2019/04/06 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール” 公園」にクレス・ローベルクさんが現れました。
クレス・ローベルク > 青い闘牛士服の男が、人気のない公園で一人運動している。
バク転、側転、宙返り……見様によっては、サーカスの練習のように見える。
男は、一通り動くと、調子を確かめるように右腕をぐるぐる回す。

「……違和感がないな」

断たれていた右腕が、今日、ようやく繋がった。
その試運転として、色々と動いているのだ。
今の所、特に問題はないと思う。

「何かあっさり過ぎてかえって怖いけど……でも、良かったあ。
仕事辞める可能性もあったからなあ……」

ふう、と安堵したように言って、公園のベンチに座る。

クレス・ローベルク > 「これからどうしようか……」

腕が断たれてから一週間、女遊びも賭博も、それどころか酒さえもしなかった。
勿論、金は再び貯めないといけないが、身体的には遊ばない理由はない。
ベンチの上で、色々とやりたい事を考える。

「まあ、やっぱり試合したいよなあ……」

金もそうだが、一週間で鈍った身体を取り戻したい。
本当なら、今すぐと言いたいが、流石に今からでは一般参加枠でも参加は厳しいだろう。

「んー、何かこう、いきなりチンピラとか絡んできてくれないかな……」

クレス・ローベルク > 「ま、そう上手くは行かないか」

そう言うと、剣を抜く。
公園で刃物を抜くとは非常識だが、今は誰も居ない夜の公園だ。
一応、非殺傷魔法をオンにして構える。

「いち、に、さん。いち、に、さん……」

一歩進んで斬る。一歩進んで斬る。
男が習った、尤も基本の型である。
何度も何度も、動きを確かめるように、剣を振るっていく。

クレス・ローベルク > 三拍子は、やがて四拍子になった。
振り上げる、踏み込む、振り下ろす、が、振り上げる、踏み込む、振り下ろす、振り上げるに。
そして、それを暫くやっていたと思えば、次は一歩下がって受ける動作が入る。
次々と動きが追加され、何時しかそれは、戦いの一幕の様になっていく。

「いち、に、さん、し、ご。いち、に、さん、し、ご」

それは、最早演武に近い。
架空の敵を設定し、その動きに合わせて自分が動く。
踊りにも似た動きが、夜の冷たい空気の中、淡々と行われる。

クレス・ローベルク > 「いち、に、さん、し、ご、ろく、しち、はち……」

振り上げ、踏み込み、振り下ろす、振り上げて、受けて、背後に回り込み、再び振り下ろし、後ろに下がって、突いて、受ける。
十の動きの連続を、幾度も繰り返していく内、男の息が段々と上がってくる。
しばらくすると、動きも乱れてきて、そこで男は尻もちをついて座る。

「ふう……。流石にやりすぎたな。っていうか、これなら水筒用意しとくんだった」

取り敢えず気が済んだのか、男は暫くそこに座っている。
どうやら、かなり体力を消耗しているらしい。

ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール” 公園」にシュンさんが現れました。
シュン > 夜風に当たろうと、夜の街をふらふらと歩いている。
ふと風を何かが斬るような音が聞こえて、公園へと近づく。
以前闘技場で戦った相手だった。剣を振って、鍛錬だろうか。

やがて相手が座り込んだところで近づきながら声をかける。

「こんばんは、闘技場以来ですね。水ならありますけど……飲みますか?」

そう言いつつ、腰にぶら下げていた水筒を手に取り差し出そうとする。

クレス・ローベルク > 耳が、土が擦れる音を聞く。
足音だ。そちらを向くと、前に闘技場で戦った少年が立っている。
少なくとも、物取りではない事にホッとしつつ、差し出された水筒を受け取る。

「おお、有難う。いただくよ」

特に疑問も抱かずにごくごくと美味そうに飲み干す。
ぷはぁ、と品のない声をあげて、

「生き返ったあ。所で、君は夜の散歩かな?
或いは、何かの仕事とか?」

まさか、こんな所で出会うとは思っていなかったと男は尋ねる。

シュン > 相手が美味しそうに飲むのを見て少しだけ微笑む。もちろん間違っても毒が入ってるとかそういうことは無い。普通に真水だ。
チラリと公演を見回して近くにあった店の看板に少しもたれながら口を開く。

「まぁ……両方ですね。マグメールの商人さんが商品のひとつを定期便に載せ忘れて、僕が依頼をひきうけてこの街に届けに来た……って感じです。かかる時間の割に報酬は少ないですけどね」

はぁ……とため息をひとつ。一般的な相場で言えば一人で運べる量の荷物の輸送というのは行って帰ってくる生活費にはなるが、それ以上でもない。つまりは何も貯まらないというわけで、時間を繋いだに過ぎなかった。

クレス・ローベルク > 飲み干した水筒を少年に返しつつ、男は少年を観察する。
何やら隠蔽の魔法らしきものを感じるが、それ以外は普通の少年だ。
少なくとも、こちらを見て微笑んでいる表情に、嘘や悪意の影はない。
そして、その表情が少し曇ると、男も同情的な表情になり、

「大変そうだなあ。
王都からダイラスって距離あるのに。
忘れ物の配達だから仕方ないとはいえ、チップぐらいくれてやりゃいいのに」

男も金で苦労したことがあるのか、やけに実感の籠もった口調だ。
そして、男はふぅむ、と男は考える素振りをして、

「そういえば、冒険者って事だったけど、遺跡潜りとかするの?
小柄だし、そういうトラブル解決より向いてる気がするけど」

シュン > 水筒を受け取り腰にまた引っ掛けてぶら下げる。水ぐらいならまたどこかで補給すればいいので特に問題は無いだろう。
表情は曇り気味のまま話し続ける。

「まあ子どもを使うのに特に何もないんだと思いますよ。ああいうのは慣れてますけどね」

……そういえば魔力は封じたままだ。前回あれだけ魔法を使っていたのに軽い隠蔽の分しか感じなければ逆に違和感を覚えられるかもしれない。と言ってももう遅いのだが。

「……遺跡には1度行きましたけど、変なトラップに引っかかってからは行ってないです。
やっぱり1人だとどうしても運試しか軽い仕事かぐらいしかないから、信頼出来る仲間を作って討伐依頼とかやりたいんですけど……中々居なくて」

クレス・ローベルク > 「うーん。その辺は人によりけりだけど、俺はある程度有能なら、若い子にほど金を使うべき派だからなあ……
まあ、商人と、元とは言え貴族の違いなのかなあ」

その商人とは話が合いそうにないな、と男は渋い顔をする。
勿論、同情というのもあるが、勿体無いと言う感情もある。
堅実な戦い方だが、それに囚われずに変則手も使ってくる貪欲さは、正直戦っていて気持ちよかった。

「冒険者って意外と仲間作りづらいよね。
変な過去持ってたり、ただ食い詰めてるだけの素人も多いし。
俺も金に困ったら冒険者として依頼受けるけど、俺だって魔法が使えない以上、正直良い冒険者とは……」

と、そこで男は違和感に気づき、言葉を止めた。
そういえば、今の少年にはあまり魔力を感じない。
戦っていた時は、戦闘に魔法を多用していた程の、魔法剣士だと言うのに。

別に、その事自体には不思議はない。魔法の資質を才能として持つ者は居る。だが、それを敢えて隠すとはどういう事か?
まして、少年は金に困っている――冒険者として魔法が使えるというのは、アピールポイントのはずなのに。

「……あー、シュン君。もし間違ってたら怒ってくれていいんだが、一つ聞きたい。君、もしかして、ミレー族?」

別に聞かなくても良い気はしたが、気付いたのに教えないのもフェアではない。
一応、男は尋ねてみることにした。

シュン > 「………………」

相手の言葉に驚き、しかし冷静に。周囲に自分たち以外の人影が無いのを確かめて、そっとフードを外す。
そしてゆっくりと左手の薬指の指輪を外した。
変化はすぐだった。以前見せた時とおなじ魔力と、頭には髪と同じく黒い猫耳。後ろから黒い尻尾が生えてるのも見えるだろう。

「……迂闊だったなぁ。魔力だけなら1度見せてるから、今は晒しておけば試合前に油断させるためって言い訳できたんだけど……」

苦笑しながら指輪をズボンのポケットにしまう。心なしか少しだけ表情が柔らかくなっている……かもしれない。抑えて目立たずにというのは案外疲れるものだ。

クレス・ローベルク > おや、素直だな、と男は思った。
正直、確証も何もあったものではなかったので、少年が違うと言えばそれまでだったのだが。

「一度戦った後に、もう一度その対戦相手とこうして話すなんて、中々ないもんね。仕方ないさ。
にしても、結構似合うな猫耳。剣闘士なら女子ウケしそうなんだが……スカウトできないのが残念だ」

言外に、闘技場などの奴隷を欲する場には密告しないと言いつつ、しかし割とマジで残念そうに男は言う。
剣闘士は意外と少ないので、後輩が少なかったりするのだ。

「でも、素直に晒してくれるぐらい信用してくれたって事なら、嬉しいな。
……正直、営業スマイルとか、闘技場での振る舞いとかで、胡散臭いって思われること多くてさ……」

試合中でなければ、人を騙したりしないのにさー、と男は渋い顔をする。
割とマジで気にしているようであった。

シュン > 久々に外でフードを外した気がする。ちょっとだけ冷たい夜風を感じて何となく右手で猫耳を触る。

「……褒めても何も出ませんよ。それに受けはしませんよ。ミレー族は200年前からずっと、力を恐れ、忌み嫌われる種族ですから」

自虐のようにも聞こえるそれは、どちらかと言うと自分自身ではなく歴史とミレー族自体を嫌うような、そんな口ぶりだ。
そしてちょっと意外そうという相手の感情に気づくと、視線を少しだけ剣に向ける。

「……凄くしっかりと剣に向かってたから。悪い人でも悪く思わず酷いことをするような人でも無いかなって」

……何故だろう、こうして外で自分の本来の姿を晒して人に見られているというのは少しだけ恥ずかしい気がする。それとも、普段人を褒めたり会話したりしないからだろうか……?

クレス・ローベルク > 「そういうもん?まあ、確かに自分より強い種族ってのは怖いもんか
俺も昔、めっちゃ強いミレー族と戦って、あわや死にかけたもんなあ」

と、遠い目をする。
とはいえ、男としては、正直忌み嫌うとか、そんな発想はないようだ。
まあ、あればミレー族の奴隷と戦う事の多い剣闘士など、やってられないだろうが。
とはいえ、少年が自分を褒めると、照れくさそうに

「おいおい、こっちこそ褒めても何も出ない……いや結局悪い人って言われてる気がするけど!
でも、そうだね。何も出ないが、手ぐらいは貸そう」

そう言うと、サラサラと住所を書く。
そこは、男が住む家の場所だ。

「何かあったら――或いはパーティの面子が欲しければ、此処に来ると良い。暇な時に、力になるよ」

あ、一応他の人には秘密にしておいてね。結構恨み買ってるから、と付け加えるように。
或いは、力を貸す約束と同時に、少年にも自分の秘密を共有させるのが、本当の目的なのかもしれない。

シュン > 「そうなの?……まあ、僕は大丈夫かな。負けたら男でも容赦ないって聞いてたけど、お兄さんは何もしてこなかったし」

単に趣味じゃないとか、負傷してたからそんな余裕なかったのかそういう理由なのかもしれないが、それは大したことじゃない。少なくとも自分にとっては。

相手のメモ書きを受け取るとサッと目を通してポケットにしまう。

「……ありがと。ちゃんと信頼出来る人はこの辺に来てからは初めてかも」

クレス・ローベルク > 「いくら君が見目が良いからって言っても、男色趣味はないしねー……
ま、俺としても、君みたいな将来有望な子には唾つけときたいしね。お互い様さ」

そう言うと、男は立ち上がる。
持っていた水筒を返して、土がついた尻を払い、

「っと、そろそろ、俺は行くよ。鍛錬っていうか、リハビリも終わったし。
君も、そろそろ隠蔽魔法を起動しといた方が良い。此処は王都と違って、夜に動く奴も多いから。……次は、飯でも食いつつゆっくり話そう」

そう言うと、男は歩きだす。
おそらく、自分の家に帰るという所だろう。

シュン > 言われて慌てて指輪を取り出し再装着。
少し身体が押さえつけられるような感覚と共に隠蔽は完成する。

フードを被り直していつもの格好に戻れば、相手が去っていくのを見送る。

「また、よろしく」

相手の姿が見えなくなってから、自分も来た道を引き返す。
とりあえず宿で寝て……報告に王都には戻ろう。そのあとは……今考える必要は無いだろう。

ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール” 公園」からシュンさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール” 公園」からクレス・ローベルクさんが去りました。