2015/12/09 のログ
ご案内:「ハイブラゼール内のとある酒場」にチェシャさんが現れました。
ご案内:「ハイブラゼール内のとある酒場」にヴァイルさんが現れました。
■チェシャ > ハイブラゼールは港湾都市一の歓楽街である。
賭け事や色事にうつつをぬかす人間たちが大勢いる欲望の坩堝である。
そういうところに紛れて取引の話を進めるのは
まぁ森の中に樹を隠すようなものである。
それにここは港湾都市、外国からの船も停まるし珍しい品を押さえるにはうってつけの場所だ。
今日もうまく一仕事終えられ、ほっとした表情でカジノ内に併設されたバーを利用する。
カジノや娼館の喧騒の間に合って妙に静かなここはチェシャがいろいろなものに煩わされなくて済む隠れ場所でもある。
薄暗く青い照明がまるで海の底のように落ち着く。
グラスに注がれたミルクをちびちびやりながらアンチョビムースののったガーリックトーストをかじる。
■ヴァイル > 「おいおい、ここはガキの来るところじゃねえぞ」
低く抑えられたわざとらしい声。それほどの迫力を感じることはできない。
いつのまにか少し離れた、しかしチェシャからはよく見える位置に
座って焦げ茶髪の三つ編みの先を指で弄ぶ少年の姿があった。
「小洒落たカフェのほうがよほど似合ってるな、きさまは」
そう言うヴァイルはジョッキでミルクを飲んでいた。
それ以外に食事の皿はない。
■チェシャ > ヴァイルの姿を見つければげっと露骨に嫌な顔をした。
「何をしに来た吸血鬼」
唸るような低い声。明らかな不機嫌をいやおうなく伝える。
アンチョビが少しついた指先をぺろりと舐めながら
それでも油断なく相手を睨んだ。
「お前こそミルクだけしか飲まないならカフェにでも行けよ。
もしかして、ママのおっぱいが恋しいんでちゅかね」
最初に合ったときもミルク粥を食べていた気がするし
ここまでミルクばっかり飲んでいるとそういうからかいもしたくなる。
■ヴァイル > 「おれは母親に授乳してもらった経験がないから、多分違うな。
……きさまはあるか?」
チェシャのからかいには涼しい顔でそう答える。
彼とは対照に上機嫌な様子だ。
「多分きさまと同じで、仕事上がりだよ。
一応おれは冒険者という身分だからな。
それに酒場というのは人が集まるだろう。
座って話に耳をそばだてているだけでも、得るものはある」
歓楽都市には当然ながら用心棒や荷物運搬など単純な人足を求められる仕事も多い。
ヴァイルは気軽に人を殺し奪う魔族のくせしてそういう仕事もこなしていた。
「それからきさまのことも一応探してはいたんだ。
きさまの好きそうなものを、おれなりに考えていてね」
荷物から瓶を取り出してかざして見せる。
透明なその中には、煮干しがみっちりと詰まっていた。
「ほしいか? 毒は入ってないぞ」
いらんことを付け加える。
■チェシャ > 「覚えてない」
それだけ言い放つとそっぽを向いた。また一口ミルクを飲む。
ヴァイルがどういう事情でここに来たかなどに一切興味はないが
勝手に本人がしゃべるのならそれを遮ることはせず
ふぅんと無関心そうに聞き流すにとどめる。
だが彼の手に取りだされた瓶詰が、煮干しの詰まったそれが
自分の好きなものだろうと言われて差し出されたものが見えると
とたんに顔を真っ赤にして眉を吊り上げた。
「お、まえ……、そんなことのために僕を探していたっていうのか!
馬鹿じゃないか?!別にお前から何か受け取るつもりはない!
馬鹿にするな!この馬鹿!変態!」
もちろん煮干しは好きだが、それを当てられた図星からも逆に怒りがこみ上げたし
何よりなぜヴァイルが自分にこんなことをするのかがわからない。
彼なりのたちの悪い悪戯だというのだろうか。
■ヴァイル > 「馬鹿馬鹿言いすぎだろ」
何度か瞬き。困惑の混ざった苦笑。
ここまで劇的な反応をされるとはヴァイルとしても想定外だったのだろう。
猫なら煮干しが好きだろう、ぐらいの安直な考えだった。
「……まるで贈り物をされるのに慣れてないみたいじゃないか。
モテないのか? いやそんなはずはないよな。
残念だ、チェシャの喜ぶ顔が見たかったんだが……」
よどみない口調は、どこまで本気で言っているのか測りづらい。
「……ま、無理に押し付けてもしかたない。
これはおれが始末するとしよう」
ゆっくりと瓶の蓋を開けて、中の煮干しを一匹ずつつまんでは口に運び、咀嚼する。
あまりうまそうに食っているようには見えない。
ヴァイルは人間の基準で言えばとんでもない偏食家だった。
■チェシャ > 「馬鹿に馬鹿と言って何が悪い」
頬杖をついてヴァイルに呆れた様に睨みつける。
「お前それ本気で言っているのか?頭大丈夫か?
嫌いな奴や何の義理もないやつに何か送られるのが嫌なんだよ。
大体なんでお前が僕にそれを贈る?
僕の喜ぶ顔がみたいってなんでそんなことがお前の得になるんだよ……」
まずそうに煮干しを食べていくヴァイルと食べられていく煮干しを交互に見る。
あんな楽しくない様子で煮干しを食べていたら食べられる煮干しがだんだんと気の毒になってきた。
なにが悲しくてあんな吸血鬼にまずそうに食われなければならないのか。
そんなことのために彼らだって海から陸に捕えられて天日に干されたわけじゃなかろうに。
「……一匹だけなら食ってやる」
つい煮干しに負けてそう言ってしまった。
■ヴァイル > チェシャの吐き捨てるような言葉に、また瞬きを繰り返す。
きょとんとしたような表情。傷ついたという様子でもない。
「チェシャが素直じゃないことは承知の上だが、
一度命のやりとりをした相手にそれは、あまりにも冷たすぎないか?」
闘争を日常とする《夜歩く者》にとって、
殺し合いとは人にとっての情交にも匹敵する関係なのだが、
余人には受け入れ難い理屈である。
なぜ贈るのか、何の得になるのかという問いには、
ただただ馬鹿にするような呆れ笑いを浮かべるのみ。
“そんなこと自明だろう”――そう言いたげに。
チェシャが折れる姿勢を見せると、パッと笑みが華やぐ。
子供が浮かべるような無邪気な嬉しさに満ちていた。
「はは、最初から素直にそう言えばいい」
次はミルクに浸して食べてみようかと思案していたそれを摘んだまま、席を立ち、
チェシャへと近づく。
「ほら、口開けな。喰わせてやる」
座るチェシャの鼻先に、煮干しを一匹ぶら下げてみせる。
■チェシャ > 「命のやり取りをしたからこそだろ……。
なんで殺しあった相手同士で和やかにその後を過ごせるとか思うんだ」
理解しがたい理屈を押し付けられて心底迷惑そうに顔を歪めた。
ヴァイルの呆れ笑いにさらにむっとして頑なになるようにそっぽを向いた。
このおかしな吸血鬼はもしかしてあの戦いの後蘇生に失敗して
どこか頭のねじが二三本外れてしまったのかもしれないなどと
失礼なことまで考え始めた。
煮干しを持って子供がはしゃぐように近づくヴァイルに面食らいながらも
近くに来て差し出された煮干しに思わず口をあけそうになるが
慌ててその手から煮干しをひったくった。
「馬鹿にするなよ。猫だからって餌付けできると思うな。
べつにお前のためを思ってじゃない、煮干しが気の毒だから食べてやるだけだからな」
警告のようにそう告げて、両手でもらった煮干しを掲げる。
ふんふんと鼻を近づけて匂いを嗅ぐ。何もないとわかればぱくりと食べた。
■ヴァイル > 「殺し合いをすればそのうち片方、あるいは両方が死ぬのは当然さ。
でもおれたちは両方とも欠けていない。
奇跡的な、掛け替えのない関係だとは思わないか?」
自身の胸に手を添える。愛を語る詩人のような芝居がかった所作。
「わかっている。わかっているって」
あまりわかってなさそうな声。
煮干しを掻っ攫われると、少し残念そうに口を尖らせたが、
ちゃんと口に入れて食べるその様子を見ると無防備に顔をほころばせて、
チェシャの頭を撫でようと手を伸ばした。
それが拒絶されるなりなんなりすれば、
少し中身の減った煮干しの瓶詰めを荷物にしまいこみ、チェシャから離れ、背を向ける。
「喜んでくれてなによりだな。
こういう即物的なものじゃ気に召さないかと思ったぜ。
……きさまは暴力にも性快感にも屈しなかったからな。
といっても、これはチェシャの弱点というほどではないか」
くく、と、笑い声を漏らす。
■チェシャ > 「運命論者かよ……。生憎そういうロマンチストじみたのは受け付けない」
もりもりと無心で煮干しを食んでいたが
ヴァイルの手が自分の頭に伸びようとすれば反射的に右手でその手首をつかんで止めた。
あまり馴れ馴れしくするなよひっかくぞという猫特有の威嚇の視線でヴァイルを刺す。
「……暴力もセックスも慣れているだけだ。
……それで、僕にこんな施しをして何か見返りが欲しいんじゃないのか?」
煮干しをゆっくりと飲み込んだ後、唇を舌でぺろりと舐める。
ヴァイルのほうに体を向け、妙に艶やかに足を組む所作。
「お前じゃ僕の弱点には届きはしないよ」
■ヴァイル > 手を掴まれようが、刺すように睨まれようが、
《夜歩く者》はにやにやと笑みを深くするばかり。
「きさまのような若者は知らないだろうが――
弱点をくすぐられるのが、一番気持ちいいんだぜ」
チェシャから離れかけていた身が、もう一度彼の前に悠然と立つ。
店内の照明が背になり、チェシャに影が落ちる。
「……見返りがないと不安かね。なら求めてやろうじゃないか。
チェシャはどうされたい?
血を啜られたいか? 杭で内側を抉ってやろうか?」
問い返しながら、覆いかぶさるように身を近づけ、恋人にするように耳元で囁く。
それを見咎めるものは誰もいない。尖りすぎた犬歯が光った。
■チェシャ > 「じゃあお前の弱点も教えておけよ。
逝きたくなったら僕がさっくり気持ちよく殺してやる」
はっ、とあざ笑うようにそう告げるが
ヴァイルが自分の前に立ち影を落とすとその笑いを潜めた。
じっと下から伺うように見上げる。
「……僕がどうしたいかは別に何も。
お前が見返りを求める客だ、客の要望には出来うる限り副ってやる」
どこか冷めたような口調と表情で囁くヴァイルに囁き返す。
「それと、衆目の中でやるのがいいのか?
それが要望なら構わんが、できれば隣で部屋でもとってくれると嬉しいけど」
別に見られたいならそれでもいいと、なんとも投げやりな姿勢。
■ヴァイル > 「おれは《希望》で胸が一杯になったときにくたばるよ」
サンザシの杭で心臓を貫かれれば滅びる、という遠回しな表現。
身を密着させたままチェシャの声に耳を傾けていたが、
やがて小さく首を振った。どこか白けた様子。
「……つまらん。
きさまを一山いくらの男娼のように消費することに、興味はない。
そんなことは誰にだってできるだろう?」
ただ、と一言添えて。
「ミルクと煮干しだけじゃ、腹は膨れん」
チェシャの手を、《夜歩く者》の冷たい手が取る。
膝を折り、椅子に腰掛けるチェシャよりも目線が下となる。
取った手に顔を近づけ――その手首に、牙を突き立てる。
抗うことも難しい、流れるような一連の動きだった。
■チェシャ > 「……歯の浮くようなセリフだなぁ。
お前ロマンチストだろ、僕はそういうやつはますます嫌いだ」
そう口では言うものの口の端だけは微かに笑っているようだった。
自分を男娼として消費しない。
へぇ、これはますますなんだか……自分に恋をしているようじゃないか。
そこではっとなって、この吸血鬼が自分に恋をしていることにぎょっとなった。
いやこれが恋慕かどうかはさすがにチェシャでもわかりかねる。
お慕いしている人はいても、彼の言うそれが自分のその気持ちと同じかどうかはわからない。
ましてそれが自分に向けられるとは、なんとも気疲れする。
いっそもののように扱ってもらえたほうがずっとましだ。
「なぁ、ちょっと……ちょっとまっ……」
突如うろたえた様に体を離そうとするが
それより早くヴァイルの手が自分の手をとりその牙を突き立てた。
あ、と間抜けな声を上げる。
血が流れていく感覚と共に、ぞくりと甘美な疼きが手首から体を這いあがってきた。
■ヴァイル > 「生き急ぐ定命の者にはわからんだろうが、
ロマンティシズムのひとつも嗜まないと、《夜歩く者》にこの世は退屈すぎるんだ」
チェシャの密かな懊悩や狼狽えなど知ったことではないふうに、
手首から溢れだす血を、舌を押し付け、目を伏せて一心に吸い取る。
夜色の少年の生命と魂の溶け出した紅く熱い液体が、《夜歩く者》の喉を通って行く。
二人の只事ではない様子にさすがに衆目も集まり始めるが、
それを気に留める様子はヴァイルにはない。
暫しそれを継続した後、傷痕にキスをするように唇を押し当てる。
そうすると手首の出血はぴたりと止まった。
ぷは、と熱い息がこぼれる。身を起こし、跪いた体勢から立ち上がる。
「ご馳走さま。おいしかったよ」
満足気に、自身の唇を舌でなぞる。
用は済んだ、とばかりにチェシャにくるりと背を向けて、そのまま去ってしまおうと。
ご案内:「ハイブラゼール内のとある酒場」からチェシャさんが去りました。
ご案内:「ハイブラゼール内のとある酒場」にチェシャさんが現れました。
■チェシャ > 熱心に己の手首から血を啜るヴァイルをじっと見下ろす。
なぜかその様子を見守りながら心臓が嫌に早く鼓動を打つような気がしてさらに狼狽する。
そういえば吸血鬼の唾液には催淫効果があるとか、獲物を逃がさないための虜の効果があるだとか
そんなことをどこかで聞いたのを思い出してきっとそのせいだと納得した。
でなければこんなに、ドキドキするのもおかしいだろう。
最後に傷口にキスを落とされたのなら大きく肩が揺れるが、辛うじて甘い喘ぎなどは懸命に口をつぐんでいたおかげで零れなかった。
「気が済んだかよ……」
ふぅふぅと息を整えながらやや乱暴に腕を引き戻す。
そしてそのまま悠々と去っていくヴァイルに何事か言おうとしたが
特にかける言葉も見当たらずそのまま見送った。
官能の疼きに身を焦がされてそれを悟られまいと必死に体を抱きしめる。
なんだこれ、気持ち悪い。たかだか血を吸われたぐらいでこうなってしまうなどと情けない。
だがチェシャの意思に反して体の熱は一向に冷めることなく
まるで吸血行為が呼び水になったかのように
チェシャの発情期がはじまってしまった。
が、そのことはまた別の話になるだろう。
ご案内:「ハイブラゼール内のとある酒場」からチェシャさんが去りました。
ご案内:「ハイブラゼール内のとある酒場」からヴァイルさんが去りました。