけど」

よいしょっと。と胸部装甲板をめりっと引っ剥がす。
少女の思惑など一切知らない少年は、ただただ糧のために機兵を解体する。
お金のために。

アデリーナ > 「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

べりべりと引き剥がされていく装甲。
状態のいい魔導機兵が一山幾らのくず鉄特盛に変わっていく。
間に合わなかったのは自己責任だ、先に破壊されてしまったのは仕方ない。
仕方ないが、そっから完全破壊されるのはしかたなくない。

「待て! 待て待て待てステイ! 少年、その魔導機兵僕が買うから壊すな!!」

いくらだ、いくら欲しい。9万ゴルドか、いやしんぼさんめ。
などとわけのわからないことを言いながら、少年の暴挙を必死に収めようとする。

リル > 「え、え、え、え、え? え。あ。はいっ。こわすのやめますっ!」

がらんっ。と遺跡内に響く、装甲板が岩の床に転がる音。
びしっ!となんだか気をつけの姿勢で少女に向き直る少年。
何故だろうか。ステイって言われたからだろうか。わんこ精神がうずいたのだろうか。

少年はただただ腕試し、腕が鈍っているのを取り戻すために、
戦闘技能者として壊し壊される気でこの遺跡にやってきた。
研究者である少女の思惑とはベクトルが真逆と言っていい。
だって持てるだけの装甲を引っ剥がしたらそれを担いで帰る気だったのだ。

巨人の損壊部分は頸部、手首。胸部は装甲が剥がされたのみ。
のみ。とはいえ、頸部の完全損壊は大破判定ではなかろうか。

「え。えーっと。お姉さん、ゴーレムマイスターの方ですよね。この機兵になにか御用で……?」

こて、と首をかしげて。その様は傍目に見れば可愛らしいといっていいものだが
この状況にそぐうものだろうか。
それと、9万もあれば指輪貯金に大助かりなのでヒャッホウとは思っている。

アデリーナ > 「はぁ、はぁ…………よろしい」

慣れない大声で肺と喉がつかれた。もとから悪い顔色を更に悪くしながら、
素直に破壊活動をやめた少年に休めと手を翳す。
素直なのはいい。変に頑固だったり性悪だったりして破壊をやめなかったら戦争だった。

「厳密には違うな。僕ァアデリーナ・クルシンスカヤ、魔導機械研究者だ。
 君がバラバラに引き裂こうとしてたそいつは古代の先進技術の塊で、僕らからすれば金塊より価値があるんだぜ。
 …………生きてさえいれば、だけどな」

フレームを露出させた無残な姿で、完全に機能停止して主要機関の崩壊が始まりつつある残骸を見てため息。
それでも、野良冒険者が狩ったにしては状態はまだ良い方だ、
というのがなんとも魔導機兵への理解と周知の進んでなさを感じて悲しくなる。
皆軽率に粉々にし過ぎなんだよ、もっときれいな残骸を僕によこせよ、なんてごちる。

「済まないが大金を持ち歩く趣味は無くてね、金の受け渡しは王都でになると思うんだがいいかい?
 いや、そもそもまずはそいつを譲ってくれるかどうか、か」

リル > 「あ。え。はい……」

休めの姿勢。なんだか体が勝手に動くのはやはり犬的素質だろうか。
もうこの個体に用はないので、こんなに強烈に主張をされればやめもする。
そう素直に思えるほど、少女の声は悲鳴であり、怒号であり、やっちまった感に溢れていたのだ。

「ふんふん。こういうのの研究者の方ですか……
確かに、今よりももっと高度に思えますものね。そりゃあ貴重です。
ですが、ええ。おっしゃる通り、生きていれば、ですよね。
主要の部品の回収は不可能だと、報告にありましたし……」

持って帰る気だったのかな?とまた首をかしげる。
こんな凶暴なものを持って帰る気だなんて。いくらゴーレムを
結構な数引き連れているとはいえ、凄いことを考えるなあ、と感心する。

「んー。えー。あー……えっと、さっきの9万って勢いじゃなかったんですか……?
えーと……その。ばらばらにしちゃった目的も、研究されている方からすればしょうもないことですし……
えと……装甲の倍値で大丈夫です」

さすがに1年以上暮らせる大金を、個人的な欲求を満たした上に貰うのはしのびない。
というか、この少女のがっかりっぷりをみると…………申し訳ないのだ!

アデリーナ > 「ああ、こいつらに比べたら現代の魔導機械なんて玩具みたいなもんさ。
 だからこそ技術発展のためにも生きてる魔導機兵の捕獲、ないし観察がしたかったんだがねえ」

こうなっちまっちゃもうどうしようもないな、と肩を竦める。
ゴーレムからひょい、と飛び降り、少年の脇を通って残骸に。

「小型機種、再起動前の損壊はなし……報告どおりなら、だけど。
 そんで戦闘痕からみるに熱をそのまま照射するタイプの魔導兵器を搭載してる型かな。
 ……うへぁ、あの辺なんか石がガラスになってら」

キョロキョロと周辺を検め、魔導機兵の詳細を推測する。
御しきれぬではないけれど、無傷で鉢合わせれば岐路の護衛ゴーレムが足りなくなっていたかも知れない。
幸か不幸か、今回はこの少年に先んじて撃破されてしまったようだが。

「大いに勢いでぶち上げたが払えないではないさ。こう見えても僕は嫌味な大富豪なんだぜ」

戦争で儲ける兵器商人、とでも言うべきか。
常時戦争状態のここのところは、ゴーレムも魔導杖も飛ぶように売れて懐がほかほかなのだ。
少年のあまりにも謙虚な提案に、では相場の三倍で、と無理やり決着をつける。
力任せにぶっ壊されたとはいえ、完品で全身分のパーツが揃っているのは予定とは別の方向で用途がありそうだし。

リル > 「んん、たしかに。個人がカスタムしたもの以外は、あんまし……って気がしますし
やっぱり捕獲……大変、ですね。コレは多分、小型でメインの槍と、サブの熱線で遠距離主体なんでしょうが……大型になれば、ただただ凄そうです」

捕獲。コレの捕獲。少年は、技量は冒険者内の並の上。
しかし、身体能力や魔力量などの「能力」だけをみれば上の並ほどだ。
それが本気でかかって倒すものを、持って帰る。ゴーレムの数は確かに多い。しかし。

「ええ。熱線の出力は、下手な魔法使いとは比較になりません。
ああ、撃たれた所そんなになってるんだ……」

戦闘でハイになっていたが、そうか。こいつはそんなにヤバイ代物かと思い返す。

「おおー……。お金ってあるところにはあるんですねえ……
は、はい。三倍で。よろしくお願いします」

ぺこり、と少女へお辞儀をする。
少年もこの戦乱続きで仕事がなくなることはない。蓄えだってある。
しかし、あくまで「飲めや歌えや買えや打てや」の冒険者のなかで堅実なだけであり
少女のように本当にお金を持っている人間とは比べるべくもない。

そして、どうやら「やるならば最短距離」という挑み方をした少年の破壊は
まだマシな方だったようだ。

アデリーナ > 「デカブツなんざそれこそバケモノ級のバトルジャンキーか軍隊の出番だろうさ。
 残骸の正面装甲をぶち抜くのに魔導砲クラスの火力が要るんだぜ。あんなのたかだか数人で相手するもんじゃないって」

ひらひらと手を振りながら、残骸をひっくり返す。
主要なパーツが駄目になっているのはいつもどおり。ここばっかりは経験と知識で補うしかないだろう。
今回一番の収穫は、大抵の場合に集中攻撃で駄目にされる頭と胸部の弱点周りがまだ原型を留めていることか。

「で、推定冒険者の少年。君はこれからどうする?
 まだ奥に行くなら引き止めはしないけどね。
 こんな乱暴な壊し方をする戦い方をするようには見えない。ちっと無茶してたりするんじゃないかい?」

リル > 「ふむむ……。そんなに……。およそ個人では相手にできませんね。
英雄だか悪鬼だかじゃないとダメかあ」

10mクラスがいるという。10m。大型の巨人種に匹敵するし
それが全身装甲で、古代の兵器で武装している。
そんなものは、ただただ、ただただ恐ろしい存在。戦いの対象ではない。
恋人の持つ、卓越した才能の魔法でも通じるかどうか。耐魔力障壁があるタイプもいると聞く。

「え。……うーん……今回の探索は、これで終わりにします。
……はい、仰る通りです。本当の戦い方は、この槍を使った、人間でいう遠間での戦いです
……全く通用しませんでしたがね」

無理は、普段に比べれば万倍した。全力でちぎり飛ばす必要のある相手なんて
いままで何がいただろう。鳥型の魔物の翼を千切った時くらいか。
なんにせよ、これ以上継続した戦闘は、理性的な判断ではない。
消耗も大きく、この先にでてくるものが怪物クラスの機兵ならば、遁走以外の選択肢がない。

アデリーナ > 「そういうこった。英雄、悪鬼、魔王、それから兵器。
 そういうバケモンが事実存在する以上、
 僕ら技師はそういうモンを一切合切吹っ飛ばせる兵器を目指して邁進するしかないのさ」

なんていかにも世のため人のため、というふうに言ってみてはいるが、
性根はそういうバケモノを吹っ飛ばせる最強兵器が作りたいだけだ。
それが新しいバケモノになるならそれはそれで。なんて、口に出しはしないが。
大型魔導機兵と殴り合えるようなやつ、作りたいなあ。

「ふーん、槍使いねぇ。そりゃ生肉相手なら槍ってのは有効だろうけど、芯まで金属詰まってるやつなんかは結構辛いだろ。
 ともすりゃストーンゴーレムなんかも苦手だったりしないかい?」

あの手のヤツは遠距離から火力を叩きつけまくって圧殺するか。
大質量をぶつけて破砕するか。
それか、小回りの利く片手剣あたりで急所を的確に破壊するか。
相場はその辺だ。剣として扱うにはかさばって脆く、突くには敵が硬すぎる。
槍で魔導機兵戦というのは、不可能ではないにせよかなり難易度も上がろうというもの。

「とはいえ、君はなるべく壊さない戦い方が出来るタイプの稀有な冒険者なんだよなあ。
 ……槍、好きなのかい? 敢えて槍でなきゃ駄目な宗教上の都合とかある?」

技師として、より鮮度の高い魔導機兵パーツを入手できるルートは確保しておきたい。
少年が嫌がらなければ、作品を押し付けるのもやぶさかではないな、と。

リル > 「うーん……化物には化物、ですね……
そしてそれを、ちゃんと作って使えるものでやっつける。
兵器としては、僕みたいな門外漢からすれば、それ以上はなかなか見えませんね」

でも、そういう化物を作った文明が滅んで、今こうやって亡霊として出ている。
化物を作れるようになった文明の行き着く先って、どこなんだろう。
いくらエルフが長生きだとはいえ、みることのない先を、何となく考える少年。

「あ。はい……甲殻程度ならなんとかなるんですが、岩や金属が相手だと……。
凄く、はい、物凄く苦手です。そういう時は取っ組み合いです」

鉈を使ってなんとかなるのも、甲殻の類いまで。
それ以上となれば、先程のように掴んでちぎり飛ばすのが一番だ。
槍を試してみたのは、ダメ元というか、試しである。

「あ。はい。殺し合いって基本ろくでもないですし、最短距離を一直線が好きです。
この槍は、細工とかを自分でしたものなので、思い入れはありますが……。
別にコレ以外じゃないと嫌だーって言うわけじゃないです。
冒険者やってて便利なことが多いんでこれ、っていうだけで」

獣や人間相手なら、槍は非常に有効だ。だから槍を使っているという面が大きい。
隠密から、心臓を一突き。それで事が終わるのだから。

アデリーナ > 「だろうねぇ。カニとか蟲は装甲の中身にやっぱ生肉が詰まってるから隙間に刺さりさえすりゃなんとでもなろうけど。
 かといって君みたいなチビ助じゃ質量武器なんて武器に振り回されそうだし」

少年より多少は背丈があるといっても、世間一般には十分チビ助であるところの少女は
魔導騎兵の残骸から部品を引っこ抜きながら淡々と会話を交わす。
ふんふん、効率主義か。好きだぜそういうの。
いいね、実にいい。よおし、お姉さん少しやる気をだそうかな。
がちゃがちゃと部品をこね回し、コートのポケットに詰めてある触媒やゴーレムコアを組み込んでいく。
形状は魔導杖をベースに、白兵戦に耐えるようやや剛健に。
機能として組み込む魔法は、少年の意見を聞くとしよう。

「なー少年。槍で戦ってみた感想としてさ、もう一手なんか欲しいな、みたいなのなかったかい?
 たとえば槍が伸びたらいいのにとか、いっそ槍からこいつみたいに熱線出たらいいのにとかさ」

リル > 「はい。そういう相手には隙間にさせばバラすこともできますが。
うう、おっしゃる通りで。幾ら強化しても、重さまでいじるのは僕の腕じゃできないので……」

チビ助といわれても一切気を悪くしないのは、普段からギルド内でそう言われているのと
自身でその自覚がアリアリだからだ。純然たる事実なのだから。
そして、不思議な事を聞かれる。
欲しい武器の性能。日々考えても、たどり着かない問題だ。

「んー。むー。そうですね。熱線の機能はちょっと欲しいですが……
そればかりに頼ると、速すぎる相手に対応するのが難しいので……
屋敷が買えるような魔法剣のように、そうそういない腕利きの魔法剣士のように
刃そのものが大きな熱を持って欲しいですね。
飛ばせるなら飛ばせるで便利なので欲しいですけど」

大遠距離の攻撃となれば、恋人が専念すれば、およそ冒険者レベルで彼女以上の魔法使いはそうそういないだろう。
なら、自分は人間レベルの間合いで十分なのだ。

アデリーナ > 「まあねえ、速度に対抗するには同じくらいの速さを得るか、大勢で陣形を組んで迎撃に徹するかとかなんとか。
 兵器開発専門だもんで戦術とか知らんけどね、そういう話はよく聞くよ。
 ……魔法剣ねぇ。あんな骨董品のなにがいいやら。いや燃費効率は見るべきところはあるけどね。うん。
 刃そのものが熱を持つ、ってことは耐熱素材が要るわけで、そいつはお誂え向きにここに山程転がってやがるわけだね?」

ぶつぶつと組み込むべき魔法術式を試算して、より効率的な構成を模索する。
ひとまずの高熱を発する魔法術式を計算し終えると、それをパーツ数に合わせて分断して再計算。
加工術式で魔導機兵の残骸を曲げたり削ったりして、黙々と「作品」を組み上げていく。
結局の所は魔導杖の白兵バージョン、以前頼まれた魔導刃ほどの新概念兵器ではないのだから、そこまで時間はかからないだろう。

リル > 「はい。速さと一点を刺すだけで終わらせるような相手には、距離に頼るとすぐやられます。
うーん。開発者さんからすればやっぱり骨董品ですか……
僕からすれば、自分でできないことなんで欲しいですが、お値段凄いですしねえ。
ふむふむ? お姉さん先程から一体何を……?」

作業をしている少女を、後ろからそっと覗き込むように。
機兵の残骸で一体何を……。なにやら、楽しそうに見えるが。
どこか、積み木を組む子供のような無邪気さを感じる。

アデリーナ > 「古いものが一概に駄目とは言わんけどね。
 古いだけで有り難がるお貴族さんとか冒険者とかはよくわかんね」

苦笑しながら、筒状のパーツで棒状の魔導機械を覆う。
それを二本組み合わせて、「ふン゛っ!」と気合を入れて押し込む。
押し込む。
おしこむ……
おし…………おしこ…………ぬぐぐぐぐ。
顔を真赤にして棒を握りしめ呻く少女。
コミカルと見るか卑猥と見るかは相手次第――さておき。
ゴーレムを呼び寄せ、手伝わせた所で覗き込んでいた少年と目が合う。
にっとヘッタクソに微笑みかけてみる。

「まってろよー。いまお姉さんがいいモン作ってやるからな」

数日前の大怪我以来、なぜか年下の少年を放って置けなくなった気がする。
こういうの、本来は僕のキャラじゃないんだがね……と、完成。
魔力貯蔵機構はオミットして、耐久性と軽量さをなるべく両立させる。

「ででれでっでー。あー、えっと。○三型魔導短槍ー」

ノリで正規品のナンバーを振るダメダメ主任研究員。
その手の中には、言葉通り金属製の短槍があった。

リル > 「はい……なんかもう、古さに値段がついちゃうの困ります……」

冒険者というにはあまりにも庶民感覚というかリベラルと言うか。
実用品はどれだけ使えるかに値段がついてなんぼだと思う少年である。

なんだか物凄く顔を真赤にしてパーツとパーツをくっつけようとしているが
これはひょっとすると自分がやったほうが早いのではなかろうか。
この少女はすっごく不健康にみえるので、腕力なんていっても普通の女の子以下だろうから。

あ。目があった。
にへえ、とふにゃふにゃ笑顔を返す少年。

「おお……いいもの……この機兵から。 どんなのだろう……」

この少女、印象としてはキツいタイプに思える。
しかし、なんだか優しさを感じる。いや、常に優しいタイプではないだろうとも思う。
それでも、なぜだろうか。

「お、おおー? 魔力で動く槍……?」

少女がなんだかその場で名付けたそれを見る。
たしかに槍。少年が使っているサイズとほぼ変わらないタイプの。

アデリーナ > 「おいおいよせよかわいい顔しやがって。
 おねーさん困っちゃうぜ?」

ふにゃっとした笑顔の愛らしさに軽く手を振って応じる。
手の中の短槍を弄び、かっこよく高速回転させ――たつもりで、落としそうになってわたわたとキャッチ。

「そいじゃ、使い方について説明しよう。まず、こいつは通常タダの槍だ。
 むしろ中が一部空洞なぶん、普通の槍より脆い。そこんとこ意識するように」

こぉんと爪で弾くといい音を出す短槍。それをしっかりと右手で握りしめ、

「んで、魔力を流すとこうなる。魔力の流し方はわかる? 
 魔法になる前の純粋なエネルギーとしての魔力を掌から槍に移す感じな。
 まあ機兵の首引っこ抜いてんだ、何かしらの魔法の才能はゼロじゃないだろうから練習すりゃ大丈夫だろ。
 ――で、こうなるわけよ」

ぶぅん、と赤熱する穂先をそこらの土が剥き出しになっている地面に突き刺せば、ぶすぶすと焦げる音を上げて煙を立てる。

「この状態では間違っても穂先触んなよ、掌火傷してふっとい一本指になっちまうぜ。
 んで、一回魔力止めて――よっしゃ、ゴーレム一騎無駄遣いするがコアはこないだの残りがまだあるし、
 足りんかったら少年、材料くれな」

槍の作成を手伝わせたゴーレムと共に少年から離れる。
短槍の間合いよりやや広い距離を取ってゴーレムに向き合い、

「いいかい、石突をひねってロックを解除してから、魔力を流しながら――こう!」

ぶん、と素人丸出しのど下手クソな突き。
短槍はゴーレムに届かない――ハズだが、一瞬で倍の長さに伸びて柄に赤い魔法術式の刻印が浮かび上がる。
穂先がゴーレムの胸部にとす、と突き刺さり、

「こうなる」

じゅっ、と焼ける音。
許容量を超える熱量を注入されたゴーレムの上半身が爆発四散した。

「まーこっちは魔力消費激しいし、使ったらきちんと冷却しないと槍が爆発する。多分。
 だからアレだ、連戦には向かないホントの切り札だなあ。……じゃあ兵器失格じゃんよ!?」

リル > 「え。え。かわ、い……て、照れちゃいますよっ」

手を振られると、顔を真赤にして、両手を頬で覆うようにする。
かわいい。やっぱり言われ慣れない、けれど言われると嬉しい言葉……。
そして少女の槍というかバトンの扱いの慣れていない応援のような動きも可愛らしい。

「ふむふむ。これらからとった材料だから、強度は問題なくって軽さがあると……」

槍から響く音で、随分な量が空洞だと解る。

「はい。魔力を流すのはいつもやってることなので、それは大丈夫です。
えへへ、はずかしながら、あれもまあ、そういうことですね
…………へえ…………」

ただの試運転だろうに、これは。
土がこの秒単位の時間で焦げるほどの熱量。変換効率は抜群。
機兵の輪の転用かなにかだろうか。まじまじと、槍を見る。

「さすがにそれは。逆行レベルの治癒師につてはないので、気をつけます。
ふむふむ。 ん?材料……。フレッシュゴーレムになれーとかじゃないなら大丈夫ですけども」

少女の、いかにも見よう見まねな可愛らしい刺突の姿勢。
そして、伸びる槍の柄。刻印の光。そして、爆発。
炎や爆発に関連する変換をなされた魔力の一斉注入か。
頑健にみえるゴーレムが一瞬でただの石塊となる。
これは。 得意不得意がかわる。
知らず口元は笑み。

「――え。 爆発しちゃうんですか!? それはこまる……
でも、うん。一体でもそうやれば、知性のある生き物なら十分です。
岩トロールなら数も減る上に脅しになって、すごい効力です」

こくこくこくこく。と首を縦にすごくふりまくる。
伸縮する機構もすごいが、おそらくは熱系魔力注入による破砕にみえるあれは素晴らしい。
冒険者にとって、常套手段があって、とっておきがあればそれでいい。
兵器のような画一的で常時安定した性能をフルスペックで、なんてこっちはのぞめないのだ。

アデリーナ > 「あー……」

くっそかわいいなこの子。いつから僕ぁ子供趣味になったんだってばよ。
いかんいかん、正気にもどれアデリーナ・クルシンスカヤ。
僕は兵器技師で死の商人で、研究が出来ればそれでいいのだ。
なので、少年をつとめて直視しないようにする。

「経験者なら問題ないな。お、理解るかいこいつのスペック。
 火炎魔法みたいにわざわざ「燃焼」ってプロセスを通さないから魔力のロスが少ないのさ。
 だもんでこのサイズでこの程度の火力は出せる。もっとも、耐熱性に長けた魔導機兵の部品をそこそこ使うから
 おいそれ量産できるもんでもない。兵器として失格ポイント多いな!」

むむむ。個人にプレゼントするものとしてはそれなりの出来のつもりではあるが、技師として量産性に乏しいのは如何なものか。
まあいいや、と問題はひとまず棚上げ。

「ああ、あのゴーレムとは名ばかりの死体前衛芸術。
 ああいうの趣味じゃないよ。ゴーレムのコアにね、男の子の因果律と生命力が詰まったあれそれがちょうどいいのさ。
 それをちょっと分けてくれりゃいい。ま、今日はその必要はないがね」

ニヤニヤと意地悪く笑って、程よく冷めた槍をぽいと手渡す。
いい笑顔だ、気に入ってくれて何より。
顧客の満足と、「早く使っていろんな物を壊してみたい」って期待に満ちた顔は嫌いじゃない、むしろ好きだ。

「細やかな理論の解説は省くが、まあ精密機械だ。
 普通に槍として使ってすぐ壊れることはないと思うが、不調を感じたときや感じなくても最初のうちは月イチ、
 馴染んだら三ヶ月に一回くらいはメンテに持ってきたまえ。
 王都のクルシンスカヤ魔導技術研究局を尋ねれば大抵僕はいるからさ。
 それじゃ少年、僕はそろそろこの残りのパーツを持って帰るとするよ。
 調子に乗って遊びすぎて爆発すんなよな、また会おうぜ!」

ひらひらと手を振って、他のゴーレムに抱き上げられて遺跡を後にする。
その後ろを、魔導機兵の残骸を抱えたゴーレム隊が続いていく――

リル > 「…………?」

おや、なんだかお姉さんもちょっと照れている?
なんて感じながら、自身の顔まっかっかもちょっとずつ引いていく。

「ええ。十分すぎるほどに。これは……ちょっとびっくりです。
こんな事ができる人がいるなんて……ありあわせで、こんなに。
純粋な熱だからこそできる。周囲を燃やさないからこその。
あは。そりゃあ、これがいっぱい作れたら戦局もころっと変わりますよ」

研究者としての、いい出来と、悪い出来の両方を自己評価できるのは、すごく理性に満ちた人だと、そう感じた。

「あ。よかったです。ああいうのうわーってなっちゃうんで……
ふんふん。因果と、生命。……男の子の………………………………
……………~~~~~~~~~~~」

みるみる顔が真っ赤になって耳まで赤い。
意地悪い笑みが、なんだか艷やかにみえてしまう。
そして、槍を手渡されて……これを試す機会、きっと、来るのは悪いことだ。
しかし、試してみたい。自分の手にあるものの力と、それで出来ることを実感したい。
平和ではない考えだ。きっとあの子は好きではないだろう。しかし、男の子は、そういうところがあるんだ。

「ふんふん。やっぱり気を使うもの……って月1でいいんですね。
……え。クルシンスカヤ…………… えっ。 えーーーっ!
は、はいっ!え、えと!アデリーナ局長さんですよね!?
ま、またお会いしましょう! その、えっと、メンテナンスにもっていきますんで!!」

魔導に携わるものなら(3割位は)知っているんじゃないかなあという推測の
すごいけどあんまり有名ではないゴーレム研究の第一人者。
だからあんなすごい数のゴーレムを引き連れて。
きっと、スペックアップのためにここに。
……………あ。帰っちゃった。

「僕もしかしてこの国の国益にすっごいアレなことしちゃったんじゃないのーーーーーーー!!??」


――無名遺跡のなかに、少年の苦悩の叫びがこだまする。

ご案内:「◆無名遺跡(イベント開催中)」からアデリーナさんが去りました。
ご案内:「◆無名遺跡(イベント開催中)」からリルさんが去りました。