2020/06/30 のログ
ラスティアル > 「案外、お前の居場所だった筈の血の旅団は、中身も頭もごっそり変わってるんじゃないのか? 末端が知らないだけで」

 純粋な予想と、僅かな願望を込めた言葉を苛立った様子の少女に向ける。彼女から聞いた限り、旅団が少女を正しく扱っているとは思えないのだ。だからこそ、こうして執拗に訴えている訳だが。

「いや! いや、いや、そんなことは言わない」

 見捨てるという発言には、慌てて頭を振る。旅団からも王国からも遠くに逃げていよう、ということは……言いたくなかった訳ではないが。幾ら男でも受け入れられないということは分かる。少女の前で手を振ってみせた。

「俺が言いたかったのは……下っ端で、此処を離れても問題ないからこそ、2つ目の身分を持つべきじゃないかと思ったのさ。たとえば冒険者なんてどうだ?」

 冒険者、要は武装した流れ者について提案した男は、更に言葉を続ける。

「さっきの俺の話を聞いてなお王国と一戦交えようっていうなら、相手をより近くで観察して、隙を見つけ出さなきゃいけない。少なくとも、此処に篭もったり、城壁の上から寄せ手と睨み合っているようじゃ……勝利は覚束ないよな。どうだ?」

 笑みを見せた男は、そう言って小首を傾げた。

ティクス > 「――残念だけど、きっとそうなんだろう…と。改めて思ったよ。
けど…手足はその侭なんだ。変わっていない所も多いんだよ、二年前から何一つ」

こうして、どれだけ相手との距離が詰まっても。それは最近の出会いであり関係であって。
長い間雌伏の時を過ごしてきた、同じ盗賊達や…一緒に拾われ育って来た同年代の青少年達などは。
どうしても、付き合いの長い分、優先してしまう間柄。
だから、例え男にそういう意図は無かったとしても。聞きようによってはそう捉えかねない言葉に対し、首を振って。

一旦拒絶した後に。改めて、彼のフォローを聞けば。

「……あぁ。難しい事を言う、なぁ――私達は盗賊だ。
誇りを持っている訳じゃないけど、それ以外の生き方が出来るとは思えない。
…なんて、この前。王国の偉い人に啖呵を切ったんだけど、さ。

――――いや。…いや待って。いける?もしかして…いける?それ」

自分にとっては手痛い敗北の記憶なのだが…それで、思い出した。
あの時ゾス村で散々に犯された後。…野盗に襲われていた冒険者、という偽りの下で、駐留する王国軍に保護された。
だから彼処なら。改めて冒険者を偽るには、丁度良いのかもしれない。
――あの時奪われたと言えば、身分証も作れるかもしれない、し。

「……けど、本当に――国の為とか、そういう事では動かないんだ?
分かってるんだろうけど、そっちの言ってる事って擁するに――」

スパイになれ、そう、きっぱり言い切られているという事だ。
あまりにも極端で、大胆で。思わず苦笑してしまう。

……とはいえ。こうして王城地下で行われている事を聞き、この砦の内情を話し…
とっくの昔に、所謂ダブルスパイの状態ではあるのだが。

ラスティアル > 「この国にいる冒険者の内、盗賊その他罪人と縁が全く無い奴が、一体どれくらいいると思う?」

 笑みを保ったまま、男は粘る。冒険者と言えば聞こえは「多少」良いが、要するに流れ者、無頼の徒だ。それこそ、賊と区別できないような行いに手を染めている者も少なくない。

「下っ端ってのはこういう時に上手く働くもんだ。怪しまれそうになったらこう言えば良い。嗚呼確かに、旅団には居た。けれど自分の意思じゃない。顎で使われるのは飽き飽きだって……それか、奴隷にされそうになったところを逃げ出したとか、何だって良い。その場しのぎの嘘は幾らでも思いつく」

 男の舌は、こういう時、特別良く回る。それこそ欲するものの為ならば、閃きなど溢れ出るものだ。考え方を少しばかり変えたらしい少女に言い募る。

「俺が今、忠誠を誓っているのは今は亡きガウルス卿の友人とお前、ティクスだけだ。この国の為に働くなんてつもりはさらさらないし、お前にそうして貰いたいとも思わない。現に、俺は王国側の計画を聞かせたろう? それにお前だって、余所者の俺に血の旅団の内情を話してくれたじゃないか」

 少女がうすうす考えていることそのものを言ってのけた男は、笑いながら肩をすくめる。

「俺は何でも屋だが、冒険者の連中とも付き合いはある。あいつらは冒険者の為の身分証なんてのも持っているらしい。なあ……此処はひとつ、胡散臭い連中の皮を被って敵を騙してみないか? 勿論、俺も力を貸す」

 結局言いたいのは最後の一言である。笑みを深くした男が、少女に手を差し伸べた。

ティクス > 「――少なくとも、今目の前に。
王国を脅かす盗賊団の一員と手を組もうっていう、稀代の大悪党が居る…かな?」

当然そこは人による、善し悪しなのだろうとは思うものの。
今の所、少女が一番良く知っている「冒険者」は、この男だ。
其処を判断基準にしてしまうと、相手の言葉には、頷かざるを得ない訳で。
…ぺしぺしと男の二の腕辺りを軽く叩きつつ。思わず苦笑い。

「あぁまぁ…そうだね。その辺は間違い無く、嘘だ。
本当の事と逆を言えば良いって事だから、簡単にぺらぺらと喋れそうだよ」

それでも矢張り念を押す。
怪しさ満載の「上」はともあれ、横並びの同じ盗賊達に関しては。悪く取る事は許さないと。
逆を言えばそれは、自分達を利用している可能性の高い、「上」に関しては。
味方をする気はないという宣言でもあって。

「冒険者の身分証。…偽造…かな、手に入れられるかも。ちょっと、アテが有るし。
その上でさっきの話――他の人間にまで気安く喋る気はないけど、一部分だけでも喋ってやれば。
まぁ、上手い事潜り込めるかも、ね。
今の王国軍には、冒険者とか傭兵団とか、色々、混ざっているみたいだし」

幾度か戦った傭兵の事なども思い出す。
あちらにも、約束している事が有るので。身分を偽ればより上手い事近付けるだろう。
…そちらも含め。複数の情報筋を手に入れるというのは。決して悪くない筈だ。

「―――まぁ私は…忠誠を誓う、だなんて。騎士様みたいな事は言わない。
あくまでも、同胞とか、仲間とか、そういう人達が。私にとっては大事なんだ。

…ラスティアル。どうやら其処に、あんたも含めて――ね」

折れた、と言うと。格好悪いので黙っておくが。どうやら、概ね…男の提案に。乗る事となりそうだった。

ラスティアル > 「まあ、必要なことをやるだけだ」

 大悪党、と指弾された本人は、悪びれた様子もなく鼻を鳴らした。野心の前では、善悪なんて些細なものだ。特に男にとっては。

「……そうだな。嘘ってことにしよう。とにかく、説得力のある嘘なんだからな。お前と肩を並べている連中はともかく、お前をこき使う奴らは……気に入らない。まず間違いなく、人を見る目はないしな!」

 やはりというか、根に持っていた。バフートであれほどの腕を見た後で下っ端と言われてしまえば、少女を手足どころか爪の先同然に使い潰そうとしているような連中には怒りしか覚えない。

「心配するな。王国軍……というか王国側の規律が乱れ切っているのは、お前らが引き上げた後のゾス村でこれでもかってほど思い知ったよ。保証する。あそこに妙な冒険者が1人混じったとしても、絶対に気付かれない」

 この場で会っていない傭兵について、男は知らない。だがどうやら、少女の意思に多少なりとも変化はもたらされたようだった。

「なるほど!まずはお友達から始めましょうってことだな。嬉しいよ、ティクス」

 にたにたと笑う角持つ男は、そう言って片膝を突いた。そして少女が許すなら、腕をとって手の甲にキスしようとするだろう。ともかく、こちらも前進と言えるだろう。おしなべて言えば、気分の良い日だった。

ティクス > 「………ふぅん。例えば?」

少し調子が出て来た。色々と分かった事柄によって滅入り掛けていた気概が戻って来た。
そのせいなのだろう、少々からかうかのような物言いと共に。
男の払う代償について、下から覗き込むようにしつつ、首を傾げてみせなぞして。

「上の無茶振りが気に入らないっていうのは、何処も同じなのかもね。其処は流石に否定しないけど。
…けど………まぁ機会が有れば。私と同じ位の奴等とかは、大目に見てやって。
悪い奴等だけじゃなかった、……でしょ?」

そう問い掛けてみせるのは。先程彼が、中庭で大勢の団員達と話していた。それを忘れていないから。
宴で盛り上がるような、それこそ下っ端の者達の中には。
無論悪辣な者達も多いだろうが、そうではない、からっとした気っ風の良い者達も大勢居た筈と。

但し少女の方も。頭ごなしに男の言葉を否定する事はなくなった。
…こきつかわれる云々とは別だが。上層部が怪しい。それはもう、あきらかな確定事項となってしまったのだから。

「そこは同じく。あの村じゃぁ、まぁ――酷い目に遭った、し。
けれどそういう場所だからこそ。そうだね、潜り込んでみる」

改めて頷いてみせる。何もない所からではなく、心当たりが有るというだけで。一気に可能性が見えてくるのだから。

さて。そうとなれば準備を始めなければいけない。考え込み始めた所で、ふと、男によって手を取られ……

「―――― ……? 」

首を傾げた。申し訳ないと言うか何というか。無学な盗賊に、手の甲への唇の意味など。知る由もなく。
…もし、後からそれを教わる機会が有ったのなら、少し、感じ入る事になるかもしれないが…取り敢えず、今は。

「何というか、そうだな――お互い企みを抱えてる、悪い仲間同士でもある、ね。
………さっきはこっちが言われたけど。仲間、友達、であるのなら…返すよ。
ラスティアルも、この先――…気をつけて。油断しないで。

…友と呼べる人間くらいは、死んで欲しいと思わないから――ね?」

手を離し。一歩、二歩、歩き始めて…すれ違い際。
同じキスという行為でも、ずっと一般的で、少女ですら良く知っている行為として。
掠めるように、けれど確かに、男の頬へ。唇を触れさせていった。

――ここから。色々変わる事となるだろう。
新たな役割。新たな偽装。…新たな目的。……そして何より新たな同志。
戦が膠着状態に在る今の内。次の一手を見越して動き出す。

ラスティアル > 「例えば……惚れた女を攫う為に、盗賊団の本拠地まで押しかける、とか?」

 下から覗き込まれた男は、しれっと言ってのけた。今日は忍び込んだが、真正面から行く覚悟もあるんだぞ、と。

「そうだな。……まあ、ティクスが此処から出て行きたがらない理由が分かったよ。少しな。ほんの、少しだ」

 少女に言われ、宴会での出来事を思い出した男。左手の親指と人差し指で僅かな隙間を作って見せつつ、首を縦に振った。下っ端を悪と断じ、ただただ排除して少女を連れ去ろうという気には、流石にもうなれなかった。その反面、旅団の問題にかかわろうという気持ちはより強くなったのだが。

「心配するな。俺の腕は知ってるだろう?それほどの余程のことが無い限りは」

 男の大言壮語は、頬への口づけで消え去った。背筋をぴんと伸ばし、唇が触れた所にさわろうとして思いとどまる。小さく笑い、少女に対しおどけてみせる。

「……悪巧みの仲間、か」

 独りごち、得心顔で頷く。考えてみれば、初めて少女と出会った時から随分変わったものだ。一方的に彼女を救い出すとばかり思っていた己が、今や王国と旅団の内情について探ろうとしている。大変な変化と言えるだろう。
 そしてこれはきっと、良い変化である筈だった。

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ご案内:「◆城塞都市「アスピダ」2(イベント開催中)」からラスティアルさんが去りました。