2015/11/17 のログ
アルバトロス > 女の視線が、納めたばかりの剣へと向かうのを察知する。そして、その口から出てきた言葉に男は無言で剣を抜いた。
何の迷いも無く、それを女へと突きつけて睨みつける。ここまでの度重なる戦闘で、既に満身創痍の男。
持参した道具も戦いの中で駄目になってしまった。あるのは、ズタボロな身体とこの剣だけ。
それでも女が敵になるなら、容赦無く斬りかかるつもりだった。

「………生憎だが、これが欲しいなら俺を殺して奪い取れ。」

この古代の遺物である剣を欲しがるのは分かる。
あのゴーレムを急所とは言え、一撃で沈めるだけの力があるのだから当然だろうと男は考える。
だが、続く女からの言葉を聞き、男の表情に疑問符が滲みでる。距離を詰めてくる女の意図が分からない男は
一先ず、剣の切っ先を地面に向けて問いかける。

「…何が目的だ。」

アルヴァニア > すらり、と引き抜かれた剣の切っ先を向けられれば分かりやすく不機嫌です、と言いたげに眉根を寄せて僅かに口先を尖らせて見せた。

「んもう。本当にそれが欲しかったら予告なんてしないで殺してるわよお。」

これは紛れもない本音。女に正々堂々、なんて言葉は楽しむ為だけのスパイスでしかない。本当に欲しければ、奪いやすい機に、問答無用で奪う。単純で分かりやすい手順だ。
それ故に、殺気なんてものは無ければ害意も、敵意もない。あるとすれば何処か楽しそうな雰囲気位だろうか。
向けられる剣先を気にせず、気にも留めず――途中で刺されでもしない限りは、手を伸ばせば青年に届く位置まで足を進めてしまうだろう。

アルバトロス > 「…道理ではあるが…言ってくれるな。」

事も無げに言ってのける女に男は警戒心を強める。
だが、騎士道精神などに則らない限りは殺せる時に殺すというのは有効な手だということも理解している。
そして、それが今可能と思われるくらいの状況なのだろうとも把握し、剣を納める。

「それでお前は、俺に何の用だ。」

剣ではないとするのであれば、女の目的は自分以外には考えられない。
敵意も殺意も感じさせる様子の無い女は、やがて男に触れられるくらいにまで距離を詰められるだろう。
僅かに見下ろすようになりながら、男はもう一度女へと尋ねた。

アルヴァニア > 青年の言葉に、にっこり、と音が付きそうな程の笑みを表情に象らせた。
相手の様子で余力の状況を推測した訳ではない。空間に残された石人形との戦闘の痕跡からも余力や戦術等はある程度読み取る事は可能だ。それが100%当たっているかは別だが。
ともあれ、剣を収めてくれれば十分。続けられた言葉の察しの良さに満足気に表情を綻ばせ、

「お人形に背中を向けて何をしてたの?」

幾らか下から見上げる形になっても青年の表情が良く見えない。片手を伸ばして前髪を撫で梳くように掻き上げながら問い返した。
先程、青年が女に告げた言葉は、嘘ではないのだろう。となれば、必死で気付かなかったのではなく、見ていなかった――ゴーレムに背を向けていたのだろうとの判断。命を投げ捨てるような行為に思える其れに。純粋な興味が沸いた。

アルバトロス > 「…この剣は、古代時代のものだ。」

女が男の前髪を指先で掻き上げていくと、其処には衣服から覗く腕や足と同じく傷だらけの顔と赤と黒の色違いの瞳が見えるだろう。
その二つの瞳が、真っ直ぐに満足そうな顔をしている女を見下ろしている。表情は所謂、仏頂面だ。愛想の欠片も無い。
男は女にされるまま、その問いかけに答え始める。

「以前に、此処で剣の部分を見つけた。俺はこれがどんなものだったかに興味を持った。だから、情報をかき集めた。その結果、これには核となる石があることが分かった。そして、それを探しに此処へやってきた。」

まるで箇条書きの文章を読むように女へと答えていく男。
やがて、男は石を守っていたゴーレムを対峙し、死ぬ寸前にまで追い込まれたことを告げる。

「どうせ死ぬなら、こいつが守っていた石がこれに嵌るかどうか、試して死にたかった。それだけだ、逃げ様もないくらいの有り様だったからな。…満足したか。」

はずれだったならば、そこで終わり。ただ無様にゴーレムに叩きつぶされるだけだった。
そこまで男は女に説明し終わると、満足したかと言った。

アルヴァニア > 無謀を為す男の顔が見たかった。
前髪を掬い上げて先ず視界に捉えたのは愛想の無い仏頂面。それから傷痕の残る皮膚、眼窟に嵌る異なる二つの瞳、と順繰りに眺め――否、金色の瞳が齎す力を発露させるべく、確りと見詰める。
そうしながら青年の紡ぐ言を聞き、反芻し、咀嚼し、理解していく。行動の根源にある物を調べるように、探るように。
軈て終わりを迎える説明に、女は納得したようにひとつ頷いた。

「―――…勿体ないわあ。」

勿体ない。そう、呟いた。
青年の言葉に対する返答ではない事は明らかだろう、それ。
前髪を掻き上げる指の背で相手の額を緩く撫で擦りながら、再び口を開き。

「ねえ、貴方。そこで終わるなんて勿体ないと思わない?――思うわよね。」

問いかける。――そして、言葉を復唱させるかのような、肯定させようとする調子で続けた。
暗示の、催眠の、経過の確認をするべく。

アルバトロス > 説明をする間に、女の金色の瞳の視線と男の視線が交差した。
訝しげに眉を顰めてたりはしたが、やはり女を諌めるようなことはせずにいた。
淡々とした口調での説明を終えると、一つ溜息のような息を吐きだして

「…なんだと?」

女の言葉に疑問を隠せない表情を浮かべる。
今までの説明の中で、勿体ないという感想を持つ点があっただろうかと男は思い返してみる。
それとも何か、女は命を無駄にするなと諭したいのだろうかと推察してみる。

…が、その思考が徐々に纏まらなくなり、おぼろげなものになっていく。

「…勿体無い?俺の命がか?………勿体ない、か。あぁ…勿体ないのか……そうなのかもしれないな。」

女の言葉がやけに意識の中に残る。否、こびりつくと言った方が正しいかもしれない。
徐々に男の瞼が落ちかけて、女の術中に嵌っていっていることを表していた。

アルヴァニア > 奪いたければ殺す、と憚りも無く宣っていた女に生命の尊さを説くような性質があるはずもない。
怪訝な表情を浮かべる青年に、失敗したか、と表情も変えずに内心で呟く矢先、意思の移ろう声が聞こえた。
伏しそうになる男の瞳が視界に入り込めば一段と笑みが深くなる。

「そうよお。勿体ないわ。だって一つしかないんだもの。」

今度は柔らかく、より内側へと染み込むように重ねる言葉。
額を撫でていた手指が頬へ移り、落ちそうになる瞼を撫で、意識を深くへと落とすように促す。

「一つじゃあ、勿体なくて使いきれないわよねえ。…もう一つあると、素敵よねぇ。―――ねえ、欲しいでしょう?」

誘う声は何処までも甘く、柔らかい。
青年が肯定を紡げば女はその首に食らいついてしまうのだろう。
ただ魔性へと堕とすのであれば血を吸って己の魔力だけを流し込めばそれで終わりだ。一度死んだ時。吸血鬼となって生き返る。
然し、女の為したい事は青年を眷属としてしまいたい、そんな欲求があった。血を吸って、青年の血脈を取り込んで。それを融かした魔力を青年に送り込む事で死して生き返った時に同じ血に抗い難くするそれ。
いつ解けるとも分からぬ催眠の最中、女は静かに青年の答えを待った。

アルバトロス > 先ほどまで、死ぬ寸前だったこともあり、あれだけはっきりとしていたはずの頭の中が、靄がかかったようになる。
何かを考えようとするも直ぐにそれが霧散して、考えようとしていたことも意識から無くなっていく。
その空いた意識の隙間を埋めるかのように、女の言葉が入り込んでくる。

「…そうだ、一つしかないから…」

自分の渇きを癒し、己を満たし切る事が出来ないのだ。
未知を知るために動く。それは後から追加された願望だ。男が最初から持っていた欲望は、三大欲求と戦闘欲と支配欲。
強者と戦い、死ぬかもしれないという極限の状況に身を追いやり、その上で捩じ伏せて愉悦を得る。
それこそが男が満たそうとして止まない願望だった。

命が、もう一つあるならば。

「あぁ…もう一つあったなら………俺は、俺を満たせるのだろうな。」

男は女からの問いかけを肯定した。
己を満たすために、命がもう一つ欲しいと、虚ろなままの瞳で女へと答える。
そうすれば、女のその後の行動も何の抵抗も無く受け入れてしまうはずで。

アルヴァニア > 繰り返される青年の言葉に喜悦が沸く。
青年の根底にあった物なのか、己の言葉に惑わされたのかは女には判断がつかない。
然し、そんな事は些事だ。

「そうよ。――大丈夫、貴方の願いは叶うわ。」

貴方が願った。そう言い含めて、青年の首筋へと顔を埋めた。
伸ばした犬歯がふづ、と皮膚を破って食い込み、青年の血を啜り上げ、飲み込み、自分の中へ。
飲み込んだ生命の端切れ己の力に混ぜて流し込み――

「―――ああ、人間じゃなかったのね。」

全てが終わった後、うっそりとした声音が呟きを落とした。
人間では無かったのか。それもまた愉しいのだろう。きっと。
彼の血に濡れた唇を舌で拭いながらゆっくりと離れ、

「また会いましょうね、」

きっとよ。笑う声で嘯いて女は来た時と同じように其処から離れ行く。
後に残された青年も間もなく催眠状態から解けるだろうが、其処には既に女の姿は無く――

アルバトロス > 最後にはっきりと感じたのは首筋に走る痛みと、甘い囁くような女の言葉。
女が去った後、伏せがちだった瞼が徐々に開いていく。靄がかかったような頭の中もはっきりとしてきた。
だが、先ほどまで目の前に居たはずの女の姿が見えない。

「………。」

何があったのかすらも覚えていない。だが、剣は残っているし目立った外傷も無い。
僅かに、身体に違和感がある気がするが疲れだろうと気にすることはなく。
やがて、男も遺跡から出るために歩きだすのだった。

ご案内:「無名遺跡」からアルヴァニアさんが去りました。
ご案内:「無名遺跡」からアルバトロスさんが去りました。