2018/08/16 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中 盗賊達のアジト」にクレス・ローベルクさんが現れました。
■クレス・ローベルク > 盗賊達のアジトの最奥。そこは彼等の宴会場だった。
少なくとも今まではそうだった。だが、クレス・ローベルクが彼等のアジトに押し入り、首魁を守ろうとする盗賊達を次々に殺した今となっては、どうかは解らない。既に、彼等の人数は宴会をするには少なすぎると言っていいほどの人数まで減らされていたからだ。しかし、その実行犯であるクレス・ローベルクの表情は、下手をすれば被害者の彼等以上の苛立ちを湛えていた。
「あー、クソ!女盗賊とか居ないのかよ!皆男かよ!エロい事させてくれよ!」
此処数日、彼は自分がついたつまらない嘘のせいで、正義の味方じみた事をやる羽目になっていた。それは有り体に言って自業自得なのだが、報酬もなく、さりとて観客が居るわけでもない戦いを一人でやるのは、彼にとって相当なストレスだった。
「あのお嬢ちゃんはいつもこんな事してんのか……と!」
敵の首魁である大男の振り下ろしを剣で受ける。
力は強い、がそれだけだ。彼女に比べれば剣筋がぶれているし、何より彼女の剣速なら防御も間に合わず真っ二つだっただろう。
「ああもう、本当腹立つな!」
鍔迫り合いと見せかけて力を抜いて相手のバランスを崩してそのまま足払い。転んだ大男の背中に乗り、首根っこを踏みつけて動けなくする。その間にも、槍を構えた彼の部下が槍を持って突撃してくるが、
「えいっ」
槍を保持する相手の力を利用して、穂先を圧し折る。そのままその穂先を相手の目に投げつける。脳まで入れば致命傷だが、片目が失明しただけでも十分戦意は失うだろう。他の敵も、右目を失った自分の仲間を見て動揺している。
「全員、止まれ!実力の差は歴然だろう!武器を捨てて大人しく抵抗をやめれば、今この場で命までは取らない!」
と敵の首魁の首筋に剣を当ててそう怒鳴る。
盗賊達は一人、また一人と剣を落としていく。どうやら、此処は制圧できたようだ。
■クレス・ローベルク > 武器を捨てた盗賊達を拘束しながらも、クレスは考える。いや、考えてしまう。数日前に出会い、剣で言葉を躱した"彼女"の事を。
「全く。これがただの女の子なら、嘘がバレようとも何時も通りしてただろうに」
相手が"正義"となればそうはいかない。もし自分がやっている事がバレたら、確実に自分は殺される。だから自分はバレない様に、正義の味方に身をやつすしかない……と。
それだけだと、そう考えられるなら、どんなにか楽だったろうか。
「……親の言うことを守ってるだけとか、簡単に言いやがって」
■クレス・ローベルク > 自分の幼少時代を思い出す。戦いの事以外は何もなく、親すらもこちらに痛みを与え、遊びも、勉強も、食事も、息をする事すら戦いの事に費したあの時代を。
勿論、彼女と自分は別だ。別の家に生まれて、別の教育を受けている。だが、彼女の実力は、とても一朝一夕に生まれるものではないし、彼女の性格は、とても自分の様な折れ曲がった心からは出て来るようなものではない。
それを思うと、彼の心はささくれ立つ。ささくれ立つのに、それとは別の部分の心が安らぐのも事実で、それがまた、彼の心を苛立たせるのだ。
「ああもう、なんでこの歳になってあんな女の子に嫉妬とかしないといけないんだよ!俺は飄々としたクールキャラなんだって!」
ビクゥ!と拘束中の盗賊の一人が震えた。そりゃいきなり自分を縛ってる男がそんな奇声をあげたらビビる。クレスはごめんと言って、次の盗賊に取り掛かる。
「あー、もー。本当困るよ本当にもう……」
■クレス・ローベルク > 結局、この後もクレスの盗賊討伐記録は伸び続け、ローベルク家の名は、ローベルク家自体も知らぬ北方の山脈で、少しばかり有名になるのだった。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中 盗賊達のアジト」からクレス・ローベルクさんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」に影時さんが現れました。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にラファルさんが現れました。
■影時 > ――九頭竜山脈の一角。
微かな月が照らす夜、細くも流れる清流を見下ろせる高台にて、独り結跏趺坐を行う姿がある。
劇場の舞台程もある広さとなれば、高所故の風に吹かれながら調息を兼ねた精神統一をするに丁度良い。
さながら、岩肌を利用した天然のバルコニーの如き場所の端には、ぱちぱちと燻る焚き火がある。
其処から立ち上る煙には虫除けも兼ねた或る香料による、特殊な匂いが混じる。
訓練した者であれば嗅ぎ取れる、謂わば合流用の目印だ。距離が離れすぎると有効ではないが、此れも対象次第であろう。
「……――む」
微かに風が変わったか。そんな感覚を得れば、結跏趺坐を行う姿が薄く瞼を開く。
黒い外套がばさばさと風にはためく中、吐き出す呼気が籠った感覚があるのは是非もない。
その顔に口元を隠す覆面に加え、鼻から上を覆う乾いた血の色の如き赤黒色の仮面を被っているからだ。
ここまで身を隠す理由となれば一つだ。謂わば、本業として生業であり、生き様でもある仕事を意識した装いだ。
この仮面を見たものは、死す。
生きて帰ってもやがて死す、というのは言い過ぎとしても、威圧と呪いめいた意味合いを込めたものだ。
わざわざここまでする由縁は、一つ。請け負った依頼を果たすためだ。
そのために、予め定めた符牒である香の煙に招かれ、来るものを待とう。
■ラファル > ―――月明かりとはいえ、周囲は闇の帳の中、明かりがなければモノを見ることも難しい。
しかし、視えるものは見るだろう。聴える者は、聞くだろう、嗅ぐことの出来るものは嗅ぐだろう。
視覚情報というのは認識の内一つでしかなくて、今は嗅覚を頼りに少女は地を走る。
匂いというものは厄介なものでそれを軽んじれば痛い目にあうことは良くあるものだ。
隠れるときに見つかったり、匂いで感覚を誤魔化したりといろいろな使い方がある。
今回は――――目印としての意味合いに、少女はその場所へと向かう。
山脈の高い所で彼に指定され場所へ。
風に紛れ、空気を揺らさず、その場に来ることも、少女は可能である。
それをしないのは、敵意の持たないという理由。
彼にどれだけが通じるのかを、探る意識。
走る姿は、闇に紛れ足音を立てずに気配を漏らさない。
少女……まだ、幼女とも言える姿の彼女は影を走る者としての技量を試していた。
やがて。
少女は、闇に紛れたまま彼の目の前に到着する。
肌を晒しているはずなのに、その姿は朧に見えて、闇と同一しているかのような。
そんな佇まい、相対しているのに相対していないような、印象をまとわりつかせ、少女は忍という名の闇を覗き込む。
■影時 > 視覚というのは、識者によると人間の感覚の大半を占めているという。
――成る程。見えると見えないのはとても大きな違いがある。
瞼を閉じる。瞼を開く。それだけの動作で失うもの、そして再び得るものとはまるで落差の如く大きい。
故に見えないもの程恐ろしいものはない。
だが、裏を返せば見えないコトを逆手にとって、情報を示すことも出来るのだ。
他者に現在位置を示すということにあたり、幾つかの手段が考えられる。
例えば、遭難者が自分の現在地を示すために狼煙を上げたり、手鏡で太陽の光を反射させる等という話がある。
今、やったのは詰まるところ根底は同じだ。
だが、同時に他の誰かに現在地を教えることはない。そんな矛盾を同時に果たすとなれば、工夫が居る。
その意味では匂いを使うというのは、良い方法だろう。竜という超越存在の感覚ならば、人間以上に目印ともなるかもしれない。
「――……居るな」
そして、ぽつ、と。闇が口を開く。
直ぐに目には見えず。聞こえず。そして匂いもしない。其処に居て、何処にも居ない。己と己以外の気配を等しくする。
しかし、地に落とす微かな重さというものは、どうしても隠しえない。
結跏趺坐を組み、大地の氣を吸い上げて同一となる感覚を得る境地により、忍びという闇は直感的にそこに居るという手ごたえを得る。
「良い手並みだ。……その位出来るようになったならァ、大したモンよ」
故に、善しと。素直に評しよう。
余程の勘に優れたもの、或いは同等かそれ以上に心得たものでなければ、看破されまいと。
■ラファル > 闇が薄くなる。否―――気配が濃くなるといったほうが正しいのだろう。
師の言葉に少女は隠業を解く。が、しかし、服装に似合わず少女の雰囲気に気楽はない。
師の雰囲気もそうではあるが……何よりも師の雰囲気がいつものそれとは違うから。
弟子である己でさえ、今すぐに斬りかかり殺してしまいそうな――――覚悟を見受けられる。
なれば、ありとあらゆる可能性を少女は並列に思考し、故に敵意はなくとも警戒をし。
己の中の守りを固めるのであった。
「………今宵は。」
母親からの依頼を受けて防衛の術、特に忍びのそれを教授してもらう手はずと記憶している。
そのためのいろいろな下調べを少女自体が行い、やってきた。
さて、師は何を行うことにより、何を教えようというのか。
それを、探るように、闇に溶け込みそうな暗褐色の衣を見やる。
■影時 > 互いに気配を抑え、隠す技に熟達した者達である。
相互に居るという認識があれば、隠れたままでは話になるまい。
周囲の地勢を利用して声を反響させ、現在地を隠すという手管もない訳ではない。だが、そんな迂遠なコトはしたくない。
時間の無駄だ。そして、請け負った依頼の内容を思うに悠長に時間をかけてもいられないだろう。
「よく来たなぁ。打ち合わせ通りだ。……まず、第一の教練は問題はなさそうだな」
既に教練の一端は始まっている。まず一つ、常人には嗅ぎ取れない独特の香気を使った合図、合流である。
何分、仮想敵が王国の騎士団クラスとなれば、なまじありきたりな手段は使えない。
魔法の心得でもあれば、また違ったのだろう。しかし、生憎とそんなものはないとなれば幾らかの工夫が必要である。
ポイントは犬も不快とは感じない香気の選択だ。
予め打ち合わせで此れと此れを使うと分かっていれば、鍛錬次第で幾つかの情報を嗅ぎ取ることもできるかもしれない。
「御母堂の依頼だ。故に、今宵は真面目にやるぞ。いつも以上に、な。
さて、俺は件の場所を知らぬ。
下見も出来ぬ場所となれば、ラファル。御前の話を頼りにせにゃならん。――この辺りで近い地勢の場所はあるか?」
影が立つ。はためく外套が風を孕むが、音はない。衣類の先々まで「気」を配っている証だ。
幾つかの話を拾い、類推することは出来る。それだけで軍略に秀でるものであれば、盤上で戦術を組むこともできるだろう。
しかし、生憎と己にはそのセンスは薄い。何より、眠くなるような講釈というのは、弟子も苦手だろう。
故に目的地ではなく、目的地に近い地勢の場所が付近にあるかと尋ねる。あれば、そこをサンプルに出来よう。
■ラファル > 「はい。」
教練が問題ないという合格点を貰えれば、嬉しいことではあるがそれはそれ。
今は飛び上がって喜んでいる場合ではない、というのはいつもと違う師の言い方に空気を読む。
それならば、と少女は切り替えて師の言葉を待ち、次の言葉に懐から書を取り出す。
「リスお母様の依頼に加えた、注文があります。
これはアッシェお母様からの物であり、教練内容は、できるだけ忍の……私たちの流儀のもので、と。
あと、私自身が生き残る事を重点して欲しい、とのことです。」
当日まで連絡出来なかったのは、手落ちではあるが、家の方でもちょっとばかりあり、親同士の連絡がうまくできなかったらしい。
アッシェ母の要望は、隠業を出来るだけ育てて欲しい、とのことであった。
「近い場所は、あそこに見える森の中。
村の大きさとしては、ゾス村程度。
規模や感覚は、師匠が以前伝えてくれた隠れ里という雰囲気。
しかし、そこに戦えるものは、常駐で一人、非常駐でドラゴンが一匹と……あと、私たち三姉妹。
基本は、精霊の魔法で迷わせているけれど、村自体にはそこまでの防壁とかはない。」
村の大きさ、場所の感覚などを、端的に表現していく。
もう少し詳細な情報とかは必要だろうか、と師匠を見る。
■影時 > 「ほゥ」
普段であれば頭でも撫でてやったことだろう。或いは他の何かの提示をご褒美とでもしたか。
だが、何分今ばかりはそうもいかない。
己を殺す。刃を支える心と為し、為すべきを為すモノとなる。忍びとしての在り方に切り替える。
追加の注文として伝えられる内容に、覆面の中で唇を歪める。
「少々、面倒な注文だな。――我らの流儀ばかりが万事ではあるまい。
一を一ではないと見せかけるには、二という別の視点、観点も知らなきゃならぬというのに、な。
だが、心得た。どれだけ添えるかは兎も角、意識はしようじゃねえか」
追加報酬でも強請りたい処だが、声には出さない。此の手のことは忍びならずとも何処にでもあるところだ。
外套に包まれた肩を上下させ、続く言葉に耳を傾ける。
言葉からイメージを紡ぎあげ、想像上の防衛対象を作り出す。思い描く。
「あのあたり、か。
柵や濠の類はどうだ? ン?
話から鑑みるに山城や砦の類のように出来ねえかわりに、その魔法とやらを代わりとしている風に読むぞ。
それとな、確認だが――その里に他に居るものは基本的に戦えないモノだな? 万一の際の逃げ道はあるか?」
顎に右手を当て、黙考しながら追加で問いを重ねる。
自分の隠れ里には獣除けを兼ねた石塁が幾つか周囲に作っていた。
魔法による惑わせ以外に山野の険しさ以外に大軍を寄せ付けず、阻む要素があるか。否か。仮に突破された場合の逃げ道があるか。
此れを問うておく。鑑みるに、護るにも、逃げるにも、行軍をどれだけ遅延させるかどうかがカギとなるからだ。
■ラファル > 今回は、師匠に依頼をしているのだ、今までのようなご褒美ではなく、必死の習得が、褒美なのだろう。
彼が教える気のないものまで、教わらなければならないのだろうから。
「アッシェお母様の考えは、判りません、リスお母様も書面で頂いていただけとの事ですから。
ただ―――教えるのは師匠ですから。師匠の判断のもとのご教授お願いします。
こちらはリスお母様から。
400から、450に上げさせてもらいますとのことです。」
隠業に関しては、普段から学んでいることでもある。
極めさせてくれと言うのが母アッシェの希望であるが、彼から見た習熟度が極まってるというのであれば、既に希望は叶えられているものと思う。
故に、その言葉に縛られることなく教えて欲しいと願うことにする。
まだ、極まってないというのなら、その部分を教授貰えればいいのだ。
序でに、急な変更などの失礼に対しての、リスの侘びも込めた値上げ。
足りないなら、後で相談に乗ることにしよう。
「濠はないけれど、自然と人工物の混合の塀は存在します。
はい、精霊魔法の力を借りた天然の物に近いと思います。
里にいるのは基本的に戦うことのできない、奴隷になっていたミレー族です。
戦う力は無くはないでしょうが、意思を奪われてます。襲われても抵抗できないような調教という方が正しいかと。
逃げ道―――は、依頼の際にある、とお伝えしてあったはずですけど?
リスお母様、伝え忘れてました?」
撃退は無理でも時間を稼げば安全な場所へと逃げることのできる手段は用意してある。
なので、ベストは時間稼ぎ、ベターは撃退というところであろう。
■影時 > 「……書面だけってのは、どうなのかね、全く。
だが、承った。事を為すとなれば御前やそして、商会そのものの関与が伺えないようにすべきであろうよ。
ならば、おのずと個人としての隠形、並びに痕跡そのものを消す、事前段階として察知しえないする手管も必要だろう。
――故に、ひっくるめた教授を行う。
難しいぞ? 自分だけではなく、他の周囲を意のままにしてゆくコトも必要になる」
報酬の増額もあれば、文句のつけようもない。
針小棒大にコトを膨らませて、金銭をせびるというのは悪党のやることだが、渡世の流儀としてそこまではしたくない。
個人技能として隠形はもともと完成度が高いのだ。であれば、より大きな目線での隠形を磨くこともいいだろう。
それはまるで、影すらも残さないことだ。足跡も何もかも、極限まで自分達が関わった痕跡も消してゆくくらいのものだ。
「なァるほど、な。……話には偶に聞くが、其れほどのものだな。
改めて心得た。
いや、な。すまんすまん、謂われてみて思い出した。確かに専用の逃げ道があるとは、聞いている。
そうとなれば、追い払う以外に――どれだけ敵を近づけさせない。釘付けにすることが肝要よな。
そして、もう一つ。これまでにその里が襲われたことは何回かあるか?」
一つだけ、聞いていたが失念していたものがある。
すまんと、片手拝みをしてみせては微かに謝罪の気配を過らせよう。
此れまでの話を復習もかねて聞いて、改めて得るのは弟子と同じ観点の方策だ。
撃退、或いは時間稼ぎ。前者は為すには難く、後者はより為しえ易くだろう。そしていずれも、下準備が必要だ。
一通り話を聞けば、より着想を得るべく焚き火をふっと吹き消し、その後に先ほど示された場所へと移動しよう。
足元を蹴って空中に躍り出る。途中に位置する森は、食事の捕獲も兼ねて幾つかの罠がある。
落とし穴、仕込み弓、縄仕掛け――等々。
それらの仕掛けを縫って存在する道筋を辿るように、岩肌を跳ねるように森へと飛び込もう。
■ラファル > 「いま、アッシェ母様は、酒造の方に襲撃があったとのことで対応に出ていますので仕方がないのかと思います。
それに、防衛任務なので過敏になっているのかもしれません。
はい、師匠の技術盗ませてもらいます。」
正直、周囲の人間も意のままにするというのは得意ではない。
もともとの気質はドラゴンであるので、意にそぐわないなら斃す思考が大きい。
それでも、彼の言うとおりに心に刃という忍耐を持ってことに当たることの多いクラスである。
必要であるなら、覚えて実行するしかないと、思ってしまう。
「それでも、仮想敵が仮想敵なので、安心ができません。
それが、防衛の依頼を受けるようになった、いきさつですから。
大丈夫です、確認は大事ですから。一番怖いのは言った気に、聞いた気になっているということですので。
遅延、そういう意味では私の技能もかなり使うことが出来ると思います。
―――すみません、襲われたこと自体は、聞いたことがありません。」
失念していたと謝罪する師に問題ないと論じる。
守るべきは命でありそれは、うっかりで済ましていいものではない。
なので、むしろ今確認できてよかったと思う。
ただ、最後の質問に関する返答はなかった、危機感を覚えているのは聞いているが。
実際に襲われたことに関する報告は聞いたことがなかった。
というよりも、その気配が高くなってきたから、防衛を強化するという意味だと思う。
一通りの問答が終わり、動きが始まる。
少女は来た時と同じ軽やかさで、忍びの背中を追うことにする。
罠のある道筋を軽やかに体重を感じさせない動きで、追従しよう
■影時 > 「あすこに、か? ……奇特な手合いも居るものだな。
まあ、口で言う程大したものじゃない。
例えば、靴に付いた他所の土は予め落とす、或いは履き替えて事に臨め、というようなものよ。
――この意味は分かるか?」
その場に残された僅かな痕跡から、事物を察する識者がどれ程居るかは分からない。
まして、山野という場所となれば街中の活動よりも、場に残る痕跡が直ぐに自然の変化に紛れてしまうこともあり得る。
だが、そんな自然な風化に紛れるのではなく、痕跡をどれ程限りなくゼロにしていくかということだ。
故に問う。この問題は忍びの知識ばかりではなく、野伏……レンジャーや狩人の知識にも重なるものがあるだろう。
「その辺りは気になるが、問わぬのが契約である以上、細かくは考えん。
……だが、仮想敵の具合も色々だぞ? 大軍が向かん地勢だが、どれだけの脅威になるかは定め辛い。
人の足を止めるのは見える脅威と見えざる脅威よ。後者については、培ったものが活かせせような。
……ない、か。ないならないで、手間だな。あれば、こんな風な仕込みが置きやすかったが」
騎士団も色々だ。過日の遠征で話題となった対魔族戦線に長けた師団から、正体不明のものもあるだろう。
故に自分が挙げられる方策が結局のところ、的外れとなることもけっしてあり得ない訳ではない。
垂直に近い斜面を肩を揺らすことなく、足腰の運動だけで駆け下りては其の侭、森林の中に踏み入る。
息と声を乱すことなく、周囲を見遣りながら仕込みの具体例の一つを作動させよう。
懐から取り出す小石を、ひょいと左手の方に投げ遣ればばすん、と。重い音が響く。
槍のように削った太い枝が発条のようにたわめた樹が留め具となった楔が外れ、はじき出された音だ。
つまり、罠である。このような場所を踏破するならば、山岳戦に長けたものを少なくとも動員する筈。故に、その心理を突くのだ。
■ラファル > 「―― ――。
自分を隠す、自分の痕跡を別に移す―――?」
聞いた言葉の意味を吟味する。
土を払い。もしくは履き替える。
自分の痕跡を消す、もしくは別のものに切り替えるというのが、すぐにはわからなかった。
考えてみれば、履き替えるということも、別のものになるというから。身代わりを立てるとか、別のものになるというところだろうか。
思考した結果を問にする。
「すみません、聞いたにしても、騎士団としか言っていませんでした。
正規軍を相手にするという程度にしか、どこの師団とか詳しい話はなかったです。
見える驚異といえば守りのドラゴン。
見えざる驚異とは………あぁ。」
見えない驚異と言われて得心が行く。罠は師匠がよく使う手段。
魚を取るときや肉など大型小型の獣を捉えるとき。
それを人間用に転嫁するということなのだろう。
罠はかけたことがあまりない、そっちが重点的になるだろうか、と考える。
人間は脆いから。そういうのが効果があるのだろうな、と罠を眺めて少女は考えた。