2020/05/04 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にラディエルさんが現れました。
■ラディエル > ――――何処かで遠く、野生の獣と思しき咆哮が聞こえた。
鬱蒼と生い茂る木々の枝間から、蒼白い月明かりが弱々しく差し込み、
幾重にも轍の痕が重なる街道を淡く照らし出している。
馬車も、人影も見当たらないそんな場所に、黒々と転がる襤褸布の塊が在った。
―――――否。
近づいて見る者があれば、其れが襤褸布の如き僧衣を纏う、人型の生き物であると気づくだろう。
但し、もしも其の誰かが馬車にでも乗っていた場合、現在の位置関係では確実に、
襤褸布ならぬ生き物は、あっさり轢かれてしまうだろう、と思われた。
そんな差し迫った危険を察した、という訳では無く、単純にちょうど今、目を覚ました為、
ゴロリ、と襤褸布は道の端へ転がった。
仰向けにだらしなく寝そべった身体を、引き起こす膂力は未だ戻っておらず、
けれども茫と夜空を見上げる面は、不自然な程に白く傷ひとつ無かった。
ほんの数刻前までは、顔と言わず身体と言わず、彼方此方に血液を搾取する為の傷があったのだが、
もう、殆ど治癒を果たしているようだ。
先刻までは呼吸するのも苦痛を伴っていた、ので、意識を飛ばしていたら、
如何やら死んだと思われたらしい。
はあ、と溜め息を吐いて、ぎこちなく浮かせた右手で額を擦り、
「………普通、こんな所へ人間を捨てて行くかね。
墓掘って埋めてくれ、とは言わねぇけどよ……、」
とは言え、逃げ出す手間は省けた。
其れだけでも喜ぶべきか、と、思い直して薄く笑う。