2018/12/21 のログ
■レイカ > 「…………私も、一時期それを考えていた。」
魔術を学び、結界を作る術を身に着ける。
確かに聞こえはいいだろう、おそらくできるようになれば。
だが……できない理由があるのだ。
「……このあたり一帯は、精霊術の力を使って居る。
彼らは、ミレー族の物であっても魔術を嫌う……、たとえ結界が晴れても、マナバランスが崩れたらどうしようもないだろうな。」
魔力を消費して、物事を操る魔術。
半面、精霊術は自然の力そのものを使う。
相性が悪すぎるのだ、相反する者同士がその一か所にいればマナバランスが崩れ、このあたりの精霊たちが死んでしまう。
そうなれば…この森もただでは済まないだろう。
「………ギルドのものを勝手に持ち出すとは、お前は相当上の立場の人間のようだな…。
ほら、着いたぞ……ここが私の里だ。」
規模にしてみれば、以前よりも広い。
町の3区画程度の大きさ、里というよりも集落に近い場所。
そこの中央に、ひときわ大きな樹木が聳え立っている。
この里のシンボル、そしてドリアードたちの力を使って、反則技で育てた巨木、ユグドラシル。
精霊の力をひときわ、強く感じられるだろう。
「この里の周辺で何かをするならば、監視をつけさせてもらう。
もし、少しでもおかしなマネをしてみろ……この人が黙ってはいない。」
私は、そういって首元の生物の鬣を撫でた。
今は小さく、ただうなっているだけの…見かけにしてみたら、鬣と髭がある蛇、というところか。
朱色の鱗をまとっているその生物は、警戒というよりも殺意をジーヴァに向けていた。
■ジーヴァ > 自然界におけるマナの均衡は極めて重要なものだ。
いかに優秀な魔術師とて、それを無視しては大規模な結界や魔術を行うことはできない。
精霊の力を借りる術法であれば、尚更だろう。
「精霊術か、そりゃ参ったな。
ギルドでも知ってるやつは少ねえぞ……本もあるかどうか分かんねえ」
大書庫から借りてきた本をローブの中にしまい、森を歩き続ける。
やがて辿り着いた場所は、予想以上に小さな集落だった。
ただその中央に鎮座する大樹は、精霊たちが取り巻いているのがはっきりと分かる。
ジーヴァでは焼くどころか焦がすことすらできない、守護を形にしたような巨木。
「別に、大書庫にあるもんは勝手に持ち出していいってだけだよ。
……きちんと返せばの話だけどな。返し忘れたらガーゴイルにしこたま殴られて代わりの本を探させられる」
住民たちも少なく、しかし妙に守りは厚い。
そこまでして守りたいものは何なのか、彼は気になって聞いてみた。
「その首に巻かれた物騒な生物といい、あんたといい。
秘宝とか秘術でもここにあるのか?それとも魔術師が嫌いなのか?」
竜にも蛇にも見えるが、その生物は殺意という一点において変わることはなかった。
何かジーヴァに思うところでもあるのか、それとも余所者がよほど嫌いなのか。
どちらにせよ転移紋ぐらいは設置させてもらおうと思っていたジーヴァは、考えを少し改める必要があった。
■レイカ > 「……………。」
精霊術。私が唯一、生みの親である母様から受け継いだもの。
耳につけている飾りが、精霊との会話を成立させ、力を使うことを許された証。
勿論そんなもの、しゃべるはずもないのだ。
彼にしてみたら、もしかしたら喉から手が出るほど欲しがるものかもしれないが。
「……………秘宝や秘術、そんなものがあったらどれだけよかったことか。」
彼の問いに、私は短く答えた。
護りをこれでもかというほどに厚くして、何を護るのか。
そんなもの決まっているだろうと、私は鼻で笑った。
木を切り出し、巨大な防壁を作り。
首に巻いている彼女…ドラゴンである彼女にまで協力を仰ぎ。
魔術師が嫌い、そんな枠で収まらないよと、私は答えた。
「…彼らや、私たちの平穏を守っている。
もう二度と…泥を啜る生活をしたくないだけだ。」
■ジーヴァ > 彼女の答えは単純明快なもので、余所者であるジーヴァにもその答えの重さはよく分かった。
王都やバフートで枷を嵌められて檻に入れられるよりは、
ここで静かに、変化なく暮らしていく方がよほどいいのだろう。
「……散々誘った後で今更だけどよ、ごめんな。
あんた達は本当に、ただ平和に暮らしたいだけなんだ。
そりゃ俺みたいな余所者、嫌うよな」
しかし、このままではいずれ気づかれることには違いない。
アルマゲストが見つけたのは偶然のようなものだが、いずれミレー族を探し求める奴隷商や貴族が
結界のないここを探り当てる時期はいずれ訪れるだろう。
「でもよ、このまま帰っておしまいってわけにはいかねえ。
ちゃんと次に来るときは、精霊に関する本を持ってきてやる!
……外の世界には、精霊学って学問がちゃんとあるんだぜ?」
そう言って里を離れ、森に戻ろうとしたところで。
ジーヴァはふと自分の身体を見て、そこから森を眺めた。
肉体強化の効果が肉体から消え失せ、樹木の生い茂る風景が彼の視界を覆い尽くす。
「……あー、帰りの道案内頼みたいんだけどよ……
もしかして有料?」
■レイカ > 「わかってくれたようで何よりだ。……それならば、ここの里のことは他言無用で願いたい。
……と、言ってもおそらく、もう無駄なんだろうな…。」
そう、おそらく気づかれている。
ここ最近、奴隷商人の襲撃が後を絶たない。
おそらく冬になり、本格的に冬ごもりを始めたミレー族を狙っているのだろう。
結界の隙間を縫うことくらい、奴らには造作もないことなのだろうし。
だが、かりそめでもせめて平穏でいたい。
私がこの、強力な防衛壁を作ったのも、そのためだ。
肩をすくめながら、帰るというジーヴぁに向き直る。
「………そうだな、そんな本があるなら…少し興味がある。
子供たちにも、精霊の話を聞かせてやりたいと思っていたところだ。」
だから、持ってきてくれるならば…それは受け取ろう。
その礼に、少しだけ精霊の魔力を見せてやってもいい…。
「………帰り道に案内は必要ない。
そのまま、まっすぐ進むといい……、ドリアードたちには話を付けている。」
そのまままっすぐ進めば…街道に出られるだろう。
この森はドリアードの力が働いている、入れば迷うが、出るときは迷わない。
■ジーヴァ > 「もちろん喋るつもりはないけどよ……連中はしつこいからな。
でも、よっぽど大規模な焼き討ちでもされない限りはこの森にいていいと思うぜ」
ミレー族というだけでその奴隷を欲しがる好事家もいるのだ。
森を焼く程度のこと、彼らには造作もないだろう。
例えそれが精霊の怒りを買うことであっても、彼らは護衛を雇うだけ。
「まっすぐね……まっすぐ。分かった。
もしかしたら俺たちの誰かが来るかもしれないが、その時はせめて殺意は抑えてほしい。
気の短い奴もいるし、いくら余所者とはいえあんまりな態度は逆に噂になるぜ。
どんなに口止めされても漏らす奴はいるし、記憶を消すぐらいはやらねえとな」
アルマゲストもメンバー以外の者がアジトに迷い込めば、
ガーゴイルたちが記憶を操作し送り返す手はずになっている。
最後にそれだけ言うと、ジーヴァは彼女に大きく手を振って森の中へと消えていった。
「……あの人の名前、聞き忘れた!」
後日、ギルドマスターへ報告する際に少しだけ困ったことになったのは、また別の話。
今のジーヴァは行きとは違った風景を眺めながら、隠れ住むミレー族について思いを馳せていた。
ご案内:「ミレーの隠れ里」からジーヴァさんが去りました。
■レイカ > 「………ふう。」
私は一息ついた。
首元に巻いているドラゴンが、少し不満げに顔をあげている。
ほんとうにかえしてよかったのかと言いたげに。
私は、苦笑しながらその鬣を撫でた。
「………話の分かる人なら、むやみに戦う必要はありません。
まあ、次に来たら……少しくらいは、警戒を解いてもいいかもしれませんね。」
ドリアードが、彼を町まで送って行ってくれるだろう。
後のことは、私は木にしないし気にすることもない…。
だが、魔力を欲してこの森に入るならば…まあ、少しくらいは協力してもいい。
ドリアードたちには、そう説明しておこう…。
「…………あ、あなたの鱗の鎧、とても具合がいいですよ。」
朱色の鎧の材料を提供してくれた彼女に。
そうお礼を言いながら、私も里へと引き換えした。
ご案内:「ミレーの隠れ里」からレイカさんが去りました。