2021/01/29 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にジギィさんが現れました。
ジギィ > 夜天に欠けた白い月が寒々とした光を零す夜。

『山賊街道』の異名も相まっての事か、今宵もその山中には当然の如く人気はなく、木々の合間に夜鳥の声と時折草木を揺らす音がこだまする。

そんな中、少し開けた辺りに白いものが漂う場所があって、よくよく見れば人影がひとつ。

「―――…うーん…」

人影から悩ましいうめきがひとつ。
そこは山中にいくつもあると思われる天然温泉のひとつらしく、ひとりの女がブーツを脱いで膝から下を湯に漬けている。
温泉が湧くくらいなので、何ぞ珍しい薬草などとでも思って散策していたらすっかり日が暮れて…
まあ野営も仕方なし、と思いながら場所を物色していた所に出くわしたこの行幸。
収穫物を詰めたリュックを置いて、疲れた脚を浸したら
……出るタイミングを見失った。

「―――…このまま一晩ぼぉっと出来そうだなあ…」

溜息とも半分面白がるともつかない独り言をつぶやいて、後ろ手を突いて樹々の合間から夜空を見上げる。
白い湯気が昇って行く先で、ちかちかと光るモノが見えたり見えなかったり…

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」に影時さんが現れました。
影時 > ――良い月夜だ。

忍ぶには邪魔になる夜ではあるが、こういう空は嫌いではない。
もとより、忍びたいがために選ぶ夜ではない。手元不如意、足元不如意となりがちな夜道には有難い。
夜目任せのために松明も焚かずに移動しているのだ。
僅かでも明かりがあるならば、それに越したことは無い。

そう思いながら移動するのは、背負子を担いで山中を跋扈する影の一つであった。
背負子なんてものを担ぐとなれば、それは猿でも獣でもない。人である。
その人影は羽織袴を纏い、腰に太刀を佩く。首元に巻いた襟巻を掻き寄せつつ、慣れた素振りで木の根を超え、進む。
時折立ち止まり、周囲を慎重に見回すさまにはどこか慣れた風情さえ見せるが。

「ここらは、外れか。仕方無ェなあ」

特定の刻限に咲く花を摘んで来い――と。おおよその位置を聞いたうえで冒険者の依頼を受けたは良いが、空ぶりになりそうだ。
そんな予感を抱きつつ、採取のための道具と最低限の食料を携えて山の中に分け入り、予想通りの有様に吐息を一つ。

他に何か収穫でもないものか。そう思いながら歩き、進む先に――。

「……こりゃ驚いた」

微かな靄めいたものを垣間見、足を進めよう。その靄は湯気のように見えた。
木々のざわめきの合間に枯れ枝、枯草を踏みしめつつ、進めば次第に見えてくるだろうか。

――既にいる向こうには、靄を抜けて不意に現れる人影も。

ジギィ > ぱき、がさ、と
足音には先ず女の尖った耳がぴくんと跳ねる。
何だろう?足音からすると二足歩行の―――屍霊とかではない、多分ちゃんと理性を持った、ひとつ、生き物。
次に捉えたのが呟きのような声。

(――――…いっか。)

身を隠そうか、とも思ったけど、荷物を置いて駆け出していくにもすこし、近すぎた。
武器もある、胎を据える。

女の背後に位置する方から近付いて来る気配には、後ろ手をついたそのまま、反り返るようにして視線を向ける。

「―――こんばんは。お散歩?」

言って逆さまに見たまま笑って見せる。
先手必勝。
挨拶する相手に初っ端から襲い掛かってくる相手はいまい。
…多分。

影時 > 靄が濃くなる方に進めば、次第に感じるものもある。耳にするものもある。
まずそれは水音。微かに熱さえ孕んだ靄があるなら、其処に何があるかどうか。想像に難くはない。
次いで覚えるのは、水音に混じる別の音。
山歩きはいつもの事だ。趣味も生業も関係なく、飽きることなく遣った。
概して、こういう場所には動物が居る。人だってそうだろう。

そう思いつつ、進んで行けば――靄が抜ける。視界が通る。

「――いよゥ、先客が居たか」

其処には案の定、というか。先客が居た。人であるが、その表現はこの土地風に言うと少し違うのか。
エルフの女だ。後ろ手を突いて背を逸らし、さかしまになった顔を向けて投げ掛ける言葉に、

ふと。ク、と口の端を釣り上げて笑うのだ。

何のことは無い。考えても見て欲しい。良い顔している女が、姿勢とはいえさかしまの顔を向けているのだ。
その構図につい心が動き、顔に出てしまうのだ。

「散歩っつぅにゃ、少々遠出が過ぎねぇかね。ともあれ今晩は、だ。採取の仕事のつもりだったが空振りでな」

少なくとも、敵意はない。己もない。腰に佩いた得物に手を付けることなく歩を進め、先客が足を浸している温泉の近くまで歩もう。
そこで荷物を降ろす。背負子を卸し、据え付けた籠に腰から外した太刀を鞘ごと納めて。

その上で邪魔するぞ、と。先客の右隣りまで歩み、どかりと胡坐に腰を下ろしてみせる。

ジギィ > 思っていた以上に砕けた声音が返って来て、ほんの少し力が入って握っていた拳が緩む。
そのまま観察していれば何だが相手―――どうやら人間の男―――は可笑しげに笑って、己も採取の最中なのだという。

「人気のないところに散歩に行きたくなる時ってあるでしょ。―――あるの、女には。
そう、空振りだったの」

残念だね、なんて逆さまのまま首を傾げて、そのまま相手を視線で追う。
流石に近くまでくれば首は普通の方向に戻る。
見慣れないバックパックの形に薄緑の目を瞬いて、太刀を収める様子には目を細めて。

男が隣まで来るのもじーっと見つめる。ふつうの相手であればたじろぐくらいには。
それから胡坐をかいて座るまでを見届けてから、面白がるように唇を尖らせて

「まぁ邪魔ってことはないよ。べつにわたしの縄張りってわけでもないし…
……一休みするなら、浸かれば?」

ちょいちょい、と湯気の立つ足元の温泉を指さす。
丁度さあーと冷たい風が吹いて、湯気を散らして温泉特有の香りと湿気が男の方へと降りかかるだろう。

影時 > 男と女が居れば――というのは決してない訳ではないが、流石に早々にというのは粋ではない。
寧ろ、こういう奇遇とは愉しむものだ。
属する冒険者ギルドなど、エルフの者とは珍しい訳ではないが、しげしげと相手を眺め遣って。

「あンのか。なら、仕方がねェな。
 ひとっ走りというにゃ遠いが、遠いところにしか無ぇものを所望した奴が居てな」

こりゃ数日かかるな、と。その点だけは心底面倒そうに息を吐く。
目星を付けるには地勢の探索がもう少し要るかもしれない。その作業は不慣れではなくとも、厄介だ。
バックパック代わりに持ってきたものはよくよく見れば造りが荒い。それこそ手製という表現がよく合う。
籐の籠だけは麓の村で買った既製品だが、不要となれば廃棄するにも困らない。

じーー、という音が合いそうな凝視の様を感じつつ、少し考える。
胡坐をかきつつ伸ばす手で背負子の背負い紐を掴んで、引っ張れば寄ってくる籠を漁る。
布包みにした食料などと共に在る素焼きの壺めいた酒瓶を取り出し。

「なら遠慮なく。景気良く肩まで漬かると、良さそうな塩梅だなァこりゃ」

指差す温泉の湯に目尻を下げ、一旦酒瓶を置いて袴の裾を捲る。
靴を脱ぎ、慎重にそろりそろりと足先を浸し、温度を確かめて脛までを湯の中に入れてはほっと息を吐こう。
いい塩梅だ。かじかむ身体の末端には有難い。そう思いつつ酒瓶の栓を抜く。

温泉の薫りに酒の芳香が混じる。安酒の類ではない。強くはあるが銘酒の類の其れが。