2018/03/02 のログ
レナーテ > 自分とは真逆の位置にいる彼の考えが読めず、習ったとおりに真面目な答えで切り替えしていくと、揺さぶるかのように視線を重ねられていく。
彼の呼吸が肌に感じそうなほど近くなるも、それでも唇を閉ざし続けていた。
観念したように肩をすくめる彼が離れても、壁の傍に立ったまま、迷い猫のように不安な表情で彼を見つめる。

「――……、それならそうだって……言ってください。凄く、不安だったんですからね? チェシャさんが奴隷商と関わりがある人なのかもって……嫌でも疑わなきゃいけなかったんですからね…っ……」

彼の言葉に徐々に不安は解けていくが、表情は少し凍りついた。
そして、言葉を吐き出すと同時に金色の瞳に薄っすらと涙を浮かべながら、絞り出すように掠れた声で紡ぐ。
幾ら殺しを覚えても、心はまだ年相応な未発達な頃合いであり、親しい人を手にかけるなんて想像もしたくない。
その緊張が解けていくと、彼の過ぎた冗談に薄っすらと憤りを込めて吐き出すが、徐々に声は涙に潰れていった。
うつむけば、前髪に隠れた目元から、頬へ雫が伝い落ちるほど。

「……覚悟なんて、誰にもあるわけじゃないです。私、だって……傷つけられたから…ここにいます。他の皆は…故郷が無くなちゃった娘も、家族が皆死んじゃった娘だっています」

彼の紡ぐ言葉は、現実を突きつける刃のように鋭い。
未だ心が悪戯にざわつく中、記憶を呼び戻しながら語り、きゅっとスカートの裾を握り込む。
1/4に流れる血のせいで、耳と尻尾を宿し、ミレー族だと捕まり、地下に閉じ込められた記憶が蘇る。
ただ性処理道具として犯され続け、奪われ続ける日々。
それを抜け出せたこそ、失う怖さは知れた。
他の娘も同じだと紡ぎながらも、目元を拭いつつ顔を上げる。
そして遠くに見える、下手くそながらに戦闘訓練に励む若いミレー族達に視線を向けた。

「失って知るより、失われないように足掻けるほうが……幸せです。私達もずっとはいられないし、結界も直せるかわからない。それでも、戦ってでも故郷を残したいから……練習してくれてるんですよ?」

失うかもしれない恐怖、それをギリギリのラインまで味わった彼等も、ただ縋り付くだけではない。
身を隠す彼等が、下手くそなりに武器を手に取ったのも、居場所を守るための決意だ。
居場所と命を天秤にかければ、彼の言うとおり命を優先しない覚悟の足りなさは、甘ったるいとも思う。
けれど、彼等なりの覚悟があるなら尊重もしたい。
また銃剣術で転がされる若いミレー族の姿に苦笑いを浮かべれば、そのまま彼を見つめる。

ご案内:「ミレーの隠れ里」からレナーテさんが去りました。
ご案内:「ミレーの隠れ里」からチェシャ=ベルベットさんが去りました。