2018/01/23 のログ
ご案内:「九頭龍山脈 山賊アジト」にスフィアさんが現れました。
スフィア > 雪化粧施された九頭龍山脈のいずこか、数多ある山賊のアジトの一つ、粗末な丸太小屋の中からは絶えず高い声が漏れ出ていた。
子猫の鳴き声にも似た、幼い少女めいた嬌声は、外に漏れても響きもせずに、雪に吸い込まれて消える。
――しかし、それは小屋の外に限っての事。

「いつ終わるの、これ……。」

丸太小屋の中、絵画などの美術品のほかに宝飾品を置いた、盗品部屋に閉じ込められた女の耳には煩いくらいのボリュームで届く。
二日前。人伝の依頼でのこのこ鑑定に来てみれば、どう見ても相手は盗賊。どう考えても鑑定品は盗品。
鑑定が終われば殺すか犯すかされるのではという危惧から、牛歩戦術で鑑定を先延ばしにした結果――

「女の子、大丈夫かなー…うう、ごめん。ババアだから代われない…」

どこから調達してきたのかわからないが、少女達と楽しみ始めた。
なけなしの勇気を振り絞って身代わりを申し出た所、かえってきた言葉が――『ババアはすっこんでろ』
いろんな意味で痛む胸を摩りながら、ゆっくりと吐いた息は白かった。

スフィア > 「……さむっ…! た、たきぎ、たきぎ。 はー…あーもう、あいつらめ、ちょん切られるか、つかまってしまえ…
  あ。そうだ、 …そんな事言ってるよりか、逃げて助けを呼べばいいのでは。 …!」

外よりは格段にマシとはいえ、安普請の小屋の中は冷える。暖炉の火が頼りない大きさになっている事に気づき、新たな薪をくべながら小さな声で呪う。
その後の独白も、薪の爆ぜる音よりも小さな囁きだった。自身の独り言に対してのリアクションだけが大きく、衣擦れの音の方が目立ちそうな塩梅。
しかし隣室の――と言っても天井は吹き抜けになっているから臨場感あふれる嬌声が届く――大音量がすべてを打ち消してくれているので、おそらく届かない。

スフィア > さも名案を思い付いたといった風に頬を緩め、両腕を掲げて振り回す。
暖炉の火と燭光以外に光源の乏しい、コントラストの強い部屋の中に伸びた影が動きに合わせて揺れた。
絵画や彫刻を未練がましく何度か見はしたが、即断即決。
極力音を立てないよう、所作の一つ一つに注意を払いながら窓を開けて、慎重に外に出た。

「…窓のある部屋を割り当てるとか、迂闊過ぎるんじゃないかなって寒…!寒、さむ、さむっ…!」

開けた窓を閉めた所で体の緊張がゆるむのを感じた。そして、強烈な寒さに襲われるのも。

スフィア > 猫背になり、自分自身を抱きしめるように本能的に体を丸めるよう手足を縮める。
小屋から持ち出した明かりだけは消さないよう、銀燭の火に注意を払う事だけは忘れずにいた。
が、少女愛好家の盗賊達への悪罵やら、少女達への罪悪感やら、極寒の中ではすべてが吹き飛ぶ。
『さむい』頭を占めるのはこの三文字だけとなった。
小屋から漏れ聞こえる声が、いつしか野太い獣じみた山賊達のものに変化した事には気づかない。

「ぅ、わっ、とと」

新雪に足を取られ、何度か転びそうになりながらどうにか踏ん張り山道を進む。
こんな雪の日に、盗賊のアジトが犇めく山の中に入る物好きと出くわす確率が低い事は百も承知だったが、それでも目は探してしまう。
明かりや、ほかのだれかの気配を。小屋が遠くなり、生き物の気配が薄れ、厳しい自然だけが目の前に立ちはだかるのを見ていると、警戒ではなく心もとなさから、視線は彼方此方へと。

スフィア > 闇や静寂といった、悪い想像を膨らませるものに対しての根源的な恐怖感。
頭を振って、それを払う。手には明かりがあり、雪に冷え切ってはいるものの、自由に動ける足がある事を。
丸太小屋に置いてきたものの事を思い出して、ゆっくりと息を吐いた。鼻も耳も痛くなるほど冷たく澄んだ空気が、吐息の分だけ白く濁る。

「大丈夫。だから、そう。早く下りないと。」

寒さに震える声で自分を励ましながら、下山する。
独力とはいかず、途中で商人に会うという僥倖があってこそ早く下山出来たわけだが。
つかまった少女達が早く解放されるようにと、盗賊のやさを垂れ込んだが、丸太小屋には逆に淫魔の少女達に躾けられて性も近も果てた男たちが残されてるだけだった、というのは余談。

ご案内:「九頭龍山脈 山賊アジト」からスフィアさんが去りました。