2023/06/25 のログ
ネメシス > 「あらら、それなら今のうちに潰しておきましょうかしら。」

まだ、の言葉にネメシスは笑いながら返す。
表情や声色に余裕は浮かべているが、この手の相手を放置した結果が今のアスビダのようになることも知っている。

「へえ~~、それまた随分と強気に出たわね。
魔族だから世間を知らないのかしら?」

自身を犯せるかどうかはともかく、その気になれば供の兵たちを皆殺しにはできるかもしれない。
ネメシスもその点は危惧していた。
だから最初に前に出たのだ。
そして兵たちの表情には多少の恐怖が浮かぶ。
尤も、ネメシスの手前ざわつく様な真似はしなかったが。

「貴女と違って破滅願望がないだけよ。
王国とはうまい事やったほうが実入りがいいからね。」

少女の挑発を受け流しつつ、様子を伺う。
剣を抜くのは簡単だが、タイミングを探っているといった所か。

ユンジェン > 「はて、それはおかしなことを仰いますね……破滅願望、だなんて」

見上げながら、あざとく、頬に指を当てて首を傾げてみせる。
そうしながら少しだけ足を前に出す──間合いを詰める。
長柄の間合いには、当然だが近すぎる。剣の間合いとしても近い。言うならば、徒手空拳の距離となるまで。

「破滅願望と言うのはつまり、負けると。負けて、死ぬか、死ぬより恐ろしい目に遭うと。
 王国を敵に回せば、そのような末路が待っていると判断した──ということでしょう……?
 ……ふふ。どこに〝強敵〟がいるか、ちゃあんと分かってるんですね……」

ことさら甘ったるく幼げな声で、挑発的な言葉を吐き続ける。
武器も拳もまだ奮ってはいない。が、これは戦いであると、少女は認識していて、

「──ちなみに。実入りというのは、お金ですか? おいしい食べ物? ……情欲を満たすもの?」

歩を進める、とまでは言わない。じりじり、音を立てない摺り足で、短くも長い距離を詰めていく。

ネメシス > 少女のわざとらしい仕草をじっと眺めるネメシス。
人の身では強い方であるが、油断は禁物。
ましてや相手は魔族。何をしてくるかわからないのだ。

それにしても、随分と近づいてくるなと思い僅かに距離を取る。
同時に剣を抜く。
斬るには狭い間合いでも最悪突くことはできるのだから。

「貴女と違って世間を知っているからね。
私程度の腕利きなんて王国にはたくさんいるのよ。
貴女もそれを知ってるから軍勢が欲しいのよね?」

少女の雰囲気から、いつ仕掛けて来てもおかしくない。
さてどうしてくるか。
ネメシスは両の手で剣を構えつつ様子を伺う。

「その全部よ。 だから私はわざわざ自分が住んでる国を潰すなんて真似はしないの。」

足の運びから少しずつ距離を詰めようとしていると判断。
ネメシスは剣の先を少女の腹へ向けて突き出す。
様子見程度の刺突。
何かあれば直ぐにでも引くことができる程の。

ユンジェン > 「私が欲しいものは──」

白刃の閃きを見た。直線的な刺突。……斬撃であれば、背後の巨木を打たせて剣を止めることもできたが。
後方に退路は無い。斜め前方に大きく踏み出して避けた。
突きの小さな予備動作では、懐に潜り込むには至らない。位置関係は変わったが、距離は詰められぬまま。

「──駒の数です。どれほど強い魔族であれ、ひとりでは小村の支配すらできない。
 手駒となって働くものがいなければ、統治できるのは、己の得物が届く小さな範囲のみ。
 だから、私は……強い雄が、強い雌が欲しいのですが……しかし、あなたは……」

ハルバードを掴む手指に力が籠もる。穂先が地面から浮く。
柄の中程を掴んだままなのは、短く、取り回し良く扱う為。

「……自分自身で覇を唱えよう……という気は、ございませんか……?」

ネメシス > 牽制で出した刺突だが、上手く躱される。
ハルバードを使うことから膂力は想像できるが、身のこなしも良い様だ。
距離を掴まれなかっただけでも刺突の効果はあったかもしれない。
実際、インファイトとなるとネメシスの分は良くないだろう。

言葉を続けながらも斧槍を短く持つ少女。
会話はするが、決して膝を居ることはないとの意思を感じさせる。

「なに、私に何かして欲しいわけ?」

初めから少女に興味を持っていただけに、提案されると耳を傾けてしまう。
そもそも見た目が整っていて、力もある。
おまけに魔族に対しての嫌悪感もない。
この遣り取りも心の中では楽しんでいるのだ。

ユンジェン > 暫し、無表情のままで思考する。
位置関係が変わり、背後の盾であった巨木に頼れなくなった。囲まれる可能性が出て来た。
故に……先程までとは逆。後方に数歩、足を動かす。
間合いを拡げながら再び口を開いた時は、声の甘ったるさを消して、

「──いえ。今はまだ、何も」

一度、言葉のやりとりを、にべもなく打ち払い──間髪入れず、次の言葉。

「強者を求めている、ということであれば……あなたも、強者の自負を持つ方……かと、思ったのです。
 で、あれば……〝おしおき〟も悪いものではない、か……と考えていたのですが……。
 ……あなたは変わらぬ現状を望む方の様子──もし、もしも」

〝もし〟という言葉を、二度重ねて発する。
ちらりと見たのは、遠くアスピダの方角。炊飯の煙はもう収まっている。

「あなたが〝私こそ最強だ〟と嘯けるような方であれば……恋心など、抱いたやもしれません、ね」

ネメシス > 二人を囲むように展開している兵たちも弱いなりに状況判断に長けている。
位置が変わるとそれに合わせて馬を動かす。
片手には槍を携え、面持ちは緊張したまま。
単体では勝てないことが分かっているだけに包囲の維持に余念はない。

「なになに、私が覇王でもめざしてれば喜んでついてきたってこと?」

少女の言葉はネメシスの心をざわつかせる。
かつてはそんなことを考えたこともあったが、今のネメシスは現状で満足している側。
それに腕に覚えはあれど最強だと口にすることはないだろう。

「それは悪かったわね。
でも私は自分が最強だという気はないわ。」

少女の欲する者にはなれなそうなので思わずため息。
少女を孕ませ、魔族の血を継ぐ子を産ませることに期待はしていたのだがどうやら無理そうで。

ユンジェン > 「いいえ、いいえ。……もしあなたに覇を狙う気概があれば──討ち果たして従えようかと。
 或いはそれで私が負けたら……ふふ、膝を折るのも一興、ではあったのでしょうが……。
 ……上手くやるだとか、世間を知るだとか。無頼なようで、あなたは妙に……現実的なことを言いますね……」

間を空けた。ハルバードの柄の、端を掴む。
膂力と速度に任せ、最大の攻撃範囲をなぎ払える位置。明らかな攻撃の予備動作。
……それでも尚、もう一度。言葉の槍を投げつけて。

「……程よく打ち倒せそうな強者を探し回るより……強く、なってはみませんか。
 今は、あなたの兵が惜しい。……加えて言うなら、飼い慣らされているあなたの気性も。
 王国には勝てぬと諦めるよりは……勝つ術を探す方が、きっと……たのしいですよ……?」

ハルバードを片手に、もう片手は──手招きをする。

「金も食も快楽も、勝って奪い取るほうがきもちいい。兵ごとこちらにおいでなさい……ネメシス、さん」

ネメシス > 「まあ、色々あってね。」

現実的と言われ、思わず苦笑する。
弱いとか強いとか言われるよりも遥かに言葉に困ってしまった。

そうこうしているうちにまた距離が開く。
長柄武器の威力を最大限に発揮できる間合い。
いよいよ来るかと思ったネメシスだが、実際に振るわれることはなく。

「え、何。 勧誘?」

人を雇うことはあっても今更誘われるとは。
少女の言葉にネメシスの心は揺れる。

「今更私に夜盗暮らしにもどれっての?
貴女こそ私の元で働いたら?」

楽しそうな提案ではあるが、根無し草にはなれない。

ユンジェン > 「夜盗のような生き方など、せずともいい。……別にダイラスだの、ラディスファーンだのをいきなり落とさずとも。
 小さな街のひとつかふたつも陥とせば、それでもう、一国一城の主でしょう……?
 ……国に守られる立場が惜しいなら、しかたがないでしょうが……欲しいものは手に入る。
 兵が増えれば、より大きな街、大きな都市……より多くの宝物、人間が手に入る──」

また少し、間合いを遠ざける。
ハルバードの間合いにしても、遠い。いずれかが駆け寄り踏み込めば、ようやく刃が届くだろうか。
その距離で少女は、変わらず手招きを続けながら、最後の問いを投げる。

「──私は、あなたの家臣にはなれません。首輪で繋がれた者が、誰の主になれるでしょう。
 その首輪、緩めてあげます。……こちらに来なさい。人間相手の略奪は全て、これを許可します。
 選べるのは、今……だけです、よ。王国の飼い犬のまま終わるか……狂犬となるか……」

ネメシス > 「う~~~ん。」

なんだかすっごく魅力的なことを囁かれてる。
ネメシスはそう判断してしまった。
色々あって今ではれっきとした侯爵の身分だ。
だがそれで満足しているわけではない。

魔族ってのは人に悪い事を教えるのが上手いなあ。
ネメシスは迷いつつ、少女に問いかける。

「ねえ、魔族相手への略奪はどうなるのかしら?」

少女が言う狂犬になることに抵抗はない。
だが、それなら魔族相手にも略奪をしないと意味がない。
でなければ首輪で繋がれた先が変わるだけだ。

ユンジェン > 魔族相手への略奪──問われてみると、なるほど。
少女自身が魔族であるためか、検討はしていなかったが、考えるべき事項ではあった。

「……ふむ」

手招きをする手が、顎まで引き戻された。
顎に手を当てて首を傾げ、何かを検討するように視線を虚空へ飛ばし──

「──構いませんけど、魔族の国まで攻め込むの……遠いのでは? というのが、ひとつ。
 王国近辺の魔族拠点はさほど多くないし、戦いは愉しめても実入りは少ない。 というのが、ふたつ。
 私が獲った土地で略奪なんかしたら、全力で潰します。 というのが、みっつ。
 ……総じて、〝好きにすればいいけど、本当にそうしたいですか……?〟というところ、ですか──」

尤も。と言葉を継いで、顎から手が降りる。

「王国領が全て魔族のものとなれば、必然、魔族から奪うしかない……ので。
 その時には、遠くもなく、実入りも多く、なるのでしょうね。
 ……ちなみに現状であれば、山賊街道沿いの小都市・村落あたり狙い目かと」

ネメシス > 「そりゃ身内の領土で暴れるつもりはないわよ?
でも、魔族相手でも必要があればやっていいってのならいいわね。」

地理的な問題もあるので今すぐ魔族の国に攻めることはないだろう。
要は少女の真意を測りたかったわけで。
ネメシスは少女の返答に満足していた。

「山賊街道なら昔使ってた拠点があるわね。
いいわ、面白そうだし貴女の話にのりましょうか。」

となると慕っている者達を連れ出す必要がある。
どこか手ごろな小都市を落としてしまうのが手っ取り早いか。
ネメシスは剣をしまい、ほくそ笑んでいた。

ユンジェン > 「山賊街道を掻き回せば、ダイラスへの流通経路が一つ潰れる。
 ゾス村からアスピダへの経路が消える上に、タナールへの支援も牽制できる。
 あの近辺に〝こちら側〟の拠点が複数できれば……さぞ、愉快なことになりましょう……ふふっ」

ひょうっ──と風斬り音を鳴らしてハルバードを頭上で旋回させ、刃を地上に向け、降ろす。
そうしてまた始めと同じ、穂先を地面にめり込ませた姿に戻った。

「……私も、ダイラスの北方面の小村を獲ります、が。
 獲ってしまうまでは王国領。つまり、どれだけ荒らしても──まぁ、良し。
 寧ろ、酷く荒らせば荒らすだけ、征討の軍も強くなりましょう」

空に視線を飛ばし、アスピダの方角を見た。
あれを陥とすのは──今は無理だ。力を蓄えた後は知らないが。
それでも、一度この目で観ておきたいものだと、一人、ふらりと歩き始めて。

「ああ。……お行儀のいいあなたより、今のあなたの方が好きですよ」

去り際、振り返ってそう言った。

ネメシス > 「やれやれ、とんでもないのが居た物ね。」

口ぶりからすると、どうやら本当に独自の勢力を築くようだ。
王国でもアスピダでもなく、魔族ですら場合によっては襲う。
本格的な国盗りに身震いしてしまう。

「最終的にはアスピダが欲しいの?
何がそんなに興味をそそられるのかしら。

…そう。 それは嬉しいわ。」

久方ぶりにできた知己はどうやらかなりの性悪で。
これからの展開に興奮しつつ、少女を見送る。
何せ失敗は出来ない。
準備は念入りに行わねば。

ご案内:「九頭龍山脈 山中」からユンジェンさんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山中」からネメシスさんが去りました。