2016/07/01 のログ
ご案内:「無名遺跡」に九龍さんが現れました。
九龍 >  車椅子で遺跡に潜るなど命を捨てに行くようなものだからやめろと言われたが、なるほどなと納得する素振りを見せてから断っていた。
 案内人の不安そうな顔とは裏腹に挑戦的な笑みを口の端に乗せて。

 「吾を誰だと思っているのだ!」

 と意気揚々と宣言して。
 事実遺跡に沸いて出てくる有象無象は車椅子に近づくことさえ出来なかった。目を凝らさなければ見ることも叶わぬ鉄線が無防備な肉体を引き裂いていたからだ。
 けれど車椅子はどうしても原理上段差を苦手とする。彼女の乗る車椅子はおよそ車椅子らしからぬ機動性を発揮するが、大穴に転落して奈落の底に落ちては這い上がることは難しかった。
 奈落の底にてランプを灯し、車椅子の上で腕を組んで頭上を見上げる白髪姿。

 「うむむむ………ちと集中してみるか」

 目を閉じて念じる。するとふわりと車椅子が持ち上がり始めた。
 すぐに落ちる。車椅子の車輪を支えるスプリングが衝撃を殺す。念力で飛んで逃げようとしているのだが、集中できないのだ。穴の中というのに妙な気配ばかり感じるものだから。

九龍 >  「ぽつり?」

 集中しようとしていると、頬にかかる何かがあった。
 指で触ってみる。花の蜜のような甘い香りのそれ。粘ついており、生温かい。体液か何かのようであった。しかし穴の中で体液が滴るものだろうか?
 その疑問を晴らしたのは今しがた落ちてきた穴に無数に生える繊毛のような物体であった。それは誇らしげに蠢いて戦果を報告していた。獲物が一体かかったのだと。
 穴は穴でも何かの生物が大量に巣食う穴であることに気がついた白髪姿は落ち着き払っていた。

 「ならば出ればよいのだろう。
  吾の進行を止められると思うなよ」

 指を宙に躍らせて横に一陣の線を描き出す。金属が擦りあう音と共に旋風が巻き起こった。繊毛もとい触手の群れを悉く切り裂き、活路を開いていく。
 代償として返り血ならぬ返り体液を大量に浴びてしまったが。
 全身ずぶぬれのぬるぬる。顔を顰めつつ、衣装の裾をめくる。

 「高かったというに……」

 お気に召さない模様。浴びた体液の匂いを嗅ぎつつ顔を擦る。

九龍 >  何かが切れた。
 人や魔族などの知的生物ならまだしも、対象を食い殺すことしか脳の無い魔物相手に手加減は不要だった。
 穴から血と体液の交じり合った噴水が上がった。噴水の真っ只中を車椅子に傘を取り付けた白髪頭が悠々と飛翔しつつ現れる。
 もっとも飛翔と言うより何か糸につられたマリオネットのように、という飛び方であったが。
 全身ぬめぬめ。白い頭髪も含めぬめぬめであった。糸引く粘着質の液体をうんざりした顔で眺めつつしばし考え込み、結論を出す。

 「出直そうか。濡れ服ではなぁ」

 収集屋を自称する女は気まぐれであった。

ご案内:「無名遺跡」から九龍さんが去りました。