2018/05/02 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 温泉宿」にシャロンさんが現れました。
■シャロン > 温泉宿に一晩逗留した少女は、なぜか併設された食事処に立っていた。
生憎の雨で馬がすっかり機嫌を損ねており、どうやら今日は馬車が動かない様子。
故に、帰ろうとしていたはずの少女も当然足止めを食らい、のっぴきならない状態に。
結局、同じ部屋をもう一泊分取り、帰りを明日以降に伸ばしたのだが――。
「……ともあれ、お宿の炊事場で料理をすることになるとは」
首を傾げながら包丁を振るい、キノコを笠と石突に分ける。
無理を言って部屋を借りた手前と言うのもあるが、何でも人手が足りないらしい。
昨日女中の何人かが休みをお願いしたらしく、替えの要員はこの雨で到着が明日になりそうなのだとか。
ならば、と料理を手伝う旨を告げ、今は炊事場で包丁を握っている。
不思議な巡り会わせもあるものだ、と思いつつ、料理自体は好きだから、折角の機会を楽しむことにした。
炊事場とは言え、酒場のカウンターと大差ない風情。パタパタ働く少女の姿は、すっかり丸見えなのである。
■シャロン > 突発的な事態故、作られる料理も豪華と言う訳にはいかない。
宿泊客と来訪客のどちらにも対応できるように、一品物を大目に作り、海の幸などはお休みに。
雨で冷えるから、と鍋物を仕込んでおきたいとのことなので、材料の下拵えを買って出た次第。
根菜類をサクサクと切り、キノコをてきぱきと消化して、籠の中に積み上げていく。
「――っと、お肉はまな板を変えた方がよいですね……。
あ、はーい、お酒ですね。少々お待ちくださいなー!」
肉を切る前に、声をかけられてパタパタと移動。
奥の氷室のような部屋から、冷えたエールの樽を転がしてくる。
中身を同じく木製のカップに注ぐと、客の場所までパタパタ運ぶ。
「お待たせしました。お料理は少々お待ちくださいね!」
女将や料理長も働いている様子だが、いかんせん人手は全く足りていない。
手伝いを買って出た物好き、と言うのも少女だけ。故に忙しさは全く変わっていなかった。
■シャロン > 注文もまた多岐に渡る様子で、煮込みから冷菜まで、何でもござれだ。
普段は料理長の他にも料理が得意な女中がおり、それらを捌いているらしい。
しかし今は、少女と女将と料理長と、それから部屋を整えたり、料理を手伝ったりする女中が数人だ。
急な雨を凌ぐ為にやってきた客などもいるものだから、かき入れ時とはまさにこのことだ。
「はぁい、キノコのフライ、二人前ですー。そちらは、こんがり焼き猪のソテーですね!
あとはーっと、ちょっとだけお待ちくださいな!ただいま運んできますので!」
ぱたぱた、ぱたぱた。楽しい忙しさは何とも良い退屈しのぎだ。
子供が生まれて一段落したら、喫茶店などしてみるのもいいかもしれない。
趣味と実益を兼ねるというのはいいものだ――などと思いつつ、少女は忙しなく動き回っていた。
■シャロン > 「えぇと、キノコのオイル煮、ですか?
ふむふむ、初めてですがやってみましょう!」
やってくる注文は、少女が知らないものもたくさん。
その度に料理長や客からレシピを聞き取り、少しずつ再現していく。
料理のレパートリーが増えそうだなぁ、と鼻歌交じりで手を動かす。
みじん切りのニンニクをオイルで煮込み、匂いを移してからキノコをごろごろ。
じぶじぶとオイルが沸騰し砂頃合い迄煮込むと、小さなトマトをいくつか入れて、余熱で火を通す。
味は塩胡椒で軽く整えて、しっかり完成。後はお客さんの舌に合うかだが――
「んしょ、キノコのオイル煮、お待たせしましたっ!」
ひょいひょい、ぱたぱた、時折手を伸ばしてくる酔っ払いの手をかいくぐりながら、女給の真似事もなんのそのだった。