2022/08/09 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場 観客席」にクレス・ローベルクさんが現れました。
クレス・ローベルク > クレス・ローベルクが試合を見る時、それは研究目的の場合が殆どだ。
研究とは分析であり、分析とは冷静な思考で試合を観察する事で遂行される。
よって、観客席のクレスにとって、試合鑑賞とは仕事の一環である――一部を除けば。

「お、おお……!凄いな、これは」

その"一部"が、今目の前で展開されている。
魔術師と戦士。どちらも劣らぬ名選手ぷりだ。
魔術師が距離をとりつつ、火球を幾度も放つが、戦士はそれを軽やかに避ける。

だが、回避の軌道上に置かれる様に火球が放たれる。
それすら計算の内とばかりに、怯える事無く火球に突っ込む。
恐らく、対魔術加工の鎧なのだろうが、それでもあそこまで思い切り突っ込むのは中々できない。

「こりゃ、目が離せないな……!」

男同士の試合だけあって観客席は空席がまばらだが、しかしエロなしで此処までの見応えは中々稀。
柄にもなく、身を乗り出して、目を輝かせて試合場を見ていた。

ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場 観客席」にガイウスさんが現れました。
ガイウス >  
クレスが視線を向ける先にこそ、この男が立っていた。
ガイウス、またの名をケイアス・ランフォード・"ハテギウス"。
嘗ての王国将軍は、かつては奴隷として強制的に、
今は平民として自ら志願し、銀の仮面を被って戦っている。

「――っ」

ガイウスは体勢を立て直し、息を整えて目の前の魔術師に目を向けた。
魔術師は慣れた要領でガイウスの突進をひらりといなしたからだ。

と言ってもガイウスは、無心で目の前の男に突進したわけではない。

そもそも、魔術師は脆弱だ。魔術は強力だが、むやみやたらに使えるものではなく、
懐に入り込まれると何もできない。短剣を持っていても、力勝負では戦士の敵ではない。
従って闘技場の狡猾な魔術師は、まずどのように彼我の距離を取るかを考える。
距離さえ開けば、魔術師は一方的に戦士を攻撃することができるからだ。

逆に言えば、その方法にこそ目の前の魔術師を倒す鍵があると、ガイウスはみていた。
敵を動かして彼の手順を知り、小競り合いによってその虚と実を見抜くのは兵法の常道である。

「それでは、これはどうかな――」

今度は自分の次の行動が予測しづらいような、入っても浅いが回避しにくい攻撃を試みる。
それははた目には、先ほどと同じような能のない行動に見えるかもしれないが――

クレス・ローベルク > 「(――成程、戦士の方はかなり実践的な対魔術師戦術が確立できている。
魔術師の方は剣闘士とはいえ――この経験差だと、苦戦必至だな)」

対魔術において、一番重要なのは手札を切らせることだ。
故に、一度の攻撃で決着しようとせずに、細かく攻撃する事で相手を動かす。
定石と言えば定石だが、それに徹されると魔術師側はやり辛い。

今もそうだ。素早く突き出された大剣を、魔力のこもった手で弾いたが、魔術師は苦悶の表情を浮かべた。
本来なら障壁魔術で防ぐべきだったが、詠唱していては間に合わぬと判断したのだろう。
故に、詠唱魔術[キャスト]ではなく、簡易魔術[インスタンス]の範囲で防ぐしかなかった。

しかし、鑑賞者であるクレスは思う。
あちらが恐らく戦場の戦士ならば、こちらは闘技場の魔術師だと。
前衛に攻撃を受け止めてもらう事を想定さえできない以上、接近された時の備えは当然にある筈だ、と。

その思いを裏付ける様に、魔術師が詠唱を行う。
二文節の少ない詠唱で、発動するのは力場呪文。
先ほど攻撃を弾いた隙を突いて詠唱されるその呪文と同時。
魔術師は、ガイウスに向けて腕で押しのける様な動きをした。

直後、ガイウスの身体に、弾き飛ばすかのような力が加わる。
全身をぶちまける様なそれは、ダメージこそないものの、ガイウスを魔術師から引き離す様に吹き飛ばそうとする。