2018/05/14 のログ
ご案内:「ミレーの隠れ里」にオーギュストさんが現れました。
■オーギュスト > 王都から数日をかけ、ようやく到着した地。
深い森のさらに奥、部隊内のミレーから噂を聞き、ようやく見つけたその地。
ミレー族が隠れ住む集落。
「ったく、ようやく見つけたぜ……」
いつもの軍服に旅装を加えた姿で、オーギュストは呟く。
まったく、巧妙に隠したもんだ。
そうでなければ生きてはいけないと知っていても、オーギュストは感心する。
■オーギュスト > そして無造作に集落内部に入った瞬間。
彼の足元に数本の矢が刺さる。
「……手洗い歓迎だなぁ、オイ」
苦笑しながらその場でミレーたちを待つ。
敵意が無いよう、大剣は横の地面に突き刺し、腕を組んで。
もっとも、相手からすれば偉そうにふんぞり返っているようにしか見えないかもしれないが。
「敵意は無い。この村の代表者に会いに来た」
■オーギュスト > 村の若者達がひそひそとこちらを見て何かを話している。
どうやら、人間の、それも軍人を入れる事に抵抗があるらしい。
「――王国第七師団長、オーギュスト・ゴダンだ。うちのミレーの連中に話を聞いてやって来た。村の代表と話がしたい」
若者たちがさらに集まり、何かを話はじめる。
どうやら深刻な顔で、こちらを集落に入れるかどうかを話しているらしい。
面倒な事だ。誰か手っ取り早く案内してくれないものか。
ご案内:「ミレーの隠れ里」にレイカさんが現れました。
■レイカ > 「……何事ですか。」
今日は、里の奥のほうで瞑想をする日だった。
その時期に、村の集落で防備を任せていた若い人から、私に話が舞い込んできた。
王国の軍人が、里に来たと。
ついにこの日が来たか、と私は最初に思った。
ここのところの来客、そして奴隷商人の襲撃。
それらを考えても、この里の位置が王国軍に知れることは時間の問題だっただろう。
ただ、その人が言うのは敵意はない、とのことだった。
話をしたいだけかもしれないし、私にどうしたらいいかと聞いてきた。
普段ならば即座に追い返すところだが…。
「わかりました、すぐに戻ります。
ただし、決して里に入れないでください。」
話を聞いておいてもいいだろう。私も、あの町の動きは気になっているところだ。
瞑想を中断し、私は急いで里へと戻った。
オーギュストには、若い人からしばし里の外で待つように伝えてもらおう。
この里は、結界を張ることができないミレー族の集落。
その代わり、そう簡単には破壊できない防壁で守られている場所だ。
■オーギュスト > 「外で待てだぁ? ったく、敵意は無いっつってるのに……」
ぶつぶつ言いながらも従う。
仕方が無い、相手は隠れ里のミレー達だ。いきなり信用しろと言っても仕方ない。
――いくつか贈り物を持ってきたが、いきなり出してもそれはそれで警戒されるだろう。
「へいへい、とっととしてくれよ」
不遜に言いながらも、オーギュストは相手の要望に従う。
しかし何も無い所だ。酒でも持ってくれば良かったか
■レイカ > 「…お待たせしました。それで、相手は?」
戻るのにそこまで時間はかからない。
里から近いところに、私だけの秘密の瞑想の場所がある。
そこから戻ってきた私は、手早くブレストプレートと弓矢、そして朱色の笛を持った。
相手は王国軍、どこの軍人かは知らないが決して警戒は解けない。
王国軍とやりあうつもりはない。
だけど、この里のことが知られてしまった以上何かしらの対策は練らなければならない。
何しろ、私は王国軍を全く信用していないのだから。
「……待たせたな……。
この里の長を任されているものだ。」
そして、敵である王国軍には殺意だけで十分。
私は眼を鋭くし、殺意をあらわにしてその者と対峙した。
■オーギュスト > 「おう、お前……か……」
そちらを振り向いた瞬間、呆気にとられる。
てっきりよぼよぼの老ミレーが出てくると思ったら、なんと女だ。それも、かなり良い女だ。
何でこんな場所にエルフが……とも思ったが、まぁいい。
この集落の守護者、なのかもしれない
「――王国軍第七師団長、オーギュスト・ゴダンだ。ちと聞きたい事があってここまで来た」
敵意が無いこと、話を聞きたいだけという事、そして自分ひとりだという事を相手に告げる。
なんなら荷物を調べてもらっても構わないとも言う。
荷物の中身は旅の為の食料(丁度いいから、新開発した「缶詰」を持ってきた)、道具、それにミレーに対価として用意した宝石だ。あとは大剣と、護身用の銃。
それらを差し出しながら、敵意が無い事を示そうと
■レイカ > 「……ミレー族じゃなくて不服、とでも言いたげだな。
それとも、まさかこんな小娘が出てくるとは思いもしていなかったか?」
皮肉を交えて、私は彼を「視」据えた。
もっとも、王国軍を名乗っているのに人間ではなかったら、とんだお笑い草だ。
視るまでもなかったけれども、念のために。
王国軍第七師団の名前は、私もよく知っている。
王国で隠れ住んでいた時や、少し前までよく聞いた名前だ。
魔族専門の討伐部隊だったはずだが、なぜこんなところにという疑問は尽きない。
「……聞きたいこととは何だ?
言っておくが、ここは住処を追われたミレー族の里だ。
王都の人間が知りたいことを教えられるかどうかは、保証しかねる。」
どうしても、こういう時の私は口調が厳しくなる。
敵かどうかはさておき、王都の人間である彼とはどうしても、初対面の印象は最悪だ。
敵意がないということを示す荷物の中身、そして人数が一人だということ。
私はむしろ、後者を信じられず木の精霊たちに声をかけた。
彼には、何を言っているのかはわからないはずだ‥。
■オーギュスト > とりあえず一人である事に間違いはない。
事が事であまりにも危険である為、同行者は連れてこなかった。
まぁ、オーギュスト自身が手練れであるので問題は無い。
「ミレーの知恵を借りたい。かつてこの地にいた神についてを聞きに来た」
かつてこの地にいた神。ヤルダバオートによって邪神として、その名を抹消された存在。
オーギュストは、それが対魔族の切り札になるのではないかと考えていた。
「それと、ミレーじゃないとか小娘だとかで驚いたわけじゃないぞ。予想もしない所からいい女が出てきたから驚いただけだ」
■レイカ > 「……かつて……?」
…初耳…というほどでもない。
確か、私がまだ子供だった頃にちらっとだけ聞いたことがある。
親しくしてくれていたお兄さんから、かつてこの国には、別に神がいたとか。
ただのおとぎ話でしかないと思っていたが、なぜそんなことを聞いてくるのだろうか。
あいにく、私はエルフではあるがまだ若輩者だ。
そこまで年を取っているわけじゃないし、知識も残念ながらほかのエルフとは比べ物にならないほど疎い。
だけど…、私には心強い味方がいた。
そっと、そばにいた風の精霊がつぶやいた。
この土地に古くから憑いている精霊たちは、そのことを知っていた。
「………それはどうも。
第七師団の師団長は女好きという噂があったが本当らしいな…?」
■オーギュスト > 「あぁ、そうだ。かつてこの地で崇められ――この地を魔族から守っていたととされる神、だ」
魔族が侵入したのは、かつての神が追い出されてから。
ヤルダバオートが支配してから、この地に魔族があらわれはじめた。
なら簡単だ、ヤルダバオートなんて神は、クソの役にも立たない駄神、という事ではないか。
オーギュストに敬虔などという言葉は似合わない。役に立たない神よりも役に立つ神を崇めるのは当然の事だ。
「あぁ、その神は二百年前、教会によりその名を抹消された――その名前を継ぐのは、ミレーのみ、って聞いてな」
正確には予想だ。
ミレーの伝統、教会より迫害されるに至った理由。
それを合わせて考え、導いた結論だ。
「あぁ、酒も女も好きだぞ。ついでに魔族を殺すのも最高だな」
■レイカ > 「………。」
小さき神々、などと呼ばれている精霊とは会話をしたことはない。
私が味方につけているのは、あくまで自然の中にいる精霊たちだ。
だが、その精霊たちですらその名前を知っていた。
アイオーンという神の名前。
200年以上前、この国にいたとされている神様の名前だ。
そのころには、ミレー族もこんな待遇は受けていなかったらしい。
本当かどうかは…正直わからないが。
「……この国では、その名前を言うことは禁止されているからな。
教会により抹消された神の名前を知って何をするつもりだ?
まさか、さんざん奴隷扱いしたミレー族を対魔族の切り札に、なんて考えてはいないだろうな?」
私は、知っている風な口を開いた。
本当のところを言えば、精霊たちにそのことを聞いただけで本当なのかどうかは、おとぎ話程度にしか知らない。
いつか、現れるであろう救世主によって、ヤルダバオートを打ち滅ぼすという伝承をいまだに信じているミレー族も多い。
私が裏切ってしまった里の皆も、そのことを口々に言っていた。
「…悪いが、私はそう安い女じゃない。抱くというならほかをあたってくれ。」
■オーギュスト > 「誰が抱くか。んな年中発情してるほど若くも暇でもねぇよ」
髪をぼりぼりとかきながら言う。
まぁ、そういう時期もあったが。つい最近まで。思い出したくもない記憶だ。
「あぁ、ご丁寧に教会の連中、徹底的にかつての神の名前を消していってくれたからな――で、まぁ、お前らミレーが俺ら人間の事を良く思ってないのも、散々奴隷扱いして恨んでるのも知ってるよ」
だがな、とオーギュストは続ける。
「知っている上で言う。協力してくれ。
ミレー族に前線に立てとは言わん。かつての神の名前と、その聖句、刻印なんかを教えて欲しい」
かつての神の聖なる加護。
もし、それを手に入れられれば、確実に魔族への切り札となる。
ミレーたちにとっては都合の良い話だろうが、オーギュストは諦めるつもりはない。
「もちろん、タダでとは言わん。俺の支払える対価を払う」
■レイカ > 「…それは何より。」
まあ、少しだけ皮肉を込めていたけれども。
あいにくと私も抱いてほしいと思うような、ウサギみたいな体質はしてない。
「………そんなものは、ない。」
そう、ない。
ミレー族である、奴隷であるという理由で悉くそれらは失われてしまった。
貴族たちの手によって、破られ焼かれ、彼らの誇りもろとも消し去られてしまった。
「貴族たちの道楽で数多くのミレー族が虐げられ、その誇りや文化が失われてしまったこと。
王国騎士団の団長であるお前なら、わからなくはないはずだ。」
私も知っている、彼らがどんな扱いを受けてきたのか。
だからこそ、私はすべてを捨ててここにいるのだから。
だが、彼の気持ちもわからなくはない。
おそらく彼は、王都の中に残っている数少ないまともな人間なのだろう。
「……だが、心当たりはある。」
■オーギュスト > 「――そうか」
ミレー族への迫害、特に教会による執拗な過去の破却。
それが意味するのはすなわち、ミレーの伝統の破壊だ。
辺境には残っているかと思ったが、甘かったらしい。
「あぁ、骨の髄まで染みてるよ。あのクソ貴族と腐れ王族どものせいで、どれ程の不幸が生まれてるか。
可能ならまとめて叩き斬って王城の壁に吊るしてやりたいくらいだ」
魔族を根絶やしにし、王国をたいらげる事が出来たなら。
その時はやる。問答無用でやる。オーギュストはそう心に決めていた。
何人かはミレーに「玩具」としてくれてやるのも面白いかもしれない。
「――あるのか!?」
■レイカ > 「それに、さっきも言ったがここの里にいるミレー族は、皆もともと奴隷や望まない性奴隷として王都にいたミレー族だ。
仮にあったとしても、きっとその使い方すらまともに覚えていなかった。」
王都の廃墟地区で、泥を啜って生きてきた人たちだ。
貴族につながりが強い王国軍の人間というだけで、きっと体調を崩すものもいただろう。
何より、彼に最初矢を射かけた人もいたとか。
それだけかられの恨みつらみは深い。
「…驚いたよ、まさか王都にまだオーギュストみたいな人間がいたなんてな…。
その時はぜひ協力させてくれ、私の名前はレイカ。
かつては、ミレー族と人間が手を取り合える世界を目指していた、愚か者だ。」
いや、偽善者といったほうがいいかもしれない。
保身のために、ミレー族を売ってしまった私がミレー族を守っている。
…きっと、とても滑稽に移るだろう。
「ああ、ある。
話に聞いただけだが…シェンヤンのミレー族は、いまだに神格化されていて、決して手を出してはいけないという決まりがあるらしい。
そこに行けば、もしかしたらかつて失われた、アイオーンの加護について知っているものがいるかもしれない。」
だが、彼も知っての通りシェンヤンは大国だ。
おまけに、このマグメールとはあまり友好的とは言えない関係。
■オーギュスト > 「――帝国か!」
なるほど、王国の外か。
確かに、王国外のミレーならば、まだその名前が残っているかもしれない。
――長い旅になりそうだ。
「――さてな。俺だって、ミレーに対しそんなご大層な事が出来てるわけじゃない。
だがな」
ひと言区切ってオーギュストは続ける。
「種族や持って生まれた力でその価値が決まるってんなら、俺達人間は全員魔族の奴隷で終わりだ。
俺はそんな事は断じて許さん。命は、それをどう使ったかで評価されるべきだ」
その為に彼は退魔の師団を作りあげ、魔族を根絶やしにすべく活動している。
人間だろうがミレーだろうが、力ある者、生きる意思を示した者こそが支配者であるべきなのだ。
「世話になった。少ないが礼だ、里の為にでも使ってくれ」
オーギュストは持ってきた宝石の入った袋を目の前の女へと投げる。
「レイカ。その夢はいつか叶う。
俺はこの目で見た。人間も、獣人も、それ以外の全ても平等に、平和に生きる世界。この世界ではない場所に、それは確かに存在した」
オーギュストは踵を返す。
さて、次は帝国か。しばらく団をサロメに預けなくてはならない。
「もし、本気でその夢をもう一度見る気になったら。
王都の俺をたずねてきな」
■レイカ > 「あ……待ってくれ!」
私は彼を呼び止めた。
これだけは、絶対に言っておかなければならないことがある。
「…オーギュスト、君なら信頼できるからこそ言わせてくれ。
この里のことは…絶対に他言無用で頼む。」
言わなくてもわかってくれるとは思うが…念のために。
この里のこと、知られるのは時間の問題だということはわかっている。
だけれども、できる限りのことはしたい。
ミレー族が隠れ住んでいる里の中で、この場所だけが唯一、結界を張れない。
彼の目の前にあった、防壁は彼らを守るための砦なのだから。
「……残念だけれども、私はもうその夢はあきらめたんだ。
だから…君に託すよ、オーギュスト。」
いつか、本当に彼の言う世界になるのだろうか…。
その時には、この里の皆もこんな狭い場所じゃなくて、大手を振って世界を歩けるのだろうか…。
そんな世界が実現したら、どんなにすばらしいだろうか。
その夢を追いかけるには、もう私は力をなくしてしまった。
だから、すべてオーギュストに託そうと思う。
「…あまり王都には近づきたくないから、遠慮するよ。
それじゃあ…吉報を祈っているよ。」
■オーギュスト > 「もちろんだ。ここの事は誰にも言わん」
わざわざ追跡を警戒する事までしたのだ。
彼らの不利益になるような情報は断じて漏らさない。
「――そうか。じゃあ、今度は、平和で平等な外の世界で会おうぜ」
夢を追うのも、追わないのも自由だ。
彼女がこの小さな世界を守りぬく事を選ぶなら、それもいい。
代わりに自分が、その世界を無理矢理広げ、こじ開ければいいのだから。
立ち去りながらオーギュストは振り返らず手を振る。
次の目的地――帝国へのたびの計画を立てながら。
ご案内:「ミレーの隠れ里」からオーギュストさんが去りました。
■レイカ > 「…………。」
立ち去るオーギュストの背中を見ながら、私はうつむいた。
かつての私、レイカリオにもあんな強さがあれば違った未来になったのだろうか。
私の周りだけでも、私が理想とした世界。
ミレーも人間も関係なく手を取り合える世界があったのだろうか。
「…考えても仕方がないか……。」
そう、考えても仕方がないことだ。
あの時の私と、今の私は違うし…何より私の背中には守らなければならない命がある。
だけど、少し…そう、ほんの少しだけ期待している私がいる。
彼の言う平等で、平和な世界が実現したとしたら…。
この塀の中にいる、皆が笑って、もっともっと広い世界で過ごせる未来があるのなら…。
「……貴方に賭けます、オーギュストさん……。」
私も振り返り、里へと戻る。
心配している皆に、大丈夫と声をかけながら。
ご案内:「ミレーの隠れ里」からレイカさんが去りました。