2018/10/27 のログ
■マリナ > 「たくさんあります!あの……正直申しますと……未だにお金の価値がきちんとわかっていなくて……。
いつか市場で一人で食材を買って、お料理できるまでにとか……なりたいのです」
ぽつぽつと口にする願望は、人によっては些細なものなのだろうけれど。
同じ年頃のミレー族の少女と話すのは楽しい。流されるように過ぎていく騒々しい日常も。
けれど彼の帰りを待つ間、何かしらできたらと思うのは当然のこと。
―――他にすべきことがあるような気もするけれど、覚えたての懸想に集中してしまう未熟な年頃。
それでもこんな頼りない自分でも魔法なり、何かしら会得することができるのかと思えばヤル気は見せた。
「が、頑張ります!ヴィクトール様のお手を煩わせてばかりはいられませんから!
……でも……お仕事ができるようになったら、ヴィクトール様が
ご一緒して下さることがあるっていうのはうかがっていて……それは、とても楽しみにしてるんです」
彼の指が触れる頬が思わず綻ぶ、先の話。
未だ仕事を始められる段階ではないこともあり、時間に余裕があるために彼のいない時間が寂しく感じられる。
だからこそ甘ったれた言動も多くなり、引き寄せられて視線を重ねるように上げた貌が緩やかに微笑む。
思慕を隠しもしない反面、距離が近付くと頬が染まり、熱くなってしまう。
それをごまかすように首を傾げながら悪戯めいた口調で。
「マリナが訓練にお呼ばれした時は、覗かないで下さいね。
……転んだり、失敗するところ、あまり見てほしくありません」
■ヴィクトール > 小さく、嫋やかな姿を見かけたミレーの少女達も、興味にしっぽを踊らせながら近づき、興味に問いを捲し立てた事だろう。
年頃の少女の興味という点では、姫君を連れ去った風来坊との夜を興味津々に問いかけたかも知れないが。
「ほぉ? ……ぁ~…まぁ、マリナの場合だと、あれだよなぁ…金に触れるって無かっただろうしな」
大切に大切に育てられていたというのは、自分以外の男達に汚されても、純粋さを失わなかった擦れの無さから感じ取れる。
故に、お金の価値がはっきりとわからないと言われれば、納得した様子で小さく何度か頷いていく。
何にどれだけの金が掛かり、価値があるか。
そして、その価値がどれだけの苦労の上で成り立って、金となるかを……どう伝えたものか。
思案顔になりかけるも、料理を振る舞い先が途切れかけた言葉で分かり、クツクツと嬉しそうに笑いながらくしゃくしゃと金糸を撫で回していく。
「ありがとよ、マリナが作ってくれるんじゃ、腹すかせて帰らねぇとな」
恋する乙女の努力に嬉しそうに微笑みながらも、少しだけ胸の奥が痛む。
これだけ純だからこそ、言えずにいる事もあるが…今日も機会を失ってしまった。
兄には早く言うべきだと釘を差されてるのもあり、苦笑いのままに誤魔化すように撫で続けていた。
気合い充分な言葉に、相変わらずのあくどい微笑みを見せながら、程々にな?と囁いていく。
魔法を覚えるにしても、魔力を消費すれば体は疲れる。
運動も少なそうな少女のことだから、あっという間に体力を使い果たしそうだと思えば、徐々にと促すように言葉を重ねていく。
「……俺もだ、仕事そっちのけでマリナを押し倒さねぇようにしねぇとな?」
少女の仕事は礼儀作法の講師でもあるが、一番にお願いされたのはそこではなかった。
王族や貴族達との接点となる宴に顔を出し、彼等の流行り廃りを知ること。
それだけと思われがちだが、それを商売に転用すれば活きた情報となって利益に変わるのだ。
とはいえ、深窓の令嬢を一人で活かせるのは忍びなく、この野良犬じみた男をお供につけることになっている。
肩を抱き寄せながら答えようとすると、思慕を覗かせる微笑みがこちらを見上げていた。
可愛らしく、そして純に幼い。
儚さの全てを詰め込んだ様な姿に、クツクツと笑いながらも冗談に笑みを深めるばかり。
「そいつぁ無理だな、転んだ時はマリナのスカートの中覗いてやらねぇとよ? で……そん時の為の制服と、ティルヒアの職人からマリナに餞別だとよ」
きっと派手なぐらい、べしゃっと転ぶのだろうと思えば、まくれ上がるスカートの中を覗くべく視線を集中させるのが、下心に生きる生物、男だ。
冗談に冗談を重ねるように答えると、自身の背中へと掌を回していった。
背負っていた大剣に吊るされていた包みを手に取ると、紐を解いて彼女へと差し出す。
樹脂を溶かして作った包みを開けば、中には彼女の制服が収まっているのが見えるだろう。
組合内にも予備があるが、色は指定できない。
造兵廠のあるティルヒアで量産するため、そこの在庫から好きな色の組み合わせを引っ張り、スカートのプリーツあたりに所属紋を刺繍するのだ。
そして、冬が近いのもあり、すっぽりと肩から腹部辺りまで覆える冬用のケープも希望の色の物に、所属紋をいれたものを収めている。
だが、それが餞別というわけではなかった。
一緒に入っているものがもう一つ。
薄茶色の革のケースに収められた、重みのあるなにか。
中には緩い弧を描く象牙の握りに、小さなシリンダーを備えた、かなり小さな魔法銃が収められている。
遠目に見ればフリントロックピストルの様なフォルムだが、細かさはそれとは比べ物にならない。
何より、銃身にはスズランの花を思わせるモールドが施され、銀色の銃身に金色の花が走っていた。
■マリナ > 一枚も二枚も何かで隔てたような王城での付き合いとは違う、みんなの接し方に
最初は戸惑ったけれど、年齢が近い同性であれば打ち解けるまでに時間はあまり必要なく。
嘘が得意でない性格も相俟って、二人がどう出会ったかは一部の少女には漏れているかもしれない環境。
その騒々しさが色彩豊かな日常となり、今の少女の笑顔を作る一端となっている。
もちろん、そのうちの大きな要因は彼の存在であり。
「ヴィクトール様が早くお帰りになってしまうくらい美味しく作れるよう、練習しますから。
そういえば、今日もご予定より早くありませんか?
夜までどうしようかなって考えてたんですよ。……ふふ。嬉しいです」
思ったより早く顔を見られたことが嬉しくて、はにかみながらも言葉は常に素直に。
色々と始まれば考えることや注ぐ努力の対象も増えるだろうけれど、今は彼を想っていれば時間の過ぎる生活。
それを思う存分堪能しているのだから、言葉にせずとも満ち足りているのは明白だろう。
心の底から感じる多幸感を覗かせたり、恥じらったりと、忙しい。
「ヴィクトール様……、そんな恥ずかしいこと、誰かに聞かれたらマリナはどうしたらいいか……!」
人によっては彼の冗談より少女の真っ直ぐな思いの丈のほうが恥ずかしいのだろうけれど。
他に視線はない筈と思いながら、つい周囲を見回してしまう。
夜も夜だけれど、昼は昼で彼の愛嬌がある意地悪に振り回される、幸福な日々。
「もう、ヴィクトール様ひどいですよぉ―――…… ?」
彼の想像の中ではどれだけ自分がひどい転び方をしているのか。
膨れた少女の顔は、すぐにきょとんと間の抜けたものに変わる。
手渡された制服は集落で見慣れた形。
色違いでお揃いの制服を着ている彼女たちが愛らしくて、憧れていたそれ。
包みを開けながら目を輝かせ、高揚した声を上げ。
「わぁ……!マリナのですか?うれしい……うれしいです、有難う御座います」
子供のように制服を抱き締めた。
深い緑を基調としたそれは、所属紋が栄えて、未だ何もしていないのに誇らしかった。
彼だけでなく、一緒に過ごしている少女たちの仲間に入れた気がしたから。
そうして喜びを表した後、次に確認した物は予想外だった。
武器。けれどあまりに美しく、繊細で、驚きながらも自然と指先が魔法銃の表面をなぞってしまう。
「―――これは……銃ですか?」
魅せられながら、わかりきったことを訊ねるくらいには戸惑いがちに。
自分の身は自分で、といった環境で育っていないせいで、使えるか自信がない。
■ヴィクトール > そのうち、ニヤニヤする妹分たちから、肘で脇腹を突っつかれる日々が始まるのだろうと思いもする。
しかし、それが来るのはもう少し先……一部が、大体ぐらいに変わった頃合いだろう。
連れてきた時に比べて、嬉しそうな子供っぽい微笑みが増えたのは嬉しいことで、自然と表情も緩んでいく。
「良い子だな、マリナは……あぁ、港の方で悪党の捕獲ってところだったんだが、早々に尻尾捕まってすぐ終わったんだ」
嬉しいと素直に思いを伝えられると、痛みよりも嬉しさが強まる。
あの城に閉じ込められていたならば、こんな顔は見せなかったのだろうと思えば、あの夜とは違う喜びが胸を熱くする。
続く問には軽く肩をすくませながら答えるも、重ねた冗談に恥じらったりと、子供っぽく忙しないのがまた可愛らしい。
誰も聞いてねぇよと、クツクツと笑いながら恥じらいの赤色が浮かぶ頬を撫でていく。
ひっそりと……彼女の前へ現れる前に、馬車で待っていた少女達にも告げておいたのだ。
適当に二人で話してから帰ると、先んじて戻っていった馬車からニヤニヤする妹分達が見えたのは言うまでもなく。
「そう拗ねんなって、マリナのそういうのも可愛いからみてぇんだよ」
子供っぽく頬をふくらませるなら、眉尻を下げながら謝罪し、ほっぺたを突っついていった。
だがそれも、彼女の希望色を聞いて拵えられた制服を渡せばすぐに消えてしまう。
御礼の言葉に気にするなと言うように緩く頭を振って答えて行く中、抱きしめられた制服の紋がわずかに覗ける。
桜のように咲き乱れる、ライラックチャームの薔薇のデザイン。
教養の印の制服は、抱きしめれば分かるのだが、服にしては重たさがある。
密度が高く、靭性の高い制服は、第一線で防具として使われるだけの重みを彼女に伝えるだろうか。
「あぁ、うちの奴が使う魔法銃ってのだ。敷地内でも練習してるの、ちょろっと見たことぐらいあるだろ?」
隣国から接収した魔法技術の一つ、そしてこの組合を成り立たせる大切な武装の一つだ。
敷地内でも的に向かって少女達が年中使用している姿も、よく見かけたはずだ。
構えれば、銃口に広がる青白い閃光の魔法陣。
そして引き金を引くと共に陣が弾け飛び、光弾が真っ直ぐに飛んでいく様相を。
ただ、少女達が使うのに比べれば小さく、何より形状が全く異なっていた。
「秘書の娘とはあったろ? アイツが室内用にって試作をお願いした奴の一つでよ、ちっこすぎてちょいと力が足りねぇって、ボツったらしいんだ。んで……マリナみてぇに、戦うのはおまけのおまけみてぇな娘用に作り直そうぜってな」
だから、少女が初めてのテストをするという小さな任務を任せられたのだ。
リリーベルと名が打たれたそれは、スズランの花のように繊細な作りをした魔法銃。
手触りの良い象牙の感触も、彫刻品の様なモールドをなぞるても、皮膚に引っかかる感触は一切ない。
「ところで……その制服、俺の前で着てくれねぇのか? 今」
ドレスとは異なる、愛らしい姿を拝みたいとお強請りを重ねるが、目の前でという意地悪を忘れない。
自然に囲まれ、自身の視線しか無いにしても、肌を晒す羞恥は消え去るはずもないだろう。
恥じらいがみたい、そういうように、男の顔も自然とニヤけるのだった。
■マリナ > 予想外に早く訪れた彼との時間に、少女は笑ったり膨れたり驚いたりしながらも、一貫して幸福そうだった。
それもこれも面倒を背負ってまで連れてきてくれた彼と、そのお兄様、そして見守ってくれる少女たちのおかげ。
彼女たちの冷やかしが、どちらかといえば彼のほうに向くせいで、少女が自制しないという悪循環はあるけれど。
「お怪我ありませんか?ヴィクトール様はマリナを心配して下さいますけど、
マリナもヴィクトール様を常に思っておりますから、無理しないで下さいね」
仕事内容を聞いて、ふと脳裏に過ったのは傷だらけの彼の体。
深い傷もあった。思えば彼の傍にいるというのは、今後も増えるかもしれない
傷の心配をし続けるということで、急に不安を覚えて念を押してしまう。
何も知らない自分が言うまでもないのだろうけれど、言わずにはいられない。
例えば自身に力があって、彼と共にどこにでも行けるというのならまた違ったのだろう。
少ししょんぼりとしてしまうけれど、貰った制服が、魔法銃が少しでも自衛となるのなら。
「あぁ……レナーテさんの……。こんなに綺麗な武器があるんですね。
―――あ、それではマリナも皆様と一緒に練習できるのですか?」
武器を持ったことがない自分でも、持ち歩くのに抵抗がない程に情緒的なデザイン。
何から何まで用意してもらい、恐縮する気持ちがある一方、少しずつ任されることが嬉しくて。
銃身の手触りに魅入られながら、練習の仲間入りができるかもしれないことに喜色を覗かせる。
あの建物に滞在させてもらっている以上、毎日見る光景に憧れはあるようで。
それは制服も同様。着たいと思っていた。着るなら見せたいと思っていた。
「いまっ!?そ……それは、もちろん……後でお部屋でなら是非見ていただきたいです……けど……。
だって下着姿にならないと着れませんもの……」
思わず「はい、もちろん」と答えそうになって、彼の顔が、今ここでと強調していることがわかって歯切れが悪くなる。
すごく見てほしかった。見て、似合ってると褒めてもらいたい子供っぽい欲求はあるけれど。
相当嬉しく大切にしたいようで、地面につかないよう膝の上に制服と魔法銃を乗せると、困り顔。
周囲を見回して――誰の視線がないことも確認した上で、イヤイヤと左右に首を振る。
さすがに屋外で肌を露出した経験などない。
■ヴィクトール > 「おぅ、これぐらいなら大丈夫だ。――ははっ、ありがとよ。これでも半分人間やめちまったからな、そう容易く死にゃあしねぇさ」
幾度も斬り結んだ結果、身体に残る傷跡は遠い戦場で幾度も刻まれたものだ。
その幾つかは、貫かれた瞬間を少女が見るだけでも、卒倒しかねない鮮血の宴である。
ざりざりと肉が裂け、激痛とともに血潮が吹き出す殺し合いの刹那。
その爪痕は、その瞬間を見せずとも彼女を不安にさせたようだ。
しょんぼりとする様子に大丈夫だと微笑みながら、あやすように金糸の頭をなでていく。
口にはしないが、少女のような庇護欲を煽る娘の為に体を張り、傷を残すのも男の甲斐性だと思っていた。
「あぁ、レナのだ。その握りのところと、模様はマリナの為に入れてくれたんだとさ。まんま銃じゃ、ちょっと無骨だろうさとな」
左右両面に描かれる上品な金色のスズラン模様、筒の部分には Lilly Bell と筆記体で模様に溶け込むように刻み込まれていた。
任せられた仕事の重要さは、少女がその銃を知れば知るほどに分かるだろう。
少女のように力の弱い娘が、ほんの一瞬逃げ出すための時を作る武器として、仕上げる情報となるのだ。
重さは、耐久度は、使いやすさも全て少女の答え次第…と、あまりプレッシャーを掛けないために、敢えてそれは伏せていたが。
続く問には勿論というように頷いていく。
少女達が小銃ではなく、拳銃型の練習をしているのもみたことはあるだろう。
何処と無く嬉しそうな様子が見えれば、皆に色々と教えてもらえと耳元に囁きながら冗談へとつなげていく。
「マリナみてぇな、綺麗な娘がこういう景色いいところで脱いでくれりゃ、いい絵になりそうなんだけどよぉ? まぁ……そういうのは、慣れたらまたオネダリさせてもらうぜ」
そのまま頷くかと思いきや、流石にというように言葉が濁っていく。
困り顔でこどもっぽくイヤイヤするのをみれば、お強請りな言葉を重ねるも無理強いはせずに引っ込めていった。
見渡す限りの自然に溢れた世界だったが、肌を晒す羞恥の強さがあるなら、少しずつ……それに蕩けるようにしてしまおうかと、悪い欲が顔を擡げる。
だが、それ以上に取り下げる理由となったのは、膝の上に置かれた制服と銃を一瞥した事が要因である。
汚さぬようにと丁寧に纏めて膝の上に収めているのだから、土をつけるのも可愛そうだ。
気にしていないというようにクツクツと笑い声をこぼしながらも立ち上がれば、代わりにというように小さな手をすっぽりと包めそうな無骨な掌を差し出す。
「じゃあ、マリナの部屋行こうぜ? 散歩がてら歩きながらよ」
歩いて帰るなら少しだけ集落までは遠い。
しかし、王宮育ちに乳母日傘の彼女には、程よい……にギリギリ収まる運動にはなるだろうか。
その合間も、少女の喜怒哀楽溢れる表情を見つめながら、他愛もない話に花を咲かせながら、二人の姿は遠ざかるのだろう。
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