2020/04/26 のログ
アンヤ > 見通せぬ闇を指先で掻き混ぜるようにぐるりと円を描くと、指先の軌道から一拍送れて狐火がぐるりと円を描き指先の軌道を追う――…少しだけ面白い。

ぐるり、ぐるり、ぐるぐるぐるり、と指先を回し、結果的には狐火をぐるぐると回しながら辺りを狐火の色で紫色と赤の中間色のような怪しげな輝きで照らしながら歩き始めたのだが、それも数分せずに飽きる。

「やれやれ退屈であるな……。」

眉間にくっきりと皺を寄せると不愉快そうな表情を前面に浮べて、さて手に残る果実の残骸を口に放りこみ、芯も種も茎も何もかもを咀嚼音もなしにごくりと飲み込んだ。

美味ではある。
がそれは数分前の事、良く味わえば何とも酸っぱい果実だろうか、まあ食わなくても死なないので喰わなくても良かったのに食べた自分が悪いのだろうけど、正直不味い果実であった。

――…ふわっと果実の香りの残滓があたりに広がった刹那、ふっと姿を見せたときと同じように人影は狐火ごと姿を消した。

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からアンヤさんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山中」にタマモさんが現れました。
タマモ > ここは九頭龍山脈、麓より少し上がった辺りだろうか。
そこに聳え立つ、大きな樹木の一本、その枝の上に腰掛けている人影が一つ。
その眼下には、湯気立つ温泉が見える。

いつもの散策、今日の発見は、この温泉だった。
とは言え、すでに少女は入った後で、今は出た後の寛ぎタイム。
僅かな湿り気を帯びた、金色の髪を指先で弄り、気分良さ気にゆらりゆらりと尻尾を揺らす。

「ふむ…まぁ、後は軽く釣りでもして、夕食とすれば良いか。
たまには、こうしてゆっくりとするのも、悪くはなかろう」

と、ぽつりと呟き、向ける視線を少しずらす。
温泉から、少し離れた位置か。
下流へと流れる小川が、その瞳に映っている。
うん、環境的に悪くは無い場所だ。
多少、知識と腕は必要となるのだが。

とりあえず、もう少し、このまま寛いでいよう。
とか何とか、考えながら、軽く空を見上げた。

ご案内:「九頭龍山脈 山中」に黒須さんが現れました。
黒須 > 「…ふぃ…。」

(温泉から出て体を拭き着替える影が一つあった。
ギルドの任務があり、暇つぶし程度に参加することにし、そのままこの山中へ。
疲れた体を洗い、癒すために偶然見つけた温泉に入り、少しのんびりとしていたのだった。)

「ちったぁ、気持ちも収まったかもな…ん?」

(そのまま用もないし、このまま帰ろうかと帰路を歩いていると、立ち止まる。
鼻をスンスンと動かし、周りを見た。
嗅いだことのある匂いだと思い、そのまま跡を辿りながら一本の樹木の下へ。)

「…ああ、あいつか…。
おーい、タマモー。」

(上を見上げれば、見覚えのある尻尾。
アイツだと確信し、根元の方から声をかける。)

タマモ > のんびりとしていて、どれだけ経った後か。
不意に、下から掛かる声。

どうやら、上の方に居た上に、下に集中してなかったせいか、そこに居る存在に気付いてなかった。

「………うん?」

枝の上に腰掛けたまま、かくん?と首を傾げ、視線をそちらに。
そこには、見覚えのある姿。

「おぉ…何じゃ、こんな場所だと言うのに…
ともあれ、久し振りじゃのぅ?」

そのまま、ひらひらと言葉を返すと共に、手を振ってみせた。

黒須 > 「ちと、近くでギルドの任務があってな?
暇つぶしにこなして帰っている最中だ。」

(事情を軽く話せば、そのまま、樹木の近くの木に近寄る。
足を当てれば、強靭な脚力を使って、飛び跳ね、枝につかまりながら上へと進んでいく。)

「よっと…。
まさか、こんなところで会うとは奇遇だ…。にしても、何をしてんだ?」

(すぐさまタマモの居る所まで登る。
思い体重をうまく使いながらも、折れないように枝に座って)

タマモ > 「ぎるど…?…あー…あぁ、冒険者ぎるど、とか言うものじゃったか?
要するに、仕事帰り、と言うものじゃな?」

男の言葉に、軽く考える仕草。
思い出したように、ぽんっ、と手を打って、そう問うて。

そんな事をしている間に、男は、己の元へと寄って来る。
いや、わざわざここまで来なくとも、そう思ってはみるも、それはそれ、男の自由だろう。
大きな樹木、その枝だ、一人二人が乗ったところで、折れはしない…かもしれない。
とは言え、その加重で木の枝は僅かに揺れるも、事も無さ気に、少女は腰掛けたままだった。

「うむ、まさに奇遇。
………妾か?…何をしておるか、と問われれば…
適当に、何か無いかと、歩き回っておっただけじゃのぅ」

まぁ、別に隠す必要もないのだ、男の問いには、そのままを答えておいた。

黒須 > 「ま、そんなの物だ。
師団の稽古だけじゃ、体が鈍っちまうからな。」

(子供の時から体が千切れそうな程の鍛錬を積んできたため、その感覚は今でも残っていた。
時間がある時にはギルドが経営する酒場へ行き、適当な依頼を受けては熟していた。)

「なんだ、お前も暇なのか…。
ま、そう言う俺もそうだな…。この後するぐらいなら、店に行くのもめんどいし、あそこらへんの川で魚でも捕って飯を済ませようと思っているぐらいだがな?」

(指さす方には小川があった。
この山中では近くにそういったところもないために、わざわざ行って済ませるのも面倒だと思っていた。
川で魚を捕まえるぐらいは朝飯前だったために、後でそこに行こうとは思っていた。)

タマモ > 「………稽古?…それに、仕事か。
…何か、そう聞くと忙しそうな感じじゃ…」

単純にそれだけを聞くと、自由があんまり無さそうに感じたか、何とも言えぬ表情を浮かべる少女。
あれやれこれやれ、と固められる道は、苦手な少女ゆえの反応か。
しかし、後の言葉を聞けば、再び首を竦める。
己にも暇なのか、と問われたからだ。
色々やってるのに、暇?はて?とか、そんな感じに。
それもまた、言葉を最後まで聞き終えれば、自己完結する訳で。

「なるほど、帰り道までは、と言う事か…
店も悪くはないが、こうした自然の中、食するのも良いものじゃ。
それならば、ついでに妾の分も…!」

うんうんと、納得すれば頷いて。
己もそのつもりだったのだが、男もだと言うならば…
と言う訳で、しゅたっ、と手を上げて、己の分も男に任せてみようとする少女だった。

黒須 > 「そんなことはねぇ。
貧民地区もここも…対して武術のレベルは差がねぇしよ。
楽勝過ぎるんだよな…。」

(腐っても貧民地区最強と言われていた実力者。
師団やギルドに参加するは良い物の、満足するような技量の相手はいなかった。)

「…別にそれは構わねぇ。
だが…俺に頼みごとをするって言うんだったら…お礼については、わかってるよな…?」

(自分もお願いしようとする少女を見ては少しの沈黙。
取って渡すのは構わないと言うが、その返しを聞くとゲス染みた笑みを浮かべて少女を見る。
察しが良ければこの男の考えていることは分かる事だろう。)

タマモ > 「ふむ…確かに、妾もよく散歩をしておるが、大した事はないものじゃ。
しかし、最近は、何じゃったか…面白そうな話題が、あげっておるそうではないか?
………まぁ、細かくは聞いておらんが」

自ら力を抑え込んでさえ、どこを行くも、さしたる障害とならぬ少女。
だからこその答えを返しながら、ふと、王都で聞いた噂を思い出し、男に問うてみる。
所詮噂と、大して気にはしてなかったが…
この男からも、それが伺えるなら、それなりに信憑性が生まれる、と思ったからだ。

「ふむ…代わりに、そこらの山菜や果実でも摘んでくるか?
食事のばりーえしょん?とやらが増えるのも、悪くはないしのぅ?
………まったく、見合わぬ等価は、どうかと思うぞ?ん?
まぁ、それはそれで、面白そうだから、受けても良いがな?」

と、まずは、男の答えに、誤魔化すような対価の申し出を。
後に、それが冗談だと言うように、溜息混じりに、そう突っついて。
そこまで言っておきながら、結局は、その意見に賛同っぽい言葉を最後に添えるのだった。

黒須 > 「あ?なんか変な噂でも流れてんのか?
俺は情報だかを取り入れるのはめんどくせぇから取り入れてねぇんだよな。」

(王都の話やそんなものについては時に耳を立てて聞いては居なかった。
それ故に、少女から言われるその言葉には眉を動かして聞いた。
恐らく、師団からもそう言った話は上がるだろうし、その時になればそれに備えるかと思った。)

「誤魔化しや等価じゃねぇと思うなら別にいいぜ?
俺は嫌がる女を抱く趣味はねぇからよ。
なんらな、俺は食わねぇが肉でもとっ掴まえれば等価か?」

(少女の言葉にさらに上乗せするかのような言い分。
相手が拒むならそれに従ってしなくてもいい、けれども、気分次第では無償でやることもある。
今回はもう一歩様子を伺ってからそうすかと思っていた。
ともかく、飯を食うのは決まりであった。)

タマモ > 「おや、知らぬようじゃったか。
となると、やはり、大したものでもないんじゃろうかのぅ」

噂を耳にするのは、大概は己の式達。
男と同じように、意識半ばで聞く少女だからこそ、同じような感覚だったのだろう。
ともあれ、今のところは、そんなものだ、程度で終わったようで。

「山菜や果実ならともかく、肉は…調理出来るものなんじゃろうか?
………いや、待て、調理以前に、お主は食べんのか?
それでは、余り意味がないのぅ。
妾は一度入ったが、ほれ、少し離れた場所に、良い温泉が湧いておる。
食後で良いならば、あぁ言った場所で、しっぽり、と言うのも悪くはなかろう。
どうせ、この先の予定も何も、互いに無いんじゃからな」

上乗せする男の言葉に、それがあったところでの疑問を、ふと投げ掛ける。
が、自信は食わんと言う言葉に、さすがに己だけ食するのも、と。

ともあれ、夕食は決まりであるのだからと、その後の事を。
誘い自体は男からなのだし、己もどうせ暇なのだからと、そんな風に話を纏めてみた。

黒須 > 「俺は昔っから肉は食わねぇんだよ。
ま、貧民地区での貧乏癖のせいかもな?」

(幼い頃からあまり肉を食さなかった日々。
こっちでは少しぐらいなら食べる物の、そんなに多くは食べるような肝は無かったのだ。)

「ん、あそこは俺も入ったが…終わった時にまた浴びるのもいいかもしれねぇし。
ともかく、話はまとまったな?んじゃ、よろしく頼むぞ?」

(ニヤリと笑えば、先に気から降りる。
そのまま、小川の方へと向かい食材を取りに行こうとした…。)

ご案内:「九頭龍山脈 山中」から黒須さんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山中」からタマモさんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にスクナビコナさんが現れました。
スクナビコナ > 山賊街道から少し外れ、草木生い茂る山中の獣道。
松明の灯りを手にした、フードを目深に被った人影が小走りに駆け抜ける。
肩から提げた鞄を片手で抑え、偶に背後に目を向けていた。

「もうっ、大したモンスターが居ないからなんて油断したっ!
いくらなんでも、数の暴力じゃどうしようもないってばっ!」

背後の暗闇から、こちらに向かって来るのは茂みを掻き分ける音と共に聞こえる無数の足音。
背後からの音を聞きながら、そう言葉を漏らすその声は少女のそれで。

灯りが目印となってしまっている、それは気付いているのに。
これが無いと暗闇で周りさえも見えないから手放せないジレンマ。
この茂みを抜けて街道にさえ出てしまえば諦めてくれるのだろうけれど、その街道はもう少し先。
この調子だとギリギリ逃げ切るか逃げ切れないかの瀬戸際といった感じかもしれない。

スクナビコナ > 「こ、のぉっ!」

掛け声と共にフワッと宙に浮いた薬瓶から白い煙が撒き散らされてゆく。
それを後目に足を止めずに駆け抜け続ける。
一寸後に足音の幾つかが途切れ、倒れるような音が聞こえた。
でもまだ数を減らしただけで、残った足音は引き続き追い縋る。

「ああもうっ、やっぱり全部は無理ぃっ!」

放ったのは即効性の睡眠効果を持つ粉末。
密閉空間なら十分な効果を発揮するそれも、こんな開けっ広げな場所では効果半減だ。

大した場所でもないから危険はそうないだろう。
そんな言葉を鵜呑みにした自分を責めずにはいられない。。
せめて相手が何であるか分かれば、もっとちゃんとした対処法を取れるんだろうに。
暗がりから襲われた為、その正体もはっきりしないまま今に至っていた。

実はコボルトの集団で、それなりの腕があれば十分なのだが、それも分かっていなければ意味が無い。

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にマヌエラさんが現れました。
マヌエラ > 少女がひた走る、その前方に。ゆら、と現れる影ひとつ。
松明に照らされ光るのは、長い金糸と、魔術具の宝玉。

「――お嬢様! しゃがんでくださいな~!」

放たれたのは、切羽詰まってなおどこかのんびりした響きの女の声。
次の瞬間――巨大な質量が轟、と空気を渦巻かせ、少女の頭部の高さを通過する。
さながら巨大な丸太を横に一閃したような衝撃で――上手くいけば、追手のコボルトの頭部を丸ごとホームランという寸法だ。

スクナビコナ > 「は、え…?」

駆けながらも松明の灯りに照らされるその人影に気付くのだが…
いきなり掛かる声に一瞬だけキョトンとするも、慌てた様で顔を覆うフードを空いた手で抑えて屈み込む。
それに合わせるように頭上を何かが通り抜けた。

それが何を引き起こしたのか、それをすぐに気付くのは難しい話だろう。
むしろ、すぐ気付かなかったのは幸いなのかもしれないが。
背後で起こっている惨状は、松明の灯りではその全てを照らし切らないからだ。

マヌエラ > 肉と頭蓋が打ち据えられる物凄い音がして、コボルトたちは皆、縦回転で数メートルも吹っ飛び、地面に転がって動かなくなった。
それを為したのが、虚空から現れた巨大な触手であったことは、少女にはうかがい知れぬことであろう。

「……」

動くものがないことを確認してから、女はほぅ、と息を吐き。
一転にこりと少女に微笑みかけた。

「間に合ったようですね。ご無事でしたか?」

ゆったりとした口調と歩調。歩み寄って、手を差し出す。

スクナビコナ > 取り敢えず、背後の追っ手は前から現れた誰かが一掃した。
自分に分かるのはそれだけ。
その手段も、まだ相手が何者であるかも分かっていない。
安堵の吐息を一つ吐き、その誰かが差し伸べる手を取って立ち上がる。
その声から、どうやらその誰かが女性である事だけは分かった。

「……すいません、お陰様で助かりました」

一寸の間を置いてから、フードを取って小さく頭を下げる。
礼を伝えるのに相手の顔を知らないまま、顔を隠したままでは失礼と思ったからで。

マヌエラ > 「どういたしまして! 困った時はお互い様、です!」

立ち上がらせては、朗らかに笑いかける。
場所にも時間にも不似合いな雰囲気だが、この辺りには変わり者が多いのもまた確かであり。

「わたしは、マヌエラと申します。見ての通りの術者です。
 お嬢様は、このような時間になぜこのようなところを――まあ!」

訊ねかけて急に止まったのは、お顔を拝見したがゆえ。

「――まあまあ! とっても可愛らしい御方!」

目をきらきらさせて少女を見つめるのであった。

スクナビコナ > 「そういって頂けると助かります」

人前での丁寧な口調で彼女へとそう伝える。
確かにこの時間にこの場所に居るのは不思議なものだが、それは自分にも該当するものだから。

「私はスクナビコナと申します、見て判断し辛いでしょうけれども薬師をさせて頂いております。
この付近にある小さな村の依頼で薬草を集めていた…の、ですが…」

彼女へと丁寧に伝え返しているのだが、急に動きを止め、目を輝かせ見詰める姿に途切れてしまう。
きっとこの反応にどう返したら良いのか迷っている、そんな姿として彼女に見えている事だろう。

マヌエラ > 「スクナビコナ様……お名前ありがとうございます! 薬師様なのですね! そんなにお若いのに、人々のために危険な場所で薬草を集めるお仕事だなんて! なんて立派なのでしょう!」

感動の面持ちで滔滔と語る。見た目通りの年齢と捉え、少女をうっとり見つめ。

「ではこれから……近くというと、あちらの村までお戻りになるのですか? でしたら、私が御協力できます!」

そう告げると、空中に、持っていた杖で大きく円を描いた。するとその円の内部が黒く塗りつぶされ、無明の闇に変じる。

「村までお連れいたします!」

空間に穴を空け、つなげる魔術の行使だった。

スクナビコナ > 「ええっと、マヌエラ様?
すいません、薬師ではあるのですが決してそこまで若いものでも無くて。
この見た目でそこまで感心させてしまっているのでしたら申し訳ないのですが…」

どこか興奮した様な様子で滔々と語る彼女。
それが何か申し訳なく思えば、それを抑えるかのように正直に伝えて。

「そうですね、後は村まで行って集めた薬草で処方を行えば仕事は終わりです。
が、良いのですか?マヌエラ様ご自身にも何か用があってここに来ていたのでは?
あ、あの、話を…」

確かに彼女のいう通りであり、自分の口でもそれを説明はする。
その際、送ってくれるとはいうものの、さすがに悪いと思って。
それを聞こうとするのだけど、先を先をと行動する彼女にちゃんと確認をしようと止めようとするのだ。

そうはいっても、もう空間を空けてしまったらしいのは見て分かる。
小さく肩を落とせば、どこか強引な彼女の案内を受けるのだろう。

マヌエラ > 「こんな甲斐甲斐しくも職業意識に溢れた方にお会いできて、あまつさえ助力することさえできて、このマヌエラ感動ですっ!!」

見た目のおっとりさに反して相当思い込みやすい性質である。
半分以上聞こえておらずに滔滔と語り続けていたが、正直な制止の声にようやくテンションを落ち着かせた。

「まあ、そうだったのですか? だとしても、スクナビコナ様が立派な薬師様であることには変わりありません!
 お手伝い――させてくださいませ。早く往ければそれだけ時間に余裕ができて、別のこともできるということですから!」

 と、スクナビコナが許すなら手さえ握って空間転移の穴へとお招きする。

 が。

 その向こう側は――村ではなかった。
 どくんどくんと脈打つ、肉質の奇妙な地面。
 周囲はぼうっと明るいがその向こうは一切見通せない奇妙な月明り。
 そも、その月がぼやけて2つある。
 暗闇に覆われた肉の密室とでもいうべき――奇怪な場所だったのだ。
 

スクナビコナ > 「薬師として当然の事をしているだけです。
正しい処方を施し、人々の健康を守るのが私達の使命といえるでしょう。
ただ、薬師でない貴女にそこまでの協力をさせて良いものなのかどうかが迷うところですが」

彼女の妙に高いテンションに少し困りながらも、諭すような言葉を続ける。
それによってなのか、単に彼女自身によるものなのか。
落ち着いた彼女の様子にどこかホッとした様子を見せて。
そこまでいわれてしまえば、今回くらいは手伝って貰っても良いだろうと、その考えが…

「……これは嵌められた、のでしょうか?」

招かれた場所に、その言葉と共に鋭い視線を送る。
明らかに自分が行くべき村とは違うその場所。
慎重に、彼女だけはしっかりと視線に捉えるようにして周囲を警戒して。