2019/07/27 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にヴィルヘルムさんが現れました。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にウルスラグナさんが現れました。
■ヴィルヘルム > 静謐な九頭竜の林間に、けたたましい音が鳴り響く。
地面を硬い物が殴り付ける音、金属が擦れ合う音、怒号、叱責。
そういったものが森の木々に憩う鳥達を軽く散らし、獣道を貫いていく。
「……こんなもんか。
全員ご苦労、今日の行軍訓練はここまで!
各自テントの設営と周辺の安全確保、のち休憩!明日タナールへの行軍訓練後半を行う!」
がしょん、と巨大な鎧を吠えさせながら、馬から降りる大男。
本日は、ヴィルヘルム率いる騎馬部隊の行軍訓練である。
■ウルスラグナ > ――彼女は少しだけ、楽しそうな様子だったように見える。
全員の声の中、たった一人。
「 ふふっ」
手綱を握って、ヴィルヘルムの横を駆けていた彼女は、到着すると共に馬から降りると、馬を労わるようにそのかんばせを撫でていた。
「……訓練に熱が入るな、"ヴィル"」
愛称。部隊の中でこっそりと聞いていたそれで名前を呼ぶ彼女は、緩んだ顔で馬を引いて、そちらの傍まで来ていた。
……ヴィルヘルムの乗馬技術にも匹敵、それ以上の可能性すら見える彼女の姿は、記憶に残っているかもしれない。
■ヴィルヘルム > 「…ああ、ラグナ。いやまぁ、部隊長としちゃな…
あんな荒くれ上がりでも、あの野郎共の命を預かってるって思うとどうしてもな?」
ばしゅ、と兜から蒸気が吹き出した。
兜の中に水が仕込んであり、それを魔術で膨張させることで頭にフィットさせるのだとかなんとか。
その兜の下からは、荒々しくも精悍で優しげな青年の顔。
「お前も凄まじい技術してたな。一朝一夕で身につくようなもんじゃねぇ、あれは体が覚えてる動きだ。
やっぱり記憶失う前はかなり優秀な軍人だったんだな。それもバリバリの前線タイプか…?」
流石に、部隊長が新入りの女性に負けるわけには行かないので全力を出したが、ちょっとかっこ悪いので黙っておいた。
■ウルスラグナ > 「……そうか、隊長職ゆえだろうが……うん、そうか」
何か得たように、小さく微笑んだ。
兜を外して現れる素顔を、いつも見慣れたようにとはいえ、柔らかく笑って見つめている。
「……そう、だったろうか?私には、馬のほうが合わせてくれていたようにも見える。良い馬だよ、私だけの力ではないさ」
見えぬ努力に勘づく様子もなく、連れている馬の毛並みを愛おしく撫でていた。
――彼女に宛がわれていた馬がどんな馬だったのかはともかく、
馬が乗馬主に合わせるなんていう事は殆どありえないことだ。
無自覚ゆえに転がった言葉が、かえって彼女の技術の凄みを滲ませる。
「……っと、あぁ、そうだ。ヴィル、この後、炊き出しを手伝おうと思うのだが、今日の献立は決まってたりするか?」
……彼女の馬、お尻の方に何やら大きな鞄を二つぶら下げている。
片方は"記憶を失う前からの彼女の武器"だが、
もう一つは、何か、柔らかいものを包んだ袋のようにも見える。
■ヴィルヘルム > 「な、なんだ?……あいつらには言うなよ?調子に乗る口実になりそうだし。」
こりこりと頬を掻く。
威厳…は今でも無いに等しいと言えばそうなのだが、少なくとも保つようにはしたいようだ。
「そうか?……そう思うなら、やっぱりお前は凄いよ。」
…宛行ったのは、普通の馬だ。いや、むしろ少し心配で大人しい馬を宛行ったほうだ。
落馬と、初乗りの馬の扱いの難しさ。これを考慮しての采配だったのだが…
……それで、歴戦の軍馬たちに余裕で追い縋り追い抜こうというのだから、騎馬兵としてはたまったものではない。
まぁプライドを刺激されている兵も居るが。
「ん?あぁ、決めてねえな。行軍糧食で簡単に済まそうかと思ってたが…
どうせ、さほど危険の多い演習でもねぇしなぁ。」
■ウルスラグナ > 「ふふっ、了解だ。ヴィルヘルム隊長」
右手が小さく敬礼した。からかうような笑顔は――前より、ずっとはきはきとして柔らかい。
出会った時の、満身創痍が滲ませた儚げな雰囲気とはかけ離れたが、なんだか今のほうが、ずっと"らしさ"がある。
或いは、そういう素を押し隠してきたようにも思わせる、表への滲み方。
「……そうか。けど、この"子"とは長い付き合いになる。まだまだ日も浅いから、世話をかけさせ――わ、わっ」
そんなことはない、とばかり、べろりんっと顔を馬に舐められていた。
はははこらこら、と宥めさせながら。
「……そうか。ううん、今の季節だ、訓練とはいっても、しっかり栄養は必要だと私は感じてる。だから、これを持ってきたんだ」
そう言うと、少し馬を宥めながら、その鞄を開けて何か取り出した。
『どでかい宍色の塊を紙で包んだもの』だ。
「この前、少し散歩をしていた時に、大きい獅子が畑を荒らしていたんだ。
だからちょっとこう、"叩いて倒した"ら、これがなかなか良さそうな肉付だったから貰って来た」
獅子を。
叩いて。
肉を貰って来た。
ヴィルヘルムの頭に、果たしてどんな映像が流れることか。
■ヴィルヘルム > 「……なんか、お前にそうやって言われるのやっぱ慣れないなぁ!
ちょっとムズムズする!」
わはは、と豪快に笑いつつ、それらしい調子に戻ってきたラグナに安堵する。
気負わず飾らない自然体。この活発な姿こそ、彼女のあるべき姿なのだろう。
「ははは、随分気に入られたな。仲良くしてやってくれ、軍馬としちゃちょっと温厚が過ぎるがな。
…お、食料だったのかそれ。ありがたいよ、そういうのはやっぱり貴重
……………………。」
首をひねる。
獅子を 叩いて 倒した? 9文字なのに理解できない。
「……ごめん。獅子?獅子をどうやって何したって?」
■ウルスラグナ > 「ふふっ、そうか。……ムズつくのはどの辺りだ?」
ここか?なんて、背中をぱしぱし叩いてくる。
強い強い。力が。
「……うん、良い馬だよ、この子は。大人しいが、しっかり地面を踏みしめて走る。温厚だが、とても逞しいよ」
……きょとん、と。
「……あぁ、ええと。獅子がいたんだ。ええと、ライオンというほうがいいのだろうか?それが畑で老婦に襲い掛かろうとしてたから、
"思いっきり顎を殴りつけた"」
顎を。てか、そこまで一瞬でか。
「……その後も生きてて襲い掛かろうとしてたからな、
"頭と首を殴って"、それで動かなくなったよ」
三発。殴った。
「……剣が無かったからそうしたんだが、正解だったよ。
お陰であまり痛まないで肉を取れたしな」
焼こうか煮ようか悩んでいるが……。と顎に手を添えているが。
■ヴィルヘルム > 「ははは、俺にもよく分から…痛い痛い。力…力が地味に強い。」
鎧の上からなのに割と痛いあたり、結構な威力だ。
「……………。そういう時はまず俺を呼びなさい。万が一でも怪我したらどうすんだ。
…いやそうじゃない、いやそこもあるけど。お前…お前すごいな。」
3発で仕留めたのか。ステゴロで。
…割ととんでもないことだが、まぁ魔物程度を殴り殺すのは自分もできる。
それでもあくまで小粒の魔物に対する最終防衛手段でしかないが…
「……焼くか!」
考えるのをやめた。
■ウルスラグナ > 「っと、あぁ、すまない……」
さすさす。意味がない。
……この細い腕に、どれだけの力があるのだろうか。
獅子なぞ殴り倒したというのだ。
それはもうとんでもない膂力だが。
「……え、と、すまない。そうだな、次からは、ヴィルを頼ることにする……。……凄い、のだろうか。うん、ヴィルがいうなら、そうかもしれないな」
しょぼん、と解り易い凹み方。けれど、その後ちょっと嬉しそうに微笑んでいるのは、なんでだろう。
褒められてると分かれば、とりあえずにこっと笑っていた。
「焼き、だな。よし、豪快に焼こう」
味付けは……と引き続き鞄をごそごそ。色々持ってきている。
なんというか、母親のような雰囲気さえ漂う背中だ。
■ヴィルヘルム > 「ああ、ありがとう……あんまり効果ないけど。」
腕を見る。……ゴツいわけでも、魔術の痕跡があるわけでもない。
これは種族特性というやつなのだろうか。……少し羨ましくもある。
「ああ、怒ってるわけじゃないからしょぼくれなくてもいい。…怪我されたら俺が心配するからな。
おう、そこは保証するぜ。…俺でも出来るかは分からねえしな…流石に3発は無理だろ3発は…」
ぶつぶつ。
「流石、準備がいいな。…今後は胃袋はラグナに任せてもいいかもな。
…貫禄あるよなぁ。いい嫁になるわほんと。」
■ウルスラグナ > 「……何となく、だ。痛いときは、そこを、もしくは、そこの近くを撫でてやると良いという。誰から、聞いたかな」
ううん、とうなったが、引っかかるものはすっかり無い。
そのまま触れるままだったが、ゆっくりと離れる。
自分の手を見つめる目は、ほんの少し不安げに揺れたようにも見えた。
「……うん、ヴィルのことは、あまり心配をさせたくない。ただでさえ大変なんだ、私が出来ることで、ヴィルを支えると決めているんだからな」
背中越しの、そんな言葉のあと。
「……あぁ、任せてくれ。美味しいものなら、なんでか作れるようだし。
――嫁、か、ふふっ」
今は調味料を探しては引っ張り出したり。
そんな様子が不意に振り返ると、
「ヴィルの嫁になら、なってもいいかもしれないな?」
なんて。 ――言ってから、かあっと顔は真っ赤に染まり、ぷるぷると言った口が何か言おうとしては息だけに変わって。
「ぁわ、わ、あの、いまのは、ちがくて……ッ!!」
■ヴィルヘルム > 「ま、民間療法だよな。…これも記憶から来てるんなら…
多分、ここらへんの文化はこっちもそっちも同じなんだろうな。」
ありがとう、と軽く礼を返す。
手を見つめるその姿に、似合わないことだと知りつつも言葉を投げかける。
「…大丈夫だ。お前はここの部隊の一員。あの連中の兄妹で、俺の家族でもある。
家族に何かあったら心配するのは当然だし、困ったら支える。」
その背中に言葉を投げかけ終えて、今度は調理を軽く見学でもしてテント設営に…と思っていた矢先。
「 。」
ぽかん、とアホ面を晒すことになった。…完全に思考停止している。
じわじわ赤くなってきているあたり、理解は出来ているのかもしれないが。
「…………え あ あー あの、こう なん えーと」
■ウルスラグナ > 「……そう、か」
自分はきっと、"この辺りの出身ではない"ことは違いない。
だからこそ、自分がここで、あまり浮いた行動などしてしまわないかなど、実は結構気にしてたりもした。
そんな不安を、少しだけ和ませてくれる言葉に、柔かく微笑んで。
「……その時は、ちゃんと、頼るよ」
小声で小さく呟いていた。
――――のに、それはもう。
自分のとんでもない発言で空気は凍り付いていた。
風の音さえ聞こえる。部隊の喧騒がせめてもの救いだ。
視線を泳がせ、調味料を両手に。
「…………じゅ、準備してくるっ!!」
逃げ出すようにその場を離れていく。
肉と調味料を小脇に逃げ出し、調理する場所のほうへ。
逃げ出す頬はそれはもう真っ赤だった。
…………皆の調理場とちょっと方向が違うような。
パニックになってなんか間違えてるらしい。
■ヴィルヘルム > 「 」
ぱくぱくと口だけ動いている。まるで酸欠の魚かサハギンかそのへんだ。
どうやら先程の衝撃は遅効性でもあるらしい。こちらも耳まで真っ赤になっている。
「お、お、おう っておいラグナそっちじゃない!そっちは山だ山!」
わー、と後を追う。流石に山に入られて行方不明になったら不味い。
……心の奥では、嫁になってくれたら嬉しいなどと考えていたのは、思い出さないようにする。
■ウルスラグナ > (……ばか、ばか、私のばか、なんだ、嫁になってもいいとか、何言ってるんだ、ばか……っ!!)
肉と調味料を持って疾走する。速い。なんだお前は。
下手な走りを得手にするどんな魔物や戦士なんかより、はるかに速い。
故に、"自分が向かった先が山の深いところである"ということに気づきもせずに行くのだから。
「――――う、ぇっ?!」
――どこっ、と、何かを踏んづけ、前方にすっ飛んで転がった。
「…………う、ぅう?」
『 グル、ゥ 』
「――――――。」
「っひゃあああああぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーッッ!!!?」
(※悲鳴。そして怒号のような獣の声)
置いてかれ、見えなくなってすぐ矢先に。
ウルスラグナの聞いたことのないような悲鳴と、そんな危なっかしい獣の声がした。
■ヴィルヘルム > 「ちょ、ちょっと待って速い……こっち鎧着てるとは言え現役軍人だぞ!?
待て、ラグナマジで待てって……くっそ馬連れてくりゃ良かった……」
流石に追いつくまでは行かないにせよ、なんとかその姿を見失わない程度に食らいつく。
流石に見失ってしまったら、日も沈みかけている中で探す手立てはない。
「………!」
しかし懸命な追走も甲斐なく、見失いかけた矢先……
森の奥から、甲高い悲鳴と獣の声がした。
悲鳴を目指し全速力で駆けながら、背中に携えたハルバードを素早く抜き、構える。
その目と表情は、先程の優しげな笑顔の隊長ではない。
殺意と緊張に満ち溢れた、戦士の顔である。
■ウルスラグナ > ――全速力で、そちらが悲鳴の元へと向かう。
……そこにあったのは。
「――ぁ、ヴぃ、ヴィルっ!!
――ぶっとい尾、二股に分かれた尻尾の先には、『無数の刺』。
そして獅子の体躯に、真っ赤な毛並み。
……こんな場所に本来居るはずもなかろうが、"ご都合的にそこに居た"ように。
巨獅子の魔物、『マンティコア』が。
肉と調味料を抱えて仰向けに転がったウルスラグナにその獣の眼光を向けて唸っていた。
『 グォオアアアアアアアッッ!! 』
「っ、ひッ」
咆哮。その声は目前で吠えられたウルスラグナが、ぴくりとも動けなくなるような振動を発する。
『金縛り』のようなそれは、少し離れたヴィルへも届いてくる。
目の前の魔物の威圧感が、咆哮と共に空気を震わせる。
「っ、ぅ、ぁ……!!」
視線がヴィルを見ている。
流石に獅子を殴り倒すなどといっても、"過去のないただの女"だ。
向けられる獣の猛威に、完全に屈して、おびえている。
「……っ……ヴィ、ル……」
"たすけて"、と、口の動きが、言葉を。
■ヴィルヘルム > ……眼の前に広がっていたのが、最悪の事態でないことにまず安堵する。
目の前の獣は、獣にあらず。獣の如き魔の暴威、魔物である。
姿形は獅子に似れど、ウルスラグナが仕留めた獅子などとは、知能も力も遥か上。
……正直言って、そこらの魔物小隊1つ分程度の戦力は、この個体だけであるだろう。
咆哮が空気を貫く。…魔力と殺意を音に乗せ、獲物にぶつけて身を竦ませる技。
狩りに技術を用いる。これもまた、マンティコアの知能が以上発達していることを如実に示すいい例だ。
これに射抜かれた獲物は身動きも取れず、胃の中へ収められるのを待つのみである。
「ああ。」
……それが獲物であれば、だが。
ヴィルは静かに、しかし重くウルスラグナの懇願に言葉を返す。
「戯れようってか、クソ猫が」
瞳孔が蛇のように引き絞られ、煌々と紅の瞳が光を放つ。
ギリギリと音でも鳴るかのように、まるでのたうつ蛇のような筋肉が腕を這う。
ヴィルの姿はマンティコア以上に、殺意と敵意に満ち溢れた…
人の形をした魔物の如き、修羅の様相を呈していた。
■ウルスラグナ > 気配に勘づいたように、ぐるりとマンティコアが振り返る。
人の形に骨格が近い故、その体毛と赤く仄かに光る眼が、"魔物"としての威圧、その全てをウルスラグナからヴィルヘルムへと向ける。
『 グォオアアアアアアアッッ!! 』
再びの咆哮。先のとは違う、明確な攻撃の意と共に、
その巨獣が地面を蹴って、ヴィルヘルムへと襲い掛かる――。
その紅い眼の光も、その体躯が構える膂力にも、獣は下手な知恵あってこそ気づいていて尚、
己ならばこの程度には、と高を括ったか。
「――――っ」
そのヴィルヘルムの変容と、この後に起こるだろうこと。そしてそれを実現するのが誰かであることに気づいたのは、
仰向けに転がったまま、ヴィルヘルムを見つめていたウルスラグナ、だけだろう。
■ヴィルヘルム > 空気を劈く咆哮。先程の行軍よりもなお高く強く響き、辺りの枝から鳥達を惑わせ散らせる。
二頭掛けの馬車よりも重いであろうその肉体は、しかしまるで猫のような靭やかさと身軽さを以て、獲物へ爪を伸ばした。
左右からの一撃、頭上からの尾の追撃。左右へ逃げても上に逃れても、決して無事では済まない。
事実このマンティコアは、この一連の動作で獲物を屠り、生きてきたのだろう。
「う」
……しかしこの『獲物』は、一歩前に進んだ。
懐に潜るように姿勢を屈め、爪をすり抜け、腕を躱し……
「お」
目の前に、輝く何かが迫る。
「ら」
世界が、2つの風景に割れた。
「ァァァァ゛ァァアアアアアアアア゛アアアアアあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッッッ!!!!!!!!!!」
……単純な話、その一瞬で勝負は決した。
馬鹿げた膂力と、馬鹿げた瞬発力。そして馬鹿げた動体視力で、ヴィルは『獲物』を仕留めた。
その僅か一撃で以て、顔面から尾まで、ハルバードにより一文字に両断して。
■ウルスラグナ > 『 』
果たして、自分がどうあって。
この目の前の自分より小さな存在によって。
その躰を。
文字通り、二つに割られて。
世界が裂けていくのを最期としたか。
きっとそれを知ることはないだろう。
頭上で切り裂かれたマンティコアから噴き出す血の噴水。
裂けていき、左右へ分かれて、跳躍の勢いのままに後方へと抜けていった二つの巨体。
……一撃で決した瞬間を、ウルスラグナは見ていた。
「…………っ」
ゆっくりと、拘束が解かれる。
恐怖感が薄れて、身体に力が入るようになれば、起き上がって。
「っ、ヴィル……!!」
――その鬼の如き一撃で魔物を屠ったヴィルヘルムへ、直ぐに駆け寄っていく。
■ヴィルヘルム > 「しゅゥ………ーッ」
鬼神の如きヴィルの口から、蒸気が一筋漏れる。
一瞬だけ全身を限界駆動させた弊害…というほどでもないが、こうして排熱する必要がある。
変温性物であるハイドラの血を引いているが故の、ちょっとした現象である。
…一瞬送れ、後方の森の中に土煙が上がった。
「……ラグナ!大丈夫か、怪我はないか!」
くるりと振り向くと、その顔は…血に塗れてこそいるが、普段の表情にあっさりと戻っていた。
■ウルスラグナ > 「……っ、それよりヴィルこそ、怪我は……!」
駆け寄ってすぐ、少しだけ漂った熱量に気づいたようだった。
浴びた血に汚れた体躯の中、傷を探すように。
……幸いにも、その後にすぐ、怪我がないと分かると、ほっとしたように表情が緩むが。
「……っつ」
ぴく、と、顔を歪ませる。
視線が自分の足を見れば、一閃されたような切り傷がふくらはぎの辺りに出来ていた。
最初に躓いたのはきっと、あの獣の"尾"だったのだろう。
それほど大きい傷でこそないが、血は流れている。
「っ……さっき、あの獣の尻尾に躓いたときに、やってしまった、かな」
痛みこそあるが、大したことはないと。
苦笑いを浮かべてそちらの顔を見る。
「……すまない、私が取り乱して走り出してしまったから……」