2020/10/06 のログ
■燈篭 > 女童と呼べそうな鬼がいた
九つの首を持つ竜と呼ばれた山、鬼はその名を聞くとまるで竜が住まう山のようではないか
竜と逢わせるもいいが、その竜が寝そべれるほどの山ならどれほどのものか
鬼は好奇心 闘争心 願わくば竜を酒に変えてみたい
きっと火酒のような喉が灼ける辛口だろう
気まぐれな欲望と好奇心を携え、山の中を、進む、進む
山の中を途中まで登ったところまでは、山賊や獣しか出会えなかった
垢塗れの山賊なんて、呑めたものじゃない
事が終われば、手の染まる赤をブンッと振るい、血を落とす
全員が土と混ざるまできっと、そのまま放り置かれるだろう
その手を舐める気にもならない
鬼はもう、長いこと、長いこと、酒しか口にしなかった
手を洗おう そんな些細な理由で水の流れる音を それまで気にも留めていなかったが向かう
耳に派手に聞こえる堕ちる音の方向は、高い岩部から落ち続ける白く泡立つ水の柱
「おおぅ、こりゃあ見事だ。」
水の音で染まるそこは余計なものが一切感じられない
手短な場所で身体を清めたのなら、滝が一望できる岩部の淵へ腰を下ろす
手を額にかざし、鬼は笑みを浮かべてその高さを見た
時折傍を流れる川から魚が跳ねる音もする
鬼の機嫌はよくなった
手元にあるのがそこらにいたでかい狒々のような化け物を吸ったものしかない
だがまぁいいだろう、栓を開け、溶けきった酒はぷぅんと甘い匂い
塩辛い薬酒のようになるかと思ったが、成程こいつは甘い
喉を鳴らすように傾けた大ぶりの瓢箪の中身は、木の実が崩じたような猿酒そのものと呼べそうな
甘くまろやかな白桃色に染まっている
「ふはぁぁ……度数は私にゃちと優しいな。」
そう呟きながらも、滝を眺めながら酒を飲む 一景を肴にした呑みもまた、良いものだった
■燈篭 > 甘い酒を傾け、滝を一望する
自由な鬼だからできる道楽だろう
この景色を肴にしながら、狒々酒を傾ける
山景色で酒を飲むと思えば、水景色で飲むとは思わなかった
鬼は口当たりが甘ったるいのも構わず、滝を眺めつづける
胡坐で片手をベタリと、冷たい岩の上で広げ、小さな身体を寄りかからせる姿
落ち続ける音はうるさいどころか耳に心地良い
「いやぁ、絶景だぁ……酒が美味い。」
水景色で甘い酒なんて飲んで楽しんでしまっている
顎を撫でながらそこでようやく滝から意識が途切れた
山の景色で酒を飲むなら今度こそは辛口の酒が欲しい
この山で、辛口な酒に成れる奴といえばなんだろう
やれその滝壺を小さな身体を傾けて見やる
其処には何もいなさそうだ
「水の竜でもいれば、是非呑みたかったが.」
よくある話だ
滝壺から現れる水竜なんていうデマ、お伽なぞ。
「まぁいいか。コイツが無くなるまでは。」
鬼は揺らすと、まだ重い音を立てて波を知らせる中身に目を細め
ごぎゅっ ごぎゅっ ごぎゅっ 美味そうに喉を鳴らす
その甘さと来たら、女堕としに使えそうな甘さだ
■燈篭 > 嗚呼、酒が甘くて仕方ない
鬼は辛口なほうが性に合っている
澄んだ酒程、白く濁った奴に比べて辛いものだ
「畜生、あの狒々め
私を餌と見やがったくせに こんな甘ったるいものをこさえやがって。」
呑む 甘い 喉が渇く 飲む 甘い 喉が渇く
それの繰り返しだ
餓鬼でも飲めそうな甘さを裏切る度数はあるものの、先も言ったように鬼にはまだ優しい
折角の景色を見ながらだから余計に酒が進んでしまう
畜生、畜生 水遊びで燥いだ童の気分だ
ぐいと、鬼は口を拭うと、もう酒の中身は空に近い
「チッ」
酒がない
鬼は途端に機嫌が悪くなる
こんな良い水景色を見ているというのに、見合った酒が無ければ台無しだ
未だ酒気の余韻はあるものの、軽い
鬼を酔わせるならば、量は樽 度は火が付くほどでなければ
どこかに間抜けはいないものか、鬼はキョロリと首を回す。
瓢箪を逆さに降り、雫を伸ばす舌に堕とせば、甘ったるい吐息が零れ出て
「ああ畜生め 酒がないなんて死ぬよりごめんだ。」
鬼は立ち上がり、背を解す。
周りから見える景色ににゃ、大したものが見えやしない
まだ滝に飽きているならよかっただろう
しかし鬼は先に酒をなくしてしまった 喉が渇く
まだああの甘味が口を、喉を塗りつぶしているのだ
嗚呼、酒が欲しい 誰ぞいないものか
射止めて呑んでやるというのに。
■燈篭 > そのまま滝を一瞥すると、瓢箪を携えて山を登り始める
あの酒が縁の切れ目
身体が酒を求めて仕方ない
ふらふらと、意外と体に染みたらしい
風邪が心地よいまま撫でられるように山中へと身体を深く潜らせていった。
ご案内:「九頭龍山脈 滝壺」から燈篭さんが去りました。