2022/10/16 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にエリーシャさんが現れました。
■エリーシャ > 深更の夜――――――闇に沈む街道を、単騎、戦場を目指す娘の姿があった。
葦毛の馬に跨り、ひとり夜道を往く、漆黒の軍装の娘。
もう少し、あと、半時もかからず辿り着ける筈。
しかし不意に愛馬が鋭く嘶き、快調だった走りが滞る。
白い歯を剥き出し、娘が鞭を当てようと、頬を叩き撫でて宥めようと、
一向に動こうとせず、その場に留まろうとする。
怪訝そうに顔を曇らせつつ、娘は馬から降り立った。
治療の甲斐あって包帯のとれた右腕を伸ばし、愛馬の背をそっと叩きながら、
どうやら怯えているらしい、その顔を覗き込んで。
「どうしたの、ヴィー……何が怖いの」
白く翳む呼気を弾ませ、周囲に視線を巡らせる。
生い茂る木々のざわめき以外、物音も聞こえないが、
特別繊細で怖がりだと言われる生き物が、これだけ怯えているのなら。
近くに山賊でも潜んでいるのか、それとも、
「――――… なにか、居るの?」
向かう先に何か、わるいものが、おそろしいものが。
もしもそれが魔に属する存在であるならば、むしろ娘には願ったりである。
なおさら駆けつけてゆきたいが、手綱を引いてみても、
愛馬は頑として動こうとせず、娘は溜め息を吐いた。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にクレイさんが現れました。
■クレイ > 「ハッ勘のいい馬だ」
そんな声が聞こえる。ゆらりと木の影から現れるのは1人の男。両腕にロングソードを装備した1人の男。
しかしその全身は既に傷だらけ。腹部には大きな裂傷、肩には矢が貫通しており、足にも無理やり布か何かでしばりつけて止血した傷跡が見える。その布も真っ赤に染まっている。
簡単に言ってしまえば瀕死レベルの重症だ。
相手の服装を見るかのように少しだけ見定めて。
「山賊じゃねぇな。目的は何か……正直に答えろ」
そう告げる。
馬の恐怖の原因はこいつだろう。瀕死の重傷、だというのにその目は一切の弱気も見せず、ともすれば大型の肉食獣か魔物。
そう錯覚してしまう程に威圧感を放つ目と共にほんのわずかでも不審な点を見つければ即座に飛び掛かってくるのではないか。そんなすごみを感じさせる雰囲気があった。
■エリーシャ > 「―――――――――!」
人の声、男の声だ。
娘は反射的に、自らの腰へ手を遣る。
そこに刷いているしろがねの柄を、そっと握り込みながら。
誰何の声をあげようとするより早く、声の主と思しき男が姿を現すと、
娘はその姿を、油断無く眇めた眼差しで見据えつつ、
「……誰が山賊なものか、失敬な。
おまえこそ、こんな時間に、こんな所で何をしている」
どうやら、愛馬は正しく、この男に怯えているらしい。
柄にかけたとは逆の手で『彼女』の頬を撫でてやりながら、
男の挙動を注視しているのは、娘も同じこと。
どちらかが折れない限り、ちょっとした膠着状態に陥りそうだ。
■クレイ >
「悪いがそれは言えねぇな。契約してる以上守秘義務があるんだよ」
スゥと息を吸う。
そしてゆっくり目を見開く。同時に一気に体から魔力が噴き出した。
周囲の木々を揺り動かすほどのすさまじい魔力。
「お前が一般人なら別に良い。だが完全に武装してる奴を通すわけにはいかない。お互いに事情あり、らしいがな」
全身の傷、それは大きなペナルティ。だがそれでもこれくらいの芸当は出来る。
両腕の剣の内、左手に装備したその剣を振るう。彼のさっきまで潜んでいた人1人が隠れられるほどの大木は音を立てて切り裂かれると同時に衝撃波にも近いほどの風がそちらに送られる。
剣を振るう事によって生じた風だ。
「魔法を使えばこの通り、長時間は無理だが……こんな山道でのんきに声だして馬止める半端者の小娘1人殺す程度の時間は元気一杯だ。もう一度だけ聞く。目的はなんだ?」
ブラフだ。本当は1発でも限界を超える。だが、そんな様子は欠片も見せない。
堂々と2本の剣を構えるその姿は間違いなく強者のそれで。
■エリーシャ > 「契約…… ああ、なるほど」
傭兵の類か、と娘は思う。
そも、魔のモノに特化している娘の勘に、目の前の男は引っ掛からなかった。
余程擬態の能力に長けているのでなければ、恐らくは人間であろうと――――
そう考えた、その時。
ざわり、空気を揺るがす力の波動に、娘の背筋が粟立つ。
再び、鋭く嘶いた愛馬の背へ縋りつくように左腕を添わせ、
眉間の縦皺を深くして、――――――男が剣を振るい、衝撃波が大木を切り裂く、
その、一部始終を認めて、それから。
「―――……満身創痍のクセに、随分豪勢な無駄遣いをしたものだ。
おまえがただの人間であるのなら、わたしの敵ではない。
デモンストレーションなど、必要無かったのだが……」
そこで、娘は溜め息を吐く。
剣の柄に触れた右手を離し、両手を顔の横辺りに挙げて。
無愛想な面に、呆れたような色を滲ませ。
「わたしはこれでも武人だから、戦に往くのが仕事だ。
おまえがわたしの何を、そんなに警戒しているのか知らんが、
わたしの方も、こんな所で、おまえと遊んでいる暇は無い」
互いに、見なかったことにしないか。
そう、吐息交じりに提案してみた。
■クレイ >
「……」
睨みつけるような目線を相手に向ける。文字通り見定める。
それが嘘か本当か。相手は人か魔族か魔物か。
盗賊かそれ以外か。
善人か悪人か。
そして少しの時間が経った後。剣を収める。
ビリビリとしたまさしく鉄火場の空気は一気に軟化した。
「嘘じゃねぇみたいだな。だったらやめとけ。もうその戦い。人間が負けたぞ」
そう言い放つとそのまま木にもたれかかるように座り込む。
腰から取り出すのはポーション。とは言え傷が深すぎて気休め程度にしかならないそれを口に含み飲み下す。
「魔族の突然の奇襲でズタボロだ。俺も見ての通り瀕死になった……のに、退却部隊には混ぜてもらえなかったが。簡単な治療とポーションだけ持たせて退路の右翼を護衛せよ。だそうだ」
通さなかった理由。それは単純にこっち側を守護していただけと打ち明けて傭兵は辛いねぇと笑った。その治療というのも足に巻かれた布切れ程度だったらしい。
ちなみに一般人だった場合はその退却部隊まで護衛するつもりだったと伝えた。
「そういうわけだ。敗残兵は今頃王都付近まで退却してるだろうぜ。このまま直進しても魔族の群れの中に単身突入だ。やめとけやめとけ。戻った方が正解だ」
■エリーシャ > 相手が人間であるならば、娘は恐れることも無い。
真っ直ぐに見据えた眼差しは、相手が同じだけ強くこちらを見返しても、
ちらとも揺るがず澄み切って見えることだろう。
相手がそれなりの人物であるなら、見極めは難しくない、筈だ。
「―――――――― 何 ……?」
こちらに対する疑念を、解いてくれたのは良い。
しかしその物言いに、娘は片眉を跳ね上げた。
「負け、た…… 魔族の、奇襲が……?
それでは、将軍は…… 部隊の、皆は……、」
無意識のうち、娘の左手は、きつく愛馬の背で握り締められていた。
目の前の男が嘘を言っていないことは、その怪我の様子を見れば明らかだ。
けれども、しかし――――――
ひとつ、深呼吸をして。
娘は愛馬に括りつけていた荷物を探り、小さな革袋を取り出した。
それを片手に、ゆっくりと男に近づいて。
「これも、飲むと良い。
怪しげな老婆から買ったものだが、効能は確かだ。
わたしも飲んで、よく効いたものだから安心しろ。
……おまえがその姿では、わたしの馬がいつまでも怯えて動かぬ」
そう、平坦な声音で告げながら、革袋を差し出す。
相手がそれを受取ろうとしなければ、押しつけてでも渡すつもりで。
■クレイ > 「将軍さんとお前のお仲間さんの事はわからねぇよ、どこの部隊が生き残ってるかなんて確認させてもらえねぇし傭兵は」
相当な負け戦だったのだろう。そういう言葉には大部分は死んだけどななんて言葉が混じって聞こえた。
そうしてポーションを持ってきたのを見る。
「へぇ、そいつはありがたい……なんて、言うと思ったか? 良い事教えてやるよ新米騎士の嬢ちゃん。傭兵の中には恩を嫌う奴が多いんだ。恩ってのは文字通り負債だからな」
なんて言って受け取る素振りを見せない。
もしおしつけるつもりで更に近寄るのなら。
「ああ、それとこれは俺個人だが……俺は自殺志願者と命を無駄使いするゴミはどんな存在より軽蔑する」
間合いに入った瞬間。腰の剣を抜刀。回避しないのならそのポーションの袋を綺麗に寸断してしまうだろう。
■エリーシャ > 「―――――― そうか」
それは良い。
戦場で誰が生き残った、誰が戦死した、誰が足を失った、など、
例え正規兵であっても、すぐにわかる筈も無い。
しかし、差し出した袋を素直に受け取って貰えないのは、
――――――はっきり言って、面倒だ。
自然、娘の口角が下がり気味になる。
男にやろうとしたものだ、男自身がそれを一刀両断したところで、
娘は痛くも痒くもないのだけれど。
手許に僅かに残った革の切れ端を、ひらり、道端へ打ち捨てて。
「――――――有意義な情報をありがとう。
礼代わりに、わたしもひとつ教えてやろう。
傭兵風情に薬ひとつで恩を売ろうと考えるほど、
この、わたしは、落ちぶれていない。 ……それに」
くるり、踵を返して馬の方へ。
愛馬の傍らに戻ったところで振り返り、わざとらしく微笑んで。
「ひとの親切を無にするような男に、ゴミ呼ばわりされるのも業腹だ。
わたしの道はわたしが決める、おまえの指図は受けんよ」
ぽんぽん、と愛馬の背を軽く叩く。
それは男に対してではない、愛馬に対しての、別れの挨拶だ。
■クレイ >
「ハッ! 格好いい事言って。結局何かから逃げてるだけじゃねぇのかお前は」
馬の背を撫でるその背中に挑発めいた言葉を投げかける。
瀕死のはずのその男は再び立ち上がる。そしてその行く手に立ちふさがるだろう。
「死にたがりのバカ野郎はほとんどがそうだ。やれそれが生きる意味だ、死ぬ覚悟は出来てるだそれしか生き方を知らないだ。馬鹿らしい。大馬鹿の頑固野郎のゴミ野郎ばかりだ」
抜いたばかりの剣をそのまま構える。片手は腹部を抑えているので1本だけだ。
それでもその前に立つ。
その目はまっすぐに射抜くように見つめる。
「別にお前の事情なんざしったこっちゃねぇし興味もねぇ。だがな……戦場では生きたい奴らが死んでいく、母さんって叫びながら、恋人の名前を叫びながら死んでいくそういう場所なんだよ戦場は。てめぇの独りよがりの場に戦場を使うんじゃねぇ」
今の一振りでポーションで何とかつないでいた傷が再び開いたのだろう。血があふれ出す。
「ただ死にたいならこの場で死ね。止めやしねぇ。だが目的があって戦場行くつもりなら……生きろ。生きる気もねぇような雑魚に叶えられる願いなんて1つだってありはしねぇんだよ。それでも行くなら俺を殺してからいくんだな。じゃなきゃ退くつもりはねぇ。俺はここを誰も通すなって依頼を受けてるんだからな」
その目は本気だと伝わるだろう。もし抜けようとするのなら、斬り伏せられてでも止めるつもりだと。