2018/07/10 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中の河原」に影時さんが現れました。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中の河原」にラファルさんが現れました。
■影時 > 何もない時は――、一に修行、二に修行だ。
日々是修行ということもあっても、より意識して打ち込む日があれば練度はおのずと増す。
故郷に居たことであれば、諸々細かい用具の類を用意しただろう。
今はこの地に居れば、それ等の悉くは望むべくもない。
だが、それがどうした。大地の精気を五体に取り込み、自然に交わって身体を馴らし、一体化する。
術法を伝授した始祖はそんなことを宣ったという。
嘘か真かは知れない。しかしながら、決して虚偽であると断じることもできない。
遊戯に使う紙札やコインの如く、ひっくり返すように己の有様を切り替えることは一朝一夕には出来ないのだから。
「よぉシ。腹も軽く膨れた。……――じゃぁ、一丁遣るか」
故に山野での野宿による修行とは、かつてに近い修行方法として有りといえる手段である。
故郷で呑んだ水でなく、その土地で産する水や食物に身体を慣らすためであり、気脈を整える意味でも有用だ。
九頭龍山脈を行き交う清流のほとり、砂利が織りなす河原の一角で天幕を張った仮住まいより一筋の炊煙が昇って消える。
朝食である山菜と先日のうちに締めて、血抜きした獣肉、そして麺麭という構成のものだ。
同伴する竜の少女にとっても質素過ぎる感はあるだろうけれども、大量に喰えば寧ろ身体の具合が鈍る。
ほどほどに腹を満たし、身体の調子を引き上げる。身体の奥底に火を灯す。
纏う装束は何時も通りの忍装束に似たもの。足先については、稲藁に似た素材を使って編んだ草鞋である。
これが湿った河原で動くには丁度良く、足指の動きも確かめられる故に具合が良い。
カムフラージュのためでもある外套は纏わず、黒髪を荒く掻き上げて整える。此れから遣ることの為に。
数度ジャンプし、四肢を屈伸し、指先まで神経が通っている感覚を確かめよう。
準備運動であるその一連の所作に余分な音はしない。まるでこの山野を織りなす自然そのものであるかのように。
■ラファル > 通い弟子の朝は早い、忍者というものは夜討ち朝駆け当然みたいなところがあるので、いつでも動けるようにしないとならない。
でも、おうちの門限が厳しいので一日一回は帰らないといけません、未成年。
本人としては、付きっ切りで修行!!といきたいところなのですがそうも行かないものなので、毎日通うことになる。
偶に宿題だけ出されて放置されることもありますが、その時はその時。
「あーい。」
食に関しては問題はない、目の前の御仁よりも雑食でありなんでも食べる。
水を飲んで腹を下すとか何それ幻想とかそんなレベルで強い。
鉄の剣でも、木の棒でも、岩でも、虫でも、なんでも食べます。
そして、最大の点としては、どれだけ食べても動きが変わらない、お腹が膨れないのです。
服装は、珍しく暗色系の衣であり、闇系のお仕事するときに身に付けるそれ。
目の色を隠すための色眼鏡まで装備して本気の状態。
そして、半眼で呼吸、教わった呼吸法を繰り返し、気を練り、溜め込み、気配を濃厚にしていく。
全身に駆け巡る竜氣は、循環を繰り返し外に溢れることなく、加速していく。
呼吸を繰り返し、丹田に氣を貯め、十分な量を確保していく。
■影時 > 不意打ち上等。奇襲上等だ。元より、ここは状況をコントロールできる道場ではない。自然そのものだ。
最低限の結界――細糸を使った鳴子や罠等の仕掛けを敷いていても、尚も踏み込んでくる野生動物や天災の対処が居る。
そして何より、そんな防備をすり抜けて越えて来るものこそ何よりも相手取るべきものである。
詰まりは弟子である。
遠く、住処よりこの山中まで来る姿はストライダー、――早駆けの名に違うものではない。
「善し善し。其処までやれるなら、具合は良いだろう。
俺はぶきっちょだからなァ。基本は何時だって外せん。
身体の血の巡りを意識しろ。自然の巡りと同じように身体の中にも同じ力のうねりがある。
それに乗って気を手繰り寄せ、回してゆけ。勢いがついたものを外に出す、身体の中で使うにしろ、だ」
食の具合については時折、その雑食っぷりに羨ましくなる。
水が合わずに腹を下すというのは、何よりも辛い。一手間二手間かけないといけなくなる。
毒の類も試さないにしても、かなり大丈夫なのではないだろうか?という気さえするくらいに。
と、思うことはあれども本気モードの装いに己もまた、調息を欠かさない。
湿った河原に立ち、緩やかに舞うように身体を動かし、瞑目しながら呼吸と共に氣の流れをアジャストする。
大きく大きく吸い、長く長く吐く。
取り込んだ気と溜め込んだ圧のバランスを整え、外界と内界というべき体内の対比を等しくする。
貯める気はより圧縮し、満たすことで力とする。準備が互いに出来たと思えば、目を開く。
■ラファル > 糸も、罠も、ベアトラップでさえ、少女は足を止める理由にはならない。
なぜなら、そういったものの知識は有り、すり抜けることができるからこそ、ストライダーという盗賊系の上位種の職を名乗る技術はあるのだ。
どこでそれを手に入れたと言われれば。親というので親御さんちょっとなにしちゃってるんでしょうというレベル。
―――因みに、ちゃんとここまで走ってきています、マグ・メールから。
「ん、空蝉は覚えたよ。次はここからの派生って約束だったと思うけど。
あーい。
………しぃぃぃぃぃぃ…………」
呼吸を整える。この感じは空で風を詠むときと同じような感覚。
元々、風竜として空を飛びまわっているので自然と一体化する感覚は持っている。
それをさらに鋭敏化するようなものなのだ。
元々、気に関しても親から房中術として、収奪、付与に関して教わっているから、彼の言う基礎にとてもマッチしているのであろう。
因みに、毒を食べたらどうなるか――――問題はありません。
ドラゴン用の毒は、流石に試したことはありませんが、人用の毒とか毒キノコとか、そういったのは問題はないのです。
「………。」
充足していく気は、少女の薄い存在感を濃厚にしていく。
影に潜る身としては、必要無さそうにも思えるが忍は影に潜るだけにあらず。
自然と一つとなり、自然になることで溶け込んでしまう。
少女が普段からやっている隠業はそれの究極ともいえよう。
隠れてなくても、人々が石ころを見て気にしないように、意識の外にずれる技。
今はそれを使ってはおらず、ただただ、教えを貰うために必要な気を貯めているところ。
金色の目は、瞳を持ち上げる相手を、じっと見据えていた。
■影時 > 罠や結界については、もっと凝り出すと術符を仕込んだ儀式的、魔法的なものとなる。
しかし、毎日のように使うには無駄があり過ぎる。札は特に発動後は破棄することと同義となる使い捨ての品だからだ。
いずれにしても、仕込みの仕掛けやカラクリを知っていれば対処は利く。
此の手の知識の源流がつくづく、気になってしまう。親由来と聞くが、果たして何処で仕込んだというのか。
全く、謎と驚異は尽きない。
「おゥよ。氣を溜める、遣り取りするというトコは出来ている。
次は応用だ。……例えば、ラファル。お前さんはこの岩の向こうに置いた石を割ろうとしたら、どうする?
嗚呼、向こうに回って割りに行くっていうのはナシだ。
そいつは何よりも道理に敵ったコトだが、そんなお利口な選択が出来ない時の場合だ」
ドラゴン用の毒があるとすれば、それはきっと人間が使うと自然一つを殺しかねないものである気がしなくもない。
人間よりも生体として優れたイキモノが氣を繰るとすれば、それはきっと己よりもずっと強く、凄まじいことをやれるだろう。
氣は高めると自ずと強い、より強い気配を発する。闇に潜む者として本来とは正しいことではない。
刹那の瞬間に高め、研ぎ澄ました一撃を撃ち込み、屠った後にまた速やかに闇に潜む。全てはそのために。
そんな忍びの徒が竜の少女に問い掛けつつ、足元に転がった岩や砂利を選び、左右の手で掴みあげるものを示す。
一つは板のように平たい、肉を乗せて焼くに丁度良い瓦の如き形状の石。
もう一つは鶏卵サイズの拳位の大きさの石。
それは盾と向こうに隠れたヒトに見立てることもできるだろう。平たい石の向こうにもう一個の石を隠して見せながら、問うてみよう。
■ラファル > 師匠の質問に、首を傾ぐ。質問の意図が判らないけれど。幾つか案を考えることにする。
「んー……。
位置が分かっているなら、何かを投げて割る。
魔法的な手段、ボクなら……風を落とす。
あ、あとは振動をおくるっていうのもあるのかな。
位置がわからないというのなら、岩ごと叩き切る、とか。
まずは位置を探るところかな……
周囲と一体化して、自分と一つになって、石に直接気を送り込んでわる?」
うーん、うーん、少女は頭を悩ませながら言葉にする。
気を使った訓練なのだから気を遣う、それなら先程まで訓練していたことを使うのが正しいのだろうと考える。
自然と一体となり、自然の一部になれば目的が何処にあるか判ろう。
そして、その場所に気を送り込んで割る。少女が描いた答えはこれなのだが。
圧倒的に、言葉が足りなかった。
どう?合ってる?と、期待に目を輝かせながら少女は返答を待つ。
■影時 > 「ははぁ、色々出来るものだな。答えで言うとな、どれも当たりだ。
どれが間違いというものでもない。
何故かって云うと、こうしなきゃならんと考えたら囚われちまう。
ニンジャというイキモノは目的達成のための手段を択ばんものだ。――最終的に目的を果たせん奴は素人にも等しい。
氣の応用と一言で云うが、ラファル。
此れもあくまで手段でしかないコトを覚えて見ておけ。俺ならば、こうして見せる」
合っている。いずれも間違いではない。
故に師として素直に笑って認めよう。どれも間違いではない。
目的を果たすという点だけを見れば、いずれも行使すべき手段として決して間違いではないからだ。
魔法を使うのも、竜の権能を使うのもアリだ。使えるものを使わずして、どうしろというのか。
だから、己が教えるのも元々持っている力の使い方の一つだ。力の行使の具体例の定時である。そう言いつつ、この石を置いてゆく。
河原に流れ着いた台替わりにつかえる岩塊の上に置く。
堆積していた土や砂利を支えに板状の石の向こうに、もう一つの石を配置する。
「ひゅ、ッ!」
配置した板状の石の前に立ち、右手を振り上げる。五指を揃えた手刀とした指先に呼吸と共に氣を強く練り上げ、満たす。
イメージは刃。しかし、触れた石の具合を見ればアレンジを加える。
石自体の組成をすり抜け、向こうの石を裂き割れる氣の幻想の刃である。それを気合と共に手を振り下ろし、放つ。
氣を感じられるものであれば、一瞬光が走ったようにも感じただろう。
振り下ろした手の軌道に沿って伸びる見えない刃が板状の石を傷つけることなく、ぱかりと向こうの小石を左右に割り開く。
鎧に守られた騎士相手に使えば、鎧を割ることなく生身だけを傷つけるコトもできる。そんな技の一つだ。
■ラファル > どれでもいいんだ。
答えを受けて感じた感想はそれであった、忍とは耐えるモノとよく聞いていた気がするので、なんでもいいという考えがあるとは思わなかった。
なるほどなー、と感心しきりの少女はこくこくと頷く。
つまりは、あれだ。
「色々な手段を用意して、目的を遂行するようにできることが大事、という事だね?」
技術も何もかも、手段であり、道具でしかない。
大事なのは、目的を遂行する事と、師の教えを自分の中で噛み砕いて考える。
そして、彼が石を置くところを眺める。
先ほどの例題と同じような状況になるのを確認した。
「ぴゃ!?光った!」
氣を練り上げて物理的に作用するまでに固めたものだと、竜の目は認識する。
つまり、理解すれば少女にできないわけでもなくて。
ぐぬぬ、と自分の右手に高めた氣を集めて固めて集めて固めて集めて固めて集めて固めて集めて固めて集めて固めて集めて固めて集めて固めて集めて固めて。
ボールのようなまんまるい気の塊を作り上げる。ギュウギュウに固めて圧縮し過ぎて、氷のようになった雪玉のようなそれ。
「………。」
作ったはいいけれど、どうしよう、という感じで師匠を見る。
少女の手の上の超圧縮気塊。どらごんb……あぶないあぶない。
■影時 > 先程の例でいうのであれば、金を使って誰かに石を割らせに行かせることもアリだ。
手段は択ばない。逆に択べない状況となれば、どうなのか。
その時こそ、耐え忍ぶことの出番だ。最終的に事を為すために機を窺う。
そのために己を殺し、正体を隠し続ける、時には苦渋を舐め続けることも要求されるだろう。
真っ当な人間ならば選ばない、遣らないことを為すための忌避を殺すためのマインドセットも要求されることだってある。
「そういうこったな。
その為には己を律し、殺して事に当たることもある。
……それらをひっくるめての忍びだ。心の上に刃を置くものよ」
如何に常人離れした絶技とて、それも言うなれば手段だ。
それ等を使い分けることは世の戦士や魔法使いの類と変わらない。
人よりたくさんの手段を使える少女であれば、よりよくもっと伸びゆくことだろう。
己を律し、奢らず、正しく判断し、然るべき手段を選ぶ。
見た目も形もない心の上に刃を置くために、支え続けるために如何にするか。その心構えと思考を捨てぬ限り。
「とまァ、こういうこともできる。
鎧通しの技の一つ――、よ、て、また……溜めに溜めたなァ。
ラファル。その氣の塊を硬いものの隙間を通して、ぶつけるということを考えてみろ。
頭のネジの外れた錬金術師など曰く、鋼鉄とて見た目以上に隙間があると云うぞ。その間隙を縫って沁み込ませる心づもりだ」
実演をして、こんなもんよと手をはたいて少女の方を見れば、強い氣の流動の気配を感じる。
見れば、其処にあるのは高密度までに圧縮した氣の塊。即ち、ごにゃごにゃ、もとい、氣弾。
物にぶつけるには硬すぎるが、先ほどの手管の要諦を口で示そう。
近場の大きな岩等をその竜眼で見通すことができるなら、本質的な構造を見通すことが出来るならば、物事を構成する粒子の隙間があろう。
その隙間を伝って氣を徹し、向こうではじけさせる、あるいは刃として結実させる強い制御力が要だ。
■ラファル > ふむふむ、と少女は頷く。多彩な手段、的確な状況把握、そして、限界状況に対する忍耐。
それらを併せ持つことで忍者になれる、ということなのであろう。
自分の考えていた忍者は、良くも悪くも目立つ一部分であるというところなのだろうか。
それができる目の前の師匠は、凄いんだな、と小並感……ということなかれ、ほんとにそのくらいの年齢なんです。
「つまり、我慢を覚えなさいー。って所に戻ってくるんだね。」
己を律し事に当たるということはやりたくない事だろうが、やらねばならぬという事で。
それを考えて少女はうへぇ、と呟こう。
我慢は苦手である、自由を体現したような風と共に生きる竜。
とはいえ、だ。とはいえ。それを聞いて、忍者を学ぶのをやめる気には、ならなかった。
もっと教えて、と師に懇願するように見上げた。
「……隙間………?竜胆ねーちゃんが言ってたやつ。
でも、ボクには見えない。」
姉から聞いたことがある、ものにはすべて隙間があると。
それを震わせることで熱が生み出され、止めることで凍るとも。
姉の領域の言葉を師が言うのならば正しいのだろうけれど。
師匠が言った岩を見る。
じいいいいい、と穴が開くぐらいに見てみるが、岩の価値とか、戦闘力ナッシンとか、そんな所ぐらいまでしか見えない。
しばしの間、汗をにじませて見据えて。
「ゑゐ!」
奇妙な声で投げてみた、大きな岩に、氣の塊が命中し、岩が爆散し気弾は霧散。
氣を徹すには、まだまだ修行が足りなさそうだ。
■影時 > そして、様々な手段を講じうるための下地を築くのための下積み、基礎固めのしての鍛錬が大事ということにも帰する。
人間はただ息しているだけで鍛えられるというものではないからだ。
氣を練るための呼吸法は万事の要であっても、心構えが鍛えられるというものでもない。
力に溺れない自制、力を御するための自律。諸々要求されることをひっくるめての忍者という職である。
もっとも、己は故郷で定義されうる忍者としては異能者の寄り合いでもある集落から抜けた、外れ者でもあるが。
「ははは、そうなっちまうなァ。心構えは大事だぞ、本当。
さっき手段を択ばないと言ったが、あれをやれ、しかし、誰にもバレねぇようにとなると、力任せじゃ儘ならん」
楽を出来ないときは、楽を出来ない時の手段を用意しなければならない。
いつものアレが出来ないから、ダメーと諦める事ができない。許されない時もある。
時間をかけてできる手段があるなら、我慢して臨むという選択もしなければならない。
いいとも、と。見合わせる眼差しに頷こう。
「ほゥ。……見える奴は本当に居るもんだな。
俺だって見えんぞ。いきなり出来ちまうワケでもない。だから、何度も練習したなあ。
鉄の鍋の中に入れたおからを氣を入れるだけで、ぽんとはじき出させるとか、な」
見えるのか。知っているのか。響く言葉に興味深そうに眼を細め、考える。
やはり真実なのだろうか。物理――物の理を突き詰めた、存在の有り様の神髄というのは。
汗がにじむくらいの凝視の果てに、投じる氣弾が大きな岩を爆ぜさせる様はそれだけでも見事である。
一朝一夕にいかないのは、勿論だ。直ぐに出来てしまう程、容易いものではない。
「今の具合なら、遠当て――だろうなァ。
遠くから気を放って、離れた場所にいる奴を斃すという奴よ。
今度はラファルよ。さっきの氣を思いっきり細く、尖らせてみろ。針みてぇにな」
ただ、放つだけでは風やカマイタチと変わらない。
だから、現状のアドバイスとして提議するなら、限りなく細く絞り込むことだろう。
渦巻く風が織りなす螺旋の渦動ではなく、極細の撃ち貫く針。大きな塊も穿つチカラの具現だ。
■ラファル > 少女ラファルの中では、忍者というのは目の前の師匠だけである。
元々東方の生まれでもない、母竜は東方に縁が深いのか、姉たちは皆東方の名前であるし、自分の真名も東方縁のものである。
が、その足で行ったことはなく、そして、見たこともないので本物の忍者というものは、目の前の彼以外には知り得なかった。
外れものだとか、そういうのは、一切気になるものでもなかったし。
「ボクの場合だと、風を使うか、今の氣を使うかって、ことだよね。
うぅ……前向きに善処いたしますです。」
心構えと言われて、げんなりしながらもちゃんと頷くのは両親の教育の賜物なのだろう、多分、きっと。
彼の言いたいこともわかるし、それが通らない時もあるのが世の中だ。
今は無所属で自由に居られるけれど、どこかに所属すればそうは言えなくなるのは目に見えるし。
「ん。竜胆ねーちゃんの目は特殊だから。
ボクもおかーさんも、竜雪ねーちゃんも、多分見えないんじゃないかな?
なんで、おから??」
鉄の鍋から、おからだけはじき出す。修行なのだろう、でもなんでおからなのだろう。
疑問が疑問で首をかしげる少女、その時になったら多分するのだろう、と思ってしまう。
姉は、魔法と物理と、特化している、故に、肉体的には三姉妹で最弱なのである。
僅差というよりぶっちぎりで、下手したら師匠の方が肉体的に優れているやもしれないレベル。
まあ、今は下姉のことはどうでもいいので、忘れることにした。忘れた。
「遠当て……。ふむふむ。覚えたよ。
……針のように???」
言われるままに、もう一度集めて固めて集めて固めて。
イメージとして、言われたように細い針を考える、家で母が使うようなまち針。
細く細く粘土を捏ねるようにうにゃうにゃと、手が動くのは未熟な証拠だろう。
時間をたっぷり使ってはいたが、針みたいに細く長い塊ができる。
ざっと、1mぐらいの長さで、1センチぐらいに細いやつ。
■影時 > この地に来て、己の故郷と同じか近しい場所より至ったと思しい者と会ったことはある。
しかし、同類というべき忍者や忍術使いというべきものと会ったことは無い。
近しい系統の使い手となると、この少女であった。
彼女の片親を含め、存外他にいるのかもしれないが希少だろう。本来、優れた使い手は外に出したいということはないために。
「今のこの場で、というならそうなるわなァ。
まァ、気長に遣るといい。自分に合った使い方を研究していくのも修行だぞ?」
氣を氣のままで使うか。別の形で使うか。それとも風と合わせて使うか。
氣を変化させる応用として、雷や土を操るなどと言った森羅万象を御する術の原動力とすることもある。
今はそこまでは教えまい。此れも向き不向き、適性が関わる。
一通り扱えるように体得している己ですら、どうしても使いづらい系統の術もまたある。
「一種の才能、という奴か。
そういう類の才能の持ち主は苦労するが、突き詰めると恐ろしいんだよなぁ。いざ立ち会うと。
嗚呼、おからはアレだ。鎧に包まれた肉体に見立てたワケだ。
鍋という鎧の向こうにある生身のかわりがおからよ。飛び散ったら、晩飯が無くなるから苦労したぞ」
大豆を絞ったあとに残るおからも御飯としていたためです。
しかし、派手に撒き散らすと晩御飯が無くなる、素人にはお勧めできない諸刃の刃でもあった。
育ち盛りの頃合いには本当に厳しい。思い出せば、腹が減る位だ。思わず遠い目をして。
「そうそう、針のようにだ。そいつをな――こう、叩き込め」
投げてもいい。深く貫く槍代わりとなろう。
叩き込んでもいい。針先の如く、細く穿つ一撃となるだろう。
己も氣を練り上げ、規模こそ劣るにしても同様に杭じみた氣針を掌に生み出し、膝立ちの姿勢で地面に叩き込もう。
くぐもった音ともに、地の底で爆ぜる音が響く。練り込んだ氣針が閉鎖空間で行きどころなく、爆裂したのだ。
■ラファル > 「はぁい。」
さまざまな方法がある、それを研究するのは自分以外にないと言われて少女は返事をする。
自分にあった使い方は自分にしか判らないものなのだから当然といえば当然か。
どう自分を見極めるか考えてみろ、と言われたような気もする。
考え過ぎかも知れないのだけれども。
「どうなんだろね。
ボクには見えないし、判らないし、半信半疑だったし。
そっか、気軽く人体実験できないもんね。
ご飯がなくなるからおからしない。」
絶対だ。ご飯なくなるのはダメだ、これは師匠に言われても曲げない、決定事項として、少女の中に発生した。食べ物で遊んではいけません。
そういえば、豆腐とか作ってたな、味噌も醤油も。食べたくなってきた、今日の夜は豆腐と、オネダリしよう。
「えやっ!」
叩き込め、その言葉に応えるように、少女も地面に叩き込む。
気の総量が多くとも、練りは師には敵わないもので、地面に叩きつけると、師よりも音が小さい。
まだまだ、要、修行というところだろう。
少女は遠当を覚え、気の使い方をひとつ学んだ。
忍者としての心構えなども、ひとつ学んだ。
そして、報酬がわりにお酒の瓶を二本ほど置いていったという。
そんな、夏のある日。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中の河原」からラファルさんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中の河原」から影時さんが去りました。