2021/01/30 のログ
ジギィ > 「へーえ?その依頼人、わたしと一緒だね」

自分でくればいいのに、と笑って胸を反らすようにして笑って男に視線を戻す。
銅色の肌のエルフの方は相手を異性だとか意識していないようで、珍しい生き物だという風情で薄緑の瞳に光を躍らせている。
男が籠を漁り、酒瓶を取る様子もじーっと眺めながら片足を湯から取りあげる。丁度いい温度で脚だけとは言えど、長く漬けていればすこし外気に晒したくもなるようで。
淵に掛けた片足の膝に両手のひらを置いて、そこに頬を預けながら薄緑の瞳がしつこく男の観察を続ける。
相変わらず、面白そうに唇を尖らせて。

「まぁわたしの方は首尾上々だったから、もし被ってたら分けてあげなくもないけど…
 ―――それなに?」

取り出されたときはそれほどは気にしなかったけれど、その芳香。
くらりと覚えのある感覚に酒だとは解るが―――なんて、甘くかんじるものか…
ほんの少し訝しげに眉を寄せて、視線で酒瓶を指して見せる。

影時 > 「そうかァ? まァ、とやかく聴く気はなかったが事情があンのだろう」

金を貰う身として、追及する気はいまいち起きんと。そう言い足しては肩を竦める。
依頼人の背後関係等々まで必要であれば調べるが、現実的な範囲で探せる限りの採取依頼だ。
端した金で動く身のうえとなれば、裏取りを一々するのも馬鹿らしい。
己の一挙一動を眺めるというよりは、どうだろうか。
見て楽しむというのには違うような風情を眺める様に覚えつつ、湯から上がる足を己も眺める。

――撫で擽ってみたら、どんな反応するのだろう。

うーむ、と。どこか真面目腐った顔で考えて。

「そいつぁ有難ェが、もし被ってたら釣り合いを取るにゃちょっと話し合わんといけねぇなあ。

 ン? こいつか。……酒だぞ。お近づきの印にゃアレだが、呑むか?」

お気持ちだけ今は貰っておこう。次第によっては植生と地脈の流れも詠んだ上で、探さないといけない気がする。
思わぬところで在るかもしれないにしても、それはもう少し足掻いてからの次善策がいい。
そう思っていれば、向こうが指差す物を掲げてみせよう。
硝子の瓶ではなく、甕めいた瓶なのは地酒の類だろう。
ドワーフ仕込みの火酒には負けるにしても、芳醇な味わいと共に度が強いものだ。

エルフのお嬢ちゃんには呑めるだろうか。それともか。
イケるか?と試すような顔を見せつつ、差し出してみよう。少し重いから気を付けろとも言い添え。

ジギィ > 「あはは、安心してよ。別に代わりに命とまでは言わないから」

申し出を辞退する男に、頬を膝に預けたままけらっと笑う。
森の民の女としては、希少だろうとそうでなかろうと大地の恵みを分けるのに屈託はないのだが、相手が気に病みそうなら押し付ける気もない。
あっさりと好きにすればいい、というように頷いてから、男が差し出すそれと、男の顔との間で視線を迷わせて。

「―――お酒なのは、解る。
 …コップとかないの?」

無いのだろう。解っていつつも文句めいて言いながら酒瓶へと両手を伸ばす。
受け取ると確かにずしりと重い。
立てた膝で腕を支えるようにして持って口に唇をあてがうと、そっと傾けて――――

「―――!!
 …
 ……
 ………ありがと」

こくんと小さく喉が鳴ったのは、女が一口含んでから大分立った後。
むせる事さえ無かったが――――男に両手で酒瓶を戻すその顔は鼻の頭にしわを寄せて、なんとも不機嫌にも思える風に歪んでいる。

「美味しいけど……思ったよりつよい」

おいしいけど。
最後にもう一回付け足してから、はあーと漏らすため息は酒の香りが移ってやしなかったかろうか。
銅色の肌ながら目元が染まってるのは、酒のせいか湯のせいか…

「…なんかおつまみないの?」

更に続けて上目で問うてみる。
案外弱いとか思われるのは癪なので誤魔化されてくれ、という気持ちがすこし無くはない。

影時 > 「全くだ。軽くも重くもあるものを代金にすんのはちょっとなぁ」

生命とは、代価とするにはここらでは当てにし難い。
渋面を滲ませ、けらりと笑う相手と相反するように息を吐く。
もとより、日帰りは難しい可能性は出立前に想定済みだ。存分に探せば見つかることだろう、恐らく。
そう楽観する。希少な霊草などという触れ込みは無かったとなれば、そう睨む。

「無い。――訳じゃねぇが、面倒だ。そのままぐっとやっちまえ」

盃代わりにできそうな食器は包みを開ければない訳ではないが、面倒だ。
それに先程からの視線の塩梅を思うに、然程男の口がつくつかないは意に介さないかもしれない。
であれば、遠慮なくやっちまえと。投げ遣る目線で促して進め、呷る様を見る。

気軽に傾けるには、強い類のそれを吐き出すことなく飲み下して見せる様は見事。
味も分かるならば言うことは無い。向こうのセンス、味的感覚を測る糸口にもなる。

「此れ位が丁度良いンだよ。ここらの麦の酒も嫌いじゃないが、物足りなくてな。
 ツマミ。……ツマミなぁ。干し果物と、あとこンなのなら、あるぞ?」

湯戻しの材料に出来る干し肉の類は、生憎明日の食料として包んだ側にある。
直ぐに出せるとすればと少し考え、羽織の袂を漁ろう。
出てくる小さな包みは二つ。葡萄やナツメなどの干し果物と手製の携行食だ。
小麦粉や蕎麦粉をベースに、肉桂と蜂蜜、幾つかの薬種と共に練って固めた兵糧丸等と呼ぶものだ。
ツマミがわりにするには味わいが独特だが、酒で湿らせながら食うならば存外合うかもしれない。

ジギィ > 「…果物」

酒瓶を返したなら、その代わりにとでも言うように手を差し出す。
男の広げた包みの中の見慣れた果物を早速指でつまんでは口に放り込みつつ、視線は見慣れない方へと彷徨って行って

「…これなに?
 あと、貴方ここら辺のひとじゃない?」

口に放り込んだなじみ深い甘みを噛みしめながら、今更とも、言わずもがなとも言える質問を付け足す。
指先に残った甘みをぺろりと舐めて、十分に暖まったもう片方の足も取り出して、今度は女のほうが胡坐をかく。

「まあわたしも遠くから来てるけど…
 貴方、独特ね」

王都にきてから珍しいと思うものは数あれど、彼の恰好も改めてみると独特だ。
熟練の冒険者というか、なんかそんなようなモノではあるんだろうけれども…
言い終わってまたじっと見た後、嫌いじゃないよ、と付け足して女はまたけらっと笑う。

「もらっておくばっかりも悪いね。
 ―――酒豪なら二日酔いに効くような薬草はお礼にはならない?
 ―――それか、音楽は好き?」

影時 > 「あいよ」

じゃぁ、そっちだなと。酒瓶を受け取り、入れ替わるように干し果物の包みを向こうに遣ろう。
いわゆる冒険者セットなる一揃えの中に入っていたものだが、こういう軽食代わりには悪くない。
故国から出て、色々と見分を深める中で味わってそんな感想を覚えている。

己はもう一つの袋の封を開け、中身の茶褐色の大き目の丸薬めいたものを示して。

「こっちのコトバで云うなら、携行食の一種さ。俺の手製よ。味は……慣れてねぇ奴が食うにゃ癖があるかね。

 御覧の通りさ。生まれはこの辺りじゃねぇ。
  ――余所者だ。気楽に、風の吹くままに何処にでも行く、な」

兵糧丸なる通称はあるが、それでは通じるまい。
故にこのように言い換える方が、きっと通りは良いだろう。
ひとつ摘まんで、唾液でふやかすようにもみゅもみゅと咀嚼し、酒を一口二口と含んでは飲み干す。
この辺りでは羽織袴の一式の珍しいだろう。
似たようなものはシェンヤンとやらにもあるようだが、服に着られている風情と立ち振る舞いはない。
有難うよ、と。響く言葉に口の端を釣り上げ、もう一杯やるか?と酒瓶を向こうに出そう。

「――……どっちもいいなぁ。好きな方でいい。あと、名ァ聞かせてくれや」

底なしの類であるが、本草学にも覚えがあれば薬草の類は興味はある。
音楽も良い。知らぬもの、初めて見るものとは興味が尽きない。
そういう機微を味わいたいがために、放浪を選んでいるのだ。

ジギィ > 「ふーん…ひとつ、貰っても良い?」

新緑の瞳を細めてから、茶褐色のまる玉を指さして首を傾げて問う。
食べてみてその組成が解る程舌が通じているわけでは全くないが、他所の国の食べ物というだけで興味はある…

噛んだ干しブドウの一粒を口中にいきわたらせて、残った酒精と混ぜ合わせてから飲み込む。
―――悪くない。
強いから勿論何度も出来る事ではないけれど、またこうやって飲んでみてもいい、と思うくらいには気に入った。

そのことにふーんと独り納得したように吐息を漏らしながら男の返答を聞いて頷いて、最後、差し出された瓶を見止めるとほんの少し苦く笑う。

「ううん、今夜はもういいや…
 ―――わたし?ジギィ、って呼んで。
 貴方は?」

気分良さそうに唇の端を上げながら、女は自分も荷物を引き寄せる。
バックパックから平たく細い、何の変哲もないような草の一束と木の枝を取り出して、男が広げた包みの隣に並べて置いて見せて

「この葉っぱは噛むと速攻の痛み止めになる。ふつうの麻酔系のやつと違って意識もかなりはっきりできるけど、あんまり噛むと口の中が荒れる。
 こっちは―――笛。歌でもいいけど…」

一度、言葉を切ると上目に相手を見て、にやっと笑う。

「貴方を眠らせて、いたずらすることも出来る…」

影時 > 「おう、持ってけ。味は、あー。合わなかったらすまんな」

自前で作って自前で消費するものだ。他者に食わせる前提ではないが、舌に合わなかったら悪いと。
そう言いつつ、己も干し葡萄を摘まむ。
何せ、この地に来てから手に入る限りのもので作ったのだ。覚えているレシピ通りではない。
故郷にはないものが混じり、此方では手に入らないものは省いた。
焼き固める工程も入れた様は、見るものが見れば菓子作りのそれにも近かっただろうか。

強い酒はもういいか。続く所作に分かった、と頷いて。

「俺は、影時――カ、ゲ、ト、キ、だ。そう呼んでくれや、ジギィ」

此方にはない響きの名となれば、呼びづらいかもしれない。
音を明確にするように名乗りつつ、引き戻した酒瓶に口を付けて広げられる品々を見よう。
知っているものも在れば、知らないものもある。
採取仕事のために冒険者ギルドの資料は手書きの写しも作るまで読み込んだが、改めて知りえるものを吟味するように耳を傾け。

「……そンときは地の果てまで追っかけて、足腰立たなくしてやんぞ?」

このやろ、と。戯れるように目尻を下げて酒瓶に栓をし、右手を伸ばす。
いたずらげに見える相手の額を突いてみようと。

ジギィ > 「ありがと。気に入ったら追加注文するよ」

上機嫌に笑うと、彼のお手製丸薬をつまみ上げてはしげしげと見て、手元の手巾に取っておく。
今食べてみてもいいけれど、後で試すほうがこの出会いを楽しめそうな気がして。
―――長命種の余裕?それとも、只の感傷浸り好きか…

「―――カゲトキ? …やっぱり変わった名前だね」

口を慣らすように、かげとき、と口中でふたたび呟いていると香って来る先ほどの酔精。
余程強い酒だと思えるけれど、よくいる中毒者や酒瓶を抱え込むような…よくドワーフにいる類の様相が見えないことが不思議に思える。

―――もしかしたら血が混じっているとか?
―――それにしては背丈も高いし…

等々。
背中を丸めて今度は両ひざを抱え込んで、横目で見ていたところで数―と男の手が伸びて来る。
なんだろう?と直前までじいーと視線で追いかけて、それが突く仕草の直前にすっと身を引いて見せようか。

「やだ、カゲトキさんてばこわーい」

口元に片手を宛てて哀れっぽく言ってから、またけらけらと笑う。
男の手がそのまま宙にあったなら、そっと取り上げて押し戻して。

「じゃあ悪戯されたくなった時に歌ってあげるから、その時までお預けね。
 ―――さて、わたしそろそろ眠る場所を探しに行くよ。
 珍しいものをありがとう。また、縁があったら」

欠けた月明かりだけの中で女は微笑むと、立ち上がってブーツを履いて荷物を取り上げる。
最後に一礼するとそのまま止める暇もなく、森の闇へと姿を消すだろう。
その後不思議と草木を揺らす音もなく、気配は森へと溶け込んで…

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からジギィさんが去りました。
影時 > 「詰まらねぇモンだが、口に合えば何よりだ。
 あ、喰うならその時は水を用意しといた方が良いぞ。念のためな」

何せ、カロリー補充を重視した携行食の類である。ふやかしながら食べる関係上、飲み物はある方が良い。
この土地だと、堅麺麭の類を食べる時と少しばかり似るかもしれない。
後で食べると聞けば、アドバイスとして言い添える。数日の範囲なら日持ちもするだろう。

「そうかァ? こっちのモノとっちゃ、そういうもんか」

国も違えば言葉も違う。故に向こうの反応は名乗るたびに見る頻度が多い以上、慣れはする。
故郷における反応を思い返すと、聊か遠い、曖昧な具合を感慨じみた感覚で覚える。
奇特すぎる名前ではない、だろう。多分。恐らく。
水のようにと軽くではないが、味わうように強い酒を含んで無精髭が生えた顎を摩っては思う。
その後、温泉に浸した足先を水を蹴立てない程度にバランス取りに動かしつつ、伸ばした手は――空を切り。

「悪戯される方が怖ェよ、ったく」

押し戻される手を戻しつつ、その一点だけは憮然とした表情で述べる。
子守唄代わりかもしれないが、悪戯されるとどうなるやら。今の段階でははっきりしないのが、怖い。

「――……、ああ。よーく覚えといてやる。よぉく、な。

 おう、こっちこそありがとうな。次逢うなら、街かね?」

ふ、と。己も笑みを返しつつ、森の闇に姿を消して消えゆく様を見送る。
程良く足先から身体が温まったと思えば、己も身支度を整えて探索と採取活動に戻ろう。

夜はまだ、長い。探し物が見つかったかどうかは、また別の話で――。

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」から影時さんが去りました。