2016/08/28 のログ
セリオン > 「別れるだとか、別れないだとか、善だとか、悪だとか――そんな言葉より、貴女の〝今〟は力強い」

とぎれとぎれの息から、女は、まだ笑う。その笑みは、嘲笑では無く、心からの悦びの笑みである。
どんな理屈も付けず、ただ、相手を殺したい、苦しめたいという理由だけで、力を振るう少女。
その姿は全く、この女が望む人間の姿、そのものである。
だから女は、口説き文句としてでもなく、ましてや世辞や諂いでもなく、真実からこう言うのだ。

「――今の貴女は、とても綺麗になりましたよ」

そして、獣のように地面に四肢を置き、その全てを用いて、体を強引に跳ねさせた。
飛ぶ先は、先にメイスを投げ、魔弾にて弾かれ、落下した先だった。
安物の斧は見捨てても良いが、このメイスばかりは愛用の一組。こればかりは確実に確保して――

そして、逃げる。
自ら攻撃を仕掛けたという、面子などまるで気にせず、恥じもせず、逃げる。
相手が立てないのが幸いだ。青い炎は、苦痛の桁は大きいが、それだけで直ぐには死にはしない。
故に女は、守りに意識を裂かずに逃げ――

「辛いのが嫌なら、苦しいのが嫌なら、快楽に耽ればいい――ただそれだけのことでしょう!
 幾らでも欲しがればいい! その手に、青い炎が灯され続ける限り、貴女は他者へ苦痛を強制しながら、自らは快楽を貪る側の人間に成れる!
 ……私はセリオン、覚えておきなさい! 私はきっと、王都の何処かにいるでしょうから!」

――己を殺すと言った者に、己の名を告げた。
だが、この少女が自らを殺しに来るというのなら、それさえも快楽の一つ、心待ちにすべきものなのだ。
脇目も振らずに逃走する女の目は、苦痛のあまりに一部の血管が切れたか、涙の代わりに血を流していたが――
それでも最後に、女は普段通りの微笑みを、血塗れの凄絶な顔に貼り付けた。

リーゼロッテ > 躊躇いなく殺す、躊躇いなく苦しめる、躊躇いなく壊す。
躊躇わず、細かなことは全て投げ捨てて破壊するのは、ずっとこの王都の周辺の穢れに、とても嫌気が指していたから。
それを正しいと宣うような彼女の言葉に、何を言っているのかと理解に苦しみ、僅かに訝しむ表情を見せる。
メイスの方へと飛び、回収して逃げようとすれば追い打とうにも身体は動かせない。

「綺麗なんかじゃない、汚くなってるよ…。もういいの、全部壊せば終わるんだから……全部」

彼女の名前を覚えていられるだろうか、未だに熱と理性に焼き焦がす媚毒に熱くなった吐息を履き続けていた。
だが、血に濡れた顔は記憶にははっきりと焼き付いている。
土に汚れたほっそりとした身体を晒し、脳裏に響いた声に従い、体内に炎を宿す。
媚薬を焼き払い、深い疼きの沸き立ちを抑えこむと魔力が糸のように身体にまとわりついて黒衣に変わる。

「皆を家に返してくれる? リーゼは…自分で帰るから」

鴉達にお願いをすると、それに従うように無数の鴉が男達を捕まえて空に運んでいく。
ライフルを拾い、コツコツと歩き出すと空を見上げた。
声を失い、自分を探す相棒だったはずの隼が見える。
小さく ごめんね と呟けば、日が沈み掛けた山道を一人で歩く。
入れ違う鴉の姿に、つながらない理由を理解した隼も帰るが、その後に騒がしくなるのはまた後の話。

ご案内:「山賊街道・バフ―ト近隣」からセリオンさんが去りました。
ご案内:「山賊街道・バフ―ト近隣」からリーゼロッテさんが去りました。