2020/04/22 のログ
クレス・ローベルク > ――試合が始まる
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からクレス・ローベルクさんが去りました。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場/救護室」にティアフェルさんが現れました。
ティアフェル >  轟くような闘技場の歓声もここでは少し遠く響く。
 試合の勝敗には興味がないが、どの程度の負傷となったかは関心ごとだ。ひと試合終わった直後、歓声の質が変わると、救護室に一人詰めているヒーラーはひっそりと溜息を吐き出した。
 
「……あんまり悲惨なことになってなきゃいーけど……」

 今日は臨時でここの癒術師として勤務することになった。
 普段はまずないことなのだが、闘技場専属の医師や癒術師が事情は知らないがまとめて欠勤となってしまって、急遽手隙だった自分にもお声がかかった。
 女性で重い戦傷や――凌辱された後の女性のケアができる癒術師となると、冒険者ギルドに所属しているようなヒーラーの方が街ヒーラーより向いている、ということで。わざわざ王都からダイラスくんだりまで遠征中。
 朝から詰めていたら、初心で初物の奴隷の少女がぼろぼろに泣きじゃくりながら一番手で運ばれてきて初っ端から萎えてしまったが、先ほど運び込まれて…というか、自力で笑顔でやって来たのは、むしろ凌辱目当てのあけすけな女性で「三人くらい孕んじゃったかも!ステキ!」とハイテンションだったので……なんだか救われた。「おめでとうございます」と声を掛けて一応擦り傷のケアや、病気を感染されていないかをチェックして、軽傷だったのですぐ送り出した。

 ひと試合終わって、今度は誰が運ばれてくるだろうか。

ティアフェル >  白い清潔な室内で、薬品や包帯、ガーゼなど備品のチェックを行いつつ、負傷者がおらず、手隙な時間にはポーションの調合などもこなして。

 試合の負傷者だけではなく、頭に血が上った観客同士の小競り合いでの怪我人や、気分不良になってしまった観客、はたまた酔っ払いだとか、挙句の果てには「ちょっと寝かせて……」とここを救護室ではなく、休憩室とでも思ってやってきたような貴族の対応でピーク時は結構忙しくやっていた。
 ベッドが空いてればいいか……と昼寝にやってきた輩には「患者が来たら空けてもらいますよ」と断るのも面倒になってそう、一言告げて寝かせておいたり。
 ベッドは診察台の他に二つあって、どちらも天井からカーテンですっぽり仕切られている。ついさっきまで昼寝に来た貴族の中年男性がいたが、すっきりした顔で戻って行き現状は静かなものだ。

 一旦落ち着いて次が来るまで少し休憩しつつ。できれば内臓が捻じれたような負傷者や、尋常じゃない凌辱をされた女性や少年、腕や足など、繋いであげられないほどの欠損を負った闘士が運び込まれてこないことを祈りながら、遠耳に『コロセー!』と喚く観客の声に舌打ちカマし。

「アホ。ルール違反でしょうが」

 殺戮や残虐行為は原則禁止である。死ぬ程の重傷者を診る立場にもなれと愚痴り。予め診察用のベッド傍にワゴンを置いてそこに必要な薬品や包帯、ガーゼなどを用意しておく。
 準備を万端にして、そのワゴンの前で立って腰に手を当て。よし、いつでもこい、と気合を入れるが。ここで張り切っちゃっていいの自分……とやったあとセルフ突っ込みである。

ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場/救護室」にクレス・ローベルクさんが現れました。
クレス・ローベルク > 『ティアフェルさん、次の患者です』
『えっ。今ティアフェルって言った!?そ、それはちょっと、別の人のが……』
『贅沢言わんでくださいよ。こっちも忙しいんですから』

部屋の外から、ティアフェルを呼ぶ声と、患者らしき者の声がする。
ティアフェルにとっては、今日一日で聞き慣れた、スタッフの声だろう。
あちらも、半ば流れ作業になっているのか、ティアフェルの言を待たず、扉を開ける。

『お名前はクレス・ローベルク。
魔術での簡易検査では全身打撲と、両手の単純骨折ですね』

「……ど、どうも」

開けた先に居るのは、車椅子を押してきたスタッフと、その車椅子に乗っている、全身に青痣を作った男の姿。
木の板と包帯で簡単なギブスで吊っている。
知り合いに弱っている姿を見られるのがいたたまれないのか、男の方は少し視線をそらし気味だ。

『それでは、後宜しくおねがいします』

そう言うと、スタッフは去り、二人きりになった。
男は、「あー」とぼやきだかなんだか解らぬ声で、棒読み気味に呻いて

「……元気だった?」

と、ちょっと気まずそうに言うのだった。

ティアフェル >  いつでも来い、と準備を終えて気合を入れて待っていたら。来ちゃった。いつでも来いとは云ったが面倒な症例はごめんである。
 外からかかる声に顔を上げてすぐに、

「はーい。どうぞお通しくださ、い……?」

 患者との声に即座に返事をしたが、続く会話が何だか。なんだか…? 聞き覚えのある声が自分を拒否っている。
 眉を潜めてアホ毛を揺らして怪訝な表情を扉に向けていたが。

「クレ、ス……――ああ、はい! 打撲に…骨折……処置しますのでこちらへ」

 名前を聞いて。そして車椅子でやって来た顔を見て。ぴくん、とアホ毛を立たせて見知った顔に反応したが、症状を聞くとすぐに切り替わって車いすを診察台の前に押してもらえるように指示して。
 退席するスタッフに「お疲れ様です、お任せ下さい」患者が誰であろうが一時関心は失せたように返事をして、ぱたん、と扉が閉まり。二人で救護室に残されたが、お仕事モードになると私情は捨てた様に今は、以前知り合った冒険者クレスさん、ではなく闘技場の負傷者クレス・ローベルグ氏として扱う。

「わたしが元気だったかどうかは後。後です。
 ここ、自分で横になれます? 支えますのでゆっくり移って下さい」

 取り敢えず診察台へと車椅子の角度を調節して移らせようと声を掛けて手を差し伸べ。

ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場/救護室」にクレス・ローベルクさんが現れました。
クレス・ローベルク > 「あー、うん。了解……っと」

ティアフェルが仕事モードになったのを感じて、こちらもさくっと対応を任せるモードに切り替える。
椅子の傾きにあわせて立ち上がり、そのままゆっくりとベッドの方に移る。
診察台に移って横になると、一心地ついたように息を吐く。
取り敢えず体はティアフェルに任せようと力を抜いて、

「んじゃ、悪いけど頼むよ」

こういう時、下手に口を出したり注文を言う方が、返って治りは遅くなる。
なので、取り敢えずティアフェルに全てを委ねるつもりでいる。
……たまに、とんでもない治療をする医者に当たる事もあるが、まあそれ含みで、怪我のリスクだろう。

ティアフェル >  怪我人が無駄口を叩かずに大人しく仰臥位になって痛がってくれるとヒーラー的に大変助かる。
 さすがは、闘技場の百戦錬磨。ここに来る回数も百回を超えているかも知れない。慣れた対応にほっとして。
 いいこいいこ。と診察台に移った彼の頭を撫でて置いた。無駄な行為でない、自己満足という大事な儀式である。
 悪いけどなんていう患者さんにふる、と一度首を振り。

「お金いただいてますから。仕事ですから。
 先に手の方診ますねー。固定の方失礼しますよー。
 ………こりゃまたボッキリ。綺麗に折られてますね。相手も試合慣れした闘士ってとこか……」

 包帯を解いて固定されていた添え木を外して状態見ると綺麗に骨が曲がっている。軟骨も無事で角度も悪くない。

「上手に折られてますけど……かなり痛いでしょう。こことか」

 普通ならこんなに平然としてはおれまい。さすがはプロの人気闘士といったところ。骨折箇所を人差し指でつついて呟き。

「取り敢えずヒール掛けときますんで――ちなみに明日は試合あったりします?」

 できればお休みして欲しいものだが、やらねばならないならば入念に癒しておかねばならない。
 軽傷ならば回復術までは要らないが今回は必須。スタッフを取り出してまずは右手に翳して詠唱に入りながら返答を待った。

クレス・ローベルク > 怪我をするのは慣れている――のだが、それはそれとして、その治療者が知り合いというのは割と珍しいケースだ。
看護室に通いなれる内にできる知り合いというのはいるが、それはまた別の繋がりだろう。
勿論、こうして見る限り相手はプロであり、それに身体を任せる事に異論など無い。無いが、それはそれとして、

「……頭を撫でるのは必要ないよね。絶対ないよね?」

一応こっちにも、男としてのプライドはあるんだぞとむすっとした口調で。
気分を害した、という訳ではない。どちらかというと、照れ隠しの方が強い。
普段、闘技場で強者として振る舞っている分、なおさらである。

「あ、解る?うん。珍しく同業と当たってね。
下手な手加減無しでポッキリ折ってくれたから、後引かなさそうでよか……おっふ!?」

半分強がりの最中に骨折箇所をつんとつかれ、少しばかり身をよじる。
骨折の痛み自体は連続しているので我慢できるのだが、流石に急に"来る"と我慢がならない。
治療に必要な事……だと信じてはいるが、痛いもんは痛いのである。
とはいえ、痛みの量としては大した事はない。直ぐに落ち着いて、ティアフェルとの会話に集中する。

「あー、明日というか、今日の夜にも試合入ってるんだけど……」

実は剣闘士の中では割と働き者[ワーカーホリック]な部類に入る男である。
なので、できれば治って欲しいなあという期待を込めた目で見てみたり。
入れた試合をキャンセルすると、信用だったり経歴だったりが落ちるので割と本気で避けたい、というのが偽らざる本音だったり。

ティアフェル > 「モチベ大事」

 救護者のモチベーションを重んじろ、とむっとしている様子の彼にしれっと一言告げた。
 人を癒す行為によって自らも癒されている職業柄……ではないことは確かだ。
 弟との生活ですっかり癖になっているところもある余計な行為。

「そりゃー、素人じゃこうも思い切りよく角度考えて折れないですよ。
 絵に描いたような骨折久々見た。……やっぱり大分痛みますねえ……」

 少しつついただけで辛い程痛いらしい。さもありなん、と反応に納得したように首肯して。
 そして、早速施術を始めながらも、今夜も試合があると聞いてあちゃあ、と額を抑えたくなるのを堪え。
 入念な施術になることは避けられないらしい、とスタッフを翳して術式を編み上げ詠唱を紡いだ。

『痛みを取り去り・傷を塞げ・癒しの光…ヒール』

 唱え終えると翳したスタッフの先端から生まれた淡い暖色の光が骨折箇所を包み込み、じんわりとした温かさを伴いながら癒していく。折れた骨を接いで、腫れを引かせチアノーゼも痛みも取り去り、見た目にも問題ない状態に回復させて。
 それをもう片方の手にも同じく施せば、ふう、と額の汗を拭って。

「………わたしの交代までもーちょいあるんで、できれば魔力残して置きたかったんですけど……しゃーない。
 もう打撲の方も全部治しちゃいますよ……。
 クレスさんが欠場となると拙いでしょーから。……にしても、次の試合にも出るなら両手折ってこないで下さいよ……」

 そう云っても好き好んで折った訳でもあるまいし、無理な話だろう。承知の上でぶつぶつ呟いて。
 青痣くらいならほっといても大丈夫だろうが、この後に試合を控えているなら話は別。どことどことどこだ。と衣服を勝手に留め具を外してぐいぐい剥いていき。

クレス・ローベルク > おお、と回復していく腕を見て、呟く。
痛みがじんわりと、しかし急速に引いていく。
手を握って開いてみるが、違和感なし。殆ど完全回復である。

「おー流石だね。殆どダメージもない」

手をぐ、ぱ、ぐ、ぱとしてみるが、痛みはない。
この分では握力も大丈夫。十分酷使に耐えうるだろうと思う。

「あはは、いやあ、重ね重ねすまない。
うん、まあ、流石に運営側も、病み上がり相手にバッチバチにガチな試合組んでくるような事は……無いと……信じたい……」

後ろになるほど、力が失われていく言葉。
『どんだけ強い相手でも、最悪死にはしないであろう便利な剣闘士』として割と便利に使われている男なのである。
あはは、ともう一度、力なく笑い、彼女が衣服を剥ぎ取って行くに任せる。

剣闘士らしく傷だらけの身体だが、大半は古傷。
問題の打撲は大半は青痣だが、脇腹の広範に黒い痣が出来ている。思い切り直撃を受けた箇所だ。
男としては慣れたものだが、人によっては少し目に毒かもしれない。
まあ、医者だし、任せておけば何とかはなるだろと思いつつ、一つ懸念がある。

「所で、治療中にこういう事聞くのは大変失礼だと承知の上で聞くんだけど……これ、下も脱ぐの?」

男としては珍しく大怪我を負うほどの激戦である。
現状も打撲の痛みはあり、それを紛らわすために結構な我慢を強いている。
……つまり、現状も生存本能がそれなりに発揮されており、それは生殖本能と繋がっている訳で。

「(いや、まあ、癒し手さんだし、普通に見慣れてるかなあ……?)」

とは思うが、念の為、遠回しに聞いてみる

ティアフェル >  施術が成功し、きっちり治った様子に安堵の息を吐き出す。
 気合を入れて治すしかなかったので、負傷する前とほとんど変わらない状態になった筈だが、少々痺れたような感覚は残ったかも知れない。それも時期になくなる筈で。
 手を握ったり開いたりする様子に小さく肯き。

「良かった……さすがにプロの闘士相手だと緊張する~……」

 若干強張っていた表情を緩めて目を細め。

「……ここの運営に期待しない方がいんじゃないっすか?
 もー。意地だ! こうなったらガチ試合にも耐えうるようにバチバチに回復させてやるぅ!」

 何だか変な方向に燃えて来た。休ませないどころか連戦させるっていう無茶振りを普通にカマす運営なのだから、次の相手に関しては甘くみない方がよかろうと踏み。一度拳を握って決意。

 闘牛服の変わっためんどくさい留め具をぷちぷち外していくと腹部の打撲痕に行きあたって一度手を止め、黒くなった痣に指先を触れさせて徐々にほんの少し力を込めて痛みの状態を確認し。眉を潜めて嘆息し。
 ここも集中的な治療が必要、と再び両手に施したように集中し、詠唱を紡いで回復術を施してゆき。

 それから下半身も確認しようとしたところで訊かれた声に小首を傾げ。

「は? 全身打撲でしょう? 全部診ますけども……ああ、下着は別にいい、けども……ケツに怪我でもしてるなら脱いでもらいますよ」

 弟が5人もいるご家庭で育っているので。ヒーラーの前に見慣れた代物であり、何をどう見てもはっきり云って治療中なのだから何も感じない。腕や指先を診るのと同じ感覚だ。
 萎えてようがイキってようがそれすらも興味はない。正直それよりも古傷の方が気になって歪に塞がった痕などを見つけると眉を潜めたりする。
 下衣も腰を上げてもらって手際よく脱がせては、ひとつひとつの打撲状態を確認して。
 軽い物ならば手を翳しての簡易詠唱だけで回復させてゆく。

クレス・ローベルク > 「いやあ、プロの闘士だからこそ、あんまり緊張しないで良いんじゃないかな。
自分の不始末の怪我の事で、医者に文句を言う奴はプロ失格だよ」

と、フォローするでもなくさらりと言う。
剣闘士と怪我は切っても切り離せないもの。
余りにもなヤブに当たった場合は別にして、通常の治療の範囲内で残ったダメージは、それ含みで剣闘士の実力だ、と男は思う。

「あはは、まあ、治療にやる気を出してくれることは良い事だと思っておくよ。……後で何か埋め合わせ、するかなあ」

流石に少し申し訳なく思えてきた。
構図としては、無茶振りをされている男が更に彼女に無茶振りをしている感じなので、なおさら。
新品の包帯とか薬草とか喜ばれるかなあと思いつつ。

「ああ、そう?なら良いや。こういうとこに来る女性の癒し手さんは珍しくてね。要らぬ気遣いをした」

あ、でも腰や臀部に痛みはないから、下着は脱がせなくて大丈夫。
それだけ言うと、素直に腰を上げてズボンを脱がせてもらう。
こちらの方も、やはり傷だらけである。
打撲の方は、こちらは割と数は少ない。
ただ、脛の方に大きな青痣があるぐらいか。

それはそれとして、ボクサーパンツタイプの下着が明らかに不自然に盛り上がっているが、それはお互い言いっこなしだろう。言及されても困る。

「それにしても、手際が良いね。
俺としては、本格的に闘技場に雇ってもらいたいぐらいだよ」

治療の方も後半に入っただろうと思い、まあ少しだけ軽口を叩いてみる。
とはいえ、言そのものに嘘はない。これほどテキパキと怪我を治して、こちらの事情に配慮してくれる医者は、闘技場の中でも相当な"当たり"の部類だったりする。