2018/01/21 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」にルクレースさんが現れました。
ルクレース > セレネルの海に面した港町であるダイラスは、交易の要所として様々な国から人や物が行き来する。
港には、それらを乗せた船、また海の恵みを糧とする漁師の船も多く見られる。
それらの品々を、王都や聖都市ヤルダバオートへと運ぶ船と、様々な役割の船が幾つも停泊している。

『えー、船遅れてるの?』

海の男たちの少し乱暴な声が響く港で、それに負けないほどに元気な少女の声が響いた。
通行人や、海の男たちがその声に振り返れば、そこには可愛らしい制服に身を包んだ猫の耳と尻尾を持つミレー族の少女たちが幾人も集まる光景が目に入ることだろう。
一般的に奴隷の身分であることが多く、虐げられる立場にあるミレー族ではあるが少女たちの身なりはきちんとしており、彼女たちから溢れる雰囲気は奴隷のものとは少し違って見える。
その理由は、彼女たちが所属する組織にあった。
龍の足元という名を冠した、九頭龍山脈の麓に存在する集落では、便宜上彼女たちはそこの奴隷ということにはなっているが、集落では人もミレー族も他種族も平等に扱われ、組織では彼女たちの特性を生かした役割を与えられ人らしい生活を送っていた。
そんな環境が、彼女たちに自信や明るさを齎しているというのは、集落の外に出たときほどよく分かる。

「そのようです。嵐の影響で、到着は明日の昼頃になるのだとか。」

抑揚の少ない声で、淡々と人間の組合員から伝えられた情報をルークは少女たちへと伝えた。
本日到着予定だった交易品は、嵐の影響で船の到着が大幅におくれているとのことだった。
ダイラスから、集落がある場所までは通称山賊街道と呼ばれる治安のよくない街道を通らなければならない。
その為に、集落からこうして馬車を護衛するため少女たちが派遣されてきているわけだ。
ルークは、ルークで彼女たちとは少し目的が異なった。
第零師団の師団長補佐として、収入源でもある輸入出の状況を視察にやってきていた。
木製のバインダーに挟まれた書類を捲りながら、確認する予定だった品物のリストを眺め視線をあげると、じっと見つめてくる少女たちと視線があった。

『じゃあさ、じゃあさ、明日のお昼までは暇になったってことよね?』
『ね?ね?』

「…そういうことになりますね。」

『やった、それじゃあさちょっとだけ遊んでもいいかな?いいいよね?』
『あ、私、ハイブラゼールにいきたーい』
『私も~』

きゃっきゃっと少女たちが盛り上がるのを、ルークは数回瞬きをして見やった。
ハイブラゼールといえば、この都市を訪れて行かないものはいないと思われるこの都市の目玉だ。
如何わしい店から、高級ブティック、雑貨店に至るまでなんでも揃う大歓楽街。
いくつもの建物が重なり合って、一つの巨大な施設のようになっているのが港からでも見える。
そして、再びじっと見つめられるのに、ルークの琥珀の瞳が微かに動いた。
一人歩きする奴隷もいるだろうが、彼女たちだけで歓楽街に繰り出すには、トラブルが起きた際に色々と面倒な事になるというのは彼女たちもよく理解しているからこその視線。
『ほどほどにしとけよ~?』
と人間の男性組合員が、彼女たちの騒ぎにそんな言葉をかけながら馬車の方へと歩いていく。

「…分かりました。私も荷物が到着しないことには動きようがないので、お付き合いします。」

そうルークが答えると、少女たちから歓声があがる。
ほかの組合員に、彼女たちとハイブラゼールに行ってくることを告げ、明日のことについて軽く打ち合わせを済ませると、少女たちと連れ立ってハイブラゼールへと向かった。

『ルークさんは、ハイブラゼールにはきたことあるの?私は初めてなんだ~』
港町から、直通の馬車が出ているため目的地にはスムーズに到着することができた。
入り組んだ歓楽街へと足を踏み入れれば、一気に賑わいが増す。
眠ることがない街とも言われる歓楽街には、様々な娯楽が溢れている。

「…何度か、訪れたことはあります。」

少女に問われて、記憶を辿りながら答えるものの、訪れた過去の目的は、主に暗殺だったこともあり短い答えとなってしまう。
雑貨店や、ブティックなどが立ち並ぶ一角に来ると少女たちははしゃぎながら店を行ったり来たりしている。
そんな彼女たちが、はぐれてしまわないように視線で追いかけながらそっと服の上からでも目立ち始め、重みが日に日に増していく腹部を撫でた。

ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」にエルフリーデさんが現れました。
エルフリーデ > 船の遅延、それをミレー族の少女達と一緒にやってきた自分も耳にしていた。
現地へ別用で出向いていた組合長の奥さんはいると聞いていたが、それを除けばほぼミレー族の団体と言える少女達の引率……というよりは、比較的狙われづらそうなのを充てがわれたというところか。
昼頃と聞けば、どうしようかと眉をひそめて首を傾けるものの、脳裏に響くエナガの方はそれなら帰りたいとやる気皆無。

(「行って戻る方が面倒だわ、適当に山の麓までいって涼んでなさい。必要になったら声をかけますわ」)

脳内でも、視野の先でも子供がいっぱいの世界に小さく溜息をこぼすものの、一人っ子だった自分からすれば沢山の妹がいるようで、少々嬉しくもある。
証拠に少しだけ口角を上げながら、馬車へと向かい、一路ハイブラーゼルへと向かうのだった。

「……奥様は、お洋服を見て回ったほうが良さそうですわね」

彼女の傍で、他の少女達の様子に気を配っていたものの、ふと彼女の手が撫でた場所を見やれば、穏やかな微笑みを浮かべて、彼女を見上げる。
組合長の奥方、聞いた話では口数が少なくて大人しい、綺麗な方だと聞いていたが、言葉通りの雰囲気と見た目だった。
身体に宿る子供を労るように撫でる掌からは、静かながらも優しさを感じ、少し取っ付きやすさを覚える。

「もう少し先に そういうお店もあるようですし、あの娘達が戻ったら、わたくしがご案内しますわ」

日常に慣れていないとまでは耳にしていないものの、彼女達とのやり取りからすれば、私的な外出も少ないのだろうと思う。
満面の笑みでエスコートを買って出る姿は、妙に自信満々である。

ルクレース > 少女たちは、楽しげにあっちの店へ、こっちの店へとちょろちょろと動き回っている。
それに合わせて移動しながら、通行の妨げにならないように道の端へと寄る。
集落に引き取られるまでには、酷い境遇に晒された子が殆どだと聞いているが無邪気に笑いながらあーでもない、こーでもないと買い物を楽しむ姿は、そんな過去を殆ど感じさせられない。
それも、一人一人に言葉をかけ、温もりを与えて心開かせた存在があることを思えば、ルークの胸の内も暖かくなる。
初めて集落へと連れて行かれた時のことを思い出しながら、お腹の膨らみを撫でていると、すぐ傍で佇む少女から声をかけられた。
綺麗な金の髪を二つに結い上げた、少女はミレー族の少女たちよりも2、3つ年上のようだ。

「…洋服、ですか…。………その、少々選ぶという行為が苦手ですので、時間がかかってしまいそうですので…彼女たちの行きたいところを優先して頂いて結構です。」

少女からの提案に、瞳を数度瞬きさせると少し考えるように沈黙が流れ、そして遠慮がちな言葉が返った。
苦手だから、と倦厭していては駄目だとは思うがあまりにも選択肢が多すぎて困ってしまう。
此処に行きたがったのは少女たちだから、自分のために時間をとらせるのもどうだろうかと考えながら少女の言葉に答える。
満面の笑みで、自信満々に続けて告げられる言葉に、断るのも少々申し訳ないような気がして、こういうときどうすればいいのだろうか、と対人関係の構築に不慣れなルークは、少し困ってしまう。
表情には殆ど現れていないが、夫の彼がこの場にいればきっと困ったように苦笑を浮かべていたことだろう。

エルフリーデ > こうして隣で見上げていると、何処と無く組合長と似たような雰囲気を覚える。
口数は少ないが、ずっと自分たちを見てくれている。
彼ほど彼女達への接し方は柔らかくないが、固いなりにも優しい一面を覚えるのだ。
現にあっちこっちに動き回り、ショーウィンドウに夢中な彼女達を見やる視線は、表情は変わらずとも、彼を思い出させる。

「えぇ、赤ちゃんが窮屈だと大変ですわ」

組合長からも、一緒になったら頼むと言われていたのもあり、此方から買って出たものの、返事がすくにない。
沈黙の間、瞳を瞬かせる仕草に少々不安がよぎっていく。
また差し出がましいだの、鬱陶しいだのと思わせてしまっただろうかと、心の中で冷や汗を垂らしながら青い瞳から強気な雰囲気が抜けてしまい、不安そうに見上げそうになるほど。
しかし、断りの理由は彼女達をきづかったもの。
それにガクッと身体が崩れそうになりながらも、苦笑いを浮かべれば似た者同士だと、間のズレ方に妙な納得を覚えながら緩く頭を振った。

「それは大丈夫ですの、あの娘達、引き止めないとずっとああですから……ほら、身重な奥様が付き合ってくれたんですから、奥様の服選びぐらい付き合いなさい!」

周囲をチョロチョロしていた少女達を纏め上げるように、声を張り上げる。
ぴたっと動きを止めた少女達は、それこそ声をかけられた野良猫のようだったかもしれない。
大体の少女達は、はーいと間延びした元気な返事をして戻ってくるが、これが気になるだの、これが買いたいだのとまだ時間の掛かる娘もちらほらと。
小さく溜息をはけば、選び迷う少女の方へと歩いていき、一緒になってどれがいいだのと選ぶのに付き合っていく。

『ルークさんのお腹、おっきくなったね?』
『いまどれぐらいだっけ~?』

一通り満足して戻ってきた少女達は、ルークのお腹を確かめるとあどけない表情で彼女を見上げる。
少女が多いとは言えど、こうして望んだ授かりものは少ない。
興味津々にそんなことを問いかけながら、中には触っていい?と問いかけながら、膨らんできたお腹に手を伸ばす子もいるだろう。

ルクレース > 「あ…窮屈そうに見えますか…。視察なので、きっちりとした服装でなければと思ったのですが…。」

考える間の沈黙は、普通の感覚からすれば少々長かったかもしれない。
答えるために、彼女の方へと視線をやればそこには先程まで見せていた、気の強そうに見える瞳の色合いが不安そうに揺れてこちらを見上げていた。
何か答えを間違えただろうかと、不安そうな様子に内心戸惑うが今はフォローを入れてくれる彼は此処にはいない。
しかし、彼女への申し出への答えを告げれば不安そうな様子が消えてほっとする。
他者とのコミュニケーションを必要とされなかった過去を思えば、こうやって自分に話しかける相手の様子を気にかけるようになっただけでも、他人に興味を向けることが出来ているのだろうが、あと数歩及ばない。
赤ちゃんが窮屈そうだという少女の言葉に、今の格好に視線を向ける。
流石に今のお腹の大きさで、彼から贈られたワンピースは着れないため、城ではもっとゆったりとしたものを着用していたが、視察のためにと今は胸元に、彼から贈られた琥珀色のロゼッタストーンのブローチと、リボンのついたブラウスにジャケット、胸のすぐ下あたりにウエストの部分がくるハイウェストのプリーツスカートを着用していた。
それでも、大きくなってきたお腹を見れば窮屈そうに見えるかも知れない。
これからもっとお腹が大きくなることを思えば、服を購入すべきところではあるが…しかし…と、また考えてしまっていれば、彼女が少女たちに声をかけるのが聞こえてくる。
ぴたっとよく通るエルフリーデの声に物音に驚くかのように動きを止める少女たちの様は、正しく猫のようだった。
素直に間延びをした返事をしながら、ルークとエルフリーデの傍へと戻ってくる子もいれば、選びかねて戻ってこれない子や、急いで会計に向かう少女もいた。
そんな少女たちに、エルフリーデは面倒見のよさを見せて選ぶのに付き合っていく。

「…ええ、最近は特に日に日に大きくなっているように感じます…。23週目、ですね…。」

彼女の面倒見のよさと、さっと悩む少女の傍へとよっていく行動力に感心しつつも、戻ってきた少女たちの問いに、視線はそちらへと向く。
あどけない表情で、興味津々に膨らんだお腹を見て、問いかけながら腹部へと触れる少女に答える声は、やはり抑揚が少ないものの、初めて集落を訪れた時を思えばほんの少しだけ柔らかくなっていると思う。
触れたお腹は、思ったよりも硬く感じられることだろう。

エルフリーデ > 二人揃って感覚がずれているところがあった為、なんとも言えぬ変な間が生まれたが、続いた言葉にそれも消えていた。
遠目に見かけた事がある時と違い、前に比べればゆったりとした服装ではあるものの、なんとなくウェストの部分にくる締め付けが気になってしまう。

「今は大丈夫ですけども、ここからもっと大きくなるとききますわ。とはいえ……仕事をさせる組合長も体外ですわね」

身重になってきたのだから、城でゆっくりと過ごさせれば良いものをと思うと、苦笑いを浮かべる。
実際、彼もそういうかも知れないが、逆に動ける内に動かないと落ち着かないというのもあるのかもしれないが、そこにはまだ気づく様子はなく、迷う少女の方へと走っていった。

『ルークさんなら、凄く優しいお母さんになりそうだよね。こう、お淑やか~みたいな?』
『だよね~、ぁ、もう半年ぐらい経つんだ。相変わらずお熱いの?ねぇねぇ』

ほんわかと母親像を浮かべて微笑む娘もいれば、半年前の出来事を掘り起こすように悪戯な笑みを浮かべて問い続ける娘も居たりと、自由気ままだ。
お腹に触れた少女も、思っていたよりも固い感触の腹部に、わっ と驚きの声を溢しつつも、再び触れていき、その変化に興味津々。
ぴくぴくと猫耳が左右に揺れて跳ねていき、じっとそこを見つめている。
最初の頃こそ、少々近寄りがたい雰囲気を感じる固さだったが、真面目で不器用な人なんだと分かるやいなや、一層少女達も彼女へ遠慮なくじゃれついていた。
小さな変化も、彼の妹たちが子供のように寄り付いてくる結果で応えていく。

「これで皆戻りましたわね……さぁ行きましょう?」

そして一同が向かう先は、大人な女性向けの衣類やアクセサリを取り扱った商店並び。
自分たちにはまだ背伸びすぎるそれは、ショーウィンドウへ羨望の眼差しを向けつつ、これが似合いそう、あれが似合いそうと再び散っていってしまう。

ルクレース > 「そのようですね…。23週以降は、週を重ねるごとに大きくなっていくらしいですが…。いえ…、私がやりたいとお願いした事ですので…。」

おなかの中では、すでに人間としての形が出来上がっているのだと、書物で読んだ。
ここから、日を追うごとに重くなり大きくなっていくのだと、医師に言われたが妊婦というものをあまり見たことがなければ、どこまで大きくなるのかという実感はないため、少し他人事めいた言葉になってしまった。
苦笑いを浮かべながらの言葉に、首を横に振ると自分が望んだ仕事なのだと告げる。
彼も、大事な時期だからと言っていたが、ただ城でじっとしているのも落ち着かなかった。

「………優しい、ですか…?そうですね、時間の流れが早いような、まだそれくらかと思うような…。今では、おなかの中で動くのを感じられますよ。………お、熱い…のかどうかは、分かりませんが…その…お慕いする気持ちは…変わらないといいますか…もっと強くなっている、といいますか………。」

母親像を浮かべての言葉に、数回瞬きを繰り返していた。
優しいと、そう言われる要素が自分では思い浮かばなかったから。
お淑やかというのも、生まれながらの良家のお嬢様などを見ていると少し違うような気がする。
それこそ、悩む少女と一緒に商品を選んでいるエルフリーデからはそんな育ちの良さがにじみ出ているように思って、そちらへと視線が向いていた。
硬い感触に驚きの声をあげて、再び触れた少女の手に、トンと微かに腹部の内側からの衝撃が伝わる。
胎動の感覚に腹部に触れながら、今赤ちゃんが動いたのだと少女に教えて。
しかし、悪戯な笑みを浮かべて少々意地悪な質問に、沈黙の間が長くなる。
しかし、言葉に詰まりながらも、はぐらかすという事を知らないかのようにそんな返答をすれば、微かに頬が赤く染まる。
彼女たちが最大の信頼を送る、組合長が連れてきた人という立場は、最初から彼女たちの警戒心のハードルを下げていたように思う。
しかし、それを差し引いても人らしさを感じさせぬ最初の頃のルークは近寄りがたいものだあっただろう。
人らしさを覚えて、それでも感情の起伏が表面に現れるのは少なすぎるルークに、彼女たちは遠慮なくじゃれついてくれる。
他者との関わりを積極的にもたずに、限定的なルークの世界をそんな彼女たちが少しだけ広げてくれていた。

「……良かったですね…。はい、ではお言葉に甘えます…。」

『みてみて~かわいいでしょ』
と、エルフリーデと一緒に選んでもらったアクセサリーをルークへと自慢してくる少女に、短く答えながら、別の少女に手を引かれて大人の女性向けのブティックが立ち並ぶ一角へと向かう。
マネキンが着飾るショーウィンドウに、少女たちが羨望のまなざしをむけつつ、店へとはいると少女たちが再び散っていく。
店には、様々な種類のドレスから軽装の洋服までが取り揃えられていて、その種類の多さが逆に戸惑いを生み出してしまう。
自分の好みというよりは、どれが彼に喜んでもらえるだろうかという基準と、似合うだろうかという不安とを持ちながらハンガーにかかった洋服を眺める。

「……あの方にお会いするまでは、着飾るということがなかったので、やはり組み合わせなど難しいですね…。」

ワンピースなどなら、統一しやすいがそれでも靴やアクセサリーの組み合わせもなかなかに悩ましい。
上下別のものとなると尚更だ。
となりにいるであろうエルフリーデに、そんな呟きが聞こえるだろう。