2020/09/10 のログ
ヴェルソート > 司会が商品の説明を進める最中…まるで酒場を彩るように、耳慣れないヴァイオリンの音色が酒場を流れていく。
司会は不思議そうな顔をして周囲を見回すが弦楽器を弾いている姿など見当たらず…しかし司会を放り出すわけにもいかずで…顔に出さずとも不審には思っているらしいが、今のところ音色が聞こえる、以外に不審なところは見当たらない、が…ジーゴの耳には、バチバチッ!とまるで何かがぶつかっている…阻害の魔術を力技で押し通して干渉する何かを、ミレーの感覚が捉えている、かもしれない。
そしてバチン!と何かが敗れるような音がすれば…はっきりと、歌が聞こえてくるだろう。
聞き覚えのある、甘い艶のあるテノールで。

『Mea tek presia jam Yeeel yeeel yeeel yeeel!!!!【私をどうか連れて行って どこか遠くへ 遠くへ 遠くへ 遠くへ!】』

それが耳に入った瞬間…ふわりと、少女になった彼の体が、不思議な浮遊感に襲われる。

ジーゴ > なぜ、自分が吊されているのか、女体化しているのか、ここはどこなのか。分からないことはたくさんあって。
目をつぶって、耐えているのか現実逃避なのか。
とにかく、司会が自分のことを描写するのを仕方なく聞かされていたはずだったのに。

「なに?」
どこかから音楽が聞こえて。何の楽器なのかは分からないけれど、場違いなくらい綺麗な音色だ。
薄目を開けて辺りを見渡すも楽器らしきものは見当たらない。
そればかりか、何かと何かがぶつかるような気配を感じる。特になにも見えないし、それが何かも分からないけれど。

「んんッ!」
続いて聞こえたのは歌だった。
ソレが誰の声であるかを認識すると、驚いて立つ獣耳。
驚いている間もなく、天井から吊されていた体が急に軽くなった感覚を覚えて。手枷に集中していた体重が急に宙に浮いて

「うわっ、ちょっとまっ…」
きっと、声の主であるところのご主人様が何かをしたんだとはわかったけれども、浮かんだことも空を飛んだこともないミレーは慌てて空を掴むように手をのばして、
ガチャガチャと天井から拘束されている手枷が金属音を立てる。

ヴェルソート > ざわりと、浮き上がったように見える少女の体に、ざわりと客席が不審を顕にするも…その浮遊感は一時的なものだ。
なぜなら、ものを浮かばせる呪歌ではなく……少女の姿は、部隊から忽然と手枷だけを残して消え去ってしまうのだから。
まあ、数秒の後に大騒ぎになるはずの酒場の騒ぎは…壁を何枚か隔てた遠くから聞くことになるだろう。ちょうど、窓から舞台がちらりと見える、別の廃屋の中といった具合に。

「いってっ!掴む掴むな!ハゲたらどうすんだよクソ!…ほら、ずらかるぞ。全く、なんでまた売られてんだか。」
空を掴むように伸ばした手がちょうど自分の髪の毛を掴むもんだから、ギャーギャーと喚く指揮棒を手にした男が一人…はるか昔、少女が夢を追いかけて遠くへ駆けていく様を綴ったその歌は、歌の届く範囲で他者の位置を自由に書き換える力を宿しており…建物越しに、彼を呼び寄せた次第。
あとはまあ、場所がバレるまでに逃げようかと、彼に声をかけ、指揮棒を持った手を差し出すけども。

ジーゴ > 「ッ!」
なんでいきなり違うところに移動しているのか、なんで浮いたのか、だとか問いたいことはたくさんあったけれど。
驚いて声も出ずに、小さく息をのむことしかできなかった。

「あ、ごめ…」
浮いていたはずの体は、気がつけば既に廃屋の床にしっかりと立っていて、ちょうど伸ばした手が相手の髪を握りしめてしまっているのを慌てて手を離して、謝ったけれど。
その数秒後には思い出したかのように態度を一変させる。


「ちかよるな」
全裸で、しかも性別までおかしくなっている状態で出すには随分シリアスな言葉。
狭い廃屋の中。相手からできるだけ距離を取ろうと後ずさった。自分の主人のはずなのに、会うのは久しぶり。
彼が主人から逃げているからだ。
逃げている手前、そんなに簡単に相手の手は取れなかった。

ヴェルソート > 「いでで…ったく…あー、そういうの良いから。」
離された手にちょっと涙目になりながら掴まれた髪をなでつけても、癖のついた髪はゆるく散らばってまとまらず。
まあそれは、自分のくせっ毛のせいだ、ひとえに。
そして、随分とまあ、全裸でシリアスな台詞をのたまう彼に、指揮棒をしまえばひらひらと手を振って、彼の言葉を軽く聞き流す。

「とりあえず、細かいことはぜーんぶ後回し…今はズラかるぞ、ここはさっきの場所からさほど遠くねぇんだ。
 まずは とりあえず 宿に 帰る。……良いな?話は全部それからだ。」
彼の態度を気にもせず、まずは…ここから離れる事を彼に指示する声には…どこか、否と言い難い…声を磨いた者が持つ魅了の力が宿っていて…。

ジーゴ > 「わかり…ました…」
全裸だけどこのまま逃げるか、とか、相手に噛みつく(物理)とか色々考えいたけれど。主人の言葉には本能的に従った。それでも内心は同意しきってはいないから最低限の言葉で応じた。
仮に魅了の力が込められていなくても、相手の言葉に命令の響きを感じて、勿論従ったであろうけれど。

とはいえ、全裸のままでは帰りづらい。
周囲を軽く見渡すと、手近なところにあったテーブルクロスに手をのばして。
廃墟に取り残されていた布だ。綺麗とは言いがたいけれど、ないよりはマシと獣の硬い爪で切り裂いて、体に巻き付けた。
最低限、布を纏っただけの姿は人目を引くだろうが、
全裸で街中に出るよりは随分マシな格好で。
廃墟を出ようとする相手を追いかけるようにして。

ヴェルソート > 「ん…よろしい。」
しかし、全裸でというのは…と眉根を寄せて周囲を見回していると、彼がいちはやくテーブルクロスを見つけて身にまとうのを見れば、おぉ…とちょっと感心する。行動が早い。
あとは…自分のコートをひょいと、彼に被せよう、これで大分マシになるはずだ。

「んじゃ…とりあえず俺の取ってる宿に行くから…ちゃんと話しような、ジーゴ?」
なぞと、念押しして…人目を避けるように、廃屋を後にして……。

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