2020/12/29 のログ
ご案内:「◆港湾都市ダイラス ハイブラゼール前 特大通り」に燈篭さんが現れました。
燈篭 > 自由気儘な鬼がいた
年齢は12,3ほどに見える
まだ畑仕事を手伝う子のような背丈だ
顔立ちも童顔で、声も喉が鳴ればきっと丸いだろう

しかし鬼には角が生えていた
右の肘と、左の側頭に、後ろへ向かって伸びる角が
まるで木の幹を押し固めたような、なだらかな凹凸を持ち、酒を呷っている。

ハイブラなんとかと言ったか 商いの大店
其処の賭場でなんとこの小鬼、勝ちを積んで高い酒を呷っている
残りだってそれも、ゴルドでではなく金と銀の粒に変えろとまで言った。

鬼はどこへなりとも行く身
ゴルドという通貨ではなく価値のあるブツで応じていた

故の両替だ。

さてこの小鬼、頼んだ酒は両替した金と銀の粒が入った小袋二つ
これを除いた全てで応じろといった
賭場の者は、大商い人から冒険者まで応じる猛者共
なんらためらいもなく、大商い人用にとっておいた、香る樽に詰めた蒸留酒
美しい琥珀色をしたそれを差し出した

原料は麦や黍のようなものではない
果実を腐らせ、澄まし、樽で熟した一等物

鬼はへぇ、と酒の詰められた焼き物の瓶を眺める。
中身をのぞくと、なるほど確かに、この琥珀色は美しい。

「こりゃあいい買い物だ。」

鬼は満足げに大通りで酒をかっ喰らっている。
周りからはやや視線がいくだろう
焼き物ですら上等そうなのに、そこから琥珀色の酒をダバダバと口を開けて注ぎ込むのだから。
最も、この特大の通り
掠めとるようなせせこましい思考もいないだろう。

燈篭 > 片側といえど 頭と肘 両方に立派な角が伸びている
オークやトロールのような、肥えた豚や獣とは違う 本物の鬼
やれ周りの奴ら 鬼だ 小鬼だ と目が剥いている

あれは獲物を見る目だ 小鬼は感じた視線を、狙ってくること
これには嬉しく思う 怯えられるのはいい 恐れられるのだっていい 何より向かってくる気持ちは一番好きだ
しかし、鬼を見ず金目を見るようなものならば、それは銀で象った小鬼が相手でも変わらないじゃないか

「チッ」

酒が不味くなる
頬を染めた度数の高い蒸留酒
樽の豊潤な香りと寝かせた味に、旨い酒だと喜んでいたというのに

こんなことならば、雪でも求めて歩くべきだったかと鬼は視線を一つ投げやった
所謂ガンやメンチ 殺意と敵意が入ったそれを向けられた者ら
あっという間に散っていく 未だ好奇は残るものの、それを掃うほど、鬼は狭くはない

「嗚呼、旨い 邪魔が無くなった
 果肉の酒も悪くないもんだ。」

鬼は生まれで辿ればそれこそ、穀物が一番肌に合う
地の水も当然だろう

果肉と汁から精じた酒は、それらとは別物の味だ
ただ上等 それだけはわかる。
小さい体 その中の胃袋に簡単に収まっていく
熱を生み、喉を灼き、頬を染める
寒冷で埋まるこの空の下で、それはなんと心地よい熱だろうか

燈篭 > やがて琥珀色の酒はなくなった
名前は何と言ったか 変な名前の酒だった
横文字は覚えにくくて仕方ない

上等な焼き物の中身は露と消えた
泡銭の末路はこんなものだ
ふっと沸いた金は、ふっと消えていく酒に置き換わった

鬼の気分はよくなった
この寒空の下で、命以外の味で悦に浸れるなんてどれほどだろう

鬼であるならば、村や街で酒を奪っていくというのも花道だが
こういった刹那的な使い方だって似合うだろう?
鬼は太い鬼歯が見えるほど、笑みを浮かべて口を開ける。

嗚呼、いい気分だ
空の焼き物はその場に置き去りにする
名残惜しむつもりもない

こんな冷たい空気ではどこまでもほろ酔いで終わってしまう
そしてそんなほろよいでふらりと脚を千鳥にさせて歩くのも、気分がいい
特大の目貫通りから抜けた先、寝床でも探そうかと適当な場所を探そうと小鬼はふらふらと歩いていく

そんな鬼に狙いを定め、そっと後をつけるものは何人いただろうか
鬼に何の興味を持った
その首を上げて名を上げるか
都に売って贅を尽くすか
はたまた、鬼の何かに魅せられたか

行きついた先でそれらは鬼を垣間見る
酒で酔い痴れた鬼に、乞うた 請うた 恋うた 須らく砕かれた
全て酒と消えて鬼の懐に収まるしかないのだ

「嗚呼、旨いなぁ 嗚呼、さっきの琥珀なんてくらべようがない
 “彼奴”とどっちがうまかったっけか……はははは。」

鬼の笑い声が広がった生末た場所
あの小鬼には手を出すなと、誰かが悟った。

ご案内:「◆港湾都市ダイラス ハイブラゼール前 特大通り」から燈篭さんが去りました。