2018/10/18 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にヒビキさんが現れました。
■ヒビキ > ―――ざわり。
ほんの僅か、森の空気が変わる。
「――――…結構、待たされた。」
ポツリと口にすると、ヒビキは無造作な所作で椅子代わりにしていた朽木から腰を上げる。
その足元、黒鋼の脛当てに鎧われた足先の地面に、シュドッと前触れなく矢羽が生えた。
『へっへっへ……話を聞いた時ァ何の冗談かと思ったがよォ、実際大した上玉じゃァねェか。』
『だから散々そう説明したじゃあねぇですかい。』
『ハ、そう言って以前襲った馬車にゃあヒデェ醜女が乗ってたっけなァ?』
『ゲハハ、あの時ぁ難儀したよなぁ。』
緊張感など欠片も持たない言葉を交わし、街道沿いの立木の影からぞろぞろと姿を表したのは、傭兵とも山賊ともつかぬ薄汚れた格好と凶相を備えた男達。
野太い腕が手にしているのは刃こぼれも生々しい斧剣の類。無論、既に剥き身である。
先にヒビキの足元に矢を放った男も合わせ、20に近い数のゴロツキ共が下卑た笑みを浮かべて軽装の女サムライを取り囲む。
事前に察知していた通り街道の逆側からも新たな山賊が姿を表すのを、ちらりと流した横目で確認しつつ、ピクリとも動かぬ無表情が―――ジャコン。
背負った黒鞘に付随する機構を用い、2m近い長物を水平に担いで僅かに腰を落とした。
■ヒビキ > 『おほ、この女ァ、ヤる気だよ、おい。』
『うはは、この人数差相手に豪気だなァ。』
嘲弄の言葉とは裏腹に、山賊達の誰もが心根の奥に気味の悪さをを感じていた。
何をするでもなく、ただただ街道脇の朽木に座って微動だにしなかったのも意味不明。
何より、眼前の小娘がこの状況においてもフラットな気配と変わらぬ表情を保っているのが不気味でならない。
艷やかな黒髪はエキゾチックで、その下についた顔貌もすこぶる付きの上玉である。
あまり見かけぬデザインの緋色の着衣が包む肢体の肉感は、王都の高級娼婦でさえ霞む程の逸品。
処女かどうかなど関係なく、なんなら手足の1,2本切り飛ばした所で凄まじい値が付くはずだ。
常であれば堪え性のないバカが飛びかかり、その悩ましい体躯を剥き出しの地面に押し倒して先走りの滲む肉棒を擦りつけていてもおかしくない。
にもかかわらず、女の携える長物の届く距離は愚か、それに倍する距離を詰めようとする者が出ないというのは明らかに異常であった。
つぅ…。
垢汚れのこびり付く髭面が冷や汗を流しつつゴクリと生唾を飲み込み
『へっへ、まぁまぁ、ンな物騒なモンはとっとと下ろしておとなしくしてくれや。そうすりゃあほれ、オレ達もオーガ共みてぇな野蛮なマネはせずに丁重に扱ってやるぜ?』
気を抜けば震えそうになる足を踏み出し距離を詰めた山賊の頭――――その首がポンと飛んだ。
■ヒビキ > 『―――――………は、ぁ?』
ぽかんと間の抜けた空気が流れる中、首を断ち切られた山賊頭の巨躯がブシャァァァアアッと噴水の如き勢いで鮮血をしぶかせた。
頬を、剥き出しの二の腕を濡らす生温かな雨粒が、やけに鮮やかな紅の色彩を持っていることに気付いた男の一人がガキの様な悲鳴を上げてへたり込む。
「――――…疾っ。」
短く吐いた呼気が括れた腰を悩ましく捻り、むちむちの太ももを着物の裾に食い込ませながら上肢を翻す。
一体いつ抜いたのか、横薙ぎに振るわれた異様に長い業物がその黒曜のぬめりを虚空に溶かし
『―――ぶげッ!?』
『ギッ!?』
『ぎょぶ……ッ!!』
刃圏の外で三者三様の断末魔を短く漏らし、片手に余る数の男達が鎧諸共上体をずらして地に伏せた。
むわ…っと立ち上るはらわたの異臭に、硬直していた男達の石化が溶ける。
『ぎゃぁぁああぁあぁああッッ!!?』
『な、なななななんだこりゃっ、なんだよこりゃぁああッ!?』
『バケモノ……化物だ、この女ァッ!』
身も世もないパニックはあっという間にゴロツキ達に伝染し、次々に刈り取られていく。
黄金の稲穂を両手持ちの大鎌で収穫するように無造作な、実の所は恐ろしく洗練された剣閃が振るわれる度、狂乱の声音が複数単位で消えていく。
―――街道が元の静寂を取り戻すのに、大した時間は掛からなかった。
■ヒビキ > 「――――…山賊退治、完了。」
頭頂にてくるんと回した長物が、ブォンと物騒な風斬り音を響かせて血脂を周囲に散らす。
そうして背負った鞘へと向かわせる黒塗りの長刃が、その半ばより先を煙の様に霞ませたかと思えば――――チィィンン……。
鍔鳴りの音も鮮やかに、異形の野太刀は見事鞘に収まっていた。
生の余韻にビクつく肉の残骸。
色鮮やかに散らばる臓腑が白湯気を立ち上らせる惨状など一顧だにせず、サムライ娘は足元に転がる山賊頭の生首を持ち上げ、滴る血流が着衣に掛からぬ様に難儀しながら麻袋へと押し込んだ。
常と欠片も変わらぬ無表情がピゥと指笛を鳴らし、少し離れた所で野草を食んでいた愛馬を呼ぶ。
その鐙に足を掛け、肉感的な体躯をしなやかに躍動させて鞍に跨がり
「―――――…はッ。」
微妙に力の抜けた掛け声と共に馬腹を蹴り、血と臓物と死にまみれた街道を後にする。
鞍に跨る太ももの付け根に覗く純白と、馬足に合わせてたゆんたゆゆんっと揺れる豊乳の悩ましさが道中旅人の目を引くが、それ以外にはさしたるトラブルもなく短旅は締めくくられた。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からヒビキさんが去りました。