2017/05/04 のログ
ご案内:「ミレーの隠れ里」にレイカさんが現れました。
■レイカ > ようやくというべきか、それとも存外早くというべきか。
前面の防壁が完成し、私はその内側で笑みを浮かべた。
いくつもの巨木を切り倒し、その切り倒した巨木をきれいに並べて一種の壁とする。
入り口は人が二人、ようやく通れるほどの大きさにしかしていないから、大群で責められても各個撃破できるように。
後は、防火対策さえしてしまえば、この壁は完成する。
「……ようやくひと段落、と言ったところですか。」
そう…まだひと段落だ。
前面の防壁は完成したけど、この里を囲うためにはまだまだ足りない。
前面だけ護れても、回り込まれて責められたらどうしようもない。
いくら、この里が樹海の奥にあるとはいっても、ほかのミレー族の里のように結界で守られてはいない。
丸見えの里を護るためには、防壁はどうしても必須だ。
私の力を使っても、この里を不落要塞にすることはできない。
皆で助け合い、護るための術を作ることは必要不可欠なことだった。
■レイカ > 周囲の巨木を切り倒すだけでもそれなりに時間がかかる。
ドリアードたちには、このあたり一帯を自分たちの場所にしてほしいと頼み込んだ。
境遇などを踏まえ、彼らも快く了承してくれた。
その代わり、必要最低限だけにとどめてほしいと言われたが…当然だろう。
この辺りはもともと彼らの場所、そこを分けてくれと言ったのだから彼らの言い分は聞いてしかるべき。
場所を提供してくれただけ、ありがたいと思わなければ。
「……まだまだかかるけれど………。」
なぜだろう、私は素直に楽しいと思っていた。
皆で力を合わせること、それがこんなにも楽しいなんて思わなかった。
30人という小規模な里だけれども、その団結力は他のミレー族に引けを取らない。
今までずっと虐げられていたからこそ、皆はこれ以上自分たちの領域を失いたくない。
その一心で、この防壁を短い期間で完成させてくれた。
3年はかかるだろうと思っていた作業も、これなら短い期間で完成しそうだ。
この里を、ぐるっと囲むように立てていく防壁計画。
その間の守りは、ドリアードたちにお願いしている。
この道に分け入り、ミレー族をさらおうとする敵を排除してくれるように、頼み込んだ。
もちろん、私も日々の見回りは欠かさないようにしている。
いつ、どんな時にここに敵が来るのか分かったものじゃないから。
ご案内:「ミレーの隠れ里」にシトリさんが現れました。
■シトリ > 鬱蒼と茂る森の中、そこだけ切り開かれて人工の防壁が築かれた区域。
下生えを掻き分けて、褐色の少年がその壁の目の前に現れた。
「……………」
少年は壁の前で立ち尽くし、ぽかんと口をあけている。
森を往くにはあまりにも軽装すぎる装い。腰には鞄とシミターを下げている。
空色の丸い瞳は壁の頂端と、手に持った羊皮紙の表面とを何度も何度も往復し、せわしなく動く。
周囲を警戒する様子もあまり見られない。この小さな来訪者、壁の製作者にはどう映るか。
■レイカ > これからすぐに、さらなる防壁の作業をしてもいいのだが、やはり休息というのは大事だ。
皆も今日の作業でへとへとに疲れているし、これ以上は無理を科すことになってしまう。
明日から、またゆっくりと頑張っていけばいい。
負担にはなるけれど、時間を急ぐ必要はないのだから。
「………?どうしましたか…?」
不意に、私のつけている耳飾りが振動した。
この振動は精霊の声を拾い、私の耳に届ける役割を担っている。
小さな、精霊の声を拾い上げてくれる振動を聞き、私は防壁の向こうに誰かがいることを知った。
だが、どうもあたりを警戒している様子もないし、容姿は子供だという。
だが、手にしている羊皮紙というのもあり、少しばかり警戒だけはしたほうがいい。
そんな、ドリアードの言葉を聞いて…私は念のために。
弓と矢を背負い、防壁に申し訳程度に作った扉をくぐった。
「……そこのキミ、この里に何か用か?」
せわしなく動いている子供…何者だろうか。
このあたりに来るにしては、ずいぶんと装備が軽装に見えるが…装備している曲剣。
それを見れば、やはり警戒だけはしたほうがいいだろうか。
私の口調は、知らず知らず強くなる。
見知らぬ人物に対しては、私は警戒を怠らないのだ。
■シトリ > 防壁の扉が開く……その様子にさえ、褐色の少年は気付く素振りをみせない。
大樹を加工して立派に作られた壁のつくりに感心しきりといったところ。
そして、溌剌とした女性の声が自らの方へ発せられると、ようやく……。
「……は、はひっ!? お……オレッ!?」
びくり、と跳ねるように全身を震わせ、声の発生源の方にあわてて視線を移す少年。
この場において、自分が誰かに声を掛けられるなど想像だにしていなかったかのような驚きぶり。
空色の瞳が、声の発生源の女性を捉える。その身に鎧が纏われ、弓を背負っているのを確かめれば、狼狽ぶりはさらに強くなる。
短ズボンから覗いた褐色の脚は震え、歯もカチカチと鳴っている。
左手に持った羊皮紙をぎゅっと握りしめる。右手の震える指はやや遅れてシミターの柄を見つけ、そこに添えられるが、抜きはしない。
「あ、その、いや、オレ……えっと……あの………ま、迷子……かな??」
舌をもつれさせ、返答の言葉を必死に紡ぐ。
警戒心と恐怖心の拮抗で震える瞳は、懸命に目の前の女性の一挙手一投足を捉え続ける。
■レイカ > 「キミしかいないだろう……?」
どうやら、ここに誰かがいるということを想像していなかったようだ。
完全に人工物の防壁を見ていただけなのか、それとも…。
完全に狼狽している容姿を見せても、私は決してその少年から視線を外さず、そして油断もしなかった。
「…………。」
怯えか、それともただ単に警戒しているだけなのか。
褐色の肌に、空色をしている瞳。
右手を添えた剣を一瞥すれば、私も少しだけ足に力を入れた。
速さでならば、私は誰にも負けない自信がある…。
だが、私の瞳に移る彼のオーラの色。
識色眼を発動させ、彼が何者であるのかを確かめたが…奇妙だ。
そのオーラの色は青色、つまり彼は人間であるということが伺える。
だが、その青色の中に一色だけ…水色が含まれている。
この色を、私はよく知っていた…。
「……迷子か、ならどこに何の用で行くはずだった?
ミレー族の里を探していたのなら、その目的を聞かなければならない。
そして…もしも害をなすつもりであったならば……。」
私は一層、目を鋭くさせた。
たとえウンディーネを宿しているとしても、ミレー族に害を与えるつもりなら私の敵だ。
敵は…容赦しない。
■シトリ > 「ひいっ……!」
女性の眼光が鋭さを増すと、褐色の少年はいよいよ怯えきった声を上げ、身体を震わせた。
半ば無意識的に両手が上がり、害意がないことを示そうとする。
左手に握っていた羊皮紙がひらひらと舞って地に落ちる。その表面には、樹海の地図と思しき絵が描かれている……。
「あっ、そ、その……ごめんなさい。迷子ってのは……嘘」
少年はつかの間その空色の目を伏せ、萎れた語気でそう弁解する。
そして唾を1つゴクリと飲み込み、深呼吸をした後、改めて目の前の女性をまっすぐ見つめ直す。
「……オレ、王都で冒険者やってて。
冒険者の酒場で、『この辺りの樹海を捜索して怪しい建造物や地図にない集落を見つけたら、その情報の内容に応じて報酬を出す』って掲示を見つけたんだ。
だからこの辺歩いてたら、この壁が見つかって……。だからオレ、害をなすつもりってわけじゃない……と思う……」
未だ怯えは取れておらず、時折舌を絡ませたり呼吸を整えたりと言葉はスムーズではないが、見つめる視線は真っ直ぐだ。
……その瞳が、目の前の女性の耳に焦点を合わせる。人間のそれとは違う、長い耳。あれは……どこかで……。
「……えと、お姉さん、ミレー族ってやつなのか?
もしかして、お姉さんがこの壁を作った……?」
■レイカ > 根は正直なのだろう、少し殺気をぶつけただけであっさりと白状してくれた。
冒険者で、その依頼はこの樹海に存在する、地図にない建造物を探すこと。
この手の依頼を出したものがどんな糸で出したのかは容易に想像がつく。
九頭竜山脈は広く、ミレー族の里が点在している。
その場所を提供しようものなら、奴隷商人が大挙して押し寄せてくる…。
冒険者ギルドと、奴隷ギルドの癒着は…私が騎士団に所属していた時からあった。
そしてその大本が、貴族につながっていることも…。
「……なるほど、キミが害をなそうというつもりがないのはわかった…だが。」
私は、彼が作成したであろう地図の羊皮紙を拾い上げた。
山賊街道から始まり、九頭竜山脈を歩いて作成していった地図を眺めて、彼につき返す。
「ここのことは地図には書かないでもらおう…。
…ここには、ミレー族30人が生活している、キミが王都で暮らしているなら、ミレー族の扱いは知っているな?
私はここの守り人、ミレー族を護っているものだ。」
自分の立場を説明したうえで、私はここのことを他言しないように彼に申し出た。
その代わり、彼を見逃すという条件を付けて。
「……いえ、私はエルフ…だけど、ミレー族には多大な恩がある。
壁を作ったのは…ここのミレー族全員でだ。」
そして、この壁はいまだに完成していない。
まだ、里を囲うほどの防壁は完成していないから…未完成だ。
■シトリ > 「えるふ……」
女性の長い両耳を見つめながら、シトリはその名前を呟く。
エルフもミレーも聞き馴染みのない言葉。しかしシトリはひとつ思い出した。あの長い耳は、水の精霊ウンディーネによく似ていること。
故郷の長老の家に掛けられていた絵、そこに描かれた異貌の存在にも同様の耳が……。
「……ごめん。オレ、王都……つーか、この地域で暮らし始めたのもつい最近で。
ミレー族ってのはたまに名前を聞くくらいでしか知らないんだ……ホントだよ、信じてほしい……」
手を上げたまま、少年は視線を再び、目の前にそびえ立つ防壁へと流す。
その奥には、彼女のいうミレー族がいて護られており、あるいは壁の増築に着手しているのだろう。
彼の鈍い神経では、その気配までは察知できなかったが。
「護っている……ってことは、もしかして。
もしオレがこのままここの情報を持ち帰れば、ミレー族の人たちがなんかヤバくなるってことか?
ミレー族の扱いってのもよく知らないんだけど……。
ここまで立派な壁を作ったりするってことは、攻め込まれたりするのか?」
自分が探ろうとしてた情報が思いの外重大なものであること。
目の前の女性の真剣な剣幕から察せざるを得ない。しかし……。
「……う、うん……お姉さんの言い分はわかる。とてもわかる。
でもよ、オレも生活がかかってるんだ。まだ王都で暮らすにはお金が足りない……住む場所も食い物も欲しいんだよ……」
少年の瞳が細まる。闘争心は未だ見られない。迷いと困惑に耐えしのぶように、唇をひとつ噛み、
「……オレ、どうしたらいい?」
自らに敵意と警戒心を向ける女性に、少年は無責任に問うた。
■レイカ > 彼が葛藤している間、私は周囲のドリアードたちから彼の中にいる精霊のことを聞いていた。
ウンディーネ、水の力を持つ精霊。
もちろん私も、ウンディーネの声を聴くこともできるし水の力を使うことができる。
彼のセリフ、この地方にやってきたのがつい最近で、ミレー族の扱いを知らないらしい。
なるほど、通りでミレー族の名前を聞いても何も反応がなかったわけだ。
ホールドアップの格好をしている彼にも、そのことはどうやら説明したほうがいいらしい。
この国の闇の部分、それを知らなければ知らず知らずのうちに誰かを不幸に招きかねない。
「…その通りだ、この国に来たばかりなら早めに知っておいたほうがいい。
この国には、人間のほかにいろんな種類の生物がいる。
その中の一つが、ミレー族だ。」
ミレー族は、この国では社会的弱者の烙印を押されている。
ミレー族であるというだけで、不当に安い給料で働かされていたり、中には性奴隷として望まぬ男の慰み者にも。
そして、そのミレー族をどのように確保しているのか。
「君が受けた依頼は、おそらく人身売買を生業をしている組織が一枚絡んでいる。
こうして、ミレー族の集落をキミのような冒険者に探らせ、そこに傭兵部隊と一緒にミレー族狩りをする人物をよこすんだ。
この防壁は、少しでもその襲撃から身を護るために、ミレー族が建てたもの。」
その建造物の存在を知られてしまえば、対策されるのは間違いない。
その対策が難しいようにと知恵を絞っているが、なかなかに難しい。
…防壁だけでは心もとないというのは、私にとってもかなり頭の痛いことであった。
だが、彼のその困ったようなセリフ。
人間であろうと、ミレー族であろうと明日の食事がなければ生きるのは難しい。
誰だってそうだ、住むところも食べるものもなくて、どうやって生きていく…?
廃墟地区で、私が初めて出会ったミレー族は皆やせ細って…生きる気力も何もなかった。
そのことを、つい思い出してしまう。
「…………キミが、私やミレー族の敵ではないと誓えるなら…食事くらいは提供してあげる。」
私とて、鬼じゃない……。
敵じゃない人物にまで刃を剥けることはしない。
■シトリ > 「人身売買……」
女性の放った、その言葉を反芻する。奴隷。人が人を売り買いすること。シトリとてまったく無縁の事柄ではなかった。
故郷の集落にも年に1~2回、砂漠の果ての果てからときおり奴隷商人が来る。集落の長によって奴隷が買われることもあった。
彼らはすぐに集落の一員として馴染むようになるが、そのような人に話を聞くと、たいていは借金がかさむなどの自業自得の原因によるものだった。
そして、この森に…いや《まれびとの国》に潜み暮らすミレー族は、どうやら単にミレー族であるというだけでそのような境遇にあるようで。
シトリの知る奴隷とは話が違うようだ。
「……そうなのか。本当にごめん……ごめんなさい、お姉さん。オレ、本当に何も知らなくて。
無駄に警戒させちまって、悪いことをしたって思ってるよ……」
目を伏せ、震えた声でそう謝罪するシトリ。
無知の罪深さを、異国の地にその身を置かれて数週間を過ごしたシトリはたまらないほど認識していた。
砂漠の秘境からほとんど出ずに過ごしていた彼にとって、異郷の都会暮らしは何もかも未知のモノだったから。
「……わかったよ。お姉さんが言うとおり、オレはここであったこと、いや樹海に入ったことも誰にも言わねぇ。
酒場のオーナーは『ちょっとした情報でも1ヶ月は食うに困らねぇだろうな』って言ってたけど、諦める。
……でも、その分の食料をお姉さんやミレーから頂くわけにもいかねえじゃん。第一持って帰れないし……」
疲れたのか、そろそろと両手を下ろしていくシトリ。はふ、と大きな吐息をひとつ吐く。
「……オレ、頭悪いし、この国のことまだまだ知らねぇけどさ。
でも、お姉さん……あんた一人の言い分だけを聞いて、全部知ったつもりになることもできない。
……いや、そうなっちゃダメって、親によく言われたんだ。だから、食料をくれるって言われても、もらえない」
伏せ気味だった目を再び強く開き、女性を真っ直ぐに見つめ直す。
「……今はオレはお姉さんとミレー族のことを思って引き返すけどさ。
いつまでも、オレがミレーの敵にならないなんて、今のオレには言い切れない、から。
……その、なんか、ゴメン……ほんとに……」
言葉の最後は、またしても顔を伏せ、半ば涙混じりだ。拳も握りしめ、震えている。
それは申し訳無さゆえかもしれない。あるいは、親の言葉を思い出して郷愁にかられたか。