2020/01/02 のログ
ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にクレス・ローベルクさんが現れました。
クレス・ローベルク > 今時分の夜の闘技場は、殊更に寒く、乾燥した空気が肌を刺す。
だが、そんな中でも、観客達はまるで構う事なく、試合場に好奇と期待のまなざしを向けている。
今日は、新年を記念した闘技場の大会だ。
今宵、準決勝までが行われ、次が決勝。
新年だけあって賞金額も何時もより高めの設定だ――故に、闘技場デビューが初めての選手も多く参加している。

『さあ、アケローン闘技場新年記念大会もいよいよ準決勝!
此処で勝利した選手が、明日の決勝に駒を進め、賞金を勝ち取る好機を得る事が出来ます!』

おおおおおお、と観客の熱も上がる。
準決勝までになってくると、流石に選手も粒ぞろい。
ただの淫靡なショーになりがちと批判される闘技場の試合であっても、見応えを期待できるだろう。

『それでは、早速選手入場です!
まずは東門――アケローン闘技場剣闘士、クレス・ローベルク!』

おおおおお、とアナウンスされた名に湧く観客。
クレス・ローベルク。派手な魔法や腕力こそないものの、堅実な戦い方と、媚薬を使った搦め手を使い分ける非常に『闘技場らしい』戦い方の剣闘士である。

『そして、西門――』

そして、西門から、今宵最後の試合の出場者が表れる――!

ご案内:「港湾都市ダイラス アケローン闘技場」にセイン=ディバンさんが現れました。
セイン=ディバン > 『決勝の相手は、そうとうヤルぜ。
 聞いたことあるんじゃないか? 名前は……』

選手控え室で準備をしていた女は、闘技場のスタッフのそんな言葉を、薄い微笑で聞き流す。
どんな相手であろうと、戦い、勝つのみ。
その心境に入ってくる情報など、ノイズでしかない。
そう思っていたのだが。対戦相手の名前を聞けば、女は驚いた表情になり……。

『西門……冒険者。セイン=ディバン!』

アナウンスの名乗りを受け、女は右手を上げたまま闘技場へと姿を現す。
観客たちは、女の名前を聞いた瞬間、大ブーイングを浴びせるが。
女の姿を確認すれば、今度は囃し立てるように声を上げる。

『なんだセイン! “また”女の姿で参加すんのかー!?』
『よっぽど犯されるのが好きみたいだなぁ!』
『クレスー! ヤっちまえー!』

ほとんど、というか。野次そのものの声を聞きつつも、女は笑顔を浮かべているが。
よくよく見れば、こめかみに青筋が浮いているのが分かるだろうか。
女は、対戦相手に向かい、ドレスの裾を掴んだまま優雅に一礼をする。

「……こうして面と向かって話すのは初めてかしらね。
 フフッ。アナタとは一度、本気で戦ってみたいと思っていたのよ。
 クレス・ローベルク。私よりよっぽど名が売れている、アナタと、ね」

くすくすと笑いつつ、相手に向かい敵意、害意を向ける女。
ぜひとも。本気の。勝負を。と。
気配だけで伝えていく。

クレス・ローベルク > 囃し立てる観客達に鷹揚に手を振りつつ、男は彼女(どうやら、何時も男でも無いようだが)と向かい合う。
観客達のヤジを聞く限り、どうやら元男であった様だ。
普通に考えればありえない事だが、しかしそういう事がある、というのは"実家"で叩きこまれた教育の範疇である。
故に、男は気にする事も無く、

「いやいや、君みたいなお嬢さんにまで名前が知れ渡っているとは光栄だ。
名前が先行してる部分が無いとは言わないが……それを含めての剣闘士稼業。観客は勿論、君にもがっかりはさせないと約束しよう」

そう言うと、腰の二振りから一振りを抜いて、両手で構える。
オーソドックスな中段。刃を真っすぐではなく、斜めに構える受け重視の構えだ。
セインが構えれば、じきに試合開始の鐘が鳴る事だろう。
が。

「さて、何時も俺は最初の一撃は女性に譲る事にしている。
鐘が鳴ったなら、何時でもかかってくるといい」

と、にこりと笑いかける男。
興行試合ではお決まりのハンディだが、それを挑発と捉える者も居る。
さて、彼女は如何に反応を見せるだろうか。

セイン=ディバン > ちなみに、知名度ということで言えば、相手と女はまぁまぁ、五分五分。
とはいえ、相手は勇名や高名なのに対し、女は悪名が轟いているタイプではあるが。

「ふふっ、口がお上手ね。私の本当の姿見たら、さぞがっかりするでしょうけど。
 ……いいわね、その自信。とっても楽しみ……」

あくまでも、女性らしい振る舞いを続ける女。
自身のように、むき出しの闘志をぶつけるでもない。
静かながら、場慣れしてる雰囲気が、実に好ましい。
相手の構えを見つつ、女はふむ、とどう戦うべきかを考えるのだが。

「……あら、それはそれは。
 アハハッ。全うな戦士なら、侮るな、と言うところなんでしょうけど。
 私はその厚意、受け取っておくわ。なにせほら……私とアナタじゃ、実力差があるから」

かのクレス・ローベルク相手に正々堂々とか、ムリですもの。
なんて言って笑っていれば、試合開始の鐘がなった。
観客たちの歓声が響く中、女は……。
まず、ドレスの胸元から、愛用のリボルバーを取り出し、6発すべてを、一息に放ってみせる。
同時に、相手の周囲を旋回するように、円の動きで距離をキープする作戦。
相手が剣を構えていることから、あくまでも銃の優位を利用するつもりらしい。

クレス・ローベルク > 試合開始の鐘が鳴ると同時、男は意識を戦闘用に切り替える。
彼女がアクションを起こしてからでは遅い。
彼女に初撃を譲ったとしても――否、彼女に初撃を譲ったからこそ、彼女より早く攻撃できるぐらいの速度で、戦闘を捉えていなければならない。
そして、その心がけは、今回は特に"当たり"だった。

「(おっぱ……銃!)」

そう知覚したと同時、身体は反射的に回避行動を取る。
肩幅程度に開いた足の内、右足に体重をかけて更に身体全体を右に傾ける。
その刹那、銃弾が男の胴体の左を抜けていく。
そして、その回避動作が終わるころには、彼女は包囲する様にこちらの周りを駆けている。
恐らく、彼女の戦法は、遠距離から銃で削る様にこちらを攻撃するものだろう。
ドレス姿の華美な服装に反して、意外と堅実――そして、それを銃使いにやられると、こちらも中々手は出しにくい。
銃使い相手に真っすぐ突っ込むなどという愚行を犯すのは、避けたい所だ。

「……さて、どうしたものかな。
ま、取り敢えず腰を落ち着けるとしようか。体力温存、ってね」

そう言うと、立膝をついてその場に座り込んでしまう。
一応、彼女が回り込むたび、少しずつ旋回はしているが、それでも動く気配はまるでなく、ただ彼女をじっと見ているだけ。

とはいえ、これはただのポーズである。
先程の六連射――あの銃が何連装の銃かは解らないが、リボルバーである以上、残弾数は限られる。
ならば、必ずリロードのタイミングが存在する――そのタイミングで、しゃがみからのクラウチングスタートからの突撃を狙っているのだ。

セイン=ディバン > (……脳天に一発。腹部に一発。肩に一発。足に二発。首に一発。
 ……参ったねぇ。全部かわすかよ)

完全に不意を打った、銃声が一発に聞こえる速度の抜き打ち。
それを、ワンアクションで回避されるのを見れば、女は内心舌打ちする。
もちろん、これで勝てるとは思っていなかった。
だが、せめて一発くらいは喰ってくれるのでは、と思っていたのだが。
さすがに名の売れているだけはある、と。女は思考を次の作戦へと切り替える。のだが……。

「あら……今の一息でもう足腰立たないの?
 それとも臆した? そんなことじゃ……。
 私の肌にも触れないわよ?」

相手の周りを旋回する女であったが。
相手が座り込めば、少し拍子抜け、というような表情になる。
しかして、攻撃に来ないなら、仕掛けさせてもらうか、と。
ブレイクオープンのリボルバーを開き、薬莢を手首の動きだけで排出すると、胸元からクイックローダーを取り出し、リロードを行おうとする。
もちろん、その間も相手からは視線を切らず。

(さて……どう動くか、お手並み拝見)

相手が、臆したわけでも、息切れしたわけでもないということくらいは分かっている。
だからこそ、相手の出方を女は窺う。
リロード完了までは、およそ3秒もかからない。
だが、リロード後、ブレイクオープンを閉じなくてはいけない。
最速でも、次の発砲まではおおよそ5秒前後。
女は、多数の仕掛けをしながら、相手の出方を見る、見る、見る。
その仕掛けを。罠を、突破して見せろ、と思いながら。

クレス・ローベルク > 相手は当然、警戒しながらリロードを行う。
下手に攻撃すれば逃げられるか、或いはカウンターを喰らう。
だが、それを承知で下手な攻撃をしなければならないのが、近接専門の辛い所である。

「(だから、タイミングが大事だ)」

遅すぎてもダメ、早すぎてもダメ。
きっかりのタイミングで相手に突撃しなければ、有効打を与える事は出来ない。
リボルバーを開く、薬莢の排出、そして胸元からクイックローダーを、

「……今ッ!」

取り出したタイミングで、男は駆ける。
だが、

『おーっとクレス選手、タイミングを読み違えたか!?
これではクレス選手が間合いを詰めると同時に、リロードが終わってしまうぞーッ!?』

そう、此処から彼女を追撃しても、間合いを詰める間にリロードが終わってしまう。
だが、それでいい。彼女がリロードが終わったほぼ同タイミングで、男は突きを繰り出す。
狙いは胸元。既に剣にかかっている魔法で切断力を零にしているので、切れるのは衣装だけだが――それでも、鉄の棒での突きに相当するだけの威力はある。

「(これで、彼女を大体計れる筈だ。
いや、普通の銃使いならそれに越した事はないんだけどねホント!)」

彼女の行動は、通常の銃使いなら二択。クイックショットでこちらに銃撃するか、或いは後ろに飛びずさるか。
だが、どうにもきな臭い匂いが彼女にはあるのだ。
そもそも、最初の銃撃にしたって、胸から出てきたので何となく緊張感がないが、アレはれっきとした暗器による攻撃だ。
ならば――ほかに隠し持っていても不思議ではない。

「そこまで解っていて突っ込むしかないのがなあ!ほんとになあ!」

などと魔法も銃も使えない男の愚痴と共に、剣が突き込まれる――!