2018/05/09 のログ
オフェリア >  ――同伴していた知人が店の黒服に何処かへ連れていかれてから、暫く経っている。残された女は積み上げたチップと共にこうして一先ずの待機を選んだが、恐らく知人が戻る事は無いだろう。
 ダイスの目が女の予想を辿る度、知人の顔面は青ざめていた。最後に見たのは濃い絶望の色。黒服を纏う大柄な従業員二人に引き摺られていった知人の顔を脳裏へ浮かべ、女は自らの無機質な貌に手を添える。
 頬へ掌を当てながら、緩く頭を傾けて、もう一度。細く息を吐き、姿が見当たるべくもないフロアの賑わいへ背を向ける。

 「――…如何しよう、 かしら…」

 カウンターへ向き直ると、グラスに幾らか残った白金色の液体を飲み干し、呟いた。然して困っても居ない様な薄い表情で、序でにバーテンダーに飲み物の追加を頼みながら。

オフェリア >  此れが最後。出された一杯のシャンパンを受取って、女は此の場への滞在へ区切りを付けた。
 船で戻るか、今夜は何処かで部屋を取るか。―確か、宿泊施設が上の階に併設されていると連れの男が言っていた。此の付近の土地には明るくない。酒を一杯飲み終わる迄の暫しの思案の内、後者を取った女の指先が山積みになったチップに向かう。
 其処から数枚手に収めると、銀に煌くトレイごと、バーテンダーへ差し向けて、

 「…ねえ、 此れ、貴方にあげるわ。
 ――…ええ、良いの。 元々私のお金では無いから」

 口許へ微かな笑みを一つ。浮かべてそう告げた女は、空にしたグラスとチップを残してカウンターを離れて行った。
 歩みに合せて揺れる金糸の姿は、歓喜と絶望が混ざり合う賑わいに消えてゆく。

ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”2」からオフェリアさんが去りました。