2017/05/11 のログ
ご案内:「ミレーの隠れ里」にレイカさんが現れました。
■レイカ > 完成した防壁に、防火対策の泥を塗り付けていく作業。
泥遊びと称して、子供たちにも手伝ってもらうとかなり早い段階で終わらせることができた。
後は、定期的にウンディーネに頼んで泥を湿らせてもらえば、火には非常に強くなる。
木の杭に塗り付けてあるので、雨が降って流れてしまってもすぐに塗りなおすこともできる。
正面の壁だけだが、これでひとまず完成というところだろう。
これがあるだけでも、ずいぶんと安心感が違う。
側面や、後ろはまだ森が生い茂っているから攻め込むのは難しいはずだ。
ドリアードの声を聴けば、侵入者が来てもすぐに私が向かうことができる。
「ご苦労様でした、帰る前にちゃんと手を洗ってくださいね。
後で、おやつを届けますので。」
手伝ってもらった子供たちに、私はお礼を言いながら見送った。
泥だらけになった服や顔、そして手を見ながら私は微笑む。
心を氷に閉ざしたと言っても、このくらいの顔はまだできるみたいだった…。
ご案内:「ミレーの隠れ里」にイスカ・レナイトさんが現れました。
■イスカ・レナイト > 「なんだ、聞いた話と違うぞ!?」
防壁の前に立つ彼女の耳に、あからさまな驚愕の声が聞こえるだろう。
女の声で、声量は――抑えるという考えがまず無いのか。
隠れ潜むつもりも無いのか、がさがさと草を踏み鳴らして歩いて来る。
敵か。
だとすれば、あまりに警戒心が薄い。間抜けか豪胆か、さていずれであろう。
「おっ、早速住人はっけーん。ちょっと質問よろしいかな、お嬢さん」
道のど真ん中、何にも隠れず近づいて来る女は、陽性の笑顔で、尖った耳の彼女を見た。
背の得物へ手は伸びないが、その目に油断は見受けられない――戦場にある者の目だ。
よもや単騎で山賊の真似事でもあるまいが――
■レイカ > 今日のおやつは何にしようか、そんなことを考えていた。
材料はいくつかあるし、多分もうすぐ田畑を管理している人も帰ってくるはずだ。
ここに来てからいくつも刈り取った恵み、毎日が楽しいとその人が言っていた。
そんな顔を見ると、私まで少し楽しかった。
そんな考えをかき消すかのように、大声が飛び交う。
この静かな森の中では、どんな些細な声も聞き逃すことはない。
それが大声であるならば、聞こえないはずがなかった。
私はゆっくりと振り返る、その女性を視界にとらえる。
背中にあるのは、槍か。
少し短めであるのは、振り回すにはちょうどいいほどの大きさ。
そして、その顔からして敵意は今のところはなさそうだが…。
いや、敵意がなさそうだと言って油断はできない。
私は彼女に向けて、警戒心をあらわにした。
「…………何か用か…?」
私の口調は、知らない人物の前ではかなり刺々しくなる。
話してみて、信頼ができそうならば口調は砕けるが…そうでない場合ももちろん多い。
だから、決して油断もしないし警戒も怠らない。
ここにきて、私が学んだのは…初対面は誰も信用するな、ということだ。
■イスカ・レナイト > 「その通り、用だ。……しかしなんだな、この壁は前から有ったか?
まるで地の底から生えて来たようじゃないか」
大仰な口ぶりで、女は木杭と泥の防壁を眺めている。
そちらに意識を引き寄せられているような素振りだが――しかし、そうではない。
かつて戦場に身を置いた者ならば分かるだろう。
女は視線を外したまま、しかし相手との距離を、日常的に歩くような速さで詰めようとしている。
槍。殴りつけるにせよ刺すにせよ、当然だが届く距離にまで詰める必要がある。
ではこの女は、攻撃を視野に入れているのか――
「ふぅむ。火攻めを想定しての防壁か。なるほどなるほど、山賊どもの手抜き修復に比べれば大した出来だ。
周囲が森では、下手な火のひとつで森ごと燃え上がるかも知れんからなぁ、結構結構。これはあんたの指揮か?」
などと問いながら、遠慮なしに間合いを詰めていく。
相手が離れるか、或いは何かに遮られるまでは、それこそ肩が触れるような距離まで近づいて来かねない無遠慮ぶりだ。
しかし相手の反応の如何を問わず、そして答えを問わず。話題をそらしてはぐらかしていた女は、いきなり本題に入る。
「いやなに、とあるおえらいさんに、ここを攻め落とせと要求されてな。偵察ついでにつまみ食いを――と思っていたんだが」
■レイカ > 「……………。」
私は、彼女から決して目をそらさなかった。
それはなぜか、理由は一つ――――視るためだ。
彼女から発せられるオーラ、それを見れば彼女が何者であるのかをすぐに判別できる。
そして、私が警戒心を解かない理由は一つ。
彼女のオーラが、赤色だったからだ。
種族によって吹き出ているオーラの色は千差万別。
青色ならば人間、緑色ならばミレー族だ。
じゃあ、赤色だったら種族は何になる?
「………黙秘させてもらう、あいにく初対面で馴れ馴れしい相手に、教えられるものはない…。」
間合いが、どんどん詰まっていく。
私の背中には今、弓はない…至近距離でしか戦うことができない。
彼女はきっと気づいているはずだ、この防壁のもう少し上に、物見櫓があることを。
外敵を見張るために作った物見やぐらの上には、今は一人見張りがいる。
彼が気付いてくれるのを願いつつ、私は手ぶりで指示を出した。
決して、皆を外に出さないようにと。
「…………理由は…答えてはくれないんだろうな……?」
攻め落とせと要求されたということは、ここのことを誰かが漏らしたということになる。
ここの場所はもとより、中にいる人物はできる限り知られないようにしてきたつもりだ。
人間も、ここのことは知らないはず…だったらどこから漏れた?
(………あの子か。)
■イスカ・レナイト > 「そういう聞き方をするのは良くないぞー。答えてはくれないんだろうな、だなんて」
物見やぐら――気づいていない、と見るのは楽観視となるだろう。
先程、近づくための視線のフェイクとは言え、防壁をじいっと眺めていた。
もっともそれに気付いていたとして、だが先手を打ったわけではない。
極論だが〝自分に不利になるものを見つけ〟ておきながら、それにまだ手を出していないのなら――
手を出さないのか?
手を出せないのか?
つまりは二つに一つとなろう。
「それじゃあまるで、教えてくれと頼んでいるようじゃないか。
せっかく場所の優位があるんだ。〝答えなければ殺す〟くらい言っておいてもいいだろうに。
……そしてもちろん、私のような悪党にお願い事をすると、ろくでもない条件が帰ってくるぞ」
口数多く、態度は軽薄。しかし、見張りがいると知りながら、距離を詰めようとするのはやめない。
それは一つに、相手が武器を持っていないからというのもあるのだろう。……これは油断、と言えるだろうか。
「折角の美人さんなんだ、取引の材料は自分で持っているだろう。
その〝理由〟とやら、聞き出してみてもいいんじゃないか?」
挙句の果てにはこの口ぶり――相当己に自身があって、かつ相当の好色。ここまでの対話から察するなら、そう読み取るのはたやすかろう。
が、己の言葉が舌禍を呼ぶ前に、この女はさらに言葉を付け足す。
「まさか戦をおっぱじめて、さっきの子供達まで巻き込むこともなかろうに。いやだぞ、子供が死ぬのとか見るの」
この言葉ばかりは、どうにも先程までの軽薄な態度と、声の色が違う。
■レイカ > 「興味がないからだ。答えてもらったところで、私は別にどうこうするつもりはない。」
第一、彼女の目的がわからない。
もしも、彼女が”魔族として”ここを攻め落とすというならば私には切り札がある。
いまだに手を出していない理由はどこにあるのかはわからない、けれども私がこの場所にいる理由は一つだけ。
この中にいるミレー族を護る。
其れさえできるならば別に構わない、しかし…。
差し出せるものなど別にないし、理由を聞き出すつもりもない。
私にはシンプル、かつ一番わかりやすい材料さえあればいいのだ。
敵か、そうじゃないかだけだ。
「……そうだな、子供が死ぬのは見たくはない…。
そうしないために防壁を作ったんだ、それを破るなら……そうだな。」
私は、薄く笑みを浮かべていた。
相手が油断しているわけじゃないのはわかっている、このまま先に手を出せばどうなるかなんて知れている。
大義名分を渡して、この後で大部隊が責めてきました、なんてそんなことになるわけにはいかない。
「……お前がほしいのは、先に手を出したという大義名分だろ?」
■イスカ・レナイト > 腹の探り合い――どちらも戦う術を持ちながら、言葉で相手の真意を探る戦い。
その果てに尖った耳の彼女――魔族か、別の種族かは知らないが――が提示した答えは、明確なものだった。
挑発し、手を出させ、〝山賊の討伐〟と称して大部隊を動かす。
なるほど小勢力を駆逐するには包囲が最良。中で起こった非道は外へ漏れないからだ。
しかし――
「……そっか、その手があったわ」
魔族の女は、口をぽかんと開けたまま、両手をぽんと打ち合わせて言った。
――この女、口ぶりほどに賢くなかった。加えて、大部隊を動かす力なぞ無かった。
この女は一介の傭兵騎士団の長。加えて、所属に些か特殊な事情がある。
この女が有名でないのも単純に、一部の種族を除いては、警戒するに値しないからなのだった。
「ふ――はっ、はっはっはっはっ、そりゃそうだ! 確かにあんたが私に打ちかかってくれればそうできるなぁ! 楽な話だ!
おえらいさんの覚えも良し、報酬もそれなりにいただけるだろう!
……が、あんた、真面目に過ぎるな! あの流れで容姿を褒めたんだ、身体を要求したと分かって欲しかったよ!」
女は、やはり声を抑えずに笑う――地べたにどっかと腰を下ろしてだ。
これでは走れないし、飛びのくこともできない。自分で詰めた距離がそのまま、自分の不利となる姿勢である。
ひとしきり笑った女は、深く息を吐き出し、それから大きく息を吸って――
「違う。私が欲しかったのは、〝森には凶悪な人攫いの群れがいる〟って情報の裏づけだよ。
どこぞのお貴族様から奴隷を奪い取って売りさばこうとする悪党がいるって話さ」
座ったまま、真面目な顔をして言った。
まるで事実無根の話だ――と思うかも知れない。実際、真実でもなんでも無いのだろう。
が、重要なのは、〝少なくともこの女は、雇い主にそう言われた〟ということであった。
■レイカ > ――――違ったのか、かなり深読みしたつもりだったんだが。
思った以上に、この女は考えが浅かったらしい。
大義名分があれば、依頼主にもいい情報としていけるし…何より私を斃すことに何の躊躇もなくなる。
そして、この壁の向こう側には、人間の世界では財宝が数多くいるのだ。
きっと、10年は遊んで暮らせるだけの大金が舞い込むだろう。
だが、そのつもりがなかったのか女は豪快に笑って、地べたに座った。
私はその様子を見て、少しだけ肩の荷が下りた気分だった。
容姿を褒められるのは慣れているし、彼女の要求が何なのかもちゃんと気づいていた。
だけど、そう簡単に体を差し出すような安い女じゃない。
ちゃんと、私が望む対価というものを差し出してくれない限りには。
「…ちゃんとわかっていたよ、キミみたいな相手は昔、いやというほど相手をしたんだ。
条件を出させて、容姿を褒めるときは…私の体が目当てだったんだろう?」
だが、私の体のどこにそんな魅力があるのだろうか。
胸は薄いし背は低い、どっちかと言えば子供っぽいと思うのだが…。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
「……なるほど、どこからそんな情報を仕入れたのかは気になるな…。
最近は貴族子飼いの奴隷商人も増えているという話を聞く。
だけど…あいにくここにいるのは住み家を失ったミレー族が寄り集まっているだけさ。」
私は、ミレー族に音があるからここを護っているに過ぎない。
彼女が聞いた話は、完全に事実無根だと私は首を横に振った。
■イスカ・レナイト > 「おう。派手な戦に、美食、美酒、豪勢な家に綺麗な女! 人間の世界は贅沢品に溢れてる!
生まれ付いての馬鹿力にあぐらをかいてる魔族には、そういう視点が足りなくてなぁ。
どうせ大した秘密もなし、だしにして美人を抱ければ儲けってもんだ。……おっと、今から気が変わってくれるのは大歓迎だよ」
あけすけに女は言って、つま先から頭の天辺まで舐めるように、相手の身体に視線を這わす――好色なのは素であろう。
が、相手が首を横に振るのを見れば、些か表情が真剣なものになる。
「何処からも何も、時間をかけりゃあどうにかなるさ。
細かい場所は分からなくてもいい。だいたいの居場所が分かれば、人海戦術でいつかは当たる。
その〝だいたいどの辺〟ってのも、あんたらが最後に人目についた場所、その前で見つかった場所、全く見えなくなった時期――
そういう情報を集めていけば、後は地図の上に点を描いてくお仕事だ。移動速度の想定が少しずれてたがね、ミレー族は流石に足が速い。
そしてある程度まで距離を詰めれば、後は鼻と耳で捕らえられる。追っ手が猟犬を使う想定はあったかね? 私の鼻は猟犬並だ」
……つまり、戦馬鹿なのだ。計略策略は苦手だが、こと獲物を追うなり戦うなり、つまり戦術となれば話は別らしい。
「で、その目撃情報ってのも、私の雇い主なら金で買える――借金くらいはしてるかも知れんがね。
子供も含めてミレー族が何十人かなんて、大事に扱えば結構な金額になるだろうさ。
まさかヤルダバオートみたいに、クスリで脳みそがぶっ飛んでるんなら話は別だけど」
軽薄なのは態度ばかりでもないのか、案外に口は軽い。
本来なら雇い主の情報を、獲物に対して漏らすなど言語道断の所業だろうに――
しかし女は、そういう躊躇はまるで見せずに言うのだ。
「……ここのミレーには、奴隷商人のところから逃げたようなのは?
いたとしたら、その辺りにご執心な依頼人が嘘を――ってことも、ありえるっちゃぁありえる」