2018/10/26 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にマリナさんが現れました。
マリナ > 住み慣れた王城から離れ、少し日にちが経過した。
連れてきてもらった集落は刺激的で、城の一部屋に閉じ込められていた頃に比べ、時間が経つのが早かった。
滞在している組合の建物内を歩き回り、それに慣れると外に出てみて一日中散歩して。
それにも慣れると自立するということを学ぶよう、少しずつ世間を知っていく過程にある頃。
気候のいい昼過ぎ、馬車には山道に待機しておいてもらい、少女の姿は集落に程近い開けた緑野にあった。

ワンピースの裾を広げるように座り、木の実や落ち葉を広って鼻歌を口ずさむ。
穏やかな風に金糸の毛先が揺れ、木陰が優しく日光を遮る。
王城では搾取者たちの慰み物として扱われ、ふとした瞬間に影が差した貌も、今はゆったりと微笑んでいる。

ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にヴィクトールさんが現れました。
ヴィクトール > 少女を連れ出し、数日が経過した。
兄が祟り神らしく振る舞ったことで、すんなりとその身を預かる事ができたが、王族の娘を預かるとなれば色々と気を回すもの。
だが、剣を振るうぐらいしか知らぬ身には、その苦労は掛からなかったが。

「こうして見ると、絵本から抜け出したお姫様だな」

木漏れ日の中、穏やかな微笑みを浮かべる少女は夢物語の住人の様に愛らしく、綿毛の様に柔らく感じた。
長い金糸と透き通るような碧眼もまた美しく、何処と無く幻想的にすら思える。
こんな娘を攫ったのだと思うと……我ながら、やることが派手すぎたなと、今更に思うが後悔などはなかった。
挨拶代わりの言葉をかけると、相変わらず人相の悪い笑みで笑いながら、よぉ と呼びかけながら軽く手を振って近づいていく。

「どうだ、ここでの生活には慣れたか? 風呂も食堂も、だいぶ勝手が違うだろ?」

そのままどかっと隣へ腰を下ろすと、がしんと斜めがけされた大剣が金属音を響かせる。
眉を顰めながら軽く頬をかき、苦笑いを浮かべたのもまるで違う生活環境の変化に、今日になって気づいたからだった。
王城のように静かな食堂などはなく、同じ年頃の少女達が和気藹々と騒ぎながら料理を頬張る場所である。
上品に皿を並べてから、一から順に料理を給仕するものもイない。
風呂場も同様に、共同浴場と騒がしさも変わらず、全てが自分ですべき事だらけだ。
確かめるように問いつつ、その顔を覗き込んでいった。

マリナ > 風に乗って届いた声が、今最も近しい間柄の男性のものだと気付いた途端、少女の表情は華やいで振り返る。
慣れるまでとのんびり過ごさせてもらっている自分とは違い、みんな忙しい。
年頃の少女は覚えたての感情に揺さぶられやすく、放っておいたら
四六時中彼の傍にいようとするのだろうけれど――当然そういうワケにはいかない。
そもそも周囲は知らないことばかりで、本来勉強するにはいくら時間があったって足りない。
だからこそ、彼に気付くと懐いた犬のような反応をしてしまう。

「はい。皆様お優しいから、マリナがもたもたしていると教えてくれますもの。
 たくさん知りたいことはあるんですけど……なかなか追い付かなくて」

どこかばつが悪そうに笑う彼に笑顔を向けたまま。
騒がしくも興味の尽きない環境は、本当に楽しかった。
彼らには取るに足りない粗野なやり取りすら、延々と眺めていられる。
けれど未だ自ら市場でお金を支払うことだとか、単純な常識が備わっていないところもあり、その辺りは口ごもる。

「そのうちマリナも皆様のようになれるでしょうか。
 男性を投げ飛ばせる女の子もいらっしゃるんですよ」

訓練を覗き見たらしく、妙な憧れを抱いてしまう温室育ち。
ワンピースの上に集めた木の実を指先で弄りながら、不安と期待と複雑に織り交ぜて呟き。

ヴィクトール > 花咲くような微笑みに、悪どい顔もニヤけていく。
この男も例外なく忙しい方で、今日も港町まで出向き、国を腐らせる悪党を捻じ伏せてきたところだ。
見送られる時の表情は、お留守番だとわかった子犬の様な、哀のある表情をしていた。
また夜にとくしゃくしゃに金糸を撫でて出立し、さっさと仕事を片付けて蜻蛉返りし、今に至る。

「意地悪するような奴ぁいねぇだろうけどよ、知りてぇ事か……んなに目新しい事、あったっけか?」

朝も昼もそうだが、食堂は特にやかましい。
組合の飯を一手に担うのもあり、長い列のが常である。
この男は朝も昼も、大体出先で済ませてしまう事が多く、ばらつきのある夜しか食堂を使わない。
故に、その事をすっかり失念して心配だったのだが、楽しそうな声に安堵の吐息をこぼし、瞳を伏せる。
そして、重なる問いに彼女の知らぬ事を思い浮かべるも……勝手の違いとはまた異なるだろうと思うと、何のことかと軽く首を傾げていた。

「アイツらみてぇにか? ぁ~……まぁ、戦闘職の奴ぁそれぐらいやるけどな。マリナも頑張りゃ、魔法の腕は着くかも知んねぇな?」

訓練の様子を彼女の言葉から思い浮かべれば、嗚呼と言いたげに唇が開いた。
魔法剣士隊の娘なら、組手相手の男達……大体は混成部隊の歴戦の男達が多いのだが、あれを投げ飛ばすことぐらいはある。
恐らく、少女とは思えない雄々しい雄叫びとともに、捕まえた腕を振り回して、地面へ叩き込んでいたことだろう。
そんな力技をする少女の姿は流石に浮かばないが、魔法を唱えるぐらいなら出来そうだと、近そうな未来を語る。

「そのうちマリナも、軽い訓練にお呼ばれされると思うぜ? 俺が付いて外連れてくから、危なくねぇ様にはするけど…いざってときがあるからな」

指遊びに木の実をイジる横顔を見つめながら、白い頬を撫でながら滑らせ、金糸に指を漉き通す。
零れ落ちていく心地よい感触を楽しみながら撫でていくと、少し先の話を重ねて行った。
彼女に前線に立たせる気も、警備をさせるつもりもないが、悪党に狙われて、逃げることも出来ないのはマズい。
そもそも、温室育ちという印象そのままの彼女故に、どれだけ走れるかも不安を覚える。
運動の時間といった軽い口調で語りながらも、その間も掌は髪を撫でて頬に触れ、肩に重ねては優しく引き寄せていった。