2020/07/12 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にエディットさんが現れました。
エディット > ゴトゴト、ゴトゴト、揺れる幌馬車の中は暗く、陰鬱な空気が澱んでいた。
原因は乗客が皆、何処かで捕えられ縄打たれた憐れな虜囚であるからだろうし、
中でも一番年若く見える少女が、ずっとしくしくと泣き続けている所為だと思う。
――――直ぐ隣、同じように膝を抱えて蹲るように座り、後ろ手に戒められた両腕を背凭れにしている、
己の方はと言えば、眦には涙のなの字も見当たらない。
勿論、愉快な状況だとも、快適な旅だとも思っていなかった、が。

「………取り敢えず、傘が返って来ぬことにはな」

己の最大の関心事は、馬車に詰め込まれる際、奪われてしまったパラソルのことだ。
同じ馬車に乗せられていることは、何となく察知出来るのだが―――、

「アレと生き別れになるのは、少し困るな……」

そも、そんなことになれば、肉の器の方が消滅するのではなかろうか。
己にとっては深刻な問題であったし、眉根を寄せて小首を傾げ、
一応は真剣に悩んでもいたのだが。
隣で泣き暮れる少女とは、余りにも対照的であったかも知れない。

然し己も、恐らくは隣の少女も、他人の目に如何見えるかなど頓着していない。
馬車の行き着く先も――――無事何処かへ辿り着くのかすらも、
今は未だ、積み荷たる身には知る由も無いことなのだった。

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」に群れ成す小鬼さんが現れました。
群れ成す小鬼 > 小鬼は何処にでも生息する。
一匹でも生き残ればそれこそ逃げ延びた先で何匹何十匹と数日も経たずに増殖するのだから、討伐依頼はどの地域でも貼りだされている。

但し概ね初心者向けの討伐対象として認知されていることもあり、収入としては実入りが少ない事もあって需要と供給が釣り合っていないのが現状である。
倒してもキリがないというのが正直なところなのだ。

当然、この九頭龍山脈の山賊街道と呼ばれる場所でさえも例外ではない。
がたんごとん、と悪路を走る馬車を狙う者は何も山賊だけとは限らないのだから。

――ドォンッ。何かしらの爆発音と分かる暴力的な炸裂音が鳴り響いた。
次いで、ガタンッ、と馬車に突然襲い来る振動。
馬の嘶き、慌てた御者の声。
街道を通る馬車に狙いを定めていたのであろう、馬が通る直前に前方の道に設置されていた人間から略奪して得た火薬を少量詰めて作成した小型爆弾を起爆させた事で馬が突然の爆発に驚き大きく前足を振り上げて御者は制御できずに振り落とされ、馬車も当然釣られて大きく揺れ動く事になる。
そして、御者の悲鳴。
隠れて伏せていた小鬼達が道端から飛びだせばそれぞれ慣れた動きで強奪開始。
御者の持ち物を、馬をと役割分担して奪い取っていく者もいれば当然馬車の「積み荷」を狙って馬車の扉を開け放ち。

「ギャハハッ!牝ダ!牝ガイルゾ!!」

そこにいる積み荷、奴隷としてか経緯は知らないし小鬼達にとっては些末な事だが人身売買の犠牲になった娘達を肉床としてしか見做さず知性の低さを感じさせる歓喜の声をあげ仲間たちに報せ、一人また一人と馬車の中の娘達を引きずり下ろしていき。相手の隣で泣きじゃくっていた娘も、そして当然やけに冷静な様子に見える相手も外へ連れ出そうとして。

エディット > 爆発音と共に大きく揺れた馬車が、派手な馬の嘶きを連れて止まる。
御者と思しき誰かの声は直ぐに断末魔の悲鳴に変わり、
―――――耳障りな音、或いは、声が。

「―――――何、だ、一体……、」

襲撃―――――其の単語に思い至るとほぼ同時、馬車の扉が開け放たれる。
現れた人ならざる襲撃者たちを見て、隣の少女がまた金切り声を上げた。
己はと言えば、其の姿を見ただけで蒼褪めたり、悲鳴も上げず気を失ったり―――
する、筈も無く。
幾つもの手が乱暴に腕を引き、馬車から引きずり降ろされようとするのにも、
特に抗う意思は示さなかった、のだが。

「あ、……待て、其れは、其れ、は、困る、っ……、
 其れを、手荒に、扱う、のは、――――――ぁ、ぁ!」

別の小鬼の手が、己の本体たるパラソルを無造作に掴もうとするのを見ては、
焦って声を上げずにはいられなかった。
其れ、と引き離されるのも、勿論壊されるのも困る、と、ただ其れだけだったのだが。
ぐ、と緑色の手がパラソルを鷲掴みにした、其の瞬間に背筋を駆け抜けた衝撃に、
思わず高く掠れた悲鳴を洩らして、全身を硬直させてしまう。

彼らが其の反応を見咎めるかどうか、そして、其処から何某かの絡繰りに気づくか否か。
今宵、己の運命は、文字通り彼らの手に握られたのだった。