2018/12/19 のログ
■マリナ > 彼は強いし、信じているし、大丈夫だと思う。
けれど危険な仕事をしている事も承知で、戻ってくる姿を見るまでは常に心配で気もそぞろ。
だから ただいま と応えてくれる事が嬉しくて――何でもない日常の会話に相好を崩す。
それなのに一瞬だけ表情を曇らせたのは、何か思い出したようで。
「毛糸は……もっと難しいんです」
冬を迎える前に彼に何か暖かいものを、と、本で調べて編み物を始めたのはいつだったか。
完成品がない事が結果を示している。
―――そもそも、強健な彼に毛糸の防寒具というイメージがない事は置いておくとして。
そして少女より彼のほうがずっと器用なのは、常日頃から火を見るよりも明らか。
手慣れた様子で蔦を結んでいく手元を感服したように観察。
手早い動作は少女の記憶にとどめるのは難しかったけれど、其れを受け取ると物珍しそうに指先が蔦の編み目をなぞる。
強固な作りは分かるものの、これこそ冠という形には到底見えないので。
「すごい……速さも作りも。ヴィクトール様、作り慣れてるんですね。……でもこれ何ですか?」
垂れた紐を緩やかに引っ張りつつ、きょとんと尋ねた。
よもやこれで人の腕を封じる事ができるものだとは思わず。
「以前は雪が降ると風邪をひくからって外に出る事ができなくて……雪遊びするのが夢なんです。
積もるなら……うふふ、楽しみにしていよう。 でも、降らされる……?」
植物は枯れ、寂しい季節ではあるけれど、楽しみができたのでご機嫌。
けれど空を見上げる彼の内心は少々違うように見え、首を傾げた。
■ヴィクトール > 「あ~……まぁ、花冠と比べっとなぁ」
言い淀み、溜めのあった後の言葉には試したのだろうというニュアンスを感じ取る。
納得した様子で唇を開くと、苦笑いを浮かべながらに頷いていく。
考えてみればそれほど難しいことではなく、元々は深窓の令嬢。
手編みのプレゼントを作る相手等おらず、代わりに裸の絡み合いを教え込まれていた様な状態。
大事に育てられた様子は、普段の振る舞いからも分かることで、器用な娘でもないだろう。
けれど、それだけで言葉は止まらず、蔦を編み続ける。
「何でも最初は難しいわな。俺もよ……兄貴と出会うまでは金の勘定も下手でよ、魔術も練習して練習して……形にしたしな。こいつもそうだ」
そう告げると背中から降ろして傍らに置いてあった、相棒たる剣に手を伸ばす。
クレイモアほどの大剣、その刀身を軽くずらして僅かにさらしていく。
金属とは思えぬ漆黒の剣脊は、黒曜石のような光沢を見せつつも、溢れる魔力の気配は山嶺に満ちる生気とは真逆。
闇底から沸き立つ負の力は、魔族が近づいた瞬間に覚える淡い悪寒を思わせる感触を伝えるかもしれない。
「こいつも元はただの剣だ、さっき行った魔法でこう変わった……死にかけたけどな? ようは、下手くそでもやってみてぇなら気落ちせずやってみなって事だ。焦らずにな」
説教みたいになったと思うと、少しばかり気恥ずかしくなり、照れまじりにニヤッと笑った。
くしゃくしゃと金糸を撫でて更に誤魔化そうとし、その手に編み上がった手枷を渡せば、それを手の中で転がす様子を見つめていく。
「ありがとよ、仕事柄必要なもんでよ。そいつぁ手枷だ、輪っかにて手ぇ突っ込ませて、紐の部分引っ張ると手首が締まるって寸法だ。んで、引っ張りながら突き出しに行く」
ものは試しと少女の手を取れば、こんな風にというように輪っかに手首をくぐらせていく。
手錠の前に両手を差し出すように輪を通り抜ければ、紐の部分をゆっくりと引いていく。
しゅるしゅると締まっていけば、蔦縄の手錠となって両手を淡く締め付けていき、緩く拘束してしまう。
輪っかを広げにくいように細工をしてあるのか、少女の力で手首を少し暴れさせるぐらいでは、あまり緩まないだろう。
「ちっこいからな、確かにちょいと心配だ…。それなら年越す頃にゃ夢が叶うだろうな」
改めてその姿を見下ろしていき、視線が顔から首筋を撫でて、胸元から腹部…腰元から爪先と舐めていく。
女らしい肉付きは十分にあるが、背丈も年頃の少女にしては少し小さい。
少し不安になりそうだと、苦笑いで納得していくと続く問いに半目閉ざしながら軽く頬を掻く。
「あぁ……広場のところによ、丸っこい白い鳥がいるだろ? あいつら冬の精霊みてぇなモンでな。雪を降らすんだ。降らすのはいいんだが、去年はバカみてぇに降らして、雪かきが大変でよ?」
こんぐらい積もったと、地面から50cm程の高さに掌を水平に並べて、その具合を指し示す。
集落の組合施設内には鳥達の羽休めや発着場としての広場があり、大体は隼かマシコのどちらかが休んでいる。
たまに真っ白でふわふわの綿毛のような鳥も羽を休めているが、エナガの様な見た目と愛くるしい仕草を見たなら…記憶にあるかもしれない。
■マリナ > 少女が見る限り、よほど無防備でいられる状況以外では肌身離さず背負っている大剣。
振るう姿を見た事がないのは、自分が危険な地に置かれる事のない立場だからなのだろう。
初めて見る刀身は美しい――と感じる一方、魔術に疎い少女にも禍々しさは伝わる。
傾注するように見つめ、一度ゆっくりとまばたいた。
「えっ!死にかけた?」
最初からこの色ではなかったのかとか、お兄様の話をするときの相変わらずのデレた雰囲気だとか
様々口にしたかったけれど、最も気になった言葉に意識が持っていかれた。
勿論当時の事は出会う前で、少女にはどうしようもないものの
大事な人が死にかけた体験というのは、過去であっても眉をひそめるものであったらしい。
けれど同時に、其の話が自分を励ますためのものだという事も感じる。
雑に撫でられて少し乱れた髪のまま、こくんと頷き。
「頑張ります。 そのぉ……今までのお話とは関係ない事なのですけど……
ヴィクトール様は帽子とマフラー、どちらがお好きですか?」
サプライズも下手な少女は、何食わぬ顔を装って上目に彼を観察した。
ちなみに前回は、欲張ってどちらも同時進行した事は秘密である。
彼の作ったものは冠より実用的なもので、緩やかに少女の手首を繋いだ。
試しに抜けないかと力を込めてみるけれど、植物である筈なのに丈夫なのが分かる。
拘束された両手を指を絡めるように組むと、ますます罪人感が出る。
「すごぉい……これなら現地調達できますね。今度作り方教えて下さい」
あくまで戯れるためであって、罪人を捕まえる機会なんてないのだけれど。
近頃護身術を習うようになった少女。
それなりに熱を入れて頑張っていても、筋肉らしいものは備わっていない。
相変わらず胸元にあるのは胸筋ではなく柔らかな脂肪だし、全体的な丸みも甘ったれたまま。
「あの子たち、そんな事ができるんですか!?
わぁ~……ぃ、いえ、大変なんでしょうけど、マリナはちょっと楽しみです。
そんなに積もったのは見た事がありませんもの」
苦労を伝えてもらったというのに、にまにましてしまう子ども。
王城よりここのほうが季節の移り変わりは明確で、豊かで、それだけで楽しい。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中 野原」からマリナさんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中 野原」からヴィクトールさんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にディールさんが現れました。
■ディール > 「ここなら然程見られる心配もないか。」
嘗て王城の中、表に出せない魔術理論が書き連ねられた書物で学んだ『固定』の魔術理論。
例えば――単純に自分が踵を揃え、とんっ、と土の地面を軽く蹴る。
1メートル程度を超えたところで、急速に地面に引っ張られる力を感じる――。普通ならばこのまま、地面へと降り立つだろう。
「式固定、重力固定」
まだ、声に出す必要も有るが。簡単な術式を組む。
見える人間には見える魔力の糸が、蜘蛛の巣の様に自身を中心に放射形に広がっていく――。
その糸は樹木に巻きつくでも、地面に突き立つでもなく。
ただ、時計のように円盤を描きその中心に自身が位置するような1個の魔法陣を描いていた。
――ピタリ、と。
自分の姿が地面に落ちる事なく、空中で静止している。
その状態を維持したままで、今度はポケットから胡桃の殻を一つ。それをさらに高く放り投げる。
同時に胡桃の殻にも、固定式を繋げる――。
胡桃の殻が自分よりも遥かに高い上空で固定をされていた。
「……基礎理論は難しいが、地味だなこの魔術。」
溜息。あくまで、固定をすると言うだけであり――固定した物をトラップ代わりに扱う事や、精々街中などでイタズラをする程度。
そんな使い方しか、今は思い浮かばない。
川の流れを固定すると言うのは、川の水量全てを固定しなくてはならず魔力が追いつかない。
――どうしても使い道は地味になるかと溜息は続け様に出ていた。
■ディール > 利点はある。単純に宙に浮くよりはこうして固定させた方が魔力の消耗が抑えられる点。
欠点は、どうしても器用な使い道が思い浮かばない点ともいえる。
出血をとめる、血流を固定する――医者らしい使い道も出来そうだが、そもそも回復魔術で良い。
となると、固定の魔術。――感覚や神経伝達、蓄積された物に影響を及ぼせるなら使い道はあるかも判らない。
下卑た使い方ならば、絶頂間際で快楽の深度。その快楽の総量を固定してしまう――或いは絶頂をさせたまま、その絶頂を固定させてしまうやり方。
己が女であれば相手の男の射精状態を固定させ、さっさと枯れ果てさせる事も可能だが――生憎サキュバスでもインキュバスでも、その手の趣味もない。
「もっとも、敵愾心。敵意、害意等には有用かもしれんが。」
■ディール > ―――例えば血流が止まるなら人の生死も操れるか?
答えは否。と言うよりは血流をイメージしてそれを殺害する為に使うとなると、今度は血液の量のほか、生きようとする精神力や生命力。
或いは相手の魔力との鬩ぎ合い、ともなる。
固定は一方的に行なうには自分にはハードルが高過ぎるのかもしれない、が。
「固定をさせる事を覚えればその真逆も覚えられるかもしれん。
例えば、そう。恩寵を固定から解き放つ、などな?」
出来る筈もない。そもそも自分よりも遥かな高みの相手でさえ恩寵に果ても足も出ないのだ。
それが自分1人でどうこう出来る物ではないのは明白だろう。
…もっとも。一度この王国が恩寵の庇護から外れれば――。
「真の楽園を見れるやも、しれんな」
欲望のみが渦巻き、弱者は虐げられ――己とて弱者の分類。
其処に待ち受けるのは過酷さが際立つ地獄か、絶望か。
それならそれで――己もまた、楽しめるものが見れるかもしれない。
そういう空想が出来るのは悪くない――手慰みとしては上々だろう。
思い描く世界、理想の世界は――全ての存在が復讐に溺れ、復讐が復讐を呼ぶ世界。
調和等知らぬ、必要もない―――
■ディール > 遠くから叢が蠢く音がする。
獣か、人か。面倒事に巻き込まれる前に固定を解除して――その場を後にしていった。
残されたのは上空から落ちてくる、胡桃の殻。
割れたそれは何を暗示しているのか。吉凶を占う人間なら、判るやも知れず
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からディールさんが去りました。