2018/09/01 のログ
ご案内:「ミレーの隠れ里」にクレス・ローベルクさんが現れました。
ご案内:「ミレーの隠れ里」からクレス・ローベルクさんが去りました。
ご案内:「ミレーの隠れ里」にクレス・ローベルクさんが現れました。
■クレス・ローベルク > ミレー族の集落といっても、ピンからキリまである。
例えば、比較的新しい集落は壁もできておらず、集落だけで物資を集落だけで生産出来るほどの設備も無いため見つけやすい。
今回、クレスが受けた依頼は、そういった集落に襲撃を掛けて攻撃せよ、という物。山奥にあるその集落は、確かに未だ小さく、畑もまだそこまで大きい物ではなかった。男は村から少し離れた林に身を潜め、遠くから望遠鏡で村を監視する。
村は建物が五軒、そして見張り台が四方に立っている。
幸い、今は夜なので林に身を潜めて居れば見つかる危険は無いが、此処から出れば見つかって矢を射掛けられるだろう。
しかし、今は未だ準備の段階だ。クレスは前もって支給された地図を見ながら、敵の戦力分析を始める。
「恐らく、キャパオーバーした他の集落から何人か出されたって所かな……」
木製とは言え建物はそれなりに立派であることから、口減らしの為に追い出された者達の集落というわけではないだろう。きちんと集落を形成できて、運用できるだけの人材を纏めて外に出したと考えるのが妥当だ。とすると、恐らく、十名程度の若者と、四十ぐらいの知恵者で村は回っているはずだ。
ミレー族の身体能力でマンパワー不足を解決し、それを知恵のある年長者が纏めるというのが、理想的かつ典型的な集落形成の初期構想だ。
「こちらの戦力は別行動の傭兵四人と、奴隷が二人……と」
傭兵達と奴隷は自分とは別の場所で、こちらの合図を待っている。
合図とともに火と共に四方から強襲する手筈だ。
「さて、襲撃まで後三十分って所か。それまで邪魔が入らなければいいけど」
■クレス・ローベルク > 「……時間だ」
そう言うと、クレスは持ってきた黒い外套を頭から被る。夜の闇と同化して、敵の矢を当たりにくくするための小細工だ。尤も、
「まあ、要らないとは思うけどね」
そう言うと、クレスは持ってきていた火薬玉の導火線に火を付け、集落付近に思いっきり投げた。投げた火薬玉は地面に着弾すると、大きな音を立てて破裂した。
「今だ」
それとほぼ同時か、それよりも早く、クレスは集落に向かって走り出した。他の連中も同じ事をしている筈だ。勿論、幾ら保護色で自らを隠しても、見つかるときは見つかる、が。
今回に限って、その心配は全くの皆無だった。
村の建物の内、一つが突然に燃え始めたのだ。
不自然なほどに回りの早いその火は、あっと言う間に一番大きな――つまり、村のリーダーの物であろう建物を焼き尽くした。
「よっし!今だ――!」
他の建物も、まるでそれを待っていたかのように燃え始め、今や集落は火でできた巨大アートの展覧会の如き様相を呈している。そこに向かって、クレスは猛然と走っていく。
■クレス・ローベルク > 集落に辿り着くと、その入口で震えているミレー族の少年を見つけた。青毛のその少年は包帯だらけで、クレスは包帯には見覚えはなかったが、その顔に見覚えがあった。
「やあ、バーン。良くやってくれたよ。君のお蔭で、大分攻略が楽だった。他の傭兵ももうじき到着する。君は一足先に戻ってるといい」
少年は何かを言いたそうに口を開いたが、しかし直ぐに閉じ、何も言わずにクレスの横を走り通り過ぎた。
「うんうん。良い子だ」
そう言うと、クレスは集落の中心の、広場らしき所まで歩いていく。そこには、ミレー族の若者が十人、何が起こったか解らないという顔で呆然としていた。
「やあやあ、ミレー族の皆さん。こんばんは。今日は夜なのに明るいですね――なんてね。言うまでもないと思うけど、奴隷狩りだ。できれば抵抗せずに捕まってくれると嬉しいんだけどね」
■クレス・ローベルク > そう言った瞬間、赤毛の良く似た男女――歳にして十五ぐらいの少年少女が、何も言わずにクレスの前に飛び出してきた。短剣を手にした彼等は目配せ一つで二つに別れ、女の方がクレスの背後に回り込む動きを取り、もう一人がそのまま突貫してきた。
「成程。良い判断だ。一人が相手にしている間にもう一人が背後を取る。中々の判断だね」
少年の動きはミレー族だけあって素早い。風のような速度で短剣を突き出してくる。並の戦士であれば、翻弄されまともに食らってしまうだろう。
だが、クレスはそれを上手くいなし、時に蹴りを繰り出して反撃してみせる。尤も、あちらからすればそれも先刻承知の事、あっさり回避してみせる。しかし――
何故だか攻めている筈の少年の顔は、とても苦いもので満ちていた。
『この外道野郎……どんな魔法を使ったかは知らないが、火炎の魔法をラッドさんの家にぶちこみやがって!』
「おいおい、それは誤解というものだよ。僕は別に魔法なんて使ってないさ。使ったのは魔法じゃなくて奴隷さ。君達はその事にとっくに気付いていると思ったんだけどね?」
『テメェ……!』
若者が大多数の社会には、たった一つだけ弱点が存在する。
つまり、血気盛んな若者だけで構成されている以上、集落の意思決定が感情によって流されやすいという物だ。
勿論、それを諌める為の年長者ではあるのだが、それにも限度が存在する。
――例えば。ボロボロの状態で逃げ出した逃亡奴隷が村の傍で倒れていて、それを追い出すなんて事は、幾ら年長者であろうと、他のメンバーの精神衛生上できない、とか。
「そう、あのバーンって言う子は王都に恋人を残していてね。彼女のためならどんな事でもしてくれるんだよ。例えば夜中眠い目をこすりながら、村の建物に火をつける、とかね」
■クレス・ローベルク > 『ぶっ殺す……てめえだけは、絶対にぶっ殺す……!』
「おお、怖い怖い」
そう言いながらも、クレスは攻撃を回避し続ける。それも、攻撃と牽制によって、こちらの背後に回り込もうとする少女に、背中を見せないようにしながら、だ。
「君たちがそうやって怒っているのは、正にそれだろう?君たちが庇ったあの子のせいで、リーダー……ラッドさんって言うんだっけ?が死んだ。その事実を認めたくないから、直視したくないから、こうやって僕を攻撃して憂さを晴らしてるんだ」
『黙れ……!』
長々と口上をたれつつも、クレスの回避に淀みはない。
寧ろ、少年の動きのほうが雑になっており、今やクレスは敵の攻撃を捌くのに右手一本しか使っていないような有様だ。
周囲の若者たちも薄々気付いているだろう。このままでは、この少年は負ける、と。
だがしかし。勝利の女神は、少年を見捨てては居なかった。
「うぉっと!?」
もともと、クレスが整地された闘技場での戦いに慣れていたというのもあるだろう。クレスの足が泥を踏み、滑った。そして、それに引きずられる形で、クレスの体制が崩れたのだ。
『油断したな、死ねェッ!』
少年はそこを逃すこと無く、ナイフを心臓に突き立てんと一気に踏み込む。
■クレス・ローベルク > 「油断したね、確かに……」
泥によって崩れた体制のまま、クレスは少年の腕を掴んだ。
「君達が」
それは、踊るような動きだった。
自分の体をくるりと回し、その動きに巻き込まれる様に、少年はクレスの背後に回り込んだ。
言い方を変えるなら――丁度、少女が短剣を突き刺そうとしているクレスの背後に回り込んだのだ。
ずぶり、という肉が刃に掻き分けられる音。それは、本来クレスの背中が立てるべき音だったが――現実は。
『あ、ああ……?』
どさり、と倒れ込んだ少年の身体を、信じられない物を見るような顔で少女が見ていた。しかし、それに構わず、クレスは背中からナイフが生えた少年を見やる。
「ふむ、本来は僕の腎臓あたりを突き刺すつもりだった様だけど、体格差の関係でそれから大分ずれた様だ。右を狙っていたのが幸いしたね。もし君が刺したのが左だったら死んでたかもしれない」
「今なら助かるよ。ちゃんと治療を受けたら、だけど」
敢えて、お前が刺したのだ、というのを強調して言う。
そうする事で少しでも罪悪感を感じさせ、そして同時に、もはやこの少年を救えるのは自分たちだということも織り交ぜる。
そうすれば、彼女の行動は、ただ一つに絞られるからだ。
『……』
少女は、取り落とすように、ナイフを捨てた。
これで、全てが決着したのだ。
■クレス・ローベルク > 結果として、その後到着した傭兵達によって、若者達は全員闘技場の地下に送られる運びとなった。戦闘力があったのがあの二人だけであったので、他は然程苦労せずに運ぶことができた。
恐らく、あの二人は剣闘士になるのだろう。ならざるを得ないだろう。生きるために、そして自分たちの仲間を解放する為の金を稼ぐために。
ある意味では、自分達の敵を、或いは仲間を増やしたとも言えるクレスだが、それについての感想は、森に出る際のただ一言。
「男の子は方はともかく、女の子の方は可愛かったなあ。戦いたいなあ。無口でシャイな子っぽいし、大観衆の前で快楽堕ちとか絶対に合うと思うんだよなあ」
それのみだったと言う。
ご案内:「ミレーの隠れ里」からクレス・ローベルクさんが去りました。