2017/01/03 のログ
■マノとロノ > 「うん、ラフェルは天使。羽根も、頭のぴかぴかも、そういうの持ってる人間は今まで見たことない。
とてもきれいで、カッコいいと思うよ」
本質はともかくとして、人間でも魔族でもないことは飲み込めたマノとロノ。
ラフェルの見せる目立つ部位を、大雑把な言葉で褒め称える。
……そして、そんな『天使』が無知な子供2人に向けて語る、魂についての説明。
その講話に、優しい口調に、2人は時々こくこくと頷く素振りを見せながら、静かに耳を傾けていた。
「……そうか、僕たちも魂を持っているのかぁ。
じゃあ、いま僕たちの身体に入ってる魂は、ちょっと前は別の人の魂だったんだね。なんか、不思議な感じ。
父さんが僕たちを作ってるとき、魂を入れる工程とかあったかな……いつ入ったんだろう……気になる」
一通り聞き終えると、マノとロノは隣り合う互いの顔を向き合わせ、まじまじと互いの瞳を見つめている。
互いの中に……それは頭の中か、胸の中なのか……魂が本当に宿っているのかを探るかのように。
間もなくして、首を軽くかしげながら、天使へと向き直る。
「心。うん、僕たちも、心は持ってる……ハズ。僕たちはいまこうやって、ラフェルと話すのに、心を使ってる……ハズ。
でも、ちょっとできそこないなのを、僕たちは知ってる。僕とロノ、ふたりで頭を働かせないと、うまく考えられないから。
ふたりにひとつの魂が入ることもあるのかな。……死んだら、次はちゃんとしたひとりの人間に魂を移せるのかな。
……ラフェルなら、できるのかな」
とりあえずは輪廻転生の概念を飲み込めたと見える双子。疑いがないわけでもないけれど……確かめる術は彼らにはないのだから。
それでも、天使の語るその概念は、彼らにはとても珍しく、興味深いものであった。そしてそれゆえに、質問もどんどん湧いてくる。
■ラフェル > 「えぇ、それで十分です。ありがとう御座います」
天使である、という認識と、続く褒め言葉。
見習いとはいえ天使である象徴、そこを褒められれば少なからず嬉しいもので…
微笑んだまま、小さくお礼の言葉を返す。
小さな子供には難しいかもしれない説明。
それでも、二人は真面目に聞き入ってくれているのがはっきりと分かる。
「はい、持っているでしょう。
誰しもが同じ、今の自分となる前は、別の生を送っていたはずです。
前は別の方の魂であれど、新しい体に…今はマノ様とロノ様へと入れば、お二人のものです。
魂は新しき体と共にあります、お二人が生まれると同時に同じ存在としてあるものでしょう」
魂は目に見えるものではない、心で見るもの。
それは普通に見える訳もないのだが、そうした二人の行為に微笑ましく見詰めている。
「自信を持って答えて良いものですし、魂に出来損ないなんてものはありません。
マノ様とロノ様は、お互いに思考をせねばならないのですか…?
そうですね、違うとはっきりとは言えませんが…ですが、お二人は別々に私のお話を聞けましたよね?
それはつまり、魂はちゃんと二つあるのだと、私は思います。
ですので…出来れば、そんな事は考えないで下さい。
誰であろうとも、死を迎える事は…悲しい事なのです…」
実際に魂は一つなのか、二つなのか、それは魂を送る時にしかはっきりとは分からない。
もし本当に魂が一つであったならば、同じ間違いを施されなければ、一人のものとなるだろう。
だが、それにはまず死を迎える必要がある。
それを自分が望む訳がない、困ったような表情を浮かべながら、軽く俯いて。
■マノとロノ > 「僕たちは……その、人間……」
人間未満の、ホムンクルス。そう続けようとして、ラフェルの2人を気遣うような優しい口調と柔和な振る舞いに、口をつぐむ。
自分達をそんな呼び方したら、きっとこの人は曇る。目を伏せ、数呼吸のあいだ思考の沈黙を経たのち、
「…えと、人間だから。天使みたいに綺麗な翼も、魔族みたいにこわーいツノもない。
たまに『眼が綺麗』って褒められるから、僕たちが自慢できるのはそのくらいかな。えへへ」
目を細め、口の端を吊り上げ、不器用に笑ってみせるマノ。
手を繋いだまま隣に佇むロノは、その間も徹底して仏頂面のままで天使を見つめている。
「うん、僕たちはふたりでひとつ。触れ合って、頭をふたつ働かせて、ようやく他の人と同じくらい考えられる。
……だから、『別々にお話を聞けた』かどうかも、実はよくわからない。たぶん、できてないのかもしれない」
耳は4つ、脳は2つ。しかし、『思考』という塊は、こうして手を繋いでいる間、渾然一体となる。
2人の自我を分かつ境界を、彼らとて認識できていない。まぁ、それでも…。
「それでも、きっと魂は2つあるのだと思う。僕とロノはふたりでひとつだけど、僕はマノで、ロノはロノだから。
父さんがそう別の名前を付けて、目の色も違くて、僕はロノをマノとは呼ばないから、きっと違う何かなんだ。
……でも、それを……魂のことを実際に確かめるには死ななきゃいけないのは、僕も嫌だよ。
他の生きている人や動物が、死んで動かなくなるのを見るのは、あまり気持ちのいいものじゃない。
そのときに何かが無くなった、ってのはわかるから。それがきっと『魂』っていう名前なんだね」
つかの間、ラフェルを見つめるふたりの視線の焦点が、遠くを見つめる。それはすぐにまた、目の前の少女の顔へと合わせられる。
「……ところで、ラフェルは、魂を導く人なんだよね。そういうお仕事なの?
魂を、次の生に導いて、それで誰かからお金やご飯を貰っているの?」
■ラフェル > 「………そうですね、お二人は人間です。
強い思いは、きっと何らかの形で貴方達の力となるでしょう。
そうある事を…私も願っています」
口を開く少年から感じ取れるのは、迷いと、偽り。
それが決して悪いものではないという事は、その言葉から感じ取るのは簡単なもので。
だからこそ、返す言葉と共に、両手を組んで祈りを捧げる。
二人に与えたのはこの先に何か起こるだろう小さな奇跡、それで何か大きく変わる訳でもないが…自分の出来る唯一の事。
祈りが終われば、表情を微笑みへと戻す。
続く言葉を、目を閉じて静かに聞いていた。
思考はどうしても一つでなければ出来ない事。
だが、魂は二つあるのだと、そう思ってくれた事。
その確認方法を嫌っている事に、おぼろげでも魂を理解した事。
それが終われば、閉じていた目を開き、視線が合う。
「…まだ、時期が来ていないだけ、そうではないでしょうか?
人間は成長をする生き物、成長をすれば、また変わってくる可能性もあるでしょう。
いつか、二人でちゃんと考える事が出来る…信じる事は、とても大事な事ですから。
分かって頂ければ、それで十分です」
そう、二人はまだ小さい。
今はそうであっても、言葉の通り、先は変わるかもしれない。
魂を何と無くでも理解した言葉には、小さく頷いてみせた。
「いえ、魂を導く事は天使である私の役割の一つであって、仕事ではありません。
他にも、行える事は幾つかありますが…それも含めて、私がしたいからしているだけです。
何かを望んでしている訳では無いですよ?」
まるで当然と言うかのように、微笑んだまま問いに答えた。
■マノとロノ > ラフェルが、天使が目の前で見せる祈りの仕草。
信心深き者であれば頭を垂れて畏れ敬い有難がるところであろうが、そういった思考をマノとロノは持ち合わせていない。
彼女が自分たちに向けて無償の祈りを捧げている間も、ボケッとしたままでその所作を見つめ観察するのみ。
…しかし、その後に向けられたラフェルの微笑みの表情に、2人の顔もつられてほころび、
「「……ありがとう」」
マノの唇に合わせ、これまで白い吐息を吐くばかりだったロノの唇までもが動く。
戸惑いがちながらも、感謝の言葉を同時に発し、4つの目を細めて微笑んだ。
「ラフェルの言葉、信じるよ。そして、魂のこと、自分たちでももう少し考えてみる。
それで何かが良くなるのかもって……ラフェルの言葉を聞いてると、よくわからないけれど、そんな気持ちになる。
……天使って、すごいね。魔族とは大違い」
成り行きで、魔族とは何度も口をきいたことがある。彼ら彼女らもまた、耳に心地よい言葉を吐き、聞くものの心を弄ぶ。
でも、天使の言葉は、似たような心地よさを与えながらも、同時に力を与えてくれるように感じる。
「魂を導くのは、役割。そうか、ラフェルには役割があるんだね…」
しかし、続く質問への返答を聞くと、マノとロノ、ふたりの瞳が再び伏せられ、語気が下がる。
「……役割、いいなぁ。僕たちには、役割がないんだ。父さんに与えられても、教えられてもないまま、死んじゃったから。
だから、自分たちのしたいことをしようとしたら、ずっと路地裏で座ってるだけ。
たまにご飯を食べたり、お風呂に入ったり、お金を取りにこの辺まで戻ってきたり。……それだけ。
……僕たちも、役割のある何かに作られたかった。ラフェルのこと、うらやましい」
双子が握り合う手と手が、ぎゅ、と固く緊張する。
「どうやったら、自分たちの役割、見つけられるのかな」
■ラフェル > 祈りを捧げる、ただそれだけの事だ。
誰かの強い思いがなければ、本当に些細なもの。
それでも、そんな祈りにお礼をするのが二人であれば、変わらぬ微笑みで返した。
「はい、まだ貴方達の先は長いものでしょう。
考えるにしても、慌てる事はありません。
時間を掛けて、ゆっくりと考えていけば良いのです。
…魔族ですか…皆が皆、悪い方達ばかりでは無いとは思いますが…」
少しでも、役に立てた事を喜ぶ自分が居る。
それは、表情の中にも見えるものなのかもしれない。
ただ、後に続く魔族の事に関しては少々言い難い感じにどうしてもなってしまう。
そうであると信じたい、だけど、相対する種族だけに複雑なもので。
「はい、それは存在した時から与えられたものです…?」
役割、自分に与えられたもの、その答えを聞いた二人の反応に首を傾げる。
「役割は、必ずしも誰かに与えられるものではありません。
私の場合は、偶然にやりたい事がそうであるだけというものですしね?
それでも、自分達に役割が欲しいのでしたら、探したら良いのです。
存在と共に与えられた私達と違い、貴方達は自由に探す事が出来る。
自分達に何が出来るのか、出来る事があれば、それがどう役立てられるのか。
まずは、周りを見て考えていけば良いのではないでしょうか?
無理に探す必要はありません、生きていく為の時間から、少しずつ、色々と試すんです。
そうすれば、きっと自分達に合った役割が見付けられると…私はそう思います」
そっと伸ばす手が、二人の握り合う手の上に添えられる。
その緊張を何とか解そうと、優しく包むように。
「私は、願う事しか出来ません。
でも、もしそれが見付けられたのなら…共に喜びたいものです」
重なり合う手を胸元に寄せ、目を閉じる。
そう時間はおかずに目を開き、手を離して。
■マノとロノ > 「役割を、探す……」
やりたいことは、やるべきことは、探せばよい。その言葉に、臥せられていた4つの瞳は再び天使へと向き直る。
未だ不安と戸惑いをその視線に宿し、震わせながら。
自分たちなりに、生き続ける目的を何かしら探してきていたつもりではあった。
でも、積極的に探すやり方が分からず、いつも立ち止まり、座り込みっぱなしで。
……しかし、自分たちに出来ることは、それを役立てることができたことは、少なからずやあった。
どれもこれも成り行きだけれど。えっちなアレコレもあったけれど。
そして、目の前で役割と可能性について暖かな言葉で諭す天使。
その口ぶりからは、ラフェルにはすでに役割が与えられていて、それ以外の可能性を探せないようにも聞こえる。
それはとても悲しいことで、彼女から見て、未だ役割を持たぬ自分たちはかえって恵まれて見えているのだろう。
天使にそのような口を聞かせてしまったことにわずかなれど罪悪感を懐きながら、しかしそれゆえに、自らの中にある可能性を信じる気持ちも生まれ始めた。
「……色々と試す。うん、そうだね。そうだ。
僕たち、色々試せる。それに、言われてみると、いままでも色々と試してきてたのかも。
何かをして、辛かったり変な気持ちになったこともあるし、いい気持ち、幸せな気持ちになったこともある。
その中から、自分たちがいいと思ったものを探して、やっていけばいいんだね。きっと」
2人の瞳から、戸惑いが薄れた。
そして、双子をつなぐ手を天使の手が包み、胸元へと寄せられると、絡み合う10本の指に走っていた緊張がすっと解けていく。
ラフェルが再び祈るように目を閉じれば、双子も真似して、そっと目を伏せる。
「ん……ラフェルの手、暖かい。ふわっとして、気持ちいい。
ラフェル、願うことしかできないとか言わないで。暖めてもらうこともできたから。
僕たち、いま今日でいちばん幸せな気持ちだよ。この山に戻ってくるときはいつも、なんか気が重かったのに」
包まれた手が離れれば、二人の手指は再びぎゅっと握り合い……天使のぬくもりを手のひらに保つように、ふわりと丸く握り合わされる。
「わかったよ、ラフェル。僕たち、役立つことを探してみる。なにかいいものをひとつ見つけて、役割に決めてみる。
いままで、なにをすればいいかふわふわで、しっかり決まらなかったけれど、ラフェルの言葉でわかった。
……ラフェルが、喜びそうなことを、探してみるよ」
共に喜びたいという彼女の言葉。幾度となく見た、聖なる微笑み。
再び、何度でもその笑顔を見たい。言葉を聞きたい。少年2人にとって、それは充分過ぎる動機づけだった。
「じゃあ僕たちそろそろ、王都に戻るよ。早く、誰かの役に立ちたいから。
また会おうね、きっと……そのとき、ラフェルに喜んでもらえるように……」
2人は天使に向けて、不器用なれど柔らかい笑みを作り、そして軽く会釈をした。
その2人の体の輪郭が、にわかににじみ始める。止めなければ再びのテレポーテーションにてその場を去るだろう。
■ラフェル > 自分の言葉が、どこまで二人に届いたのか。
同じ天使達以外との会話は、多いものではなかったから心配もあった。
それでも、少しでも届いてくれたのならば…
向ける視線の中で、二人の感情の変化が感じ取れる。
色々と思うところがあったり、考えさせられたところがあったのだろう。
揺れ動く感情と共に、言葉が向けられる。
それは、自分が導き出したかった二人の歩むべき道。
感情からも、ゆっくりと惑いの感情が薄れていくのが見て取れた。
きっと、途中で躓く事もあるかもしれない。
それでも二人は、求める道へと進んで行くだろう…それを願う。
自分には、ただ先の可能性を信じて願うしか出来ないのだから。
…そう思っていた。
だけど、後に続く言葉は、そんな自分の事を労わるものだった。
「そう…ですか。…私は、私の出来る事は、誰かの思いが無ければ本当に小さなものなのだと…そう思ってました。
そんな私でも、そこまで役に立てるものだったのですね…」
自分一人の力でも、誰かの思いを受けずとも、役に立つ事が出来る。
それを理解させられれば、分かったのだと、頷いてみせた。
「はい、きっと見付かります。今の貴方達でしたら。
…見付かった時は、必ずや喜びを分かち合う為に、貴方達の元に参りましょう。
その時を、楽しみに待っていますね?」
自分も一つ教えられた相手を、改めて見詰める。
この二人の姿を、しっかりと焼き付けるかのように。
「はい、私もそろそろ、次の方達の元へと行きますね?
………きっと、会いましょう」
笑顔を向け合う三人、こちらも言葉に続けて頭を下げた。
少し距離を置き、ばさりと大きく白い翼を広げてみせる。
二人がその場から姿を消すと共に、小さな天使もまた、その場から夜空へと飛び去っていくだろう。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からマノとロノさんが去りました。
ご案内:「九頭龍山脈 山賊街道/山中」からラフェルさんが去りました。