2018/03/01 のログ
ご案内:「ミレーの隠れ里」にレナーテさんが現れました。
レナーテ > 年明けの騒動から数ヶ月が過ぎた隠れ里は、未だ健在していた。
とはいえ、年越しと同時に効力が切れてしまった結界を再構成することは叶わず、里のミレー族は加護を失った世界に放り出されたままである。
だが、改めてそこに奴隷商が押し入ろうとすることはない。
村の中央に掛けられた旗、それは首輪と鎖を否定するチェーンブレイカーの紋が入ったものだ。
王族の祟り神、その息が掛かった軍事請負組合の構成員が鎮座し、里の警護にあたっていたからである。
質素な家がいくつか並ぶ村の中では、あの日のことが嘘のように子供達が遊び回っている。
農業も、畜産も、正常に稼働していく様子を空から見下ろしながら、相棒のマシコの背中を軽く撫でていく。

「降りましょうか」

その声に応じるように巨大な真紅のマシコが降下していき、翼が空気を叩きながら減速し、開けた場所へと降り立つ。
背中から降りると、マシコの方は再び空へと舞い上がっていく。
恐らくそこらで食料の獣でも漁るなり、気の向くままに飛んだりと時間を潰すのだろう。
村の中央に急ごしらえしたテントへと向かっていく最中、活気づいた声が聞こえ、そちらへと振り返る。
村の若者達と、組合の少女達が海綿素材で打面を覆った模造武器を使い、手合わせの訓練の真っ最中だ。
自分達は銃剣術が主ではあるが、彼等には武器の流出を防ぐために通常の武器しか提供ができない。
それでも、魔法と剣技の重ねがけを教え込むだけでも防衛力は大きく変わる。
弓矢も同様であり、弩があるだけでも脅威度は増す。
もちろん、魔法の才能があるなら、それを伸ばしてあげるだけでいい。
数少ない人員で広範囲を守るためにも、現地の彼等に協力を仰ぐのは必須だった。
至近距離での切合の最中、組合の少女が柄のところを銃剣を引っ掛けるようにして身体をねじれさせ、転ばせていく。
倒れた若者の手を引いて起こす途中、此方に気づいたらしく、笑みを浮かべて手を振る彼等に此方も笑みで応え、テントへと向かっていく。

テントの中には似たような格好をした少女が二人。
一人は仮眠中なのか、寝袋に入り込んで丸まっているが、もう一人は傍らに魔法銃を立てかけつつ、木箱の椅子に座り、積み重なった木箱をテーブル代わりに書類を睨んでいた。

「お疲れ様です、どうですか?」

挨拶をかければ、お疲れ様と言葉が返り、問いかけた経緯が語られていく。
結界がなくなった以上、ここに留まるのはあまり良くない。
たとえ防御力を上げても、万が一数の暴力にものを言わせてきたなら……圧倒的戦力差を付けねば、ひっくり返せないからだ。
眷属の鳥達の乗り手や、魔法銃の使い手。
彼等を常駐させ続けることは難しく、今あるのはとりあえずの状態とも言える。
睨んでいた原因である書類を差し出しつつ、困ったと敬意を語る内容に耳を傾けつつ内容に目を通す。
彼等の風習として、ここは神聖な場所であり、離れる訳にはいかない。
また、神を祀った祠を移動して集落を移すという提案も、難色を示したという議事録のようなものだ。

「……組合長さんに来てもらって、試すしか無いですね」

人を捨ててしまった組合長には、世界の構造が見えるという。
事象や存在の状態にアクセスし、書き換えるコードトーカーの力を持ってすれば、壊れた結界を修理できるのではないか?というものだ。
とはいえ、王城や九頭竜山脈の集落との往復、執務と多忙な中、ここまで来させるのは最終手段である。
これたたしかに困ったと、書類を片手に苦笑いを浮かべつつ、村人達の言葉一つ一つに目を通しながら、策を考えていく。

ご案内:「ミレーの隠れ里」にチェシャ=ベルベットさんが現れました。
チェシャ=ベルベット > 一方その頃、里の人々、ミレー族の群れに混じってここではあまり見ない顔が里の周囲を見て回っていた。
ミレーの隠れ里が一つ、結界がないまま奴隷商に襲われそれでも数ヶ月無事であるとの情報を仕入れたチェシャが
その内情を探るために王都からはるばる遠出して来たのだった。

見れば有名な軍事請負の組による警護がついているのはかけられた旗を見ればひと目で分かるし
今も村の中央で武術の訓練を受けている若者を見て、彼らの息がかかっているのは見て取れた。
だがいくら武装を与え訓練したところで彼らは民兵程度の戦力しか無いし
争いを嫌うミレーという特性から介添したところで役に立たないだろう。
さっさとまた結界を張り直すか、里の移住をすればいいのにと思う一方
彼らが移住を渋っている理由も隠れて情報を探る内になんとなく理解がついた。

あの中央にある急造のテントでならもっと詳しい事情を探れるだろうが
あいにくと少女しか居ない組合のテントに潜り込むのは難しい。
自分たちの暮らしを守りたいくせに失う覚悟が無いミレーたちを見て苛立ちをつのらせていたチェシャは
遅々として進まない情報収集にさらに機嫌が悪くなっていく。
眉間にしわを寄せたままため息を吐いてテントを遠目から睨んでいた。

レナーテ > 村の四方には常に小銃型の魔法銃を携えた少女が二人一組で待機し、中央は詰め所代わりのテントに誰か滞在しているので結界を失った場所を守るために、それだけの人員コストを割いている事になる。
そんな中、王都からの買い出しから戻ってきた交代要員も含めれば、組合員拡充を勧めているとはいえ、負担は大きいのは分かるかもしれない。

「見慣れない同族ですか?」
『うん、村の人も知らない子だって』

ミレー族の里も色々あるが、別種の同族に対してオープンな里だったのもあり、里の者達もチェシャがやって来たことに警戒を示す様子もなかった。
見慣れない顔がいるが、里帰りに寄ったのだろうだの、行商の通り道なのだろうだのと。
とはいえ、周囲を警戒する少女達からすれば違和感は覚える。
どうするべきかと、対応を問われれば思案顔のまま俯きつつ、三つ編みの毛先を指に絡めるようにして弄ぶ。

「……私が直接聞いてきます。悪さをしてないなら、何か目的があるでしょうし、悪い人なら……声かけたら何かしてくるはずです」

戦闘要員の彼女達に、あまりこういう人同士の駆け引きじみたものは馴染まぬだろうと思うと、苦笑いで答えていく。
早速とテントの垂れ幕を掌で避けながら出てくると、キョロキョロとあたりを見渡す。
普段と変わらぬ、深緑色のケープとハイウェストスカートの可愛らしい格好にベージュの飾り刺繍が施された姿。
耳はベレー帽に隠れたままのところも、普段と変わらない。
買い出しから戻ってきた少女達と入れ違うようにしながらあるき出し、村に現れたよそ者を探して右に左にと視線を向けながら進む。

チェシャ=ベルベット > 遠目から睨んでいたテントから見覚えのある姿の少女が姿をあらわすと
反射的に姿を隠そうとして身が固まってしまう。
が、逆にこれはチャンスかもしれない。
彼女がこの組合の内部の人間であったのは複雑な気分だがうまく近づけば
ここの内情も色々と探ることができるのではないだろうか。
頭のなかで素早く隠れるのとどちらが得か勘定をしているうちに
自然と足が彼女の方に向かっていってしまう。

「……よぅ」

小さくふてくされたような声で彼女に挨拶と思しき声をかける。
姿を現したらどうしてこんな所にいるのかと問いただされるとは思うが
その面倒さを忘れて彼女と話すほうが魅力的に思えてしまったせいだ。

レナーテ > 人影を求めて歩いていくと、此方へと向かってくる影にすぐに気づく。
瞳が一度瞬くと、そこにいた姿に少しだけめを丸くしながら驚きを見せる。
よく知った相手ではあるものの……こんなところにいるとは、想像にもしなかったからで。
少々不機嫌そうにも感じる声に微笑みを浮かべれば、小走りに彼の元へと向かっていく。

「こんにちは……といいますか、なんでこんなところへ…?」

故郷だったりするのだろうかと思いつつ、軽く首を傾けるものの、それなら里の人達も知っているはずだろう。
それなら寄り道…にしては、山の中に来る理由にもならない。
周囲に温泉や薬草の群生地でもあっただろうかと、一人思考を巡らせていく中、買い出しから戻ってきた少女達が遠目に二人を眺めていた。
ニヤニヤと少年少女の再開を楽しげに眺める姿は、年頃の女の子らしい野次馬状態。
背中に突き刺さる視線に落ち着きがなくなる視線は下へ向かい、気恥ずかしさに頬に薄っすらと紅色がかかっていく。

チェシャ=ベルベット > 「結界も張れないミレーの隠れ里があるっていうから
 商売の種にならないかと思って来た」

半分ウソで半分本当の話だ。ぶっきらぼうにそれだけ告げて二の句が告げず
手持ち無沙汰にコートのポケットへ手を突っ込む。
レナーテに似た衣装に身を包んだ少女たちがニヤニヤとこちらを見ているものだから
ああいう人種はどこにでもいるんだなとまたイライラの種を増やしつつ宙を見つめる。
ちらりとレナーテを見つめれば何故か恥ずかしそうに俯いて、頬はやや赤い。
彼女たちにからかわれているからだろうか、というか何その顔。
なんでそんな顔するんだ馬鹿。
居心地が悪くなっていくとあー、と声を上げて

「場所、移そ。もっと人がこなさそうな所」

そう相手に提案する。とはいっても狭い里。
移れる場所など限られているが、とりあえず往来の場でなければなんとでもなるだろう。
レナーテの手を雑に掴むと彼女を引っ張ってテントの裏の荷物が置いてある木箱の影に移動しようとする。

レナーテ > 「っ!? ぶ、物資とか、何か、そういう……商売、ですよね?」

ぶっきらぼうに放たれた言葉に、ビクッと身体が跳ね上がり、尻尾がピンと伸び切り、茶色の入り交じる毛をぶぁっと膨らませていく。
尻尾が見せた驚きに沿うように、驚きに満ちた表情を浮かべたが……直ぐに尻尾は垂れ下がりながら小さく揺れていった。
覗き込むように彼の瞳を見つめながら、探るような言葉を重ねたのは、彼と事を構えたくないから。
もし奴隷を得るためと言ったなら……立場として、銃を握らざるを得なくなる。
その言葉を避けるように問いかけていたが、背中に刺さる視線に顔は徐々にうつむいていく。

「ごめんなさい、あの娘達いつもあんな感じだから……」

不機嫌そうな声に、尻尾の動きが弱まっていき、しょげるように垂れ下がる。
真面目で色気のある話をしない堅物娘、と 思われている自身が、こんなところで知り合いの少年と再開したなら、それは話のネタにされるのもよく分かっていた。
手を掴まれれば、まだ熱の抜けない表情でびっくりしながら彼を見上げ、導かれるがまま縺れ気味に後に続く。
擦れ違う少女達が、意地悪にごゆっくりと~と囁いた瞬間には、かぁっと耳の内側まで赤くなりそうな心地になる。

「……」

荷物置き場のところへと連れ出されれば、木箱に遮られた視線に安堵の吐息を零しつつ、照れささを誤魔化すように微笑んでいく。

チェシャ=ベルベット > 「さぁ、なんの商売だと思う?」

答えを曖昧に誤魔化しながらからかうように不敵に口の端を吊り上げる。
自分が相手に開示している情報は少ないはず。
せいぜい男娼だと思われているならそれもまたいいが、男娼が未開の里で何するんだという話にもなる。
さて彼女がどう考えるか、それはまぁ置いておいて。

彼女が謝る立場でもないことを重々承知しながら謝罪の言葉を受け取り
別に、とつまらなさそうに小さくつぶやいた。
木箱の裏に隠れてようやく落ち着いたように微笑むレナーテに

「それで、結局どうしてこの里さっさと結界張らないの?
 また襲われても仕方ないって思ってる? それともここで恩を売っておこうとかそういう心算?」

彼女を木箱の壁に追い詰めつつ顔を近づけて耳元で囁く。
いわゆる壁ドン。探りの入れ方が少々直球なのは否めないが
聞きたいことは大体聞けるし変に遠回しに聞くより早い。

レナーテ > 「……」

普段なら、唇を尖らして拗ねる程度で済むことだが、ここではぐらかす彼の言葉に瞳は不安げに伏せられていく。
今思えばこそ、あの技はなんのために使われているのか確かめるべきだった。
男娼としての彼を知っている分、自分と相反するとは想像もしなかった。
きゅっと掌を握り込んでいく中、不安な気持ちを宿したまま、裏へと連れて行かれていく。
先程の視線もあり、心の中がぐちゃぐちゃになっていき、思考が落ち着かない中、木箱の壁に追い詰められれば、はくはくと唇が言葉を紡げず空回る。
間近に迫る視線、金緑の瞳から感じる雰囲気は普段よりも強引で、ひくりと体が震えた。
耳元をくすぐる声に、ゆっくりと唇が開いていけば、組合長から不在の合間を託された身としての答えを思い出していく

「……それは…、今は…いえない、です。チェシャさんが……ちゃんとさっきの質問に、答えてくれないと」

彼が奴隷を捕まえにやって来たか、それに携わる人間であれば…理由を口にする訳にはいかない。
それこそ波状攻撃でもされようものなら、無数のミレー族の人々を守りながら戦うのは難しくなる。
張らないのか? という問いは、張れると考えている意味にもなり、張りたくても張れないと答えるのは、手の内を晒すことと同意。
教え込まれたことを脳内でひっくり返しながら答えていくと、不安そうに金色の瞳で彼を見つめる。
心の中で違っていて欲しいと願いながら、心音は不安に釣られるように早くなり、呼吸を震わす。

チェシャ=ベルベット > こちらの答えに不安そうな様子を見せるレナーテ。
話を渋る彼女にその先を話させたくて、ちょっといたずらを仕掛けたくなる。
鼻先が触れ合うほど近くなった顔と顔、
彼女が頑なとして情報を漏らそうとしないのなら肩をすくめて少し体を離す。

「……僕の主が魔法使いだからね。
 結界一つ張るのもお手の物なんだ。勿論従者の僕も。
 金さえ積んでくれれば協力するのもやぶさかじゃあないんだけど
 その需要があるかどうか調べに来たんだよ。
 でも、チェーンブレイカーが来ているなら僕らの仕事は要らないのかもね」

少なくとも奴隷商ではない、ということを言葉の上で述べてみる。
それを彼女が信用するかどうかはわからないが、嘘はいっていないつもりだ。
大体、一人見知らぬミレーが来たところでどうにかなるわけもなし。

次はレナーテの番だと言うように再び距離を詰めて彼女の瞳を睨む。

「結界を張れない理由はわからないけど、移住して再び隠れないのには見当ついたよ。
 あのカビ臭い祠を手放したくないって話でしょ。
 迷信深いミレーの言いそうなことだ。
 もう安穏とした暮らしには戻れないっていうのに、
 失う覚悟も無い連中の話、聞く必要がある?」