2021/04/20 のログ
ご案内:「◆港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”【イベント開催中】」にリーアンさんが現れました。
■リーアン > 公主たちに付き添い入国したうちの何人もが、あるいは公主本人も含めて、
闇から闇へ身柄を流され、競売にかけられている者も在るとは聞いていた。
しかし、まさか己の手の届く範囲にまで、其の魔手が及んでいる、とは。
長袍の上から着込んだ外套のフードを目深に被り、フードの陰から、
今、正に同郷と思しき黒髪の娘が縄打たれ、引き立てられた舞台上を睨む。
異様な熱気に包まれた買い手たちの輪から、少し身を引いたホールの片隅。
目隠しと猿轡を施された其の娘の顔を、此の距離では判別出来ないが、
薄物一枚を纏った彼女の身体が、既に、薬物か、魔術の影響下にあるのは明らかだった。
『さあ、お次の商品はシェンヤン産の――――ご覧の通り、美しい白磁の器で御座います。
吸いつくように滑らかな質感も、仄かな色づきも正に絶品。
使い心地は、ご落札頂いてのお楽しみと――――――』
そんな口上を聞く間にも、己は双眸を眇め、彼女の顔を確かめようとしていた。
もしも知っている娘だったなら―――――今の己に、何が出来るか。
其処までは未だ、考えられずにいたけれど。
ご案内:「◆港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”【イベント開催中】」にギュンター・ホーレルヴァッハさんが現れました。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ >
「………心配しなくても、貴様の周辺の者達は今宵の『商品』にはなっておらぬよ」
そんな少女に、投げかけられる声。
フードを深く被り、パッと見ただけではその正体に気付く要素など早々無いにも拘らず。
出会った時の様に、豪奢な礼服に身を包んだ少年は、穏やかな声色で声をかけながら彼女の隣へと歩み寄る。
それは即ち、彼女が此の場所を訪れていて、どんな服装で、何の為に訪れているのか。
少なからず知った上で、声をかけた――ということ。
「流石に貴様個人の交友関係迄は知る由も無い故、個人的な知人友人が出品されている可能性までは否定せぬがね」
小さく肩を竦めながら、向ける視線はホールの上。
『商品』を一瞥し――価値が無い、と言わんばかりに肩を竦めた。
「……大体、そうやって他者の心配をしている場合かね?
貴様の護る『公主殿』は、王城にて少なからず"お誘い"を受けていた様子であったが」
と、少し可笑しそうな。嘲笑うかの様な声色で。
彼女より少しだけ背の高い少年は、含み笑いを零しながら首を傾げ、彼女を見下ろすのだろう。
■リーアン > 「――――――――――――!」
ステージ上にばかり意識が行って、周囲の警戒を怠っていたことは否めない。
気がつけば、其の少年は己の直ぐ傍に居て、此方を確と見定めていた。
フードを片手で押さえながら振り返り、ステージへ向けていたと同等、
否、其れ以上に険を含んだ眼差しを向けて。
「――――――此の国の貴族様というのは、随分暇な者が多いと見える。
今度はこんな所で暇潰しですか、ホーレルヴァッハ卿?」
誰を探しているとも、何を探しているとも、何かを探している事実さえ、
此の少年に対して認めはしない。
彼に弱みなど、握らせて堪るかという心持ちだったが、
―――――唯一、今更否定しても意味の無い『弱み』について。
少年が仄めかすや、ぎり、と奥歯を噛み締めた。
「―――――、……ええ、そうですね。
思いのほか、特殊なご趣味の方が多かったご様子で……、
公主様のお傍には、信頼出来る者を付けております。
どうぞ御気遣い無く、……わたしも、出来る限り早く戻りますし」
別の公主について来た、帝国の者を付けてある。
だから何も心配は要らない、此の少年が小細工を弄する隙も無い。
――――其の筈だ、と、思ってはいるのだが。
フードの下の眼差しは油断無く、少年の反応を窺っている。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ >
「これも立派な公務の内故な。
帝国の公主とその付き人。君達と交友を深めるのも、立派な仕事の内さ」
明らかな嫌悪を乗せた視線にも何処吹く風。
まして、交友などと宣いながら、穏やかな笑みすら浮かべてみせる。
社交的で、年相応の王族の子供――のフリをした、作り慣れた笑みを。
「ふむ、それは重畳。とはいえ、私自身は別に君の主君をどうこう、というつもりはない。
我が一族に、今更帝国の公主を嫁に迎えようとは思っておらぬからな。
外戚関係に今更気を遣ったところで…まして、此の国に送り込まれた公主と縁を結んだところで。一ゴルドの価値にもならぬ」
それは、彼女にとってどう捉えるべき言葉になるのだろうか。
少なくとも、少年は。少年の一族は、公主を迎え入れるつもりはない。
従って、彼女の主君に手を出す必要も無い。策謀を巡らせる必要も――
「……ただ、父上に傅く者達はそうではない。
ホーレルヴァッハの威光に媚び諂うものの中には、公主を通じて帝国と縁を結びたいと思う者もいる。
そういった者達を支援してやるのも、上に立つ者の務め故な」
そう、小細工を弄する必要は無い。
正々堂々と。正面から。
一族の威光と権威。そして資金で殴りつけるだけ。
「――公主殿をお守りする者が、貴様が信用するものであったとして。
その者達は、王城の衛兵に逆らえるのかね?
或いは、山と詰め込まれた金貨の袋に、心を揺るがせないのかね?
ましてあの城は、君にとっては敵地の様なもの。王国の中枢。
公主が欲しい、と思う者に、私が少し手を貸してやれば――どうなるかくらいは、聡明な君であれば十分御理解頂けると思うのだが」
にっこり、と微笑んだ。
傍から見れば、帝国からの客人を持成す王族の少年。
しかしその言葉は。それが意味するものは。
彼女が不在の間。その主がどうなるかを握っているのは――
ご案内:「◆港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”【イベント開催中】」にリーアンさんが現れました。
■リーアン > 「………そう、ですか」
交友、などという単語の薄ら寒い響きに、己の眉根は一層深く影を帯びる。
相手が見た目通りの愛らしい少年でなど無いことを、既に知っているからこそ。
半歩ほど、無意識に距離を稼ぎつつ、
「奇遇で御座いますね、わたしも、我が公主様を貴公の縁戚に、と、
思ったことは御座いません。
あの娘には……正直、殿方とのご縁は未だ、早いと思っておりますし」
本当ならば彼女を公主として差し出すと決めた異母兄には、
ひと言もふた言も、言ってやりたいことがあるのだ。
誰と縁を結ばれるのか、碌に決めごともせぬままの降嫁。
其れも、相手が王国の者、腐敗し切った貴族の何れかと言うのなら尚の事。
ともあれ、其の事自体は目の前の少年に、何ら関わりの無い問題だ。
相手から構われなければ、彼の挙動にも思考回路にも、さして興味は無い。
だが、――――――こうして相手の側から近づいて、ささやかな悪意の萌芽を示されて。
鼻で嗤って立ち去るには、相手の持つ権力が、金が、莫大に過ぎる。
暫し、黙して少年を睨み据えた後。
無意識に噛み締めていたのだろうか、赤味を強くした唇を開き、
「―――――――生憎、わたしは生来、戦場にて剣を振るうが身上にて。
もう少しはっきりと、仰って下さいませんと……
此れは、貴公、お得意の脅迫でしょうか?」
ゆる、と首を傾がせる仕草につられ、フードがずり落ちて黒髪が覗く。
肩を軽く竦ませて、微笑みすら浮かべてみせたが、
言葉つきはやはりストレートに、内心の剣呑さを隠す気も無いようだった。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ >
「早い、と思うのであれば此の国にやるべきでは無かった…などと。
君に言っても仕方のない事ではあるがね。
此の国に差し出された以上は、相応の覚悟を持って貰わねば困る。
此処はそういう国で。君の国はそういう国と戦争しているのだから」
それは、僅かな彼女への憐れみ。
こんな国に売り飛ばされた主君を持った彼女への、細やかな憐れみ。
まあ、それだけでしか無いのだが。だから別に、無償で助けようとも――思わない。
「心外だな。これでも、君達の事を慮っているつもりなのだがね。
今暫くの時間を、与えてやろうというのだ。
何れ、王国の何処かの貴族と君の主君が結ばれる事になったとしても。
それが直ぐに、というのは心の準備も出来ていないだろう。まして――」
そこで、呆れた様な溜息を一つ吐き出して。
「まして、君の主で肉欲を発散させようとするだけの愚物に嫁がせるというのもな。
愉快な絵面だぞ?今頃、股間だけ一人前に膨らませた男がいそいそと君の主君を褥に迎える準備を整えている様は。
尤も、私の裁可が下りねばそうもいかないので、首とモノを長くして待っているだけなのだがね」
そこまで告げて。相変わらず剣呑な気配を隠そうともせずに此方を見遣る少女を見返す。
その表情に笑みや愉悦は無い。ほんの少しだけ、彼女を試す様な――
「とはいえ、私もそんな愚物と同じだ。
私が態々こんな長話を君に語って聞かせたのは、善意ではない。
私は、公主は要らぬが君には興味がある。
…いや、正確には君の様に芯の通った者を。己を強く持つ者を好ましく思う」
「不用意に触れれば、私の首に牙を突き立てかねない。そんな者を屈服させ、心を折り、捻じ伏せて。
それでも尚、私に憎悪の視線を向ける様な女を抱く。
それは実に、愉快な事だろう?
だから、君の主を助けてやってもいい。時間を与えても良い。
君が、愚劣な敵国の王族にその身を差し出すというのなら、な」
くすり、と小さく笑みを浮かべて。
どうする、と言わんばかりにじっと彼女の漆黒の瞳を見つめる。
■リーアン > ―――――勿論、己は反対した。
母が違うと言っても、近しい妹だ。其れなりの情はある。
けれど異母兄は『降嫁させるならあの娘だ』と譲らなかったのだ。
――――――己に、代わりは務まらぬ、と。
そういう経緯があればこそ、少年の提案はあまりにも皮肉で、
最後まで聞いて、其処から一拍、二拍と間を措くごとに、
己の唇を彩る笑みは、はっきりと、歪んで、ますます色づいてゆく。
は、―――――――と、短く、鋭く息を吐き。
ふるりと一度、纏いつくフードを振り払うように頭を振って、
「………ご存知の通り、わたしは王国の者では御座いませんので。
聞き取り間違いがあるようでしたら、ご指摘頂きたいのですが……、」
頭を振る間だけ、外れた視線を再び重ねる。
もはや其の眼差しは、戦場で、斬り伏せるべき敵を見るのと、何ら遜色無いものだ。
先刻、無意識にあけた半歩の距離を、再び、今度は自ら意図して詰める。
さして高さの変わらぬ位置、ともすれば少女然としたものにも見える彼の顔を、
真っ直ぐに見つめ返して。
「……つまり、貴公は、此の、わたしに……女の身を使って、
時間稼ぎをせよ、と仰っておられるのでしょうか。
わたしの此の身体に、公主様の純潔を御守りするだけの価値がある、と、
――――――其れは勿論、畏れ多くも有難いこと、ですが。
貴公に、わたしの如きじゃじゃ馬を、乗りこなす技術がおありでしょうか?」
本当の身分を、明かすつもりは無い。
しかし―――――矜持を、そう容易く手放す気にもなれない。
だからそんな揶揄を口にして、少年のペースを崩そうと。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ >
「――その通りだよ。何も、間違えてはいない。
王国の言い回しにも随分と慣れたようじゃないか。
帝国に愛想が尽きたら此の国で働くと良い。
尤も、其れより先に此の国は亡ぶだろうが」
嫌悪感、というものではない。
敵意。今此の場が戦場であったのなら。或いは、己を切り伏せる事が許される場所であるなら。
きっと彼女は、何の迷いも無く剣を振るう。
そんな視線。そんな瞳の色。
それに応える言葉は、ずっと変わらない。
温厚で社交的で――しかし、尊大で傲慢。
漆黒の瞳を見つめ返して、笑うだけだ。
「価値観、とは個人の認識の問題故な。
私にとっては極論、公主の純潔など"どうでも良い"
君の価値が高いのではない。公主の価値が低いのだ。
私が愉快に過ごす為の道具と、公主の純潔と。何方が大事かなど、比べる迄も無い」
価値観の相違。逆転。
彼女に公主の純潔に見合う価値があるのではなく、公主に彼女程の価値が無い。
そう言い切った後、少し考える素振り。
「尤も、帝国の皇族を肉欲の道具に使い潰すのは勿体無い話だ。
私であれば、それなりに円満に。穏便に。長い利益の為に公主を利用するが……まあ、それはどうでも良い話だな」
「さて、君はもう一つ勘違いしている。
じゃじゃ馬を乗りこなすか否か、ではない。
君が私に使われるか、公主の初夜を祝い、宴席の準備を進めるか。
或いは、急いで城に戻って公主を救い出し私の兵と切り結ぶのか。
それだけだ。私は何方でも構わない。
強要しないし、無理強いしない。
選ぶのは君だ。選択し、その結果を受け入れるのは君でしかない」
そう締め括ると、懐から取り出した煙草に火を付ける。
漂うのは甘ったるい紫煙。舶来品の、上質な煙草。
その紫煙の向こうで、無感情な瞳が、彼女を見定める様に向けられているのだろう。
■リーアン > 王国に、どれだけの期間滞在することになるか知れないが。
少なくとも、此の国の者、になる気は無かった。
自らの故国に対する少年の考え方に、其の言い回しに、
僅かばかり、引っ掛かりを覚えたものの。
「――――――価値観の相違、というのは、難しい問題に御座いますね。
貴公にとって、少なくとも……玩具としてなら、
公主様より、わたしの方が面白い、と、そういうことで御座いますか」
政治的な道具としての価値ならば、異母妹の方が上であろう。
然し―――――此の少年にとっては、何方も玩具として、という視点でしか、
其の価値を測られていない、ということだろうか。
また別の局面を迎えれば、其の限りではないのかも知れないが。
けれども、ならば、なればこそ。
己は更に鮮やかに、紅い唇で弧を描く。
もはや満面の笑みと言っても良い、そんな表情で、
静かに膝を折り、まるでドレスを纏った淑女のように一礼してから。
「――――――選ぶのがわたし、だと仰るのなら。
わたしは貴公のお申し出を、丁重に、お断り申し上げましょう。
自ら玩具にして欲しいと願い出て、貴公の歓心を買うほど、
未だ、賢しくはなれぬ無骨者にて――――――……」
其の言葉を最後に、己は踵を返す。
有無を言わさぬ力で押さえ込まれたなら未だしも、
自ら跪き、慈悲を乞うような真似は出来ない、若く、愚かな女であるが故に―――――――。
ご案内:「◆港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”【イベント開催中】」からリーアンさんが去りました。
■ギュンター・ホーレルヴァッハ >
「……やれやれ、振られてしまったな」
立ち去る彼女を、引き留める事はしない。
それが彼女の選択であるというのなら、それは尊重されなければならないのだから。
「帝国の女というのは、皆ああいうものなのかね。
それとも、彼女が特別私を嫌いなのかな?」
影の様に背後に現れたのは、己の護衛を務める騎士。
そんな騎士に独り言を零しながら、愉快そうに嗤う。
「さて、公主をどうにかせねばな。
利用価値が無い訳では無い。もう暫く、清い儘で居て貰わねばならんからな」
そうして少年もまた。
闇に溶け込む様に、姿を消すのだろう。
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