2023/02/04 のログ
ご案内:「◆城塞都市「アスピダ」(イベント開催中)」にノイアさんが現れました。
ノイア > 昨晩から降り続く雪は、夕刻頃から吹雪となった。
陽が沈みはじめると同時に一気に冷え込んだ山間部へ吹き込む強い風が粉雪を舞い上げそこに在るもの全てを一瞬で真白へと染めていく。吼えるような風は僅かにあった日の暖かさを奪い合う獣の様に激しくぶつかり合い、複雑な気流がその叫びを山間へと届けていく。
そんなもうすぐ視界さえおぼつかなくなるような環境にいくつかの人影があった。吹雪に隠れるように城塞の一部から出てきた彼らが歩き初めて既に半刻ほどが経っており、時折弱くなる吹雪の合間に見える城塞を元に彼らは戦場を歩いていた。目を凝らし、近くを歩く仲間を見失わないように、けれど誰かに察知されないように声は上げず、彼等は何かを探して歩き続けていた。

降りしきる豪雪は視界を奪い、吠えるように吹きすさぶ風は数歩前の足跡すら拭き消し方向感覚すら失わせる。十分な防寒をしていても染みるような寒さは大規模な戦闘は愚か、その辺りに留まる事すら許さないほど。並みの人物では直ぐに視界を失い野に転がる凍死体となる。そんな中を歩く彼等はそうならないだけの経験と知識を持つ者であり、吹雪と薄闇の中で僅かでも情報を集めることを期待されている者達である。それでも忍び寄る寒気は彼等を陰鬱な気分にさせていた。そろそろ帰還の時間も迫っている。完全に吹雪と暗闇に閉ざされてしまえばそこから先は徒歩での情報戦は終わり僅かな休息の時が訪れる。その時間への期待を慰めに、彼等は黙々と歩き続けていた。あるものは寝所に隠した酒を想い、あるものは人肌で凍えた四肢を温めることを夢想しながら歩を進める。

そしてその願いは唐突に断ち切られることとなった。

彼等の意識外、吹雪の上空から小さな人影が落下してきていた。
僅かな光と共にその人影の背後に浮かんだいくつもの巨大な銀剣が得物を定めた猛禽の様に眼下の影へと殺到し、最後尾の二人が声を上げる暇も与えず四肢や頭部を切断しながら地面へと縫い付ける。
同時に雪の巨人が握り込んだように重ねたように、大量の雪が押し寄せ前方の二人を巻き込んでいく。
固められた雪は重く、固い。強風の中、音を吸う雪によって恐ろしいほど静かに一瞬で作り上げられる氷牢は身動きはおろか、叫び声すら上げる事を許さない。一瞬後その少し離れた場所にその術者が音もなく着地した。

地に臥せるような姿勢の両手に握られているのは小柄な身の丈を優に超える巨大な斧槍。
細剣を軸に半透明の青鉱石のような物で生成されたそれをその持ち主は全身で巻き取る様に叩きつける。
目視するのも難しいような美しいその刃は嘶くような風切り音を立てながら僅かな燐光と紅い線を伴って弧を描いた。
竜を相手に想定した切れ味と質量をもつその刃は鎧に包まれた人など容易く両断し
自らが何に襲われたか気が付くことすらできず両断された兵の鮮血とうめき声に似た小さな断末魔が圧縮され両断された雪塊をじわじわと朱に染める。