2016/02/26 のログ
ヴァイル > つつがなく少女は消えて、代わりに一つのリングが手の中に現れる。
確かに身も心も所有されたいと願った者は今までも居たが、
『呪い』があるとはいえ戻れると信じて願ったのはクラウディアが初めてである。

指輪を手にとって、自分の右薬指を緩く回転させながら嵌める。
隣の中指には、件の真鍮の簡素な指輪があった。
クラウディアと比べるとこちらのデザインのほうが太い。

「前回と比べれば質素だが――心境の変化かな?
 区別がつかなくなる、なんてことはなかったな。
 ――ああ、そっちの指輪も、元は人間だ。いつからそうなっているかは、忘れたが」

に、といたずらっぽく微笑して、二つの指輪を小さくこつりと打ち鳴らした。

「気分はどう? クラウディア」

モノ言わぬ存在であるはずの指輪に、目を細めて語りかける。

クラウディア > (指輪に成り果ててしまったのに、五感が残っているというのは不思議なものだ。
 そうしている間に軽く持ち上げられる感覚があり、ヴァイルの指が自分に差し込まれる。
 なんとも言えない満足感と幸福感は、まさしく付けられる喜び…
 指輪としてのそれなのだろう。)

(相手の言葉に少し驚く。 アイテムに変えられたのは自分だけではなかったのだ。
 いつからか指輪になりつづけているそれが隣にいると感じると、なんとも不思議な気持ち。)

『前よりは悪くないな。 自分である程度受け入れていたからかもしれない。
 暫くの間、よろしく頼むよ。 綺麗に指を彩るからさ。』
(気分を尋ねられると、声なき声で答えた。 もちろんヴァイルには聞こえるだろうが、
 彼が聞こうとしなくなったら…そう思うだけで、少し不安になる。)

ヴァイル > 「以前の魔性めいた華やかさも良いが、あれはあれで気を使うところがあるからね」

賭場を後にして、自身がハイブラゼールに取っている宿の部屋へと向かう。
扉を開けて、寝台へと身体を横たえる。

「それにしてもわざわざ最も自由の効かない選択肢を採るとはね。
 鼠や虫の類に変えてやってもよかったんだぞ。
 どの姿もきっと……愛らしい」

指輪にそっと唇を重ねる。少しの熱の篭った吐息。

「ああ、クラウディア。おまえは呪われている。
 だから誰のものにもならないし、なれない。
 そのことが、なによりも美しい……」

寝台の上で、どこか悩ましげに身をよじった。

クラウディア > (以前、黒曜石の指輪にされたことを思い出す。
 あの時はたしか、自身が魔性を備えてしまい、文字通り人を魅了する指輪になってしまったのだったか。
 相手の言葉に胸をなでおろす。 少なくても、今回はそうなることはあるまい。)

『ネズミや虫じゃ誰かに殺されかねないからな。 この方が都合がいい。
 それに船内にネズミだ虫だって持ち込んだら、きっと嫌な顔をされるさ。
 っ…ん、ぁ…! っはぁっ… うわー、キス、すっごいな…』

(指輪へのキスは、自分の全身がキスされているような強烈な感覚。
 声が震えてしまうが、もちろん指輪となった姿は身じろぎすることはない。
 告白なのか、それとも愚痴なのか…なんとも言えない相手の言葉に、
 頭があれば横にふっていただろう。)

『まあ、それもマグメールに戻るまでだよ。 すぐ戻るんだろ?』
(指輪を楽しむのもいいが、あくまでもマグメールに戻るための手段だ。
 相手に軽い調子で問いかける。)

ヴァイル > 「おや。虫や鼠なんかになりたくない、とは言わないんだな」

予想と違った反応におかしそうに肩を揺らす。
どうやらそういう姿にもさせてみたいらしい。

「そうだ。持ち物には名前を刻んでおかないと」

軽い口調で言うと指輪を一度外し、細く尖らせた舌先がその内側を這いまわる。
じっくりと時間をかけて。
舌がどいたときには、"vile"と小さく、その場所に刻まれているだろう。

確認の言葉に、わざとらしくヴァイルは首を傾げた。

「――はて。何の話かな?
 『王都マグメールに着くまではクラウディアはおれの所有物になる』、
 きみと交わした契約はそれだけだけど……」

唇が弧を描く。

クラウディア > 『だって、俺が嫌がってもお前がそうしたいならするだろ。
 どうせならトカゲとか龍とか…強そうな奴がいいな。
 ほら、よく使い魔が肩に止まったりするの見るだろ。
 ああいうの、かっこよくない?』
(相手の言葉に軽い調子で答える。 使い魔にされてしまいそうな
 コメントを返すと、指から外された。物寂しさを覚えるけれど、
 感情はすぐに甘い快楽に埋め尽くされる。)

『っ♥ っこれっ…ヴァイル、ヴぁいるっ…♥う、あぁぁっ…♥
っはーっ、はぁっ……な、なんだよ、これっ…これじゃ、持ち物だ……ああ…』
(舌でリングの内側を舐められると、身体の内側をすべて舐められているかのような
 強烈な快楽が自分の精神を焼く。 翻弄された後には、所有者を示す刻印が刻まれていた。
 すっかり相手の持ち物らしくなってしまった自分の姿に小さくため息。)

『な……っ、ヴァイル、冗談だろ? すぐにマグメール行くんだろ?
 元に戻してくれるんだよ、な…?なっ?』
(しれっと答える相手の言葉は、自分を怯えさせるには十分だ。
 存在しない視線が、隣のリングを唱える。 いつからか指輪に
 変えられていたそれは、ただの指輪と見分けなんかつかない。
 まるで、本当に指輪に成り果ててしまったかのように。
 まさか自分の将来があれなのかと思うと、必死に相手に訴えかける。)

ヴァイル > 「使い魔か。そういうのがいいの?
 はは。仔猫や兎の間違いじゃない?
 外身が強そうでも中身が伴わないんじゃあ意味が無いよ、クラウディア」

にこにこと機嫌良さそうにしているが、口にする言葉には容赦がない。
慌てたような言葉には却って笑みを深くする。
こんな不用意な約束を結ぶのが悪いのだ。

「……きみが呪われた経緯、だいたい想像がつくな。
 持ち物ってのは持ち主に何をされても文句を言わないから持ち物っていうんだぜ?」

乾いた布を取り出して、小さなクラウディア――指輪を包む。

「それに、さっきから言っている『元』ってなんだ?
 おれは言ったはずだよ。『真なる姿』を思い浮かべよ――と。
 もしかして、自分がほんとうは人間だったとでも、思っているのかな」

やさしい手付きで、布で指輪を磨く。
拭われるのは埃や汚れだけではない。
たとえばそれは――

「言えるかい? 自分の名前」

幼子に問いかけるような口調。

クラウディア > 『子猫にウサギじゃなあ……なんだよ、外見ぐらいいいだろ。
 それにヴァイルがウサちゃん肩に乗っけてるの、すごい妙だぞ。』
(ぐさぐさと容赦なく自分を刺してくる相手に答える。
 顔があれば、きっと唇を尖らせていたであろう声色。
 慌てる自分を見て楽しそうにしているのが、なおのこと腹が立つ。)

なんで分かるんだよー、もしかして本当のことを知ってるとかか?
そりゃあ、俺は人間で…わ、わわっ…!
(柔らかい布が自分を包み込み、優しく全身を撫で擦る。
 心地よさにうっとりと声を蕩けさせながら、相手の問いかけに答えようとして。)

そりゃあ、俺の名前は……あれっ、ま、まって、俺の名前はだな…
おれのなまえ…なまえは…? あれぇ…?本当に人間で…名前が…
(”余計なもの”が拭いとられるたびに、指輪として純化し、美しさを増していく。
 名前、自分の認識、言語…あらゆるものがやわらかな布に飲み込まれていく。
 そもにんげんだった…はずなのに?真の姿は指輪?それなら指輪が
 真の姿なのでは? 困惑に声が震えた。)

ヴァイル > 「忘れたかい? おれは変幻自在だぞ。
 妙だと言うならそれに合わせた姿になってやるだけさ」

兎や仔猫に似合う人間といえばやはり幼い女の子だろうか?
奇しくもクラウディアの外見と同じである。

暖かな息を吹きかけながら、丹念に指輪の表面を磨いていく。
困惑する気配さえも愛おしげに見つめていた。
磨き布を放ると、明かりを落として寝転がり、手の中に内緒話でもするように語りかける。

「指輪に刻まれるのは、自分の名前じゃなくて、持ち主の名前だけだ。
 人間だったら、こんなふうに磨いてあげることも、指に嵌めてあげることもできないじゃないか。
 忘れてしまえよ、そんなもの」

暗い部屋の中、指輪を見つめていた瞼がだんだんと下がっていく。

クラウディア > 『へんげん、じざい……』
(相手の言葉に答える声は小さい。 それだったら、自分も同じようなものではないか。
 ヴァイルが隣にいること前提だが。
 指輪を丁寧に磨いて貰えばもらうほど、何かが拭い去られていく。
 眠たげにまぶたを閉じていく相手の言葉に、小さな声で答えた。)

『なまえ…もちぬしは、ヴァイルさま……はい、わすれ、ます…』
(相手の意識と同じように、自分もとろとろと眠りの縁に引きずりこまれていく。
 自分はヴァイルさまのものになってしまったみたいだ。
 マグメールに戻れれば、きっとなにかが元に戻る…
 そんなことを思いながら、指輪は暗がりの中で小さく光った。)

ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール” カジノ」からヴァイルさんが去りました。
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