2017/05/27 のログ
■レオノーレ > 「…っつぅ……。」
まだ痛みに呻きながら立ち上がると捲れていたスカートがすとんと下り、
もとの長さに戻ることでパンツも隠れた。
足元の魔石たちが何かに共鳴して乱雑に光り、室内に充分な明かりを作った空間。
不安定な石の山をガチャガチャと踏む音立てながら下りてきた少女は
扉の向こうから現れた大柄の男の質問に、まだあどけなさのある眉を顰める。
―――記憶を辿ろうとしているのだが、それらは穴だらけのパズルだった。
「……んー…えっと、…道には迷ってない。
ちょっと頭とお尻は痛いけど。」
頭は永い間眠っていたせいだろうし、お尻は明らかに魔石の尖った部分がまともに刺さったせいだ。
あまりに相手が大柄なので見えにくい扉の向こうを覗くように背を伸ばす。
先ずはここがどこなのか知りたい。
■フォーク > 「そりゃよかった。頭とお尻が痛いのは俺がなんとかしてやるから、後で出口まで案内してくれ」
この男、どうやら遺跡の中で迷子になっていたらしい。
扉は完全には締めずに、男は照明不要の部屋へと足を踏み入れる。
(じゃあ、この娘は一体)
なんなのだろう、と男は考えた。
実は遺跡に住む怪物という可能性も捨ててはいない。カワイコちゃんにくらい化けるだろう。
男は少女と同じ目線になるように、腰をかがめる。
「俺はフォークってんだ。この遺跡の探検にきた冒険者だ。お嬢ちゃんのお名前は?」
にっこりと微笑んで名を訊こう。
■レオノーレ > 出口までとは無理難題な。
自分の出自すら覚束ない少女と迷子の大男という絶望的な組み合わせ。
しかしその絶望的な状況を考える余裕すら少女にはないのである。
まるで幼子を相手にするように目線が合えば、髪と同じ白い睫毛を揺らしてまばたく。
歳の頃十代半ばであり、世界にはその齢でも冒険者として生計を立てている者も
いるのだろうが、少し歳の離れた相手には幼く見えるようだ。
「れ…、…レオノーレ。」
久しぶりに自分の名前を口にした。
そんな感慨を密かに感じながら、人の良さそうな笑みを浮かべる男を窺う。
「フォークはここまで何しに来たの?
ここ……出るの大変そう…?」
迷子に対し、愚問かもしれない。
目覚めたばかりでいわゆる寝ぼけた状態なので声もどこか浮いている。
■フォーク > 「レオノーレかぁ、賢そうな名前だ」
いい名前だ、と男は頷く。
着ている服はあまり冒険者っぽくはないが、若者のファッションに疎い男は
(これが今の流行なのかもしれねえな)
と、自然に受け入れることにした。
すると少女が質問をしてきた。ここに居る理由を知りたいようだ。
「詳しく話すと長くなるから割愛するが、俺は一攫千金を求めてこの遺跡にやってきたのだ!」
あまりにも人間らしい理由だった。
少女の物言いから、実は少女も出口までの道筋はわからない様子だ。
でも男は失望しない。
「なんとかなるだろ。これまでなんとかなってきたんだから」
ふはは、と楽観的な笑い声を遺跡に響かせるのであった。
そして身につけている革鎧に手を突っ込むと、紙に包まれた食べかけのチョコレートを取り出した。
「食いなよ。腹が減ると不安になるもんだ」
元気は満腹から生まれるものだ、と男は笑った。
「それにしても……すごいね、コレ」
今更ながら、少女が腰掛けていた光る石に注目した。
■レオノーレ > 不安という自覚はなかったが、そう見えるのならそうなのかもしれない。
男が笑うので悲壮感はまるでなかったけれど、出る手段がないとなると
それなりに苦労してここにまだ滞在しなくてはならないわけで。
素直に頷き、お礼を言ってチョコレート受け取ると包み紙を開ける。
中から出てきたものに一瞬不思議そうな顔をするが、匂いを嗅ぐとそれを一口。
「あまーい…!美味しい!」
目をきらきらさせる。
正直なところ精霊という種族上、永く眠りについていても空腹感は感じていなかったが、
この幸せな味にありがたく戴くことにした。はむ、はむ、と大事そうに咀嚼しながら。
「一攫千金の足しになる?なるなら持っていけば良いよ。
たぶん呪われたやつとかもあると思うけど。」
旧いものなのでそういうこともままある。
呑気に言いながら、男の脇をすり抜けて扉に近づいた。
この部屋の方がよほど安全に見える、薄暗い道が続いている。
「…それ持ってく代わりに、フォークがここを出る時後ろついて行っても良い?
そうしたら何か…出れる気がする。」
また一口チョコを齧りながら振り返り、都合の良いことを言う。
魔石の数々は少女のものではないし、奪って逃げるだけの力も備えているだろうし。
■フォーク > 男の冒険者としての年数は大したことはない。
まだ経験不足なので、遺跡や洞窟に篭もれば大抵は苦労ばかりする。
なので一人で遺跡にいる人物に対しては困っている人と考えてしまうのだ。
男はチョコに喜ぶ少女を満足げに見やれば、光る石を一つ手に取る。
「光ってる。普通の石じゃねえんだろうな。魔法とかが関わってるんだろうが……俺、そういうのまったく駄目なの」
もしかしたらマジックアイテムの類ではないか、と男は考えた。男にしてみれば魔法は専門外だ。
一個だけ持ち帰り、街で鑑定してもらうことに決めた。
男は石を一つ、腰の革袋にしまいこんだ。
「俺についてくのは構わないけど、無事に出られるかどうかはわからんぜ?
ま、こっちはこっちでカワイコちゃんと一緒に行動できて嬉しいがね」
少女が同行することに異存はない。むしろ望む所だ。
「でもちょっと休憩してから移動しようぜ」
男は石の小山に腰掛けた。そして少女に手招きするのである。
■レオノーレ > 「魔法でも相当手練れた人じゃないと扱えないと思う。…たぶん。」
精霊であるがゆえ、そういうものには敏感なのでぽろりとこぼした言葉だったが
当の少女にも扱える気がしない。そういう者にとってはただの綺麗な石。
「フォークはね、悪運が強そうな気がするんだ。」
じー、と青い瞳が腰を落ち着ける男を見ながら言う。
目覚めたばかりなので様々な能力が鈍っているから、その言葉もやはり“たぶん”の範疇なのだが。
チョコを食べ終えると手招きする相手の傍に歩み寄る。
散乱している魔石が時折靴の下でじゃりっと擦れて何とも歩きにくい空間。
手を伸ばせば届く距離まで来ると、膝を抱えて座る。
「休憩も何も、私ここでずーっと眠ってたんだけどなぁ。
外の世界どうなってんだろー?ここ、どの辺なんだろー?」
遠回しに急かす、恩知らずな娘。
仲間ができるとあれだけ不穏に見えていた扉の向こうが興味の対象になってくる。
■フォーク > 少女の瞳に見据えられ、男は微かに頬を赤らめた。
照れてしまったのである。
「俺の本職は悪運が強くないとやっていけない仕事だからな」
男の本業は傭兵だ。
雇われモノなので死にやすい戦地に送られる。
しかしこの年令まで無事に生きてこれたのは、運があるからだろう。
「……面白いことを言うんだな」
外の世界を知らなくて、今までずっと眠っていた。
まるでこの部屋か石に延々と縛られていたような事を言う。
男は石の小山から腰を上げると、少女と一緒に部屋から出ようとする。
部屋から出れば、少女に向き直ろう。
「じゃあ、俺から離れずにしっかりとついてくるんだぞ」
男は通路の隅に落ちている小枝を拾う。
そして小枝を床に立てて、倒れた方向を指差した。
「あっちだ」
一般の冒険者が見たら目を剥くような事を真顔でやった。
■レオノーレ > 自分の言うことを信じていない口ぶりではあったが、
要望通りここを脱出させてくれるようなので気にならない。
眠っていたので愛着も何もないが、それなりに世話になった小部屋に
別れを告げて少女が歩くのは男の後ろ。
身長差だけでなく、筋肉量の違いで正面から見れば少女の姿は隠れているのだろう。
「了解!」
カルガモの親子よろしくぴったりくっつきながら返事をする少女が
虎の威を借りて勇ましく足を踏み出すが、見たものは本当に悪運だけでやってきた証だった。
でも、少女もそれなりにアホなので―――
「了解!
………あっ、でもそっち何かが三匹くらいいる!
この…どろどろした感じは…闇属性の何かかなぁ。」
勢い良く返事したけれど、精霊らしく空気や気配を感じることには長けているらしい。
苦手な真っ黒い気配にぶるっと身を震わせるが、相手が行くと言うなら拒むまい。
どちら方向に行こうと、少女はついて行くはずだ。
■フォーク > (こりゃ便利だ!)
少女の特殊なチカラに男は舌を巻いた。
遺跡内の得体の知れない怪物を事前に察知してくれるので、無駄に腹を減らす必要もなくなっている。
十字路や三叉路に出くわしたら、少女が指摘する方角を除外すればいいのだ。
もちろん、進路を選ぶ方法は小枝のお導きである。
「レオノーレの勘の良さと、俺の占いがあれば怖い迷宮なんてないな!」
男の小枝占いの信憑性はまったくないのは言うまでもない。
無事に遺跡の迷宮をさらにさらに奥深く、出口とは違う方向へと歩いていくのである。
「お、みろレオノーレ。今まで見たことのない虫がいるぞ!」
遺跡探検というよりも物見遊山のように、男は遺跡を楽しみだすのであった。
その際、ちょっぴり気安くなったのか少女の肩や腰に触れたりする。
女好きの悪い癖が出ていた。
■レオノーレ > 何かの探知機のように使われているのはさておき、その能力が
実を結んでいないのはまことに残念な結果である。
ずっと眠っていた身からしてみれば、こんな場所でも歩くだけで
気分転換になるのは事実だが、なかなか見えてこない出口に疲れてきた。
冒険者で逞しい相手とはそもそもの体力の差が違いすぎる。
「えっ?それさっき見たよ。フォークが小枝倒してる間に私見た。」
華奢な体型だから、相手が触れれば肩も腰も、その掌にすっぽり包まれるのだろうが
用心棒の熊のような存在にじゃれつかれたってそう気にしない。
ただ、はぁ~と大きく息を吐いて肩を落とした。
「も~疲れたよぉ…ここどんだけ広いの…。」
遠足の帰り道でダレる子供の如く、駄々をこね始める。
前屈みになれば足は自然と出る。そうやって歩くしかない状態だ。
■フォーク > 「え、そうかい!?」
虫の指摘をされ、男は驚きの声をあげた。
少女が疲れた様子を見せる。
自分のペースで動きすぎて、少女の脚の速度を考えていなかった。
男は小柄な少女をひょい、と抱え上げる。
「すまないな。冒険のツレができたことが嬉しくて、つい調子に乗り過ぎちまった」
すぐ悪乗りするのが男の悪癖だった。
男はぺたん、と胡座をかいて床に座れば、自分の膝に少女を座らせようとする。
「いやあ、あったかいやわらかい!」
少女の体温と感触を楽しもうとする。
人のぬくもりは、単独での遺跡探索では味わえないものだった。
「もしかしたら俺はすでにお宝を発見したのかもしれねぇ」
と、訳知り顔でつぶやくのであった。
■レオノーレ > まるでぬいぐるみか何かのように軽く自分を持ち上げ、
膝の上に座らせられると体格差から親子の寛ぐ様にも似ている。
「何でそんなに元気なの?私もフォークくらい大きくなったらそうなれる?
ぅー…疲れたぁ…。でも歩かなくちゃだよ。
もうこの薄暗い感じとか、そこかしこに何かの気配があるのとかたくさん!
早く外に出て思いっきり走りたぁい…。」
こちらは相手の硬い筋肉を楽しむ余裕なんてないのだ。
膝の上で縮こまって、浮かない表情でぶつぶつ、もう独り言の域。
何やらわけのわからないことを背後の男は言っているけれど、
ツッコむのは残り少ない元気を消費するのでやめておこう。
「っていうか、フォークおんぶしてくれた方が早くない!?
ん、でも急に何か出てきた時対処が遅くなるか。」
すごくだらけた提案したが、悩ましい。
■フォーク > 「俺くらい大きくなったレオノーレは……ちょっと見てみたいかもしれねえ。
けど、お前さんあの部屋でずっと寝ていたんだろ?
寝る子は育つっていうから、現状が一番でっかい状態なんじゃねえの?」
と、かなりテキトーなことを言う男である。
しかし遺跡の外への希望に満ちた少女が、ちょっぴり不憫に感じた。
おそらく少女は普通の人間ではない。
移動中、その正体について色々考えたがさっぱり思いつかなかった。
でも今は少女が何者でも良いと思っている。彼女は男の冒険仲間だ。相身互いだ。
それにここで逢ったのも何かの縁だ。なんとか少女の力になりたい。
「実は一つだけ、確実に出口を探す方法があるんだ。
でもあんまりおすすめできないんだよな」
あれはなー、ちょっとなー、などと腕を組んで考え出す男だった。
男にしてみれば非常手段らしい。
■レオノーレ > 「ええっ!?そうかな!?
たしかにお母さんの記憶もないし、確かめようないけど…。」
地味にショック受けた。
まだ記憶が混乱しており、生きる知識には問題ないが出自に関しては真っ白。
それでももう少し背丈が、とか、大人の女性っぽく、という憧れは憶えているらしい。
ただでさえ疲れてしゅんとしていた肩が余計落ちたことだろうと。
しかし何やら脱出方法を残している言葉に丸くなった背中がしゃきんと戻る。
振り返り、膝の上に座らせられているせいでやや近すぎる気がする男の顔を見上げ。
「出られるなら頑張ろうよ!
よーし!その方法でいこー!」
どの方法かは知らない。
途端に元気が出てきた少女はすくっと立ち上がり、拳を振り上げる。
■フォーク > (い、息が熱い!)
鼻先に少女の吐息が触れる。
その熱がちょっぴり男を興奮させるのであった。
「そう落ち込むなって。お前さんが今この大きさってことは
それが丁度いいってことなんだぜ」
少女がでかくならないのと同じ様に、男だって小さくはなれない。
そういう風に生まれたということは、何かしらの意味があると男は考える。
遺跡を出る秘策。
躊躇していたが、少女がいるので使用することになる。
男は懐からロウソクを一本取り出した。
「いいか、いくぞ」
ロウソクに火を着けた。
すると尋常ではない煙がロウソクから湧き出る。
煙は風に乗って動いていく。
「これ遺跡に迷った人がいざという時につかう煙ロウソクね。
ロウソクの煙が風の吹く方向……つまり出口を教えてくれるんだ」
ロウソクの煙が動く方向と逆に行けば良いのである。
「普通のロウソクよりも激しく煙が出るんで、獣避けにもなるんだが……
獣避けの薬も混ぜているらしく、恐ろしく煙たいんだよな!」
げほげほ。
咳き込みながら出口めざしてあるき出した。
■レオノーレ > 「すごぉい。………。」
最初からそれ出してよ。と思ったので褒める言葉は一単語にとどまった。
しかし冒険慣れした彼が出さなかったのには相当の理由があるのだろう。
実際に使用し始めて煙の流れる方向を見ながら歩く少女は―――
相手の背中に隠れて煙たさ八割減。
煙の臭いはするし、多少目や喉にクるものがあるが、そんなに大変ではない。
少なくとも自分の前で咳き込む相手に比べれば全然違う。
「けほ…―――…あっ?見て!フォーク!あっち明るい!」
外の世界の匂いは煙に流されてしまいわからなかったが、
月光か魔法による灯火か、出口と思しき明かりに少女の声が上がる。
遺跡を出たその時、彼の背後にいた少女が囁くように
『ありがとう、フォーク。』
と声を掛けると、その姿と気配は風に溶けるように消えることになる。
魔晶石から解放され、遺跡からも解放された精霊が自然と交わった瞬間。
残るのは遺跡の中で不安そうに彼の皮鎧の端を掴んでた少女の、微かに引っ張る感触だけ――。
ご案内:「無名遺跡」からレオノーレさんが去りました。
■フォーク > 煙の中、外の光が見えた。
「出口だ、レオノーレ!」
煙が薄くなり、太陽の光が男に降り注いだ。
「へへへ、どうだい。お日様の光は……」
背後の少女に振り向いた。
が、その姿はなかった。
男はその場に立っていた。
白昼夢だったのかもしれない。遺跡が魅せた幻だったのかもしれない。
だが、確実に少女は居た。
それから。
男は手に入れた光る石を鑑定には出さなかった。
出せば知らなくて良いことまで知ってしまいそうだったからだ。
その石は、いまでも男の家に置かれている。
ご案内:「無名遺跡」からフォークさんが去りました。