2020/06/29 のログ
ご案内:「◆城塞都市「アスピダ」2(イベント開催中)」にティクスさんが現れました。
ティクス > ――――砦の奥。

「わかっちゃいるけど。…大丈夫、大丈夫…」

普段、下っ端の盗賊達には入る事も難しいような場所にこそ。
『騎士』とは何たるか、という秘密が有るのだと思う。

頭やそれに近しい者達が存在する、上層か。
立ち入り禁止の仰々しさが目立つ、地下か。

どちらが本命なのか判らない以上。一度でどうこう出来るとは考えず。
順を追い、回数を重ね、少しずつ調べていくしかないだろう。

ちなみに「わかっている」のは、立入禁止区域の内情ではなく。
そういった場所に近付いている所を、誰かに見られたら。まずいだろうという事実。
だからこそ、選んだのは、一進一退の戦況の中、明確に勝ちを得た日の夜遅く。
相変わらず、勝利に浮かれてしまう者達が、広間や中庭で呑めや謳え、犯せ交われ、そんな騒ぎに興じているタイミング。

…現在位置は一階廊下、上と下、双方へ続く階段を眺められる中間点。
さて。どちらを先んじて調べるべきか。考え倦ねて、暫し。

ご案内:「◆城塞都市「アスピダ」2(イベント開催中)」にラスティアルさんが現れました。
ラスティアル > 「ああ、ああそうだとも! お前の言う通り! 王国の犬が、何度来ても同じ事!」

 今日の勝利に湧く中庭に、男の声が上がった。使い込まれた革鎧を纏うその男は、黒い角が生えているという一点を除けば完全に溶け込んでいた。酒と勝利と女に酔う男達はこの戦士と肩を並べて戦った経験はない筈だが、夜のふしだらな宴ということもあり、違和感に気付いた者はいなかった。少なくとも、それくらいは完璧な溶け込み方であったとのこと。

「分かった! わーかった! 待ってろ! その辺の……おい! おーい!」

 すっかり出来上がった風な有角の男は、中庭の隅で立ち尽くす女達にがなり立て、よろめき、迷い込むように砦の中へ。そして旅団員の目が無くなった途端、背筋を伸ばして足早に歩きだした。乱痴気騒ぎから抜け出す知己の少女を見つけたからだ。
 廊下に立つ小さな背中に向かって歩く。名前こそ呼ばないが足音を殺す気もない。相手からすれば、無言で名乗っているようなものか。

ティクス > 決してそう遠く離れた訳ではない。
まだ此処まで、喧噪が届いている。
酒に酔った団員達の大笑や。武勲を声高に語る、生身の騎士の勝ち鬨や。
或いは受け容れ、或いは拒んで尚、交わりに蕩ける女達の嬌声などが。
それ等の声を背に受けつつ。やがてどちらかに決めたのだろう。
一歩、階段へと向かって歩み出しかけた――刹那。

「――っ ………!?」

つんのめった。
歩みだそうとした足先に、急制動を掛け損ね、慣性の法則に引っ張られて。
慌てて止まろうとした理由は一つ。
一際大きく、背後から聞こえてきた声に。聞き覚えが有ったからだ。
…ただし。本当ならそれは。此処では、決して聞く筈の無い声。

やがて。遠かったその声に代わり、一つの足音が近付いて来る。
そうすれば、大凡の事情を察したのだろう、額を抑えながら溜息を吐いて。
振り返りもせず、近付いて来る人影へ…

「…もうちょっと待っててくれても良かったんだよ?
ったく…思った以上に無茶しぃだね――ラスティアル」

ラスティアル > 「無茶もするさ。言ったろう。俺はお前に惚れたんだ、ティクス。お前の腕と、度胸と、それから見てくれに」

 指を立てて説明した男は、念のために背後を振り返った。砦の入り口は旅団員が行き来してはいるが、此方を不審に思って様子を見に来る者はいない。堂々とし過ぎているので逆に目立っていない、と信じたい所だ。

「誰かを欲しいと思ったなら、手段は選んではいられないだろう。王国軍と戦っているお前が、何時命を落とすとも限らないからな。最悪の場合、こうして忍び込んで引っさらわなくちゃいけない……ああそうそう、ミレー族の誘拐の話、殆ど謎が解けたぞ」

 男がついでのように話したことこそ、2人の間で取り決めたこと。当面の危険はないと分かったので、少女が見ていた行く先に藍色の目を向ける。

ティクス > 「――――……ご心配どうも。
けど、大丈夫だよ。盗賊ってのは……誰より、生き汚いものなんだから。
兵士より、傭兵より、余程の事がなきゃ――死にはしない、よ」

少しばかり、返答までに間を置いたものの。
相変わらず振り返る事もないまま。やがて傍らまでやってくる男へと、向ける声。
淡々と感情を込めるでもない語調は。
当たり前の事だと思っているのか。或いは当人自身が欠片も信じていないか。
そのどちらかなのだろう。

「――で。そっちは、早いね、流石。
こちとら戦場に出ないといけなかったから、なかなか、調査も進められなくて…
お陰で代わりに、騎士団については。ちょっとだけ、観察出来たけど」

男の仕事の速さに。素直に感心してみせると同時に。
少々対抗心も覚えたのだろう。こちらも、何も出来ていない訳ではないという主張。

結局、先ずは情報交換を優先する事にしたのだろう。
一旦、階段には背を向けて、その場で振り返る。
…幸い此処なら。それこそ、上下どちらから近付く者が居ても分かりやすいので。

ラスティアル > 「その、余程のことが起きるのが戦場だろうが。用があるのは生きてるお前だ。亡骸じゃない」

 死にはしないと言ってのける少女の様子は自信家というより、何か投げ捨てているように感じた。そこに苛立った男は、相手の腕を掴もうとしたが、直前で拳を握る。幾ら紛れ込めたとはいえ、事を荒立てれば見つかる確率はどんどん上がっていく。気をつけなければ。大きく息を吐いて。

「……ミレー族が集められているのは王城だ。で、城には魔術師だとか、魔導機械の技師だかが集まって、攻城魔術の儀式だの魔導兵器だのの開発やら試作やらが進んでる。それで……だ」

 少女が階段に背を向けるなら、男は逆方向を見張る。面と向かうのではなく、背中合わせの恰好のまま言葉を続ける。

「城の魔術師と技師は、女の快楽と絶頂から魔力を取り出す装置を完成させた。それはもう幾つも出来上がってて、実際に……使われてる。と、此処まで分かれば……あいつらの目的は明白、と言って良いんじゃないか?」

 横目で少女を見下ろした。ミレー族や高い魔力を持つ女性を使って何をしているかというのは、一応は秘密裏ということになっている。しかし何分にもこの国の為政者がやること。全てにおいて大掛かりな一連の儀式は様々な状況証拠を残しており、それらから結論を導き出すのは容易い。男の調査があっという間に終わったのも、つまりはそういうことだった。

ティクス > 「…まぁ……何でもアリ、っていうのは。否定しないけど、ね――」

また溜息。ただしそれは、男へと向けた物でも…自分に対してでもなく。
同意せざるを得ない、戦場感という物に対してなのだろう。
振り返れば、こちらに伸ばされ、中途で止まっている男の手。思わずぱちりと瞬いてから。

「…そっか。……そうか、そうか。…なるほどね……」

男の説明は解り易かった。
学のない少女にも解るのは…例えば。この砦にも、防衛用の魔導兵器という物が存在するからや。
それを動かすには魔力が必要であるという事や。
…普通の人間よりもミレー族の方が。魔法などには長けているらしい事位は。
経験則として識っていたからだろう。
幾度か、途中で同意の頷きを挟みつつ。一区切りまで聞き終えて。

「わかった。……うん。わかった、よ。
しかしそうなると――尚更、嫌な予感がしてくるな…ぁ……」

再び、背を向けたものの。渋い顔をしているという事は。きっと、声だけで伝わるだろう。
…次は自分が話す番。その前に一呼吸。

ラスティアル > 「嫌な予感どころじゃない。奴らは、お前達を攻め落とす手段を、最も手厚く守られた場所で大事に抱え込んでるんだぞ」

 自身の目当ては2つしかない。暁天騎士団団長クシフォス・ガウルス卿の顛末を知ることと、ティクスという少女を手に入れることだけだ。そんな男にとって、現状は危険過ぎるどころか「詰み」の様相を呈していた。

「儀式を妨害するにせよ、兵器を破壊するにせよ、お前達は王国軍と真正面からぶつかることになる。戦う度に、な。それでも旅団に居るつもりなら、こいつらと一緒に戦うつもりなら、俺にも考えがあるぞ?」

 対抗手段を模索しているような声音を耳に入れた男は、腕組みして少女の横顔を見つめた。人を得ようとする時は真っ向勝負を挑むべきと思うが、美学に拘って機会を逃すつもりはないのだ。

ティクス > 「…その前に。こっちの話も聞いてから、ね」

相手の意図は分かっている。…勿論、今までの言葉を全て、真っ正直に受け止めて良いのならだが。
その上で。待てと言うように、片手をひらりと振ってみせる。

確かに「詰み」であるのなら、相手の言葉を聞くべきかもしれないが。
情報交換を約束したのに、一方通行にこちらが情報を得るだけで終わってしまうのも、何というか…据わりが悪い。
それに。本当に「詰み」かどうかを判断するのは。まだ早いと思うのだ。
何故なら…

「先にこっちの話も聞いて。

――先ず一つ目。残念ながらクシフォス本人については、分からないんだけど――
その下に居る『暁天騎士団』の『騎士』について報告しなきゃ。

…結論から言って、『人間じゃない』。
討ち取られても蘇ってくる、鎧だけが動いているって言う奴も居る。
……なんだっけな、死霊を操る魔術みたいだって。そういう話も聞こえてくるね。

そして、術っていう事は。…当然、それを行う術士が居て、それを補う魔力が必要って事になる訳で」

(また、一息。一気に喋り過ぎている為に。
けれど、言葉を止める訳にはいかない。――「嫌な予感」はこの先なのだ。

「この砦にも、ミレー族や魔族が連れ込まれてる。自分から加わったり、掠われてきたり、色々だけど。
そして。此処にも色んな兵器が存在するし…死霊術なんていう得体の知れない物も広がってる。

多分――私達団員には入らせて貰えない、ずっと奥で。

つまり嫌な予感っていうのは――どっちも、同じような事をしているって話。
下手をするとどっちも潰し合ってお終いになるかもしれないような…ね」

ラスティアル > 「いいや!俺の話はまだ……」

 声を荒げかけ、すんでのところで口を噤む。少女にはとっくにお見通しだろうが、この男は聞き分けが良いように見えて、一度決めたことはまるで揺るがさず、強引で、独善的といって良い気質の持ち主だった。それこそ、お伽話に登場する貴族のよう。
 だがともあれ、今回は踏み止まった。首肯を交えつつ、少女の話に耳を傾ける。初めの内は何時遮ろうか、何時自分の話を押し通そうかとばかり考えていた男だったが、少女の推論を聞き終えた後はとてもそんな気になれなかった。零れた吐息は、震えてすらいた。

「死霊術……ガウルス卿は、ついにそこまで……いや確証がないのは分かっている。俺の方だって半分当て推量だ。だがそれでも……ティクスの説明は、筋道が通っているように聞こえる」

 ガウルス卿の『騎士団』の精強さは、戦場に出ない己でも知っている。決して疲れを知らず、決して過たず、最良の時機に最良の場所に投入され、その都度多大な戦果を上げる。
 そして何より、出ずっぱりにはならなくとも、損耗しない。一騎当千の騎士たちは、倒されても補充されるのだ。しかも、甲冑のみが遺されるという話さえも聞かれる。そうなると、少女の話はがぜん真実味を帯びてくる。

「そうか……良く教えてくれた。墓前で報せるには足りないが、とにかく……前進だな」

 先程よりもずっと大人しくなった男が、自分の額の角を触る。もう一度、大きく溜息をついた。言葉とは裏腹に、男は少女からもたらされた情報を歓迎できなかった。

ティクス > 納得した――という訳ではないだろう。
彼のような男なら尚更の事。
それでも、一旦口を噤み。そして最後まで聞いてくれた。
だからこそ、此方から振り返り。す、と軽くだが頭を下げてみせてから。

「…もちろん。そっちのいうガウルス卿っていう人は。魔術士じゃぁなかったんだろうから。
当人が自分の部下達を、死んだ後もこき使っているとは思わないよ。
――寧ろ、騎士達も、団長自身も、二年前に死んだ筈だっていうのなら――…」

いや、と首を振って。その先の言葉は飲み込んだ。
言うまでもなく伝わるだろうと思うし…それでも、尚。
直接口にするのは、憚られる程に。男の様子は明らかに動揺を見せていたのだから。

寧ろ少女自身の方が。落ち着く為に、深呼吸を挟んでから。

「使い道は違っても…魔力の糧を集めていて。それを使って、何かを企んでいる。
残念だけど――貴族様も盗賊達も。根っこは同じ人間って事なのかも――ね。

…言っておくけど。勿論、其処らの盗賊に。そんな魔術が使える奴なんて居やしないよ。
そして二年前にも存在しなかった。だから――――」

推論の、続き。
それを行っているのはきっと、二年前…一旦壊滅した旅団にも、勿論暁天騎士団にも、存在しなかった者達。
そして古株の団員である少女にも見当が付かない、面識の無い存在。
だとすれば、可能性は限られてくるのだが――残念ながら其処までだった。

階段を上った先に居るであろう者達に関しては。
本当に、何も知らない。
いや、今まで、知ろうと考える事すら無かったのだから。

ラスティアル > 「旅団にも騎士団にも使い手がいなかった死霊術か。これは俺も名前を聞いただけだが、北方帝国の……シェンヤンに、それを得意とする奴らがいるらしい。尤も、あっちは魔術師じゃなく、道士だとか妖仙だとか、呼ぶそうだがな……」

 その辺りは知識がある訳でも、自分で調べた訳でもない情報。よもやま話の域を出ない。しかし、重要な示唆は得られた。クシフォス・ガウルスも彼の暁天騎士団もすっかり変わり果ててしまったというのは、殆ど間違いないだろう。

「お互い似た力で似たことを企んで、最後は潰し合いか。戦争に綺麗も汚いもないから、そういうことになっても驚かないな。旅団の頭目に話を聞きにいくのも良いが……恐らく、帰って来られないし」

 階上を見上げ、息を吐く。その後少女へ向き直った。

「……実は、さっき考えがあると言ったのは、これに関係がある。お前は旅団の中で下っ端なんだよな?だったら、此処を少しばかり長く離れても……問題は無いんじゃないか?」

ティクス > 「流石に、余所の国の事までは分からないけど――外的要因が、事態を大きく動かしている。
それだけは間違い無いんじゃないかな――」

…ひょっとすると。周りの者達誰もが、顔も知らないという、旅団の偉い人達は。
そういう所と繋がりが有るという事なのだろうか。
だとすると、騎士団と同じく、旅団も喰い物にされているだけなのかもしれず…実に嫌な話だった。
相手に説明する為、改めて自身の中で整理した情報に。
どう考えても嫌な結論をしか出せず。ぐしぐしと苛立たしげに頭を掻いて。

「…だね。流石に、お薦めしない。本当に旅団の頭目が居るのなら良いけれど、もしかすると…
そんな枠に収まらない誰かが。此処には居るって事なのかもしれないから」

何もかも準備不足。いや、例え何を準備したとしても…この先には。触れない方が良い気がする。
丁度タイミングを合わせたかのように、男と同じく溜息を吐いてから。
向き直った彼と真っ直ぐに重なる視線。

先程途中で遮った言葉の続きは。矢張り、想像した通りの物だった。
髪を梳き掻く姿勢のままだった指の下で。少しだけ瞳を細めれば。

「言いたい事は分かるよ。…物好きだと思うけど、欲しいモノを手にしたいっていうのなら、ね。
――けどそれは。…同じ下っ端の仲間とかさ。そういう、私にとっての親しい人、近しい人達を。見捨てる事になるんだ……よ」

彼が言う「少しばかり長く」は。きっとそれこそ、戦に区切りが付くまでになりかねない。
それは少女自身にとって、「少し」とは言えなかった。
…少しだけ、困ったように微笑んで首を振る。
「本当にほんの少しなら良いけどね」、などと付け足す言葉は。
男へのフォローかもしれないし…念押しなのかもしれず。