2020/02/12 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にピッグマンさんが現れました。
■ピッグマン > 「むーふぉーふぉー……いやはや、勢いのある若者も、老練な実力者も見応えがありますなぁ。うんうん。こうなると滾ってくると言いますか、たまには私も運動したくなるというものです。どれ、本命とやらが来るまで私が遊びましょうか。何なら、その本命とやらを私に差し向けても構わないのですがな。」
毎回凌辱前提の試合があるわけではなく、屈強な男闘士同士や男闘士が魔物等と闘う試合が組まれる事もそう珍しい訳ではない。
むしろ健全な本来の意味合いでの闘技場としてはそうあるべきなのであろう。
始めこそ男同士が剣を交え血を散らす激闘を特等席にて観戦してブラボーブラボーと拍手喝采を贈って上質な葡萄酒をだらだらと蘊蓄をひけらかして飲んで愉しんでいたオークキングもとい大商人であったが、数試合を終えても未だに女闘士、女奴隷等といった華が現れる気配がなく落ち着かなくなってくる。
確か今日はちゃんと女性選手が出場するという話を聞いていたはずだが?とちらりとそれとなく自分を上客として招いた主催者を見れば、裏ではどうも本来出場する選手が逃げ出したのか代理を探しているのか定かでないがこの男闘士同士の組み合わせでとにかく誤魔化しているらしく、冷や汗をかきながら「もう少し、本命は後にとっておくものですから」と此方の機嫌を損ねればスポンサーを降りる事態になりかねないからと必死に言い訳をしていた。
此方としては確かにそろそろ本命とやらが見たいものだが、スポンサーとなるにあたり勿論此方にも利益があるという打算ありきの契約なのだからそう怯えなくても良いし、隠しているつもりであろうと裏でこそこそスタッフと話していれば何か起きたと察するのは難しくない。
これだから見た目で莫迦か何かと勘違いする者は、と内心呆れながらもにっこり豚面で笑顔を作り軽い調子で席を立つ。
一瞬主催者は機嫌を損ねて帰ると言い出したのかと席を立つ仕草に慌てたが、今度は違う意味で慌てる事になる。
どう見ても鈍重であろう脂肪塗れの巨体では戦うどころか運動をまともにできるかも怪しい。しかも場繋ぎで今戦っている闘士達を一旦裏に戻して八百長を命令する暇もなく特等席を離れたスポンサーの巨漢はステッキ片手にスーツからはみ出た贅肉をたぷたぷ揺らし闘いの場に歩んでいて。
もしスポンサーの身に何かあったら大惨事、ましてやどう見てもオークだから打ち合わせをしていない闘士が魔物との戦いと勘違いし本気で殺しかねない。
顔を真っ青にする主催者を他所に、自分だけに限らずそろそろ変化が欲しいと慢性化した刺激に退屈し始めていた観客へのサービスを兼ねて自ら出る事にした都会派オークは観客席の間を縫って正規の入場口を使わず観客席と闘技場を仕切る高い壁を見た目に反した身軽さで飛び越え、実力伯仲で拮抗した戦いを演じる両者の試合に乱入。
呆気にとられる両者へ、二人まとめてかかってこいと右手を水平に掌を上にし二人へ向けてから太い指をくい、と曲げて挑発。
主催者がスタッフに試合を止めさせるよう指示をだすのも間に合わず、これも場繋ぎの演出の一環と判断した闘士二人が顔を見合わせてから挑発に乗り剣を向け猛然と突進。
頭を抱える主催者と、何事か分かっていない観客達の観ている前で自分的にはかっこつけたつもりで分厚い唇をニヒルに曲げて。実際には獲物を見つけた魔物のそれである笑みそのもので畏れることなく両者を迎え撃ち。
ばさり、とスーツの上着を両者に向け己との間に向け放り簡易だが視界を遮るのに利用すれば、スーツ越しに切り裂くべく剣を振るわせるように誘導することこそが本命。
その肥満体からは想像もつかぬ軽やかさで事前に動きを誘導、制限すれば他愛ないとばかりに両者が互いの剣を阻害せぬように振るうその剣の軌跡を読み切り宙に巨体を浮かせ飛び込んでは、ぐるんと球体を回転させるが如く体を捻り豚足が一瞬鉄槌や竜尾かと幻視させる程の完全さで相手の勢いを利用しつつ無防備なこめかみを革靴を履いた踵で痛烈に打ち抜き一人目を昏倒。
もう一人も手練れ故驚きながらも即座に対応し宙で豚肉の解体作業をすべく剣を返してくるが、それより先にステッキの先を槍の刺突の如く、相手が剣を返す余分な動作を挟む間に余分な動きなく眉間を突き脳を揺らし意識を刈り取って。
瞬く間に二人の闘士を地面に倒れ伏させ、汗一つかかずに余裕綽々と地に降り立ってからネクタイを締め直し、遅れて飛び込んだ際にひらりと舞って落ちてきた山高帽を掴んで被り直し豚耳を隠す人間にしっかり変装しているつもりのオーク。
想定外の展開に呆気にとられる主催者や観客達へ片手を掲げ、乱入前に手癖悪く拝借していたマイクを使い。
「突然の乱入で驚かせてしまい申し訳ございませんな、ムッシュ、レディ。私はピグマリオン・マープレイ。このアケローン闘技場にもスポンサーとして協力しているしがない商人でございます。この手に汗握る戦いの熱気に中てられ、つい私もこの熱狂の渦中に飛び込みたいと体が勝手に動いてしまいました。歴戦の両雄とはいえ手負いの闘士でなければ私は今頃命を落としていたかと思うと、今頃になって胆が冷える次第。しかしこうして命を拾えた幸運を祝い、どうせならもう一戦。私もこの瞬間だけはスポンサーでなく闘士として参加させていただきたく存じます。そして、この次の試合――もし対戦相手が勝ったならば、商人としてそれなりに名の知れていると自負している我が名に誓い、対戦相手が望む報酬を個人的にプレゼントして差しあげたい!今、この場にいる貴方達が証人となった以上、私は必ずや約束を遵守いたしましょう。いわばビッグボーナスというやつです。私が勝った暁にはそうですなぁ、対戦相手を好きにするのは闘士の嗜みですし、観客の皆様にも今後もピッグマン商会を御贔屓にしていただきたいとアピールも兼ねてチップを配るとしましょうか。さあ、次のラッキーな対戦相手はどなたでしょうか!?」
これも予め予定に組み込まれたものである風を装い、勝手に闘士兼進行役まで兼任することにしたスポンサーの勝手な宣言に今さら止めるわけにもいかない主催者側は動揺しながらも内容自体は主催者側に一切負担を強いるものではないということもあって余計止める名目を喪失。
また、見た目に反して武術の心得があるギャップが愉快と観客席からもよく分からないがはやし立てる声があがればサンキューサンキューと両手を振って愛嬌よく声援に応え、一層の声援を掻き立てる。
商人として人心掌握はお手の物。自分の容姿やそれに対する印象等も熟知しているからこそ、不服であるが利用することも造作ない豚頭の商人は闘技場を盛り上げる為に一肌脱いだ次第である。
撃沈させた闘士に対するフォローも忘れない。
昏倒する両名がスタッフにより裏へ運ばれていく間の場繋ぎで、もし次に闘士が勝ったら何を頼まれるでしょうか?威勢よく言ったもののあんまり高いものだと破産しそうで恐ろしいとお茶らけながら大げさに震えてみたり、チップを貰ったら何を買うつもりだい?と適当な観客を指名しインタビューをしてみたり。
正直この時点で殆ど成功を収めている為、あとは適当に場を盛り上げてから戦い負けてやるのもよしと考えているが一つ懸念がある。
もしこのタイミングでやっと代理を見つけたからと、主催者側がこちらに忖度して女性選手を差し向けてきた場合、自分は我慢できるだろうかと。
最大の問題はそこであった。
■ピッグマン > 場繋ぎにも限度がある。
しかしそこまで無能ではない主催者側がこの即興の試合の対戦相手を見繕えば対戦相手が鉄柵の入り口が開くと同時に入場してくる。
その後どのような形で幕を下ろしたかはこの場に居合わせた者のみぞ知るが、後日いつも通り商売に勤しむ元気な豚頭の商人の姿を王都で目撃されたことから最悪の事態は少なくとも回避されたことは間違いなくて。
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」からピッグマンさんが去りました。