2016/12/17 のログ
センカ > 酒や食べ物を提供するとき以外は酒場の調度品の一部なのではないか、と思うほどに物静かな店主が、微かに視線をそらしたのが視界の端に見え、女は内心驚きを隠せない。
しかしそれも無理のないことだろう、どこからどこまで扇情的な仕草、雰囲気、これを見て何も感じないのは男ではない。

「……無論そのつもりじゃ。お主とて、その気がなかった……とも思えんがの。そうと決まれば、余計な駆け引きは無粋というもの。場所を変えるとするか……。」

ふわ、と漂う香り……甘い?酸っぱい?刺激的?どんな表現にも当てはまらないような、あるいはそのすべてであるかのような、なんとも艶かしい香り。それを嗅いだ女はごくり、と思わず喉を鳴らしてしまい。まるで小僧のような己の振る舞いをごまかすように酒杯を干すと、自分と、誘いに乗った女の分の代金を払うと、席を立って。

「……では、いこうかの。」

ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」からネリスさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」からセンカさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス “ハイブラゼール”」にジアさんが現れました。
ジア > 広いホールの中で多くの人でごった返し、一度に歓喜と慟哭の入り交じる空気は、伝聞で想像していた歓楽街のイメージとは少し異なっていた。
当然ディーラーの心得などない少年は、チップやカードの補充、テーブルの掃除、客に飲み物を運ぶといった雑用ばかりをやらされていた。
親方に連れられていった縁で、殆どなし崩しに得た今の仕事は、実入りこそ普通であるが普段の荷運びや工房の仕事とはまるで違う環境に身を置くことになった。

「お、落ち着かない…」

この一角を包む熱気は太陽が照り付ける船着き場や炉の燃え滾る工房のそれに比べれば、涼しいぐらいである。
しかしどこか粘つくような、まったく異質な欲望の熱気がまとわりついてくると、
普段よりも厚着していることもあってか少年はそわそわと周囲を見渡しながら手に持つコインの山をテーブルに届けていく。

「あ、はい……ええと、こちらです」

そんな時、通り過ぎようとしたテーブルのディーラーに目配せされて、もはや一枚のチップも持ち場に置いていない男性を示される。
少年は、その男性を案内して店の外れにある小さな部屋の一つへと連れて行った。
所謂負け組、持ち金全てを差し出してもなお賭けの負債が残る者は、相談という形で別室に連れて行く。
そこで行われていることは少年も想像はついているが、扉を閉めた途端聴こえる悲鳴じみた声は喧噪に隠れて聞こえなかったことにした。

「わ、えぇー……シャンパンはいかがですかー?」

そして、ウェイターに押し付けられたお盆にシャンパンを載せながら、再び人が蠢くカジノへと戻っていく。
流石に何日かやってなれたもので、人にぶつかって零すようなヘマはそうそうしなかった。

ジア > 「さっきの飲み物配り終えまし……えっ、次はあのテーブル?…ですか、はぁい…」

押し付けられた飲み物のお盆に載せてあったグラスを全てさばき切ると、続いて押し付けられるのはテーブルの清掃のための布巾であった。
それを握り締め、ゲームを終えたテーブルを片づけながら、ホコリを拭きとっていく。
次のディーラーが付くまでに、準備を整えなければならないため、少年も熱心にそれをすることになる。

「ふぅぅぅ…もうダメ…」

やがて掃除が終わったところで、少年は異質な情念の熱気に中てられてしまう。
望みを叶える魔神であるからこそ、人の欲望が多く渦巻く場に置いては感応しすぎてしまっているのだった。
ぐるぐると天地が入れ替わるような錯覚に頭を押さえながらふらふらとカジノの隅へと歩いていく。
はた目にも体調が悪そうな気配で足元もおぼつかず、自分がどこを歩いているのかわからない少年。

「ううう…あ、あれ?ここは…」

幸か不幸か、それを見咎めるカジノ運営側の者はおらず、少年の足が向いたのは負け組を案内するいつもの部屋とは、また少し違った趣の場所だった。
単なる負け組と相談する部屋というには、扉も鋼鉄製で音が響きにくくなっているのか、人の気配はあるのにその向こうで何が起きているのか伺いしれない大仰さがある。
錆びが浮かんだ蝶番などの異質な雰囲気を放っており、少年はつい生唾を飲み込むようにその扉のノブへと手を乗せて、音を立てないようにゆっくりと開いていこうとする。