2018/07/06 のログ
ご案内:「山賊街道/山中秘湯」にバルベリトさんが現れました。
■バルベリト > ―――対応が後手に回ったのが全てだった。
巨大なクレーターの発生の報告が上がってきた時に嫌な予感はしたのだ。
集落は確かに近くには無い。
だが――複数の目撃証言が早馬の様に王都に出てから。情報統制が上手くいかない、もしくは既に広まりを見せている事を知り、急ぎ近く――それもクレーターよりもタナールに近い場所の様子を見る為に翼竜にのり、集落を回った。
「……まぁ、そうだよ、なぁ。」
結論から言えば。警告をしようとしていた魔族の目論みは成功『しすぎていた』
ただでさえ情報統制をしようと7師団の敗走といい、続けざまに砦に兵士が送られている事といい。
付近の住民の不安は高まっていた。軍の移動はどれほど細心の注意を払おうとも、物音が。足跡が。それらの痕跡が付近の集落や村落には伝わるのだから。
翼竜を駆り、もっとも迅速に行動できる自分が1つ目の集落についた時は――最早。集落で理性を保たせていた存在は無きに等しかった。
不安な日々に突如生まれている巨大クレーターたまたま自分達の集落にこそ落ちなかったが――それはタナールの向こう側から見えた光でもあるという旅商人の情報や猟師達の証言から。
彼らはそれが、自分達の集落に落ちてもおかしくないのだと。
――悲観ではない。彼らの心は。最早絶望一色に塗り込められていた。
■バルベリト > 自分でさえこれは警告ではなく。一種の威嚇攻撃。そして脅迫かと思えてしまう。
このクレーターがタナールの向こうより打ち込まれている物なら、集落からツテがあるなら離れ。より王都に近い側に。或いは王都に。
はたまた隣国に。――離散し。数を大きく減らした集落や村落ばかりだ。
そしてそれらがない者は残り、其処に生きていくしかない。次のクレーターを生んだ破壊が自分達の頭上に降り注がない事を祈りながら。
当然そんな状況では――彼らの生産的な行動等取れよう筈もない。
田畑は荒れている。直前まで整備こそされていたのだろうが、雑草が見え隠れする。
自分達が納めた税で食べさせている騎士に、怒りの矛先が向うのも無理は無い。
自分はそれを理不尽とも思わないし、まだ怒れる気力があるなら――良かったのだろう。だが、その矛先や相手の尽きることの無い怒りを仲間に。8師団の兵に向けさせたくは無かった。
だから自分に出来る事は少ない。村落や集落を回る。
住人の様子を探る。少しでも気分が晴れるなら、石でもなんでもぶつけられようと我慢をする。その後――冷静さを取り戻すまで根気強く耐え、近場に騎士団を派遣させることで治安改善を申し出る事くらいだ。
彼らの石は。――今まで受けたどんな傷よりも重く。
どんな衝撃よりも重く。どんな物事よりも重く己の心を揺らしていた。
■バルベリト > また、真面目に田畑を耕し、猟をしていた住人も賊に身をやつしている数が増え――治安も悪化している。
人の心と言うのは脆いものだ。どうせある日突然死ぬならば、と。
長期生産的な農業や、猟に勤しむよりも。それらを使い、奪う側に回る。――自分ならば選べない選択ではあるが、それを選んでしまう気持ちはわかる。
極端な治安悪化は住民の離散や物資の不足。そしてそこから更に治安も悪化される事に繋がる。
到着した村々では罵詈雑言だけで済むなら御の字。
石。鉱石。肥溜めの中身、悪意。敵意のある言葉。
有形無形様々な物が向けられた。
すべての村々とまではいかないが、少なくともクレーターの発生地点よりタナール側に位置する集落、村落は周り終えた頃には。
日も高く、身体には数日は取れぬだろう悪臭が染み付く程度には様々な物をぶつけられていた。
「―――魔の7師団の仕業じゃねぇな、あいつらのやり口じゃねぇ。魔の1師団でもねぇ。あいつらは少なくとも、戦場に立たない奴らの心をおる真似はしねぇ。」
■バルベリト > 湯煙に包まれていて良かったのだと思う。
――声が僅かに上ずり。目元が赤い。
そういえばこういう感情を向けられたのも久しい物だ。耐性が薄れていたのも――要素のひとつかも知れない。
激しい水音とともに自分の顔と頭を洗う。
――投石により傷が付いた箇所は念のためだが毒を解く魔法を。
クレーターよりも奥まった箇所の村落も回る必要が有るだろう。――気が重い。書類仕事や前線のどんな仕事よりもだ。
折れた心ではない。壊れてしまった心と向き合うのは何よりも辛い。
壊れている事が判り、壊れる理由もまた判るのだから。自分とて、一人の農夫や漁師であればどうなっていたのかはわからない。
暴徒となるか。――無気力になるか、生き急ぐか。
「……人と、魔と。垣根が無く、生きていくってのは――夢なのか。
力の匙加減は。持っているからこそ難しいものなのか。」
ぽつりと零した声。誰にも聞こえない場所。誰も共に居ないからこそ。
そんな弱音が頭を擡げ、自分の口から漏れ出ていた。
■バルベリト > 暫くの後、王都に戻り報告を終える。
集落・村落の離散による崩壊は7割を数え、残された村も決して治安がよくない事。
重点的に警邏を増やし、賊による被害の抑制と通行人の安全確保。
之を優先すべきと記された報告書とともに、8師団は一度タナール防衛から離れ付近の民心の安定と。警備にその力を割いていく事になった。
クレーターは恐怖の象徴になる為、埋め戻しを行なうが――
既に広まった噂を消すというのは、難しい事だろう――。
人の悪意と言うのは容易く人を傷つける。
図太く、無駄に硬い精神であろうと。それを傷つけ、あらぬ方に捻じ曲げる圧力をかけていくくらいには。
ご案内:「山賊街道/山中秘湯」からバルベリトさんが去りました。