2018/05/10 のログ
■レティシア > 緑に覆われた深夜の山中に女の歌声が微かに響いている。
歌声の主の女は、こんな山中には不釣り合いなドレス姿で、とある大木に背を預けるように座り込んでいる。
「――困ったわねぇ…」
歌声がふと、途切れたかと思えば、女は呟きを漏らす。
しかし、困ったという言葉とは裏腹に、女は面白げな笑みを浮かべている。そして、自分の足元へと視線を向けた。
女が視線を向けた先には、銀の靴を履いた己の足首。その白い足首には、獣を狩る為のトラバサミが、ガッチリと食い込んでいる。
女は、菫色の瞳を細めて、トラバサミを見つめる。
どうやら、この罠は、只の獣を捕る為の物ではないらしい。一度、罠にかかれば、獲物の魔力を抑える呪符が施されているらしい。
その証拠に、己の魔力は何かに蓋をされているように、内側から発動する事ができなくなっている。
「随分と大層な獲物を狙っていたのね…」
きっと、これは、己のような魔族や魔物を狩るための罠なのだろう。久方ぶりに、こちらの世界に来たかと思えば、随分と物騒な世の中になったものだと、ひとり苦笑を漏らし――。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」にリーゼロッテさんが現れました。
■リーゼロッテ > 「ねぇ、本当に何か気配がしたの?」
独り言のように呟きながら山の斜面を下っていく。
脳裏には手の甲に煌々と明かりを灯す鴉羽の紋が浮かび上がり、その主と言葉をかわしていた。
森に溶け込むような深緑色のチェック柄に、ロゼッタを象った飾りを施した格好は、その部分が妙に目立つかも知れない。
小銃は背中に回したまま、木から木へ飛びつくように進んでいくと、ここだという声に足を止める。
魔力の礫を掌から浮かべると、そこから溢れる光で辺りを照らしつつ、見渡すと……久しい姿に青い瞳を瞬かせる。
直ぐにそちらへと駆け寄っていくと、木の根に躓きそうになりながら、彼女の前へ両膝を着いた。
「お姉ちゃんどうしたの、それっ!?」
足首に食い込んだトラバサミを見やれば、少し青ざめながら姉の顔と彼女の足元と交互に視線を向けていく。
どうしようと慌てふためきながらも、手を伸ばすものの、ぴくっとその手を止める。
指先に感じる嫌な気配、それに明かりをかざしてトラバサミを改めて確かめようとしていく。
「痛く……ないわけないよね、どうしよう……変な感じとかない? 痛い以外になにかある?」
口に仕掛けた言葉は確かめるまでもないかと消えていき、丸い瞳がじっと心配そうに彼女を見上げる。
ハサミの牙が骨に達していないか、変なところを傷つけていないか。
人に食い込んだら大事になるそれを確かめつつ、あわあわとしながらも対処しようと必死になっていた。
■レティシア > 「――さて、どうしたものか……」
見知った獣の姿でもないかと、ゆらりと周囲へと視線を向けた所で、此方へと近づいてくる気配を察する。
女は、「あら」と言葉を漏らして、此方へと向かってくる相手の方へと視線を向けた。
暫くして、木々の合間から姿を現した少女の姿を見てとると、ヒラヒラと片手を振りつつ、
「ご機嫌よう、リーゼ。息災にしてらして?」
己の足元で心配げな声をあげ、慌てた様子な少女に対し、女は至って、呑気な様子で挨拶の言葉を口にする。
己を気遣う様子で見つめてくる少女の肩を、ポンポンと叩きつつ。
「そんな顔しないで頂戴。まぁ、痛くないと言ったら、嘘になるかしらね。…罠に呪符が施されてるのでしょうね。あたしの魔力が抑えられてしまっているのよ…」
女は笑いながら、小さく肩を竦ませてみせる。面倒だから、足を切ってしまおうかしら、なんて物騒な事も呟きながら、罠により、赤い血が滲みだした足首を見つめ。
■リーゼロッテ > 木々を抜けた先にいた姉の姿は、罠に掛かったとは思えないほど元気なもので、こっちというように手を振る姿に一度は安堵していた。
けれど、足の状態を見ればそれどころではなくなってしまう。
「ぅ、げ、元気だった……かなぁ、多分。じゃなくてっ、それよりもお姉ちゃんの方が大変だよっ!?」
呑気なご挨拶に呆気にとられ、最近を思い出すように少し考え込みながら答えるものの、すぐにハッとして頭を振る。
それどころじゃないと答えるものの、相変わらずの様子に茶化されているようで、ぷくっと頬を膨らませていた。
「だって……肌に傷痕着いちゃうよ? それに骨とかに達してると大変だし……」
医学的な細かいことは知らないが、骨の中に大切な部分があったり、その周辺の筋が足先を動かしたりするらしい。
傷が治っても、その辺りが治らなければ、足が自由に動かなくなってしまう。
戦争が終わった後に、不自由になる人を幾度も見た経験から、姉がそうなることにゾワッと恐怖の悪寒が走っていた。
言葉とは裏腹に心配そうな顔は更に悪化して、少しだけ涙が滲んでしまう。
「呪符……それなら、それを取っちゃえば大丈夫かな? ――駄目っ、傷どころか足無くなっちゃうもんっ! 絶対駄目っ!!」
飄々とした様子で冗談じみた言葉を宣う姉へ、むっと少しで怒った様子で見つめながら言葉を否定する。
魔族だからという記憶は少々消えているのかも知れないが、そうであっても、痛みが悪化する方法なんて許せるはずもなく。
手の甲の紋が青白く光る中、ゆっくりとトラバサミに触れていく。
以前よりも穏やかに青い炎が溢れていくと、ゆっくりと瞳を閉ざしていった。
集中、トラバサミの鉄ではなく、それに刻み込まれた呪術を探るように炎が伝うも、姉の肌に触れても仄かな暖かさを与えるだけ。
破壊的だった力は綺麗に集約されていき、トラバサミの呪いへと充てがわれていく。
すると、呪術自体が崩れるように焼け落ちていく筈。
そのまま叶うなら姉を縛る呪いが消えていき、魔力の自由が聞くようになるはず。
そっと手を離しながら、どうかなとおずおずとその顔を見上げて確かめる。
■レティシア > 己が声をかければ、少女の呆気に取られた様子に、女は唇に指先を添えながら、クスクスと笑う。
しかし、返ってきた疑問形のような言葉に、すぃっと菫色の瞳が、一瞬、細められる。
己が不在だった間の事は、その内、ゆっくりと聞かせてもらおうと思いつつ、少女の膨らんだ頬へと指先を伸ばすと、そのまま、ぷにぷにと突っつきながら。
「傷なんて、直ぐ治ってよ?…そうねぇ、そりゃあ、足首から先が無くなってしまうのは、暫くは不自由かもしれないけど……その内……」
”生えてくる”と、言葉を続けようとした所で、怒った様子の少女を視線が合った。
己の正体を知っている筈なのに、人間と同じように接してくる少女に、魔族の女は呆れる訳もなく、微笑ましげに笑みが浮かぶ。
こんな状況で笑ってしまうのは、少女に悪いかと思えば、コホンと咳払いをしつつ、己の足首を捉えるトラバサミへと触れる少女の指先を見つめ。
トラバサミには、至極、複雑に絡まるような呪術が施され、それを綺麗に解き、焼け落としてゆく様に、女は「ほぉ」と感嘆めいた声をあげる。
魔族の己に触れていても、不快ではない力に、眉を顰めつつも、己の力を拘束する呪が解かれると、一息、吐息を漏らす。
次の瞬間、女の足首を捉えていたトラバサミが、鈍い音をたてながら、バラバラに砕けた。
女は自由になったとばかりに、足首を曲げたり伸ばしたりしてみせて。
「ありがとう、リーゼ。お蔭で、足首を切り落とさないで済んだわ。足首が無くなってしまったら、暫く、ダンスも踊れないですものね。さぁ、お礼に甘い物でも、ご馳走しましょうか――」
女は今まで、罠にかかっていたとは思えぬ程、優雅にその場に立ち上がると、少女へと片手を差し出して――。
■リーゼロッテ > 先日もここで悲しい出来事があったり、現時点で義兄のお嫁さんに大変なことがあったりと、あまり表に出てこない合間にも色々な出来事に触れていた。
その取っ掛かりとなるようなワードを思わず口走ったとは気付かぬまま、目を細める様子にも気付かぬほど怒っている。
頬を突っつかれると、膨れた頬から圧された空気が唇からふしゅっと僅かに溢れていくも、視線は変わらず姉を見つめていた。
「それでもだよっ、歩けなくなったら大変だもん。暫くじゃなくて、ずっとになっちゃうかも知れないんだよ?」
松葉杖をついていようと、車椅子に座っていようと、種族が異なっていようとも。
姉と慕う大切な人なのだから、元気でいて欲しい。
本気で心配しているのにと思いながらも、何故か微笑む姉にツンとそっぽを向いてしまう。
咳払いの音に、じとっと未だ少し不機嫌気味な視線が戻るものの、今は炎のコントロールに集中していく。
「出来たっ……えへへ、ちゃんと操れるようになってきたんだよ?」
以前は鴉達に振り回されるまま炎を放っていたが、ここ最近の出来事で多少のコントロールが効くようになってきた。
得意げに微笑みながら慎ましげな胸を張って、自慢げに告げる。
力を抑え込んでいた呪いが消えれば、トラバサミが陶器の様に砕けてしまう。
びくっと大きな音に驚き猫のように跳ねながらも、足の動きを確かめる様子に問題なさそうだとわかれば、ほっと安堵の吐息をこぼした。
「どういたしまして~、ホント良かった、足切っちゃうなんて大変――だ、だからぁ、ダンスとかそういうお話じゃないのに、もぅ」
こんなに心配してるのにと、むくれっ面で講義するものの、足の傷がなかったかのように立ち上がる姉の手をみやり、それからじっと姉の顔を見上げる瞳は、まだ淡い不機嫌さが滲んでいるのだが、童顔と丸い碧の瞳と相成って、迫力は皆無。
はふっと小さく息を吐き出すと、その手に触れながら握りしめて立ち上がる。
「相変わらずお姉ちゃんって、こう、自信に溢れてるというか、なんというか……凄いなぁ」
敵わないなぁと思わされる大人の魅力や振る舞いに、困ったように微笑みながら立ち上がる。
甘いお菓子と紅茶で買収されてしまう自分も、まだまだお子様だと思いながらも、クッキーが食べたいなんて微笑みながら一緒に山道から去っていくのだろう。
■レティシア > 魔族の己を心配してくれる少女に、ついつい、クスクスと笑みが零れてしまう。
未だ、不機嫌そうな少女の頭を宥めるように、ポンポンと叩き。差し出した片手に少女の片手が添えられると、女の方も握り返しつつ
「そうかしら?あたしは常に、本心を口にしているだけよ。」
少女のリクエストに、はいはいと答えつつ、妹に甘い女は、クッキーどころか、ありとあらゆる甘い物を用意するつもりなのだろう。
それでいて、深夜のお茶会は太るかもしれないなんて、意地の悪い言葉も口にしつつ、物騒な山中を下ってゆき――。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からレティシアさんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からリーゼロッテさんが去りました。